ビミョーな変化をみきわめよう
白なら白。黒なら黒。すっきりとどちらかに決められたらとても楽です。子供のころ、両親とテレビを見ているときに「この人、いいもん?ワルもん?」と聞いて笑われました。善悪の判断がなかなか難しいように、世の中のことはおしなべて白とも黒ともつかないものです。今回は病気ともいいきれない微妙な体の変化について触れてみましょう。
1 気候病とは
気温、湿度、気圧の変化で体調が変わる人がいます。雨の前に古傷が痛くなったり、気圧が下がるころに頭痛が出たり、めまいや耳鳴りが起きる人がいます。あるいは気温が下がるころに元気がなくなったり不安が強くなる人がいます。たいていは天気が崩れる前後に調子がおかしくなりますが、なかには天気が回復するころに体調が乱れる人もいます。こういったことは世間的によく知られていましたが、愛知医大の佐藤純先生の研究で内耳(耳のおく)に気候の変化を感じる働きがあって、気候の変動が自律神経に影響を与えることがわかってきました。自律神経は脳、皮膚、内臓や関節などあらゆるところに関わっています。だから、気候がいろいろな体の不調に影響してもおかしくないわけです。
たいていは、もともとの症状が気候の変化に伴って強くなったり軽くなったりします。片頭痛、リウマチやぜんそくなどでよくみられ、症状で雨や低気圧の予想ができる人もいるくらいです。好不調の波を感じる人は、一度気候との関係を疑うといいかもしれません。スマホを使う人は「頭痛―る」という無料アプリが便利です。頭痛以外にも使えるアプリです。気圧の変化であなたの症状が強くなっていないかわかりやすく調べられますよ。
2 食べもの
アルコール筋痛症という病気があります。お酒を飲むと体のふしぶしがとても痛くなりますが、飲まなければまったく問題ありません。アルコール(エタノール)を飲める人は多いですが、思いがけない症状(副作用)が出て体に合わない人は確実に存在します。これは食べ物の中に含まれる膨大な数の成分それぞれに言えることで、個人の体質に合う・合わないがあることは不思議ではありません。たとえばカフェインの副作用の一つに下痢がありますが、私の場合はコーヒーを飲むと便秘になります。でもコーヒーを数杯飲んでも特に問題がない人もいっぱいいるでしょう。
お医者さんの仕事の基本は「誰にとっても役立つ治療法をみつける」ことですから、AさんならAさんだけに通用する食べ物への反応、薬の相性、予防法などは本にも載らず、お医者さんもよくわかっていません。将来的にはひとりひとりに合わせた食事法、薬の使用法がわかる時代が来る可能性がありますが、今のところは自分でトライアンドエラーをするしかありません。「あれを食べた後は調子が悪い」と思ったら、そのことを気に留めておきましょう。もっときちんとやりたい人は、食事の内容と体の調子を毎日メモに取り、時々見返してみることです。意外な発見があるかもしれませんよ。
3 年齢的な問題
年をとるのは悪いことばかりでないけれど、体の不調はどうしても増えてきます。中年期の患者さんが「こんなことは今までなかったのに…」「人生で初めてです」と話すのを聞き、そりゃそーだ!と密かに考えることがあります。
どんなことでもはじめては不安になるものです。学校生活、仕事や家庭生活・育児もみんな初めてで、どきどきワクワクしながら生きてきました。しかし、若いころは得ることが大きく失うものが少なかったのに、年をとるとその逆になってしまう。だから今まで当たり前と思っていたことがそうではないと自覚するととても不安に感じるのです。
実際、外来で扱う患者さんの相談の大半は、突き詰めてみれば症状そのもの以上に不安自体がつらい理由になっています。不安を軽くすることはできるのか、考えてみましょう。
4 微妙な変化とつきあう
まず、体の調子には波があり、気候のように自分でコントロールできないことからも大きな影響があるのを知ることです。毎日の体の変化のたびに気持ちがピリピリしていたら疲れてしまいます。いい日があれば、悪い日もあるさ!と思うだけで心が軽くなります。
また自分の体はほかの人と全くちがうことを知りましょう。ほかの人に良く効く薬があったり、速やかに治る人がいても、それを自分と比べる必要はありません。禍福はあざなえる縄のごとし(幸・不幸は複雑に組み合わされておりだれにも推し量ることはできない)、あせらず自分に向いた健康法・予防法をみつけましょう。
絶対的な体力では若い人に負けるとしても、チャレンジ精神を忘れないようにしましょう。いくつになっても新しい経験をし、知的・肉体的な冒険をすることです。自分の世界を広げている実感があれば大きな自信になります。それが不安感を軽くすることにつながるのです。
ねりまインクワイアラー 129 笑い
笑うことがからだにいいことは医学的に確かめられています。でも、何がおかしくて笑うのかは考えるほどナゾです。赤ちゃんはちょっとしたことで笑顔になり、見ている人たちも思わず微笑みます。海外のジョークやお笑い番組を見ると何がおかしいのか全然わからないことがありますし、若手のお笑い芸人さんの話が笑えないこともよくあります。笑わせる人も見る人も気持ちにゆとりがあれば、笑いが生まれやすい気がします。