めずらしい相談
ふだんの仕事では腰痛、五十肩や骨折・ねん挫などを扱うことが多いのですが、ときにはあまり出会わないめずらしい相談を扱うことがあります。今回は今までの経験から印象に残ったケースをお話しします。
1 お腹が痛くて立つことができない
半年間大学病院に入院していた方のお話です。右のわき腹が痛くて入院し、たくさんの検査を受けましたが原因がつかめません。最後に整形外科の外来に受診した時に、たまたま私が診ることになりました。
最初に気がついたのは、寝ている間は患者さんがまったく痛がらないことでした。ところが立たせると痛みが出て20秒と立っていられません。このように動作や姿勢で痛みがはっきり変わるときは原因が骨や筋肉にあることが多いのです。調べていくと右胸の肋骨に触ると痛いところがあったので、少し押してみました。ギャッと患者さんが叫んだのでヒヤッとしましたが、その直後から患者さんの痛みは消えて、1週間後に患者さんは無事退院されました。 このように基本的には小さな故障なのに検査で原因をつかみにくく、深刻な病気と誤認される場合をときに経験します。こういう故障を「体性機能障害」と呼びますが、その原因を考え続けたことが今の診療スタイルにいたるきっかけとなりました。
2 72時間止まらないしゃっくり
仕事がらしゃっくりを診ることはなかなかないのですが、このときは内科の先生が困ったらしく私の外来に廻ってきました。三日間夜昼かまわずしゃっくりが続き、患者さんは食事ものどを通らず夜もまったく眠れず憔悴しきっていました。(どうすればいい?)と迷いましたが、以前くびの付け根にある神経を圧迫するとしゃっくりが治ることがあると聞いたことを思い出しました。患者さんに説明して、くびの脇にある神経の位置を両手で圧迫して数分経つと、しだいにしゃっくりが収まっていきました。
しゃっくりの原因は横隔膜の筋けいれんです。だから横隔膜につながる神経を圧迫することでけいれんが落ち着いたのです。
3 くびの激痛
くびを全く動かすことができない、ちょっとでも動かそうとするとあたまから背中にかけて激痛が走る。からだが弱っている人だとまったく身動きできず、救急車で病院に運び込まれる。こういうケースは今までも経験していましたが、あるときあたまの付け根にある関節を調べれば原因を見つけられることに気がつきました。環軸関節という特殊な関節に炎症が起きるとこういう症状になるのです。
ふつうのレントゲン検査でうつりにくい場所なので触診が命なのですが、見つけてしまえば治療はわりあいかんたんです。ふつうの消炎鎮痛剤がよく効きます。
4 おなかがでんぐりがえる
ときには患者さんの話を聞いてもよくわからない、すぐには話が呑み込めないときがあります。このときも「でんぐりがえる」ってどういうこと?と最初思いました。
ところが患者さんのお腹を見るとびっくり!おなかがぐりぐりと動いていてでんぐり返るという意味がわかりました。これはディストニアという症状で、脳の病気や薬の副作用で出ることがあります。患者さんの内服薬を調べて、疑わしいと考えた薬を休薬していただくことにしました。2週間後、おなかはまったくでんぐりがえらなくなりました。
5 踊り続ける女性
医者になってまだ日が浅いころのお話です。おかしな様子の人がいるので救急外来に来てほしいと連絡を受けました。行ってみるとベッドに女性が腰かけているのですが、右手だけを動かして激しく踊っているように見えます。
一瞬(これは変わった人なのかな!)との考えが頭をよぎったものの、患者さんはきわめて真剣で、受け答えもしっかりしていました。話を伺うと、病院のトイレを使用中に突然症状がはじまったそうです。聞いた瞬間、脳の故障!を疑いました。
そのまま神経内科に紹介、やはり脳出血ということで入院となりました。リズムの速いダンスのような動きをバリスムと呼びます。脳の基底核(中心部)に問題があると起きる症状の一つです。トイレでいきんだことが発症のきっかけになったのでしょう。
こうやって昔の経験を書いてみると、やはり問診と診察が大切だと感じます。忙しいとついおろそかになってしまいがちですが、これからも話を聞く・体を診るをていねいにやっていかねば!と改めて思いました。
ねりまインクワイアラー 165 ビタミンDふたたび
北海道をはじめとしてコロナの第3波が懸念されています。冬場はウイルスの生存時間が長くなることと、日光に当たる機会が少なくなりビタミンDの体内合成が減ることが問題点として挙げられています。免疫機能を高めるビタミンDの合成のため、できるだけ肌に日光を浴びるようにしましょう!
