高野台松本クリニックの院長、松本不二生(ふじお)先生が体にまつわるあれこれを書いた松ぼっくり通信。読めばカラダに役立つ、読むサプリです 。
ヒトのトリセツ
いろいろな道具や機械を買うと、取扱説明書がついてきます。書かれたとおりに使えば壊れにくく、長持ちするのですからだいじな情報です。私たちのカラダにもトリセツがあったら、どんなふうなのかな?とチャレンジしてみました。
ヒト(ホモ・サピエンス)現行型 取扱説明書
このたびは当社の製品をご購入いただきありがとうございました。末永くご愛用頂けるように、以下、使用上の注意点をお守りください。
1 毎日の使用が必要です
本製品は毎日の使用を前提として設計されています。使用せずに放置しておくと各部に廻る血流量が減少し、老廃物が蓄積されがちです。むくみ・関節のこわばり・腰痛・肩こり・便秘などさまざまな不調の原因になりますので、手足のすみ
ずみまで一日に何回か動かすことをおすすめします。
2 週に数回しっかりと動かしましょう
本製品には自動調整機能が内蔵されています。使用率が比較的少なく、低い負荷で使い続けた場合、自動調整機能により心臓・血管・筋肉・じん帯そのほか動作に関わる組織が弱くなり、強めの運動や緊急の際に故障することがあります。毎日の使用とは別に、週に数回やや強めに体を動かす時間を作りましょう。
3 長時間の連続運転は×
本製品には自動回復機構が組み込まれており、これを十分に活用することで、長期にわたるメンテナンスフリーを可能にしています。回復メカニズムはおもに夜間に働きますから、一日7・8時間程度睡眠をとる必要があります。やむを得ず連続使用した場合は、十分な休養・回復期間を置くことをお勧めします。
4 集中制御装置(脳)について
本製品はスーパー・コンピューター・システム(脳)を搭載しています。脳の機能維持のため、からだの各部分と同様上記1~3の項目をお守りください。また経年変化を受けやすい部分ですので、強い負荷や連続運転はできるだけ避けることをお勧めします。
5 燃料について
本製品はさまざまなエネルギーに対応しています。ほぼ地球上のすべての地域でエネルギー供給が可能となっています。エネルギーとなる生物資源(動植物)の詳細については各地のユーザー情報を参考にしてください。またオーダーメード製品ですので、最適の燃料構成にはばらつきがあることをご承知ください。
6 毎日のお手入れ法
・適度に汗をかくことは肌の保湿・バリア形成に重要です。適度な運動をお勧めします。
・運動は腸の機能に重要です。腸の機能維持のためにも毎日運動してください。
・皮膚にビタミンD合成機能を搭載しています。毎日20~30分の日光浴が必要です。骨・免疫・脳機能維持のためこまめに太陽に当ててください。
7 故障かと思ったら
・何らかの不調が見つかった場合、上記1~3の手順を繰り返してください。それでも改善しない場合はサービスショップにご連絡ください。
・ときどきコンピューター(脳)のオーバーホールを行ってください。通常運転をいったん休止し、デバグやファイルの管理、不必要なプログラムの整理を行ってください。友人とのチャット、旅行、新しい冒険、お笑いなどのリカバリープログラムを実行してください。
ゴッド&ネイチャー・コーポレーション
ねりまインクワイアラー 151 キャッシュレス社会
現金(キャッシュ)を持たないで暮らしができる?そんな生活が現実味を帯びてきました。最近JRが発行するSUICAカードをスマホに移し替えて、モバイルSUICAを使い始めました。駅の売店や自販機でスマホを機械にあてるとあら不思議!お金を払わなくても物が買えます。いや、正確にいうとお金を払っているのですが、すべてが電子世界の中で取引されて、最終的に銀行の預金口座から差し引かれるのです。
ICカードやスマホを持ち歩けば都市近郊なら現金なしでも生活できます。でも田舎では?小さな街のお店では?スマホの電池が切れたらどうする?停電したら?まだまだ問題点は多く、お金の出番はそう簡単には消えないでしょう。それと電子マネーの会社がどうやって利益を出しているのか不思議です。クレジットカードの場合、加盟店から手数料をとっていますが、現在盛んに宣伝しているペイペイ、LINEペイは今のところ手数料をとっていません。顧客獲得競争を勝ち抜けばいろいろな商売のタネがみつかりそうですが、それまでは体力勝負の消耗戦が続きそうです。
