セルフケアを究めよう
19世紀のアメリカは西部開拓時代として知られています。新天地を求めて海を渡ってきた移民の人たちは、広大な土地があるアメリカ西部に向かって馬車で移動していきました。定住先で木を伐り小屋を作り、開墾した土地で農業を始めるのですが、けがや病気をしても近くには病院はおろか医師も見つからないことが珍しくありません。手持ちのクスリ、土地でとれる薬草を使い、自己治療の手引書で何とかしようとしました。現代の日本では、ほぼどこでもかなりの治療を受けられますが、それでも自分自身でできること、自分でなければできないことがあります。自分で自分を元気にする方法を知る。今回のお話です。
1 用がなくても動く
筋肉を動かすことには限りないメリットがあります。筋肉自体がポンプになって全身の血行を助けます。関節液の流れが促進され軟骨が元気になります。筋肉から出るサイトカイン(ホルモンの仲間)が内臓や脳に働き、気分を明るくしたり新陳代謝を活発にします。消化管が揺れ動くことで腸の働きが刺激され、腸内細菌による食物の分解・吸収を助け、消化から便通までの働きを促進します。筋からの熱量産生が高まるので、冷えが改善し、余分な脂肪を消費してダイエットになります。
いくつになっても、どんな人でもからだを動かして損になることはありません。この数十年は、いかに人間が楽をするかを技術で競ってきた時代なのですが、筋肉を使わなすぎるのもからだに悪いということをどこかで忘れてしまったようです。
急激な変化にからだも心も準備ができないまま、テクノロジーはどんどん進化していきます。そんな世の中を元気に生き抜く秘訣は、用がなくても歩く・走る・上り下る時間を作ることです。旅行、スポーツ、音楽、美術館巡り、食べ歩き、家庭菜園。あるいはパートタイマーやボランティア。何でもいいので、まずはやってみることです。
2 からだをやわらかくする
私たちのからだは1週間前と比べてほとんど変わっていないように思えます。ところが細胞レベルで見るとまったくちがい、活発に新陳代謝が繰り返され、どんどん新しい成分が入り込み、古い成分が運び出されています。からだじゅうの形を作っているのはコラーゲンという物質で、コラーゲンを作る細胞が体中に配置されています。たとえば筋肉を毎日ストレッチしていると、「もっと伸び縮みできるようにやわらかくなろう!」と、筋肉内のコラーゲンがだんだんと柔軟になります。ですからこまめにストレッチをするとわりと短期間で効果を実感できるはずです。そして、やわらかくなれば身動きが軽く、けがや故障になりにくく、若々しく見えます。
体質的にかため、やわらかめはありますが、ストレッチを毎日続けていけば誰でもそれなりに効果は出てきます。むりせず自分が気楽に続けられるものならどんな方法でもオーケーなので、テレビ・ラジオ体操でもいいし、ヨガなどちょっとこったものにチャレンジするのもいいでしょう。
3 血の巡りを良くする
心臓から出た血管は枝分かれを続けて、最後の方では目に見えないくらい小さな血管〜毛細血管へと変わります。毛細血管は身体中あらゆるところに通っていますが、あまり使わないでいるとその一部にしか血液が流れないようになります。流れの少なくなった臓器・組織はがんばりがきかず、元気がなくなります。きつすぎない運動をまめに続けると、ふたたび毛細血管が開き血液が多く流れ始めます。酸素や栄養が行きわたり、老廃物が洗い流されるスピードが促進されるので、あたまのてっぺんからつま先までが元気になります。
これだけすばらしい効果が、お金をかけず毎日ちょっと動くだけでえられるのだから、こんなおいしい話はありません。そのためには歩く、または軽いジョギングで30分以上続けるのが目安ですが、まずは外に出て家の近所を歩いてみることから始めてはいかがでしょうか。
4 自信をつける
からだの不調が続くと、なにか深刻な病気があるのではないかと心配したり、よく考えればそれほど大ごとでないことを必要以上に悩んでしまったりするものです。そんなとき、自分でもできることがあると知っているだけでも気持ちが軽くなり、不安が和らぎます。
軽い有酸素運動、ストレッチ、そしてちょっとの筋トレ、これは健康への3種の神器です。うつや認知症の予防、慢性の病気(糖尿病、高血圧、動脈硬化、呼吸器疾患や腎臓病など)にも効果があることが知られていますから、みなさんもぜひトライしてみてください。
ねりまインクワイアラー 144 オリンピック観戦チケット
春から2020東京オリンピックのチケットが発売されます。値段は陸上決勝の130,000円からマラソンの2500円まであります。高い!と思うか安いと思うかは人しだいですが、日本でオリンピックが見られる最後の機会かもしれません。
子供のころ親といっしょに白黒テレビで見たのは、たしかレスリングの試合でした。幼かったので、まったくうろ覚えですが。さて、新しいスタジアム見物を兼ねて、日程のどこかを申し込もうか考え中です。
購買希望の方は、あらかじめホームページTOKYO 2020 IDで登録が必要とのことです。
おてんとさんありがとう