まず行動せよ‼
赤いアメと青いアメ、どっちから食べるか?こんな小さなことでもなかなか決められない子供でしたが、二十歳のころに(これではいかん!)と思って読んだのが「はじめに行動があった」(アンドレ・モロア著)です。これを読んで衝撃を受け、以来考えつつ行動し、行動しつつ考えるのを心がけてきました。いいことも悪いこともあったけれど、おおむねこれで良かった気がします。今回はいかに行動することが大事なのかをお話しします。
1 行動とは脳の働きである
行動するかどうかを決めているのは、ひたいの奥にある脳の前頭葉という場所です。以前は大人になってから脳の機能を変えることはできないと考えられていました。ところが最近の脳科学から、脳はいくつになってもトレーニングできることがわかってきたのです。手足や体幹を鍛えることができるのと同様、脳も鍛えることができます。反対に使わなければ、手足と同じく脳もしなびてきます。
2 すべてを分析するのはムリ
練習すれば速く走れるようになるのと同じように、脳の機能も鍛えることができます。行動する、決断するといった能力もまた鍛えることができるわけです。
ゲームの世界では、短時間で判断することが求められるもの(サッカーや格闘ゲームなど)と比較的時間を自由に使えるゲーム(将棋やカードゲームなど)があります。私たちのふだんの暮らしでも、同じように短時間で決めて行動するときとじっくり考えてから行動するときがあります。ライフステージで見ると、子供のころは瞬発的に自分のしたいことをする時期、大人になると熟考し慎重に判断をすることを学ぶ時期だと言えるでしょう。
ですが大人になっても短時間の判断を求められる瞬間があります。事故に巻き込まれそうになったら、どちらに逃げるか一瞬の判断が生死を分けるときがあります。そこまでではないにせよ、日常でもバーゲン会場のように短時間で物を決めなければならないときがあります。
短時間で何かを判断し行動するとき、あらゆることを分析する余裕はありません。それでもうまくいくようにするにはどうしたらいいのでしょうか?
3 カンに従え
そこでだいじなのが「カンに従う」ということです。見た瞬間、聞いた瞬間に「コレだ!」と思うことがあったら、迷わず飛び込んでみる。まずやってみて、それでどうなるのか見てみる。うまくいくならゴー!だめならやめればいい。いい意味で臨機応変、状況に応じて方法を変えたり、もっと自分がやりたい方向にシフトしていく。心も体もかろやかにステップを変えていく。年を重ねるとこういったことが苦手になってくる人がいますが、はじめにお話ししたように脳は鍛えることができます。「いまさら」「私は苦手」「もう年だから」というフレーズを使わずに、ちょっとやってみて、後から考える。これは脳の若返り運動にもなります。
カンが働くとき、じつは言葉にしにくいさまざまな情報を脳は解釈しています。悩んでいろいろ考えたけれど、最初に思いついたことが正解だったという経験は誰にもあるはずですが、脳の働きから見てもうなずけることなのです。
4 行動こそリハビリ
からだを動かすこと=元気と考えて診療していますが、外来で診ると腰の重い方たちが多いと感じています。万全の構えができるまでじっと様子を見ていると、「へたな考え、休むに似たり」ということわざ通りになってしまいます。少しだけ「傾向と対策」をお示しします。
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時間がない… ほんとうに時間がない人もいますが、たいていの場合は言い訳になっています。5、10分でもいいので、こまめに頻回に体を動かしましょう。テレビ体操でも、ストレッチでも、軽い散歩でもオッケーです。ちりも積もれば山となりますから。
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運動すると疲れる… あまりにもつらいときはドクターに相談してください。多くの場合は、運動不足による体力低下です。ちょっと疲れるくらいなら適度な運動ですから、しばらく続けると楽になってくると思います。
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病気(けが)がある… 運動の可否・注意点をドクターに相談しましょう。多くの慢性疾患では運動は禁忌でなく、むしろ体に良い・必要であるとされています。
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気が進まない… 自信がない・やったことがないので不安・人前に出るのがおっくうだ・お金がかかるのでは?など引っかかりがあるなら、知り合いに聞いたり、見学してみるのも手です。でも案ずるより産むが易し。長い人生経験の中で皆さんもわかっているように、たいていのことはやってみれば何とかなるものです。
ねりまインクワイアラー 164 コロナはこれから?
コロナ流行が長引き、コロナ疲れを感じるようになってきました。これからを予測するにあたってカギとなるのは、①寒い時期に流行が広がるか否か②ワクチン完成・接種のタイミングの二つで、コロナ特別措置が見直される来年2月ごろが節目になりそうです。いまは三密回避、マスク、手洗いの3点セットで頑張るしかなさそうですね。もう一つ、日光浴も忘れずに!