筋肉のことをもっと知ろう
35年前、医者になりたてのころと比べると、一番ちがうのは筋肉の見方が変わったことです。筋肉と言えば肉離れや打ち身ぐらいしか思いつかなかったのが、今では体中の痛みやしびれの原因を探るときに筋肉の故障を調べるのが必須だと考えています。今回は筋肉のお話です。
1 肩こりや筋肉痛は医学部で教えない
日本だけでなく世界の医学書を調べても、肩こりや筋肉痛を細かく書いている本はありません。医学がダイナミックに役立つようになったのはほんの最近で、これまでの専門書は「いかに命を助けるか」について書かれていました。栄養状態が改善し、病気で亡くなる人が減って長生きが当たり前になった現在では、「死ぬようなことはないが、なってみると不快でつらいからだの故障」が増えてきました。その一つが筋肉に原因があって起きる様々な不調(痛み・しびれ・まひなど)で、よくある症状なのですが、本人も筋肉が原因とは思わず、診断でも見誤りやすいものです。
運動不足の人が急に体をいっぱい使うと「筋肉痛」になりますが、ここで言う筋肉の故障は別物です。きつい運動や打ち身などの外傷をきっかけとして起きることもありますが、多くの場合、仕事で行う繰り返しの作業、日常生活で行っているしぐさやくせ、疲労の蓄積や睡眠時間の不足、栄養のアンバランスなどが合わさって故障します。まれに自分で触って痛い筋肉を見つける人がいますが、ほとんどの人はさわって痛む場所を自覚せず、神経痛や関節痛、ときには内臓の病気と誤解されていることもしばしばです。
2 さわらないかぎりわからない
ほかの病気と見誤りやすい最大の理由が「さわらないとわからない」ことです。MRIという診断装置が現れたとき、何日もかけて検査をしていたことがわずか数十分でわかるようになってショックを受けました。しかし、筋肉のどこかにまわりよりも固いこわばりがあり、押すと痛む場所があることを明示してくれる装置は残念ながら今でも存在しません。
また、患者さんが痛いと自覚している部位の直下に原因となる筋肉があることはまれで、少し離れたところにみつかることが多いのです。筋肉の端には起始停止という2か所の付着部があって、ここに痛みを感じることが多い一方、故障そのものは筋腹(筋の真ん中)に多いのが一つの説明です。さらに全身にはりつめられた神経の仕組みによって遠く離れたところに痛みを感じることがあります。こういったわかりづらさがあり、一見するとなんだか適当に説明をつけているようだし、画像診断のようにはっきりわかる証拠(データ)もなく、「押して痛いから、ここが原因」と言われても…ちょっと納得しずらいかな?と思う気持ちはよくわかります。
3 例を挙げると…
手首が痛いという相談では前腕筋の故障が理由のことがとても多いです。五十肩の大半は腱板という肩口の筋群に故障がありますが、患者さんが自分でもんだりシップを張っている部位はほぼ「はずして」いることが多いですね。
腰痛は一つの病気ではなく、脊椎やその周りにあるたくさんの付属構造物に「何かが起きている」ときに感じる症状です。筋肉はその原因の一つなのですが、痛みの原因部位(筋)と自覚症状の部位(腰痛)がけっこう離れていることが多いです。何年も痛いという相談でも、実態は「筋肉の故障」だったことはめずらしくはありません。
股関節痛、膝の痛み、下腿・足の痛み、坐骨神経痛。こういった相談でも筋肉の故障が隠れていることがあります。骨や関節の故障に付随して起きていたり、単独でおきていることもあります。ながらく神経痛、関節痛だと思っていたらじつは筋肉が原因と言われてびっくり!ということがあります。その反対もありますから、レントゲンなどの検査と触診などの診察を組み合わせて診ることがとても大切です。
4 セイケイゲカはバックカントリー
バックカントリーとは整備されていない自然状態の野山のことです。都会を離れて観光地に行くと「やっぱり自然はいいなあ!」と思ったりしますが、ほんとうの自然は過酷で何が起きるかわかりません。道もなく、毒虫も蛇もいます。ルールがないのであらゆることを想定して準備しなければ、入ることが危険です。
