疲れにくいからだになる
この文章は、はじめ「疲れないからだになる」としたのですが、おかしいことに気が付きました。疲れ知らずになるのは無理な話で、だれでも疲れるときはあります。どんなに元気な人でも疲れます。肝心なのは、いざというときにがんばれるかどうかです。ビジネスマンなら仕事で、アスリートなら本番で、一般の人なら普通の生活を元気に行えていれば「疲れにくいからだ」です。疲れにくいからだになるにはどうしたらいいのでしょうか。
1 疲労のメカニズム
「くたびれたな」と思うとき、疲労を感じているのは脳です。脳は一種のスーパーコンピューターで、体のあらゆるところから神経・血液を介して情報を集め、分析しています。最近の研究からわかってきたのは、疲労がたまったから疲れを感じるのではなく、このままいくと疲労がたまりそうだと予測すると、脳が「疲れた」というメッセージを伝えてくるのです。言い換えれば、心底疲れるよりかなり前から疲労を感じるということです。そうすることで、本格的なからだの故障をおこすことなく、万が一にも対処できるくらいの体力を残そうとする安全メカニズムが働くのです。
カフェインなどの興奮剤や、覚せい剤などの危険薬物は脳に働きかけて安全メカニズムを一時的に解除しますから、瞬発的にいつも以上の力を発揮できるのです。しかし、いいことばかりではありません。脳は栄養や酸素をもらって生きている臓器の一つですから、食べ過ぎ飲み過ぎあるいはストレスで胃が荒れるように、脳も無理を続ければ不調になり、長引けば不調が固定されて、最悪壊れることもあります。
全身の栄養不足や循環不良があると脳は敏感に感じ取り、通常より早いうちから警告サインとして疲労のメッセージを送り出します。ですから体調が万全でないときは、疲れが早く出ることになり、外来で聞く「疲れが抜けない」という相談の理由になっているのでしょう。
2 トレーニングと疲労
トレーニングをすることで、より速く、長く、強く動けるようになるのは、一つには骨・関節・筋肉や心臓がじょうぶになるからです。以前よりもたくさん動いても組織のダメージが起きにくくなり、体の状態が安定していれば脳はOKのサインを出し、私たちは疲労を感じません。
もう一つの効果は脳のファインチューニング(微調整)です。自動車をたとえに使うと、エンジンやギヤを大きく改造しないでも細かな調整を加えれば今より速く走ることができます。レースのときなら、速く走れるほど優勝できる可能性が高くなりますからこれは正解です。ただし、負担が増える分エンジンやボディの寿命が短くなるかもしれないし、ギヤや軸受けの摩耗が早まるかもしれません。あるスポーツのためにトレーニングをすることはこれと同じです。からだにかかる負担を減らすため、脳は疲労のサインを出し、これ以上パフォーマンスが上がらないようにします。ぎりぎりの限界で練習を続けると、脳が刺激に慣れ、以前よりも強い負担でやっと疲労のサインを出すようになります。そのため、前よりも速く、強く、長く動けるようになるのです。長い目で見ると、体にとって良いことなのかはわかりませんが、アスリートとして成果を出すために必要な選択です。
3 年齢と疲労
老眼や白髪と同じく、肺・心臓・肝臓・腎臓、骨や筋肉も年をとります。細胞の新陳代謝が遅くなり、若いころに比べると回復が遅くなります。老廃物の蓄積や筋肉の腫脹を感じ取って脳はブレーキをかけますから、結果的に疲労も感じやすくなる。だから年をとると疲れやすくなりますが、ここでちょっと考えてみましょう。
手入れの行き届いた車と、ガレージに置いたままほったらかしの車を想像してみてください。同じ年式の車でも、手入れの行き届いたほうは滑らかに走りよほどのことがない限り故障しませんが、ほったらかしのほうは動くかどうか怪しく、故障もしやすいはずです。故障のしやすさを事前に検知するのが疲労のメカニズムですから、手入れが十分なら疲労も感じにくくなります。年をとっても、からだの手入れを続けていくことが大切です。適度な運動、ストレッチや筋トレをする習慣、栄養・睡眠・ストレスに気を配り、病気があれば完ぺきではなくても上手に付き合っていく。これが疲れにくくなる秘訣です。
4 疲れるから、疲れにくくなる
体調管理はそれなりにできているのに疲れやすいと感じる方はどのようにすればいいのでしょうか?実際に相談を聞いていると、けがや病気など体調を崩した後、前より疲れやすくなったと感じている人が多いようです。前なら楽にできていたことがつらくなった。これぐらいは当たり前と思っていたことができなくなりがっかりした。こう感じている方は、「ねじをもう一回巻き直す」ことをお勧めします。ちょっと疲れるくらいのことを時々行ってみましょう。慣れるに従い、もう少しきついことに取り組みます。疲れがたまったと思ったら少し休みます。あきらめずに続けましょう。半年~一年後にはずいぶん体力が戻り、疲れにくくなったと自覚できると思います。
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