「ほっといていい痛み」をみわけるには
町のクリニックの役割は、ゲートキーパーだと言われています。ゲートキーパーとは、門を通すか通さないか判別する門番のことで、転じていいものと悪いものをみわける意味で使われています。からだの故障にはほっといていいものといけないものがあり、できるだけシンプルに確実にみわける(診断する)ことが必要とされているわけです。今回のお話です。
1 ほっといてもいい痛みとは
先日ジョギングをした後、腰が痛くて伸びにくくなりました。一夜明けると痛みはかなり良くなっていて、ほっといて良かったなと思いました。ほっといてもいい痛みとは、「重大な病気や故障ではなく、とくに治療をしなくても治る可能性が高い」「痛みはあるがまあまあふつうに暮らせる」「一時的には痛みがあっても、体調には大きな影響がない」タイプの痛みのことです。 良性の痛みと言い換えてもいいかもしれません。しかし痛みそのものはかなり強いことがあり、痛みの強さで計れません。むこうずね(弁慶の泣き所)を思いっきりぶつけたとか、ある種のぎっくり腰(筋けいれん)などはすごく痛いのですが、これに当てはまるでしょう。骨や筋だけでなく内臓や神経系にもほっといていい痛みがあるので、まとめてお話ししてみます。
2 なぜ、痛みがあるのか
痛みそのものは体に必要なメッセージシステムです。だから建物に煙検知器やガス漏れ検知器があるのと同様、体のすみずみの故障を見逃さず教えてくれます。痛いと感じたら無理をしない。無理をしないから体が治る機会を作れる。とてもうまくできたシステムなのです。
医療機関でいろいろ調べてもらったけれど、痛みのはっきりした原因がつかめないとき、(原因不明だから、むずかしい病気なのでは?)と思うかもしれません。しかしその多くはほっといてもいいからだの故障です。
たとえ話をしてみます。練馬区外の人に「練馬区で知っている場所」を聞いたとします。としま園、光が丘公園や石神井公園の名は出るかもしれませんが、実際にはもっとたくさんの地名があって、さらに丁目や番地があり、たくさんの人が暮らしています。一般的な病名はその土地の有名スポットみたいなもの、街のあちこちで無数の小さなアクシデント(ガス漏れ・水漏れなど)が起きているのと同じように、有名スポットでない体のあちこちで毎日小さな故障が起きています。そして小さいだけに診察が難しく検査でも異常が出にくく、また自然に治ることがほとんどなので、病名がつかないことが多いのです。
3 ほっといてはいけない痛み
では、ほっといてはいけない痛みはどんなものなのでしょうか?
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じっと動かないでいても強い痛みがあって、食事や睡眠がさまたげられる
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動かしたときの痛みだが、歩く・座るなどの日常生活にかなりの妨げとなっている
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発熱、吐き気、めまい、便通の異常やしびれなど痛み以外の症状があり、しだいに強くなっている
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周りから見て、ぼうっとしている・受け答えがおかしいなど意識障害を疑う場合
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局所の腫れや熱が目立つとき
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不安や興奮状態が続いて、本人や周囲の管理が難しいと感じるとき
こういったときはためらわずにお医者さんにかかることをお勧めします。
4 自分でみわけるには
ちょっとどこかが痛いけれど、いつも痛いわけではない。とりあえず仕事や家事はできている。ご飯もおいしいし、夜も眠れる。出るものは出ているし、痛み以外は体調に目立った変化がない。あるいは動くとちょっと痛いけれど、この1.2週間で少し軽くなってきた印象がある。こんな感じのときは、様子を見てもいいと思います。
はじめは軽いと感じていたが、しだいに痛みが強くなってきた。痛む回数が明らかに増えてきて、かばう動作がでたり、まわりの人からも気づかれるようになった。こんなときは受診をお勧めします。
痛みそのものは軽いけれど、同時にさまざまなからだの不調も感じるときも要注意です。内臓の病気で痛みが出ることがありますから、深刻な病気がないことを確認するためにも一度診てもらったほうがいいでしょう。 年齢を重ねると、若いころよりあちこちが痛くなるものです。痛みを理解し、上手に判断の材料に使えば、必要以上に恐れることなく、仕事をし、スポーツを楽しみ、自分のやりたいことをする手助けになるはずです。
ねりまインクワイアラー 163 スウェーデンのコロナ対策
スウェーデンのコロナウイルス対策は基本的に何もしないことです。集団免疫を早くつけることが収束の近道と考えているからですが、周囲の国より死者数が多くなっても方針はぶれません。社会保障・福祉に手厚いことで有名な国ですが、医療や死生観の考え方は国でほんとうにちがうのだなと実感します。
ビタミンDを摂ろう・使おう!
