目白ヨシノ治療院

目白ヨシノ治療院は新宿区下落、目白駅から徒歩3分、マニュアルメディシンを用いたマッサージ、手技治療,リハビリの専門治療院です。病院では特に問題のなかったつらい症状、日常生活で困る痛み、肩こりや腰痛、首の痛み、またはよく分からない目の奥の痛みや頭痛など機能障害に関する問題の治療を行っています。

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松ぼっくり通信電子版
高野台松本クリニックの院長、松本不二生(ふじお)先生が体にまつわるあれこれを書いた松ぼっくり通信。読めばカラダに役立つ、読むサプリです

高野台松本クリニック 177-0035 練馬区高野台1-3-7NFプラザⅡ三階 
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(整形外科・リハビリテーション科・漢方外来

松ぼっくり通信

松ぼっくり通信 2018年 8月号

運動しながら からだは治る

そのむかし、心筋梗塞になった人は数週間から数か月ベッド上で絶対安静を保ちました。壊死した心筋が瘢痕となり、動かしても破れないことを確認するまで、おとなしくしていたほうが良い。また、回復したとしても、心臓が弱くなっているから運動は禁止すべきである。当時は誰もがそう考え、疑問を持たなかったのです。

さて1973年のことです。ハワイ在住のスキャッフ医師は(心筋梗塞の回復期には、むしろ運動したほうが体に良いのではないか)と考え、患者さんのリハビリを兼ねてマラソン大会を開くことにしました。はじめは162名だけの小さな大会でしたが、みんなが完走し、「心臓のリハビリに運動はむしろプラスになる」事が証明できたのです。これが第1回ホノルルマラソンで、今では毎年2,3万人が参加する有名な大会になっています。

医療の歴史を見ると、病気になったらまず安静、回復期にも安静、判断に困ったらとりあえず安静!という考え方が長く主流になっていました。スキャッフ医師のように多くの人たちが運動の効能を広める努力を続けたため、いまではけがや病気の回復に運動が重要であることが知られるようになってきました。

1 安静の効果

 では安静が悪いのかというとそんなことはありません。熱・腫れ・発赤などの炎症サインが明らかだったり、痛みが強かったり、体調がすぐれないときに安静にするのは大切です。症状が急速に進む時期(急性期)は患部を保護し、体の持てる治癒力が十分に働くように安静を保ちます。キズや病気が治ったら動けばいいのですが、「必要以上に」長期間大事にしてしまうと問題になります。

 栄養が不十分で衛生状態も悪く、からだにきつい仕事ばかりで休みもめったに取れなかったころ、一番のクスリは休養でした。仕事をしながら体の故障から回復するじょうぶな人もいれば、休養不足で体を壊す人がいる時代ですから、運動が治療になるとは誰も考えなかったのでしょう。

2 運動の効果

 私自身が実感するのはストレスの改善効果です。少々疲れがたまったときに30分くらい運動するだけでもずいぶん違います。睡眠、食欲、便通、免疫機能、自律神経の調整作用などメリットがいっぱいです。青壮年期の人にとって健康管理上運動の効果は絶大と言っていいと思います。そして体の回復力向上に直結します。

 診療をしていて、若い人でも筋力が不十分な人が多いことが気がかりです。腰痛、肩こりはもちろんのこと、手足の故障にも筋力不足が関係しています。筋力不足があると、歩いたり、走ったり、階段を上り下りしたり、物を運んだりが上手にできず、無理のかかるところが故障してきます。現在、本当の力仕事をしている人はごく稀です。ふつうに暮らすだけで筋力不足になるので、ほとんどの人が運動の習慣を意識的に作る必要があると思います。

 運動に寿命を延ばす効果があるかについては結論が出ていません。はっきりしているのは、年をとっても人の世話にならずに生活できる「健康寿命」は明らかに伸ばせるということです。快活に、自分なりに楽しんで暮らせる時間が増える。これって素晴らしいことだと思いませんか?