整形外科医として長年過ごしてみると、循環器科、消化器科のような内科系の診断学は整然としてきれいに見えます。先人たちの努力があってそこまで来たことはわかっていますが、それに比べると整形外科の世界はワイルドです。ホネ、カンセツ、シンケイ、キンニクそのほかなんでもあり!道はありますが、舗装路以外に農道・林道、それどころかシングルトラックの山道があり、けものみちと間違えそうなところもあります。整然とした都会の町並みは美しく見えますが、私としては山道に入ると楽しいのです。何でもありだから、役に立つことなら何でも試してみる。危ないと思ったら、引き返す。崖から落ちたりせず、道迷いもせずになんとかゴール(山の頂上)に着いたらきっと楽しいはず。そう思って仕事をしています。
ねりまインクワイアラー 150 水耕栽培ビジネス
土を使わず、循環水を用いて根から栄養素を吸収させる水耕栽培。未来型の農業ビジネスとしてブームになりましたが、なかなか利益が出ませんでした。ブレークスルーとなったのは、なんとLED!。LEDは明るいうえに熱があまり出ないので、建物内で多段式に栽培できるようになりました。また、できた野菜の品質が安定しており、病害虫がつかず、衛生的で安全性が高いのが特徴です。コンビニやスーパーで売られるお弁当やサンドイッチに最適です。食べてみるとみずみずしく柔らかい。値段がもうちょっと安くなれば最高です。
魔法の弾丸
先日、鍼や漢方を研究する学会に参加した時のことです。東洋医学特有の診察をして実際に鍼を打つデモンストレーションを見ていろいろ考えました。漢方は私も使っていますが、鍼にはまたちがった考え方があるようです。どんな治療法にも得手不得手があって、東洋医学も万能ではありませんが、ときにはすばらしい効果があることも知っています。と同時に、同じ症状を治療するなら西洋医学のほうがはるかにスピーディで確実に治せる場合があることも知っています。
独特の診断・治療法は世界中にたくさんありますが、ほかでは見落としている治癒のメカニズムを上手に使っている方法があるかもしれません。そういったすべてをかみわけて、「ワンストップで必ずベスト」の治療を提供できる病院(クリニック、接骨院、治療院、鍼灸院そのほか)はありえるのでしょうか?
1 ベストは魔法の弾丸
講演でひざの痛みに灸をしたり、くびが回らない人に鍼を打った症例などの説明がありましたが、(この症状ならマッサージのほうが効くのでは?)(これは薬のほうが絶対早いはず!)と内心思うケースもありました。でも、すべての治療の神髄を会得している人はいないのです。まったく逆に、(この例だったら鍼が絶対いい!)ということもあるでしょう。
最高の治療とは、「年齢・体質など個人の特質に関係なく、副作用もなく、一発で、苦痛もまったくなく、100パーセント症状が消えて、再発などのあとくされもない治療」のことです。パッと飲んだらあっという間に治るクスリという考えを魔法の弾丸と呼びますが、言い換えると「奇跡」が最高の治療であって、これはムリな相談です。では、今ある無数の治療法の中から、ある人にとって一番いい方法を見つけられる医師(治療家、ヒーラーあるいはコンピューター?)はいるのかな?これが気になります。
2 人は死ぬもの
こういう仕事をしていると、根っこの部分ではいかに生きるか・死ぬかが問題だと感じています。永遠に生き続ける話(不老不死の伝説、手塚治虫さんの「火の鳥」など)は魅力的ですが、そんなに長く生きて楽しいのか考える必要はあるでしょう。
映画「永遠に美しく」のように、腹に向こうが見えるほどの大穴が開いてもアタマがちぎれても生き続けられたら恐ろしい気がします。SF小説「老人と宇宙」では、現役引退した年寄りたちが軍に入隊し、最新のテクノロジーで強化された新しい肉体を与えられてエイリアンと戦います。一度死んだようなものだから心おきなく戦えるし、ふだんはスーパーボディで好きなことをやり放題というわけで希望者が続出します。
映画「アンドリューNDR114」は人間そっくりのアンドロイドが主人公です。はじめはロボットっぽいのですが、しだいに改良されてほとんど人間と区別がつかなくなります。ところが一緒に暮らしている人間の家族はどんどん年を重ね、世代を交代していきますが、アンドリューはまったく年をとりません。かわいがっていた赤ちゃんが成人し、やがて年老いて亡くなっていくのを見たアンドリューは決心し、最新のテクノロジーを使って人間に生まれ変わります。人間になれば、自分も年をとって死んでいくことができるのですから。