3月の緊急事態宣言発令から2,3か月たった頃から、下半身の関節痛を訴えてクリニックを訪れる患者さんが増えてきました。比較的年齢が若く、リウマチなどの炎症などの所見はなく、なにが原因かはっきりしないのです。ところがお話を聞いているうちに一つの特徴が浮かんできました。今回はビタミンD不足のお話です。
1 腫れもない、熱もない、変形もない
20代前半の女性が膝と足首の痛みの相談で来院されました。1か月ほど前から歩くときに痛みが出るようになったそうです。診察をすると、膝も足首も腫れはなく、熱もありません。関節の動きもなめらかで、ベッドの上で膝を動かしてもまったく痛みは出ません。レントゲンは正常、こういうときには①痛みの出方を細かく聞く②ふだんのくらしを細かく聞き取ることにしています。
そこで患者さんの膝を上から押してぐっと伸ばしてみると、症状の痛みが再現されました。これがビタミンD欠乏症の症状なのです。 お話から、①家の中で歩くくらいなら平気だが、階段の下りだったり、通勤のときなど長く歩くと痛い②3月から在宅勤務となり、外出制限のため必要最低限の買い物以外は屋内で暮らしていた③運動不足解消のため屋内でのエクササイズ(動画を見ながら)を最近はじめたことがわかりました。
2 ビタミンDとは
ビタミンB・Cは補酵素で、体内でたんぱく質の合成を助けています。ビタミンDは副腎皮質ホルモンや男性ホルモン・女性ホルモンと同様の化学構造を持っていて、ホルモンに近いと言ってよいでしょう。その働きは、
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骨をじょうぶにする カルシウムが骨に吸着されて強くなる
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免疫系を強くする かぜなどの感染症にかかりづらくする
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心をじょうぶにする ストレスに負けず、うつ病などにかかりにくくする
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ガンにかかりにくくなる ある種のがん(大腸がん・乳がんなど)の予防につながる
ビタミンDの特徴の一つが、皮膚に日光が当たることで体内合成ができることです。ただし、日光が当たるというところが曲者で、本当に100%体内合成しようとすると、昼のさなかに顔と両手の面積に毎日20分日に当たることが必要と言われています。週2回に減らせば、海水パンツ一つで芝生に20分寝そべるのとほぼ同じですから、よほど日中屋外で活動する職種の方以外は、日光浴だけで100%ビタミンDを体内合成するのは難しいと言えます。
そこで食事が大事になります。卵や乳製品など動物性食品に含まれていますが、とくに小魚類やレバー、意外なことにキノコ類には多く含まれます。
3 「ふつう」が問題
明治や大正の時代でもビタミンDは不足気味でした。和装は肌の露出が少なく、比較的植物食の多かった当時の日本食では十分に経口摂取することが難しかったのです。そこでタラや深海ザメの肝臓からビタミンD・Aを含む肝油が開発されて、栄養補助食品として使われました。以前は小学校で販売され、年配の方は「あの甘いドロップ!」と覚えているかもしれませんね。
現在は日よけのパラソル、手袋・アームカバー、日焼け止め、美白化粧品など、さまざまな日焼け対策の商品が使われています。一方、オフィスワークの仕事が増え、ほとんど日に当たらずに一日を過ごす方が増えてきました。今はふつうに暮らしているだけでビタミンD不足になる可能性があります。
ある皮膚科ドクターが「日焼けは百害あるが、一利はあるかも」と話されるのを耳にしました。私は、快適な運動をかねて外出し、適度に日光を浴びればむしろ百利があると考えています。
4 ビタミンDは目減りしやすい
ビタミンDの体内での半減期は30日未満だと言われています。かなりのペースで消費されますから、日ごろから日を浴びる時間を確保し、乳製品や肉・魚をこまめに摂りましょう。
ビタミンD不足が続くと、体のふしぶしが痛んだり、赤ちゃんのO脚の原因になったりします。冒頭の女性は、昼休みや休日にできるだけ日を浴びるよう努力したところ、1か月ほどで痛みはまったくなくなりました。年配の方でも珍しくない相談なので、まずは毎日の暮らしの中で日向を歩く習慣を作ってみましょう。