 さらに過敏性腸症候群など心療内科が扱う病気、線維筋痛症など慢性疼痛のある病気、さまざまな内臓疾患や慢性的な骨関節疾患でも運動の効果が確認されています。

3 くすりで何とかなりますか

 外来で「マッサージやくすりで何とかなりませんか?」と聞かれることがあります。こういった治療で患者さんが元気になるきっかけを作ることは可能ですが、筋力を上げることは運動でしかできません。リハビリの仕事を長く続けていると、ときにすばらしい結果が出てみんな大喜びということがありますが、じつは患者さんが見えないところで地味に頑張ってきた成果が積みあがり、そうなったのです。やったらやっただけのことが返ってくるが、やらなければ何も変わらない。これが運動やリハビリの世界です。自分自身が汗をかく。この気持ちを持たない限り結果は出ません。

4 運動の適否をみわける

 「運動していいですよ」と言うときには、故障の治りぐあいや痛みの様子を調べて判断しています。神経痛のように動き方で症状が変わる場合には、どんな運動が良くて、何がよくないのかを説明します。慢性の故障では、患者さんの希望と今の状態を考えて判断することになりますが、できるだけ体を動かす方向で考えてあげたいので、軽めの運動から始めて様子を見たりします。運動を始めることで治りが早くなるケースがありますから、少々の痛みがあっても運動を始める判断をすることもあります。細かい観察を続けつつ、一歩ずつ前進、ときには一歩後退も交えつつ、だんだんとその人の目標に近づいていく。内臓疾患の運動指導でも考え方は同じです。人が健康に生きるために、運動は付け足しではなく、不可欠なのです。

 

ねりまインクワイアラー 137 雷しゃがみ

 山の中のマラソン大会の途中、雷雨に見舞われました。木の下はヤバい、でも逃げるところはなく、あちこちに雷が落ちてびっくりしながら走りました。アメリカでは、雷にであったら雷しゃがみをするように指導します。①頭を下にかがめ②両手で耳をふさぎ③足の両かかとをくっつけて地面からの電気が反対の足に逃げるようにして④つま先で立ち、地面との接触をできるだけ小さくします。日本では金属製のものを外すように言われますが、これはあまり意味がないのだそうです。

松ぼっくり通信 2018年 7月号

一日では治りません!

 毎日の仕事の負担で手関節の腱鞘炎になってから1年ほど過ぎました。患者さんの足を持ち上げて診察する際に、不意に体を動かされると手首が痛みます。痛みが出にくくなるように手の持ち方を変えたり、手順を変えたりしているうちに、少しずつ良くなってきました。「薄紙をはがすように」という表現がぴったりで、治療のプロがそれでいいの?と思われるかもしれませんが、時間のかかるものはかかる!ことをお話しします。

1 医療が変わってきている

 20世紀は医学にとって大きな進歩の時代でした。歯ぐきから出血する壊血病や歩けなくなる脚気。むかしはなぞの病気でしたが、不足したビタミンを補給する治療法が見つかります。不治の病と思われていた結核やらい病。病気を引き起こす細菌が発見され、治すための抗生物質が発明されます。そのほか、かつては命を奪い、恐れられていた病気の治療法が次々と見つかり、医学がこのまま進歩していけば人類は病気から解放され、誰もが幸せに長生きができるようになる。お医者さんもふくめ、みんながそう思える時代があったのです。その反面、このクスリ、この治療法で治るというわかりやすい説明に慣れてしまって、どんなからだの不調にも治す方法があるはずだと思い込みが生まれてきました。それも手軽に、簡単に。

 ところが長生きが当たり前となった現在、病気で亡くなる人は激減したものの、毎日になにがしかの不調を訴えて病院を訪れる方はむしろ増えています。そしてこういう相談に対しては、地味に一歩一歩進めていくような解決策が必要な場合が多いのです。