日頃からできるだけ太陽の光を浴びることを意識しています。いまケガのリハビリ中ですが、それでも体が空いたときは日なたに出ていきます。日光には体に良い効果がたくさんあるからです。
1 ビタミンDと日光
ビタミンDは皮膚で合成されるビタミンです。日光が皮膚にあたると皮膚細胞の中で作られ、血液の中に取り込まれた後肝臓に貯蔵されます。そして腎臓で活性化され体中のほとんどすべての細胞で効果を発揮します。じゅうぶんに光を浴びていればビタミンDを自分の体だけで必要量を作れるのですが、その目安は顔と両手に直接日光が当たった状態で20分くらいだと言われています。なんだ!20分くらいならと思うかもしれませんが、よ〜く考えてみると、意外と日光に当たっていない人も多いのではないでしょうか。
20分の目安は肌にじかに日光が当たった場合なので、窓越しに外を眺めたり、ビルの日陰を歩いているときはあまりカウントされません。また帽子、手袋やパラソルを使えば効果は減弱し、化粧品でUV対策をすればさらに効果は薄れます。屋内の照明にはビタミンDの合成に必要な紫外線が含まれないので、朝晩の通勤以外にはまったく日光を浴びるチャンスがない方もいるはずです。
私も病院勤めのときは日が出る前に車で出勤し、夜も遅くなってから帰宅して、休日は自宅でくたーとなっていました。だからほとんど日を浴びていませんでした。キノコやイワシ・サンマなどにビタミンDは含まれているので食事でも補えると言われていますが、当時の食事を考えると、おそらく足りていなかったと思います。日光を浴びず、食事でも補えない場合、ビタミンD欠乏の症状が出てきます。次のお話です。
2 ビタミンDのはたらき
ビタミンDといえば、骨粗鬆症の治療薬として有名です。体の中にもとからある成分(正確には合成された類似物質)なので安全性は高いですが、効果はそこそこだと考えられています。しかし、日光浴と組み合わせると(患者さんに必ず説明しています)とてもよく効く薬だと感じています。
ビタミンDは消化管からのカルシウム吸収を促進し、骨にカルシウムが吸着されて丈夫になるのを助けます。ここまでは有名なのですが、ビタミンDには免疫作用の調節、各種ガンの抑制作用、動脈硬化の抑制やうつ病の防止、受精卵の着床促進(すなわち不妊対策)など様々な働きがあることもわかっています。
そのため欠乏症状としてはくる病、骨軟化症や骨粗しょう症のほか、自己免疫疾患、動脈硬化、高血圧、うつ病の発症ともつながりがあると考えられています。先日のテレビ番組では、若い女性で原因不明の全身の痛みが続き、最後にビタミンD欠乏症と診断されたケースが出ていました。また、出産後のお母さんが節々の痛みのためで困っているというときに骨粗鬆症が原因のことがあり、わたしも一例経験しています。この場合授乳により赤ちゃんに栄養を取られることが大きな理由になっているのでしょう。
3 まだある日光の効果
人間をまったく光の当たらない環境で生活させると、1日が25時間のリズムになることが知られています。太古の地球は自転の速度が現在よりも遅く、そのころに人類の祖先は進化してきたので古い体のリズムが残っているのです。このリズムの狂いを調整をする仕組みがあり、光が体にあたると、脳の中にある松果体という内分泌腺からメラトニンというホルモンが放出されます。このホルモンのはたらきで睡眠や新陳代謝のリズムが調節されますから、不眠症気味の人は日中にできるだけ日を浴びることです。
また、日光を浴びると脳内でセロトニンが放出されることもわかっています。幸せのホルモンと呼ばれるセロトニンですから、うつ気味の人も日光を浴びる時間を増やすことです。カントリーシンガーのジョン・デンバーが歌ったように、「背中に日が当たれば」わたしたちは幸せを感じるようにできているのです。
4 おてんとさんとのつきあい方
このように日光を浴びることには良い意味が沢山あるので、みなさんにもできるだけ日光浴の機会を作るようおすすめしています。では浴びれば浴びるほどいいのかというとそうではありません。シミ・シワや皮膚ガンの発生といったリスクは紫外線と深い関係がありますから、皮膚が赤くなったり真っ黒になるほどの日焼けは必要ありません。また、日本では5月から8月の直射日光はやや強すぎるので、日焼け止めやパラソルもありだと思います。顔の日焼けを避けたい人は手足の露出を多めにすることで対応できます。
ちょっと前の日本では日光を浴びない生活は不可能だったのに、交通手段や仕事・住環境の変化からほとんど日を浴びないでも暮らせる時代になりました。でも体のしくみは昔のままですから、じょうずに日光浴を楽しみましょう。ランチを持って日向ぼっこ、ぽかぽかと背中があたたかい。幸せを感じるひと時です。
ねりまインクワイアラー 143 腰痛に平泳ぎはペケ?
当たり前だと思って深く考えなかったことの一つがこれです。個人的な経験からも、かつて教わった先輩医師の意見も、平泳ぎは腰痛にダメでした。しかし、調べてみると泳ぎ方の問題かもしれません。昔ながらのアタマをずっと水面の上に出したままの泳法はまずいかもしれませんが、現代の泳法はずっと合理的で腰への負担も少ないのではないでしょうか。経験者のご意見をいただければ幸いです。