ねりまインクワイアラー 162 マスク問題
年初めから続くマスク不足、マスクは感染予防イエスかノーか、運動中のマスクはどうするか(とくに夏!)。こんなにマスクに悩まされる年はなかったですね。私もランニング用にいろんなマスクを試しています。一つ言えるのは、マスクをしていると、気持ち的にもソーシャルディスタンスを意識することです。いろいろな事情でマスクを使えない方もいますから、おたがい思いやりをもって接したいものです。
足うらのトリガーポイントを治す
トリガーポイントとは、筋肉の中にできる押して痛む「しこり」のことです。アメリカの医師トラベル博士が発見したもので、博士は足うらのトリガーポイントをまとめて『毒蛇の巣』と呼んでいました。大柄で肥満したアメリカ人には足の相談が多いのですが、日本でも増えている気がします。今回は足うらケアのお話です(詳細版はネットで)。
1 どんなときにトリガーポイントを疑うか
赤く腫れあがっていたり、熱を持っているのは足底腱膜などの急性炎症です。パッと目に何ともないけれど、強く押すと痛むときトリガーポイントを疑います。
歩くときの足うらの痛みが主な症状で、上図の赤いところが痛みを感じる部位、ペケ印が筋肉のあるところです。仕事や運動で足をいっぱい使う人は筋肉に疲れがたまります。またひざの故障や外反母趾などで歩き方に無理がかかる人も足うらの筋に負担がかかります。
固まった筋肉が神経を圧迫するとしびれ感を感じることがあり、足うらのしびれの原因になっている可能性があります。また足うらのつりもトリガーポイントが原因の可能性が高いと思います。
上の図の赤いところが痛みを感じるところ、×印がトリガーポイントの位置です。足うらの痛みがある人は、自分の足を触って確認してみましょう。
2 なぜできる?
トリガーポイントができる理由をあげると次のようになります。
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筋肉に疲労がたまる
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けががきっかけでおきる
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急に負担が増えた
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強い冷え(血行が悪くなる)
激しいスポーツや重労働でなることがある一方、普段あまり体を使っていない人が急に体を動かしてできることがあります。直接ぶつけたところにできることもあれば、ケガの瞬間に力が入ったところにできることもあります。体重増加や転職がきっかけになることもあります。足の場合、冷えがきっかけでトリガーポイントができることもまれではないと思います。またストレスも原因になります。
3 トリガーポイントのセルフケア
体の他の部分と同じようにマッサージが有効ですが、じょうぶな脂肪と腱膜の奥にある筋肉をマッサージするのはけっこう大変なのです。そこでゴルフボールを使ったセルフケアをお勧めしています。
テニスボールでもできなくはないのですが、骨のすきまの小さな筋肉をマッサージするにはゴルフボールが最適です。床と足の間にゴルフボールをはさみ、体重をのせてゴロゴロ転がします。写真のように2個を靴下に入れて使うと使いやすいです。
はじめたとたんに痛い!と感じる方もいますが、やっているうちに痛くなってくる方もいます。ゴロゴロしていると、しだいに痛みが軽くなってくるはずです。でも、すぐに効果を期待しないでくださいね。血行の良くなった筋肉が次第に柔らかく、ストレッチされるのには日数がかかります。体の変化はゆっくり起きてきますから、こまめに毎日ゴロゴロしながら、気長に改善を待ちましょう。
ゴロゴロが終わったら、写真のように指をストレッチしてみましょう。筋肉がほぐれたときのストレッチは効果的です。軽く痛みを感じるくらいのところで、20‐30秒ストレッチします。 足の痛みすべてがトリガーポイントのせいではありません。やるとかえって痛い、つづけても効果がないと思ったら、あらためてご相談ください。
ねりまインクワイアラー 161 Go To キャンペーン
コロナで打撃を受けた観光業界を下支えするため、国の施策で代金の35%が補填されるそうです。行くか、行かないか。迷いますが、興味ある人は旅行代理店などに問い合わせてみてください。
目的別にトレーニング!