2 できないことはできない

 ときどき「一発で治してください!」と言う患者さんがいます。これは困ります。また、「旅行に行くので」「試合に間に合うように」治してほしいという相談も困ります。こういうとき、どのお医者さんも心の中で(それができたら苦労しないよ~)とつぶやいているはずです。電気製品やロボットなら部品を取り換えてすぐに修理できますが、人間の体は生きている細胞でできています。細胞が治るのには時間が必要です。故障の仕方と治療の善し悪しで変わると思いますが、数週間かかることがあれば、数年もかかることもあります。あるいは良くはできるが、すっきり治らない場合もたくさんあります。とくに長生きすることで故障が起きた場合、老化そのものを治すことはできないので、良くなってもそれなりで、人によっては満足できないこともあります。お医者さんがいつも100%期待に沿えないのはどうしてなのか。なぜ必ず治せないのか。それは「治る力」には限界があるからです。

3 治る力を利用する

 ビタミン剤や抗生物質の治療はわかりやすく、クスリだけで治ったように見えますが、じつは「治る力」を補強しているにすぎません。栄養の欠乏や特殊な細菌の性質があって治癒力が十分に働かないとき、それを手助けする薬があるとからだは治ってきます。ちょうど家の補修工事中に道具と材料を十分に補給して、職人さんにボーナスをはずむようなものです。このように薬やほかの治療法も手助けはできるのですが、治しているのは修理を担当する細胞(職人さん)なので、細胞の元気度のちがいで仕事は早くも遅くもなります。

 また、故障の程度によっても変わってくるでしょう。壁のペンキ塗りぐらいなら数日ですみますが、腐った土台を取り換えるような大仕事では数か月に及ぶこともあるはずです。職人さんも、早いけど少し仕事が粗いとか、ゆっくりだけど仕事がていねいだとか個性があります。これが治癒力の個人差になります。

 年齢も関係します。年をとると修理を担当する細胞自体も年をとり、数が減ってきます。最近、私もすり傷や切り傷の治りが遅くなった気がして、年齢にはやっぱり逆らえないなあと思ったりします。

 この治癒力をうまく利用しようとするのが治療なので、治癒力の限界は医学の限界になります。だから切断した足がまた生えてくることはないし、脊髄損傷後の完全麻痺が回復することもありません。また長生きに上限があるのもこのためです。

4 「治る」より「元気になる」ことを考えよう

 家の補修工事の話に戻ります。施主さんの心配りも十分、職人さんは多少年はいっているがベストを尽くしてくれました。雨漏りも治ったし、配管も新しくして台所やお風呂の使い勝手も格段に改善できました。目的は十分に達していますが、でも新築に戻ったわけではありません。あちこちに古びた部分が残っていますし、近所のピカピカの家に比べれば見劣りがします。欲を言ったらきりがないけれど、予算があったらもう少し手を入れるところもあったと心残りも感じています。

 しかし、この家で長く暮らし、いろいろな経験をしてきました。柱のキズ一つにも思い出があります。家が変わるように、住む人の生活も変わります。これからどういう生活をするかは住む人にかかっています。充実して元気な毎日を送る。それは築年数に関係なく、暮らし方次第でできるのだと思います。

 

ねりまインクワイアラー 136 先生って

 クリニックのスタッフが4月から小学校の先生になって旅立ちました。風の便りでは、毎朝4時半起きで準備をしているのだそう。大変だと聞いていたけれど、想像以上です。就労時間が長く、休みも少なく、気苦労が多いのに?と思いますが、それでもやりがいの感じられる仕事なのでしょうね。

松ぼっくり通信 2018年 6月号

 

変化のある毎日を

デカンショ節で知られる哲学者のカントは時間に正確なことで有名でした。毎日同じ時刻に同じコースの散歩を行うので、沿道の人たちは先生の歩く姿を見かければ時間がわかったそうです。カント先生の規則正しい運動の習慣は、当時としては長生きできた(80歳)理由にもなっていると思います。ですが現在では、からだの機能促進・老化防止のためには毎日の生活に変動があったほうがいいことがわかっています。