3 AI(人工知能)ならできる?
さて、すべての診断・治療法に精通し、酸いも甘いもかみわけて、100パーセントもっともいい治療法を見つけられる診断法はできるのでしょうか?どんなに研鑽しても一人の人間には不可能だと思います。ではAIならどうでしょうか?
世界中の研究機関、大学病院や学会から知識を集め、代替治療のみならずちょっと怪しいがひょっとしたら役に立つかもしれない治療法まで情報として飲み込み、思い込みや偏見などの人間くささとは無縁。でもアンドリューのように人間の弱さも理解して、ときにははげまし、ときには慰める。すべては電子世界のアルゴリズムで動いていても、限りなくかんぺきに近い未来の医師は、クラウドを使って世界中に現れるかもしれません。今はわかりませんが、案外近い将来にみなさんの街に来るかもしれませんよ。
ねりまインクワイアラー 149 ウォーキングは奇跡のクスリ
海外からのメール通信、ハーバード大学医学校発の「ウォーキング:5つのおどろくべき効能」を紹介します。
1 毎日1時間しっかり歩くと、肥満遺伝子の働きが半分になる
2 毎日15分歩く習慣があると甘いものを欲しがる傾向が減る
3 週に7時間以上歩く人は乳がんの発症率が14%減少する
4 週に少なくとも10キロ歩く人は変形性関節症の発症率が下がる
5 週に5日一日20分以上歩く人は感染症にかかる率が43%も下がる
著者によれば、考えられる限り奇跡の治療に近いのはウォーキングだそうです。私としては、4番の関節症の話を強調したいです。レントゲンで変形があっても今それほど痛くない人たちに、ぜひウォーキングをお勧めします。もちろん10キロ以上歩いてもオーケーですよ。
転ばずに動く!
転ぶ人がとても多い。最近のクリニックでの印象です。人間の赤ちゃんは生まれたとたんに歩くことができないので、1年以上かけて歩くことを学びます。このときに脳や神経が学習して体の動かし方を覚えるのです。記憶と同じように、覚えたことは忘れます。立ったり歩いたりは生まれつきの能力ではなく学んだことです。だから忘れたら、もう一回練習しなおす。そうすればまた歩く能力はよみがえってきます。
1 立ち上がりのひとふんばり
赤ちゃんが始めて立ち上がった時を見てみましょう。それまでつかまって立っていたのに、はじめて立ち上がる時です。ゆっくりとお尻を持ち上げて膝を伸ばしながら、床に置いた手をそっとはなします。お尻の筋肉を使って用心深くからだをおこし、最後に背筋を伸ばします。こういう動きができるように、数ヶ月の間ハイハイをしたりつかまり立ちをしてお尻の筋肉を鍛えたり、バランス感覚を磨いてきました。
そっと立ち上がる動きをするにはおしりの筋肉がしっかりしていることが必要です。ところが座り仕事が一般的になり、車や電車での移動が増えたためか殿筋が弱くなっている人が増えています。殿筋が弱いといざという時に踏ん張りが利かず、よろけて転んでしまいがちです。
そこでお尻を鍛えましょう。やることはとても簡単、ゆっくりと立ち上がるだけです。はじめのうちはどこかにつかまってかまいませんから、そうっとお尻を浮かして、椅子の座面から数センチ浮かしたまま踏ん張ってみましょう。慣れてくるに従い浮かしている時間を伸ばしていきます。これは等尺性筋収縮という効果的な筋トレ法です。毎日無理のない範囲で繰り返してみましょう。だんだんと立ち上がるときにからだがしっかりしてきたことに気がつくはずです。