コロナ緊急事態宣言のあいだ、みなさんはどう過ごされていたでしょうか?体力が落ちた。どこかが痛くなった。もう年のせいか?いろいろ考えてしまいますね。でも、あきらめずにトレーニングにとりくめば意外なくらい体力が上がってくるかもしれません。
1 からだが硬くなった
毎日行っていた買い物が週一回になった。在宅勤務が増えた。コロナの影響で生活習慣にいろいろな変化が生まれました。診察して強く感じるのは、からだが硬くなった人が増えていることです。特別なストレッチをしていなくても使っているところはそれなりに柔らかさが続きます。使わないとどんどん硬くなるのは、からだを作っているコラーゲンというたんぱく質が縮まりやすいからです。
2 つまづいたり、転びやすくなった
立つ・歩く・座る・物を運ぶ・上げる・おろす。あたりまえにやっていることが実は大切です。仕事や用事のあるなしに関わらず、ひまがあったら体を動かしましょう。さらに柔らかくしたいときは、体操やストレッチをしてください。こまめにやればまた体はやわらかくなってきます。
足が上がらなくなったのが原因です。股関節を前後に大きく動かす筋肉はももの付け根にありますが、この筋肉が弱ってきたからです。小刻みによちよちと歩くくせがつくと、付け根の筋肉を使わないのであっという間にそこが弱ります。
手を振り、いつもより大股で、ゆっくりと歩く練習をしましょう。犬の散歩は、人の散歩の代わりになりません。犬とはべつに、自分専用の散歩を行いましょう。
3 階段で息が上がる
心臓や肺の病気でない限り、筋力低下が原因です。年配の方は昔の軽自動車(360cc)で坂道を登った時を想像してください。車は必死で登っているのに、なかなかスピードが上りません。排気量が少ない車と同じように、筋肉量が少なくなると重力に抵抗する運動をしたときに非常につらく感じるのです。
こういう人は筋肉を強くしましょう。まずたんぱく質を多めに摂って、筋肉がつきやすくします。つぎにスクワットや階段上りなど、足腰にややきつい運動を続けます。息が上がり、ぜーはー言うくらいでいいのです。急がず、ゆっくりとやるのがコツです。はじめのうちは駅やデパートの階段をつかまりながら上り下りするのもいいですね。慣れてきたら、階段をわざとゆっくり降りるのもいい足腰の運動になります。転ばないよう注意してください。
4 速く歩けなくなった
筋肉には速筋と遅筋の2種類があって、年齢が高くなっても遅筋はあまり減らないのですが、速筋は減りやすいことがわかっています。速筋が減ると素早い動きをしづらくなるので、歩くのが遅くなったり、さっと足が出にくく転んだりします。 でも、年をとっても速く歩くことは可能です。実際に軽快なスピードで歩いている方がいっぱいいます。何がちがうのか?じつは「速く歩く練習をする」ことがカギです。なーんだ!と思ったかもしれませんが、これがトレーニングの「目的性」と呼ばれる考え方で、何を狙ってトレーニングをするかが大事なのです。たとえば3分速めに歩き、3分ゆっくり歩くを繰り返す。これを続けるだけで歩くスピードは速くなるはずです。
5 すぐに疲れるようになった
貧血や栄養バランスの崩れのこともありますから、食事に注意してください。そうでなければ有酸素運動の不足が原因です。有酸素運動とはからだに酸素を取り込んで行う運動のことです。ウォーキング、サイクリング、ランニングやハイキングがこれに当てはまります(筋トレや100メートル走は無酸素運動と呼ばれます)。 有酸素運動を続けていると、体中の毛細血管が発達して全身の血行が改善します。また細胞内のミトコンドリア(エネルギーの発生装置)が活性化され、しだいに長い時間体を動かしても疲れにくくなってきます。しばらくからだを動かしていなかった場合、まずはウォーキングを1,2か月やってみましょう。週3,4日、30分くらいから始めて徐々に時間を伸ばしていきます。1時間くらい連続で歩けるようになったら、軽いジョギングをしたり、長めの街歩きやハイキングに出かけるのもいいでしょう。このくらいまでくると選択肢が広がっていろいろなことができるようになります。皆さんの好みに応じて、やりたいことにチャレンジしてください。
ねりまインクワイアラー 160 ウイルスは生物?
生き物を大きい順に並べると、ヒトや樹木などの多細胞生物、アメーバや緑藻などの単細胞生物、細菌、そしてウイルスの順番になります。ウイルスは遺伝子であるDNAやRNAは持っていますが、細胞組織は持っていないため、じつは生物ではないのでは?という疑いがありました。現在では、ほかの生き物のからだにもぐりこんで相手の体を利用するために、遺伝子以外の成分を捨て去ったのがウイルスではないかと考えられています。ウイルス遺伝子の一部は寄生された生物の遺伝子に紛れ込み、そのまま受け継がれることがあり、ヒトの遺伝子でもウイルスの断片が入り込んでいるそうです。好き嫌いにかかわらず、ウイルスと生き物の付き合いは長く、複雑に絡み合っているようです。