1 同じ職業の人は似ている

一般に同じ職業の人たちは似た印象があります。服装や表情が似ているのは当たり前ですが、立っているときの姿勢や歩き方にも一定の傾向があります。診察では、職業や普段の生活の様子を確認した後に手足の柔軟性や筋肉のつき具合、背骨や関節の可動性を調べるので、同じ職業の人には一定の特徴があることがよくわかります。例えば銀行員の人たちは体が固いことが多いとか、建築家はねこぜ気味、消防士は筋肉質のような大まかなイメージがつかめます。献身的に仕事に関わるほど、言い換えれば長時間にわたり一定の作業に従事し、休みが少ない・取りづらい仕事の人は疲労が抜けにくく、筋肉が縮まり関節が固まりやすいのかもしれません。見た目の特徴が同じということは、無理のかかりやすいからだの個所も同じということであり、病院に来た時の相談内容も似てきます。こういった体の特徴=くせが少ないほど体のあちこちにかかる負担が減り故障をしにくくなりますから、くせをつけないライフスタイルを確立することが大事です。

2 規則正しさのメリット・デメリット

規則正しい生活を送ることには、はっきりしたメリットがあります。天気や体調に関わらず、毎日やることが決まっている人は、「今日は何をしようかな」と考えている人と比べると毎日の運動量が確保され、生活のリズムができるので体調管理をしやすいでしょう。診療をしていると、定年退職した時のように今まで規則正しく行ってきたことを急に止めてしまい、やることがみつからないときに体調を崩しやすいと感じています。
しかし規則正しさにもデメリットがあります。生活がワンパターンに陥りやすく、メリハリのない毎日だと感じることがあります。心も体も毎日同じことを繰り返すわけですから、使うところは使うが、使わないところは使わないというかたよりが生まれます。強いところは強いが弱いところは弱い、柔らかいところもあるが固いところはそのままといった傾向が続くために、からだ(と心)にくせがついてきます。これが、各自の弱点が生じる理由になります。

3 変化のある毎日を

だから変化のある毎日が必要です。散歩をするときには同じところを歩かずコースを変えます。平べったいところだけでなく坂や階段も歩きます。アスファルト以外に草むらや土の上を歩きましょう。知らない街や旅行先を歩くのもいい経験です。つま先が上がりにくくなった、転ぶのが怖いと思う人は膝を意識的に上げて運動会の行進のように歩いてみましょう。またわざとゆっくりと歩いたり、小刻みだったり大股で歩いたり変化をつけます。しっかり歩ける方は数メートルだけ走ってみます。少し自信がついたらもう少し長く走ります。慣れればより長く走れるようになります。
トレーニングの理論に「ハード・イージー」という考え方があります。きつい(ハード)トレーニングをした後2・3日は軽い(イージー)トレーニングをはさむというやり方です。きついことばかりを続けるとからだが慣れる(適応する)時間が取れません。適度な運動をつづけながら体力・競技能力を上げていくためにとても大事な方法です。これを皆さんの生活にあてはめてください。楽ばかりでもダメ、きついばかりでもダメなのです。
下半身だけでなくボディや上半身も大切です。最近の研究では筋トレに事実上の若返り効果があることがわかってきました。週2回の筋トレを行うとかなりのちがいが実感できるはずです。
知的な刺激はとても大切です。新しい経験なら、スポーツだけでなく、家事や遊びもみな歓迎です。まったく新しいことにチャレンジするのも手ですが、昔やったことがあるものに再チャレンジするのがとっつき早いようです。面倒くさいこと、時間がかかることをするのもまたトレーニングです。コツは一時に全部やってしまおうと思わないこと。ほんの一部分でいいからやってみます。毎日ちょっとずつでも続けていけば必ず結果が出ます。これは立派な脳トレーニングであると言えます。