2 もう一歩前へ
よく転ぶという人たちの特徴の一つは、足を使う前につかまろうとすることです。短い時間ならつかまらないでも立っていられるが、つかまったほうが安定するのでつかまっている。こういう人ならつかまろうとして手がすべっても、つかまったものがぐらついても転ばないで済むでしょう。
ところが文字通り体を支えるためにつかまろうとすると、手がすべったりつかまったものがぐらついてだけで転んでしまいます。これを避けるためには、いつももう一歩前に足を運んでからつかまるようにすることです。手を伸ばしてつかまろうとするのではなく、つかまるものに十分体を近づけてからつかまるようにしましょう。
3 足元から動く
まだリモコンがなかった頃のテレビでは、チャンネルを変えるときにテレビのところまで歩いて行ってがちゃがちゃチャンネルを回していました。部屋の明かりはひもをひっぱって点灯していましたし、風呂を入れるときはガス釜のそばにしゃがみこみ火をつけていました。今から見るとずっと不便でしたが、家の中でいまより足をたくさん使っていました。今はリモコンやスイッチでいろいろなことができるようになりましたが、その分足腰を使う機会が減ってきています。
転びやすい人の別の特徴は足を動かさずに用を済まそうとすることです。すわったまま、上半身をひねって横や後ろにあるものを取ろうとします。椅子やベッドに座っていて転んだという人の話を伺うと、立ち上がってからだを動かす手間をはぶこうとしてバランスを崩していることが多いようです。
だから無精がらずに足をこまめに動かすことです。体の向きを変えるときは体をひねるのではなく、足元を動かして向きを変えましょう。
4 危なっかしいときは三点指示
登山をしたことがある人はご存知と思いますが、ゴツゴツした岩場など危ないところを通る時には三点支持のテクニックを使います。三点支持とは合計4本の手足のうち必ず3本を地面や岩に置き、残りの一本だけを動かす方法で、たとえば左手・両足を固定したまま右手で上の石をつかみ、しっかりとつかめたら今度は他の手足のどれか一本を動かしていきます。
つかんだ手がすべったり岩の上に置いた足が滑ったとしても、かならず残りの3本で体を支えているので危険なところでも安全に通ることができる方法です。
この三点支持のやり方を家の中でも利用してみましょう。足腰の力が弱っている人がせまいところから物をとりだしたり玄関など段差のあるところを上り下りする際に、しっかりしたところを選んであちこちにつかまりながら移動してみましょう。がっちりつかめた、きっちり足で体を支えられたと確認してから別の手足を動かすようにすれば、怪我をする機会がぐっと減るはずです。
ねりまインクワイアラー 148 汚れたプラスチック
リサイクル資源として輸出されたプラスチックが「汚れている」とリサイクルできず、相手国にとても迷惑をかけています。では汚れたプラスチックとはどういうものなのか? 「資源プラスチックになるのは水でさっと洗う、簡単にふき取る程度で落ちるもの。水でさっと洗う、簡単にふき取る程度で落ちないものは、資源ごみとして出さないこと」だそうです。マヨネーズやケチャップの容器はだめかな。キムチの容器も危ないかもしれません。
どんな治療が効くのかな?