手・腕のセルフケア
先日クリニックのスタッフに「小学生の時には学級通信をガリ版で作っていた」と話したら、「ガリ版って何ですか?」と聞かれました。デジタルネイティブ世代にとって、ガリ版は古代の道具のようです。楽になった世の中ですが、手や腕の故障は逆に増えている気がします。今回は上肢のセルフケアのお話です。
1 箱の前で8時間はつらい
今のほうがずっと便利になり、暮らしは楽になったけれど、腕から指にかけて細かい反復作業をすることが極めて多くなりました。とくにパソコン作業では長時間指先を動かし続けることで手や腕の筋肉に疲労が蓄積しやすくなり、故障の大きな原因になっています。昔の人に、「あなたの遠い未来のご子孫は、一日中四角い箱の前に座り、朝から晩まで木の板を指で叩き鳴らして暮らしています」と話したら、たぶん信じてもらえないでしょう。食べ物を得たりお金を稼ぐためには、文字通り手に汗流して働くことがあたりまえでした。原始時代からあなたの祖父祖母の世代まで、ほとんどの人はそうやって暮らしていたのです。だから、体の仕組みも汗水たらしながら動き続けることができるように設計されています。今よりずっと生活は厳しかったので、過労や栄養不足で病気になることが多く、寿命は縄文時代で30代、昭和の初めでも60代がやっとでした。
2 痛みは遠くで感じる
気が付かないような小さな故障も、チリが積もるように増えていくと、ある日どこかが痛い、腫れた、むくむといった症状になります。
ほとんどの場合で痛みはオリジナルの部位よりも遠くに飛びます。たとえば肩のつけ根の故障では痛みが腕~手に、前腕の故障では手首~指先に飛びます。
だから痛いところだけでなく、もっと体に近いところまであちこち触ってみましょう。押して痛むところがみつかったらそこが原因部位かもしれません。
3 か弱い筋肉にやさしく
もともと前腕から手のひらまでの筋肉は細かい作業をすることに長けていますが、疲れやすく持続的な力仕事には向いていません。力仕事には肩の筋肉が向いています。こういった筋肉の特徴を生かして体を動かすと故障しにくくなります。たとえばぞうきんを絞ったり、固いビンのふたを開けるとき(図)、手首を動かそうとせずに肩の力で手を動かすと楽です。また、腕は2,3キロの重さがありますから、宙に浮かして作業するよりも、クッションのような支えに乗せて重さを取り払ったほうが楽に動かせます。こうすることでキーボード操作など上肢を伸ばしたまま細かな動きをする作業でも疲れにくくなるでしょう。
(図;矢印のようにてくびをひねると痛めやすいです。手首を動かさず、肩から腕全体を動かしましょう)
4 マッサージとストレッチをこまめに
手・腕の故障の大半は筋肉の疲労が原因でおきます。筋肉は前腕と手にあって、手首と指にはありません。だからマッサージは手と前腕にします。手のひらだけでなく手の甲(骨と骨のすきま)を反対側の手の指先で押します。親指だけでなくほかの指も使って、ゆっくりとリズミカルにやってください。
押して痛いところはもちろん、こった感じがするところもマッサージしてください。1回数分でいいので、一日6-7回行うとベストです。
前腕の筋肉のストレッチも効果的です。反対側の手で手のひらをつかみ、手の甲側を伸ばし、次に手のひら側を伸ばします。筋が伸びる感じがして、かすかに痛いくらいまで伸ばします。これも一日数回やると効果的です。 すぐには効果を感じないかもしれませんが、毎日続けると痛みやこわばりが軽くなるのを実感できるはずです。
ねりまインクワイアラー 159 ガリ版とは
正式には謄写版(とうしゃばん)と言って、ロウを引いた和紙を鉄筆で削り、インクでをつけて擦ります。きわめてローテクですが、味わいのある絵が描けます。現在でも愛好家・プロの作家さんが活躍されています。
スポーツのけがとリハビリ
毎年6月に練馬医学会・公開講座が開かれていて、今年は私が発表する予定でした。新コロナウイルス騒ぎで中止になったので、ここでミニ発表会をやってみることにしました。
1 オーバユース(使いすぎ)により生じた踵骨裂離骨折のてんまつ
私自身の経験です。約5年前より右側のアキレス腱部痛があったのですが、おととしの10月末、ジョギング中に突然右踵に衝撃を感じて走れなくなり、タクシーに飛び乗り病院を受診しました。そのまま入院、翌日手術を受けました。以来4か月の間、ギブスや装具をつけ、松葉杖を使って暮らしました。はじめのうちは折れた側の足をまったく地面に着けなかったので大変でしたが、装具になってからは部分的に足をつけるようになってだいぶ楽になりました。
4か月ぶりにウォーキングができたときはほんとうにうれしかったです。ゆっくりとしたジョギング、歩きながらのちょっとだけランニングと練習していき、けがより約6か月後にフルマラソンを完走(半分歩き)、12か月後に競歩大会を完歩、16か月後に30キロマラソンを完走(ラン)できました。