4 人生100年時代に向けて

歴史ものを読んで思うのは、時代の変わるスピードがどんどん速くなっていることです。江戸時代の初めと終わりを比べたときの生活の変化より、昭和30年代~現在の変化のほうがはるかに大きいのではないでしょうか。必要なものしか持たず、ものより経験を重視し、会社や一つの職業にしがみつかない生き方がこれからは求められることを、若い人たちはひしひしと感じているようです。基本はやはり体です。中高年・年配の方もこれまでの暮らし方にこだわらず、身も心もやわらかく生きていく努力を重ねましょう。

 

ねりまインクワイアラー 135 VRとAR 

 自宅にいながらパリの街角を歩き回り、ケニアのサファリパークに出かけ、エベレストの頂上から世界を眺める。VR(仮想現実)を使うと、本当にそこにいるかのような実感をともなって仮想空間を動き回ることができます。対してAR(拡張現実)は現実の空間内に動く画像が現れます。目の前に遠く離れた相手が現れ、手ぶり身振りを交えて会話することが可能です。車の自動運転化につづく大きな技術革新になりそうです。

 

松ぼっくり通信 2018年 5月号

腰痛は心なのか体なのか

医者になりたてのころ、椎間板ヘルニアの手術の助手をつとめました。手術前にとても痛がっていた患者さんが、麻酔が醒めたときに「すっかり楽になった」とお話しされたことを思い出します。手術は大ざっぱに言えば「悪いものを取り出す」方法です。腫瘍を切除したり、壊れてそのままでは危険な臓器(の一部)を切り出します。椎間板ヘルニアの場合、飛び出た軟骨の一部が神経にあたり、腰や足の痛みをおこします。壊れた部品を修理することで腰痛が治るなら、話はシンプルです。しかし30年たった今、そうは簡単でないことを実感しています。

1 ヘルニアが原因

 薬草。温めた石。温泉。けん引。はり、マッサージその他、腰痛にいろいろな治療が行われてきました。結果はいいときもあれば悪いときもあり、ある人にはよく効いた治療法がほかの人にはダメだったり、有名な医師でも治せないことがあれば、インチキ治療でもよくなることがあり、古今東西にたくさんの説はあれど、どれ一つとして的を射るものがないのが腰痛治療の実態だったのです。

ところが20世紀の初めのイギリスで画期的な論文が発表されました。頑固な腰下肢痛の患者さんに対し、神経を圧迫していた軟骨のかたまりを摘出したところ腰痛が消えたという報告です。史上初めて目に見える形で腰痛の原因を提示し、物理的に原因を取り去れば症状が消える。これ以上わかりやすい説明はなかったので、お医者さんたちの世界ではいっきに腰痛=ヘルニア説が広まりました。

しかしながら、たしかに手術で症状が改善した人はいたのですが、それだけでは説明できない腰痛があること、手術だけですべての腰痛を治療するのはムリがあることに気が付いた人もすくなからずいたのです。

2 ヘルニア説の凋落

 1970年代からCT、80年代からMRIという、体を切り開かずに調べる画像診断法が開発され、腰痛の診断が一気に進歩しました。ところが不思議なことがわかりました。腰痛の人に必ずヘルニアが見つかるわけでなく、まったく腰痛がない人にもけっこうな割合でヘルニアが見つかったのです。こうなるとヘルニア=腰痛説はあやしくなり、腰痛を一から考え直す必要が出てきました。わかったのは、ヘルニアがあってもなくても長い目で見ると腰痛が軽くなる人が大多数であること、ヘルニアが見つかって手術をした人としなかった人のどちらも5年後には良くなっていて結果に大きな差がないこと、画像診断では説明しずらい腰痛が一定の割合で存在することでした。

 そこで医者・研究者は骨や筋肉の働きを調べなおし、痛みに関わると考えられた脳・神経の仕組みを研究し、痛みに心理学が関わっていることがわかったために治療や生活指導の方法を根本から変えていきました。みんなが当たり前と思っていたことが通用しなくなり、全く新しい考え方・やり方が広まることをパラダイム・シフトと呼びます。まさにこの30年は腰痛のパラダイム・シフトがおきた時間だったと言えるでしょう。

3 非特異的腰痛とは?