何度もくりかえし読む本の一つにバーナード・ラウン博士の「医師はなぜ治せないのか」があります。現在AED(自動体外式除細動器)が病院や街のあちこちに設置され、突然の心停止からたくさんの人たちを助けられるようになってきました。そのもととなる体外除細動器を発明して、ノーベル医学賞をもらったのがラウン博士です。では、えらい学者先生の成功談の話かと思うとさにあらず、駆け出しのお医者さんが失敗を繰り返し、さまざまな問題にぶつかりながら「何が患者さんを良くしているのか」「治るきっかけとは何なのか」を探求していきます。本をのぞきながら考えたことをお話ししましょう。
1 名医の秘密
若きラウン医師の恩師レヴァイン博士は名医として有名な方でした。博士の回診では、患者さんと気軽に会話しながらちょっとしたヒントを見つけていきます。寝汗で枕が濡れている患者さんに気がつくと、枕を返して乾いたほうを上に向け「ほら、これで寝やすくなるよ!」と声をかけます。ちょっとした顔の表情や体の動きから重大な兆候を見つけ出し、まわりの医師にはなんだかわからないうちに診断を下し、さっと薬を出すとこれがまたよく効くのです。
ところがある若手の医師が「レヴァインの治療はいい加減で全然理論的じゃない」と言って、回診に参加しなくなりました。いっぽうラウン医師は(確かに診たてははっきりしないのに、なぜあんなに良く効くのだろう?)と不思議に思い、なんとかレヴァイン博士の診たての秘密を会得しようと週に六日回診に通うようになりました。
それから11年間、ラウン医師は足しげく博士のもとに通います。しだいに秘密がわかったラウン医師はなげきます。「なんと物分かりの悪かったことか!」
2 常識を乗り越える
そのころ心筋梗塞にかかった人たちはベッド上で何か月ものあいだ絶対安静を保つように指導されました。梗塞になった心筋に無理がかかれば心臓が破れて突然死をするのではないかと医師たちが恐れたためでした。
しかしラウン博士は考えます。ほんとうの急性期を過ぎたなら、むしろ体を動かして少しずつ心臓を鍛えなおし、心臓のポンプ作用を働かせたほうが患者は元気になるのでは?そこで急性期を過ぎた患者さんを慎重に動かし始めると、そのほうが早く確実に患者さんが元気になることを発見したのです。このやり方は、現在心臓リハビリテーションと呼ばれていて、心筋梗塞後の標準治療の中に組み込まれています。
3 その人を知る
病棟にひどい不整脈の患者さんが入院していました。ところが患者さんは腰痛にとても困っていて、これを何とかしてほしいと訴えていました。でも不整脈の治療で電気除細動を行う必要があったので、ラウン博士は患者さんに説明してみます。「それをやったら腰痛が治るの?」 ラウン「ええ治りますよ!」
聞いていた研修医が「そんなばかげた話は聞いたことがない!」と言いますが、博士は耳を貸さず除細動治療を行います。終わった後、患者さんは憤然としてこう言いました。「あの若い医者に言ってやがるんだ!バカなのはあんたのほうじゃないか!みごとに治ったよ!って。」
見るからにはかなげな若い女性が入院していました。ちょっと歩くだけでも苦しそうにしています。心臓弁の働きが悪く心臓が弱っていると診断されていました。細かく診察したのちに、博士はこう伝えます。「いろいろ調べた結果、だいじなことがわかりました。」 「なんでしょうか?」 「あなたの手がじっと汗ばんでいることです。それ以外は何ともありません。汗のことを気にせずに、握手のときは相手の手をしっかりと握り返しましょう。あなたの問題点はそれだけです。」入院して以来、患者さんは初めて微笑みます。そして1週間後、元気に退院していきました。
4 治癒力を発動するもの
「治せる医師・治せない医師」「医師はなぜ治せないのか」の2分冊が発刊されて20年以上たっていますが、今でも時折ページをめくっています。11年の間お師匠さんのもとに通いつめてラウン博士が会得した名医の秘密とは何だったのでしょうか?本のなかでははっきりと述べられていませんが、オリジナル英語版の表題は「失われし治癒の技~医療における思いやり(compassion)の実践」です。このcompassionという英語は、日本語の「思いやり」よりもずっと深い意味を持つと思います。相手の心にもう一人の心が響きあい、からだに本来備わっている治癒の力が発動される。こんな感じでしょうか。ラウン博士には及びませんが、思いがけない治療の経験は医師ならだれにでもあるのでは?と考えます。仕事に疲れたとき、読むと少し元気が出る本です。
ねりまインクワイアラー 147 本に興味を持った方へ
「医師はなぜ治せないのか」「治せる医師・治せない医師」は築地書館から出版されましたが、いまは中古本で入手可能です。オリジナルのThe Lost Art of Healingはアマゾンなどで購入できます。一般向けに書かれていますので、興味のある方は是非読んでください。年をとったラウン先生は、「いつもお元気ですね!」「お若いですね!」と言われると、オレはもうろくしたのか?と心配になるそうです。
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