 お医者さんたちが特に困ったのは、非特異的腰痛と呼ばれる原因のはっきりしない腰痛が予想以上に多く、ほぼ9割がこれに当てはまるということです。この中には、おそらく疲労性の筋痛、無意識の筋けいれん、せぼねの加齢性変化など検査では異常のないものが入るはずです。

また、腰痛には心理的影響が強いことがわかっており、痛みに対して過剰に反応する人がいたり、痛みがあることがその人に利点があるときに症状が強くなったり長引くこともわかっています。

よく外来で聞く例では、数年前から年に二三回腰痛があるという相談があります。ある程度の年になればこれぐらいは当たり前と考えることもできますが、慢性の腰痛が続いている状態と考える人がいます。朝起きぬけに腰が痛い、草むしりの後に腰が痛いのは年のせいということもできますが、何かの病気の先触れではないか、将来歩けなくなるのではないかと不安になり、病院を訪れる人は珍しくありません。このように、痛みの強さとは別に本人がどのように考えているかもだいじで、ものの見方を変える練習が必要なこともあります。

4 心なのか体なのか

 以前、腰痛の原因はほとんどが心の中の怒り・不安・わだかまりなどのストレスであるという説が人気を博したことがあります。たしかに痛みを感じているのは脳ですから、脳に強いストレスがかかった時に痛みが出やすい・強くなりやすいというのはほんとうかもしれません。

 しかし、椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などからだにはっきりした故障を起こす身体疾患があるのも事実です。つまるところ、腰痛を治すには心も体も考えるという、古株のドクター・治療家が経験的に知っていたことを現代の研究が裏付けたのでしょう。

 

ねりまインクワイアラー 134 「反共感論」

 相手の身になって考えることを共感と呼び、一般的には良いことだと思われています。ところが共感することは必ずしも良いことばかりではないという本を読みました。人間は共感すれば手助けしたいと思います。手助けの結果、相手に喜んでもらえればやって良かったと感じます。ですが、本当に相手や世の中のためになるかを知るには一度共感から外れ、冷静に検討する必要があるという内容です。なかなか考えさせられる本です。

松ぼっくり通信 2018年 4月号 

いつのまにか骨折のお話

 理由はわからないけれどどこかの部位が痛むという相談の場合、骨・筋肉・関節はもちろんですが、神経や内臓まで気にかける必要があります。痛みそのものは目に見えませんから、からだを触って腫れ・むくみ・熱感を調べたり、いろいろな検査を行って見当をつけていきます。その中で見落としやすい故障のひとつが「いつのまにか骨折」です。骨折なのにどうして見つかりにくいのでしょうか?

1 誰もがそうは思わない

 推理小説を読むと、いかにもあやしく犯行の動機がありそうな人物が複数登場します。その一方、善良そうでどう見てもあやしくない人物が出てきて、(この人は犯人ではないだろう)と考えていると意外に犯人だったりします。「いつのまにか骨折」はこの犯人によく似ています。まず、ぶつけたとか転んだりといったきっかけがありません。痛い場所を触ると軽い腫れやむくみが見つかることもありますが、多くのケースでは目立つ変化がありません。レントゲンを撮影すると正常に見えることがほとんどです。患者さんもけがをした記憶がありませんから、骨折を心配して病院に来たわけではありません。どう考えても骨折ではない。そう思ってしまうと見つからない骨折です。

 原因がはっきりしないのになってしまう骨折なので「いつのまにか骨折」と言われるのですが、原因がないのではなく、目立たず、本人が気づいていないのです。

2 実際のケース

  • 若い女性が足の痛みを訴えて来院しました。販売の仕事で歩くことが多いのですが、ケガをした記憶はありません。初回のレントゲンで正常だったものの、骨折かもしれないと本人に伝えました。1ヶ月後のレントゲンではっきりと診断がつきました。

  • 大学のサッカー選手が膝の痛みを訴えて受診しました。歩くくらいなら大丈夫だが、走ると痛むそうです。診察では膝そのものはほとんど正常で、レントゲンも異常ありません。やはり1ヶ月後のレントゲンで骨折が明らかとなりました。

  • 50代の男性が足首の痛みで来院、最近マラソンを始めたが、ケガはしていないそうです。やはり1ヶ月後のレントゲンで初めて骨折とわかりました。

  • 60歳の女性が膝の痛みで来院、とくにケガはしていないそうです。やはりしばらくして骨折とわかりましたが、後で思い返すと、バスに乗り遅れないように走った時にちょっと痛かったのだそうです。

  • 30代の男性が胸の痛みで来院、一ヶ月前から咳がひどかったそうです。肋骨の腫れと圧痛から肋骨の骨折と考えられました。

  • 70代の女性が腰痛で受診、頭脳明晰な方でしたがいっさいケガはなかったそうです。レントゲンで腰椎の圧迫骨折とわかりました。

①②③⑤は疲労骨折、④⑥は脆弱性骨折と呼ばれています。わずかな力が繰り返し骨にかかると、目に見えない小さな骨のひびが出来てきます。あまり歩くことの多くなかった人が、転職・転勤で急に歩く量が増えたとか、スポーツの運動量を急に増やしたときが典型例です。疲労骨折のように年齢に関係なく起きる場合もあれば、脆弱性骨折のように骨粗鬆症などであらかじめ骨が弱くなっているために生じることもあります。この場合、立ち座りのくせ、歩き方のくせや前かがみの作業などで繰り返し負担がかかり骨に微小なひびが入りかかっていたものの症状はなかったのですが、ちょっとしたきっかけで実際に痛みを伴う骨折を生じたのだと考えられます。

3 見つけ方は?

 あっと驚く人物が犯人だった小説では、名探偵が推理をして犯人を特定します。名探偵はどんなに善良で無実に見える人も除外せずに調査を行って、論理的にあらゆる可能性を考え、この人以外に犯人はありえないと見極めます。「いつのまにか骨折」の診断で大事なのは、はっきりしたケガのあるなしに関わらず骨折の可能性を除外しないことです。そうすれば、骨折がないと思い込んで無視しがちな微妙な局所の熱やむくみを見逃さないし、よく見ないとわからないような微妙なレントゲンの変化に気づくことができます。たしかにそれでもわからない場合があり、外来で困ることもあります。最近では怪しい時にMRIで調べると普通のレントゲンでは見えないひびが見えるので、とても助かります。

4 どうしたら治るのか

 このように「いつのまにか骨折」は診断が遅れることも多いのですが、治療そのものは難しくなく、患者さんに説明して骨折の原因になった負担を減らしてもらい、睡眠や食事に気を配り、体の自己修復力がしっかりと働くようにして骨折が治るのを待ちます。骨粗鬆症のある人ではビタミンDなどの薬物療法を追加すると治りが早くなります。歩き方や動き方のクセを直したり、履物の買い替えやインソール(中敷)の追加で体にかかる負担を減らすこともあります。運動不足の人が急に運動し始めて骨折することもあるので、トレーニングのアドバイスもします。まずは早く診たててもらうことが大事ですので、わたしたち医者がしっかりとしないといけないわけです。

 決して恐ろしいものではない「いつのまにか骨折」ですが、理由がよくわからないのにどこかが痛くなりなかなかすっきりしないときは、こんなこともあるのだと覚えておいてください。

 

ねりまインクワイアラー 133 景気の善し悪し
バブルのころを超える好景気が続いているそうですが、皆さんの実感はどうでしょうか?景気をどうやって判断するかというと、日本銀行がアンケートをして決めているそうです。最近の調査では4割の人が景気が良いと答えたので全体として景気が上がっていると判断されたみたいです。医療や福祉の業種では景気が上向いている印象は無いので、?と思ってしまいます。実際、景気の良い業種と悪い業種がはっきり分かれているのが最近の傾向だということです。