2 踵骨裂離骨折とは
かかとの骨にはふくらはぎをつないでいるアキレス腱がついています。ふくらはぎの筋肉がアキレス腱をひっぱると足で地面をけることができます。だから走るときにだいじな部分なのですが、それだけに無理もかかりやすいのです。もともと調子が悪くてかばった走り方をしているうちにかかとの骨にひびが入り、ついには割れてしまったのでしょう。
左は今のレントゲン写真:アキレス腱と骨を留めるためにかかとの骨に金属のピンが埋められているのがわかります。空港の金属探知機にひっかかるかもしれませんね。
3 スポーツ障害の予防で必要なこと
(さらに…)
不快・不安と向き合う
医学部の学生の時です。ある日腹痛と下痢を発症し、通学の電車を何回も下車してトイレに駆け込みました。次の日からほぼトイレにすわりっぱなしとなり、脱水対策の塩をなめながら数日すごし、落ち着いてからよろよろと通学先の大学病院を受診しました。
内科の教授が診てくれました。自分の考えではアメーバ赤痢かもしれないと説明すると、「君は最近熱帯地方に行ったのかね?」と聞かれ、「まったくありません!」「じゃ、なんか生ものでも食べなかった?」「前の日に居酒屋でサケのルイベを食べました!」「たぶん食中毒だねえ。薬出しとくから飲んどいてね」ということで無事良くなりました。
典型的な「生兵法はけがのもと」でしたが、本人にしてみれば笑い事ではなく、ほんとうに死ぬんじゃないかと思いました。ずっと家の中に一人でいて、塩をなめながら家に置いてあった「家庭の医学」を読み込むうちに不安をふくらませてしまったのです。今回はからだの症状そのものより考え方を扱います。
1 不快・不安はあたりまえ
先を見通せないジャングルの中。かさかさと葉のこすれる音が聞こえ、茂みの奥では何かが動いたようだ。毒蛇や猛獣を気にしながらゆっくりと進むが、足もとで「ポキン!」と音がした瞬間、頭上で何かが叫んだ!
こんな状況ではだれでも不安を感じるはずです。ほんとうの危険が起きる前にあらかじめ危険の可能性を予測する。いざというときに対応できるように心も体も準備しておく。この危険対応モードが不安の正体です。
いっぽう不快は文字通りからだにいやな症状があることで、問題が起きていると知らせてくれるアラームサインです。痛いところをかばったり、体調不良で寝転がったりするのはアラームサインがあるからできることで、不快・不安ともにからだに必要な機能だといえるでしょう。
2 不安のメカニズム
不安のように目に見えないことを調べるのはとても難しいのですが、脳科学の進歩からいろいろとわかってきました。不安がとても強い人たちの場合、脳の狭い領域で考えがぐるぐるとうずまいていて、ほかの領域に刺激が広がっていかないことがわかりました。とくに偏桃体という不安や恐怖に関係する部位が活発に働いていて、「落ち着いて考える」領域に刺激が広がっていかないことがわかりました。
このことからわかるのは、いつも同じことを考えつづけるよりも、多彩な刺激を脳に与えることで脳のいろいろな部位を働かせることが脳の健康にとても大切だということです。不安(危険対応モード)はあくまで非常モードですから、ずっと続けていたら心も体も疲れてしまいます。原始時代に発達した危機対応用の脳の仕組みを、今の暮らしに合うようにうまくコントロールする必要があるのです。
3 不安と向き合う
不安が続くときに自分でできることは二つあります。一つは正直に不安と向き合うことです。何に対して不安を感じているか考えてみます。落ち着いて考えるには、口に出して言ってみる、紙に書き出してみるなど頭の中身を一回おもてに出してみるといいでしょう。だれかに話してみるのもいいですし、日記を書くだけでも不安が軽くなります。不安を感じる理由は一つではないことが多いので、できるだけ具体的に箇条書きにするとわかりやすいです。つぎに自分ができることを探します。案ずるは産むがやすしで、すぐにできることはやってみましょう。ちょっとしたことが意外な発見・安心をもたらしたりします。
二つ目は今の気持ちにばかり集中しない、させないことです。先に書いたように、気持ちがぐるぐるとせまいところを回り続けるのはいいことではありません。何かを楽しんだり面白がったり、味わったり感動したり、あるいはしんどいとかすっきりとか感じる心の領域が誰にもありますから、そこを刺激すれば脳のバランス=心のバランスが回復していきます。小さいことでいいので、今の生活からちょっとはなれた何かをやってみる・経験することです。
4 コロナウイルスと私たち
いまコロナウイルスの話が私たちの心に重くのしかかっています。大事な情報を入手して、できる予防策を行うのは大切なことです。現在までの報告で、屋外で人が密集しない環境では感染の危険がまずないと考えられていますから、かぜ気味や花粉症の方でなければ、外出して散歩することをお勧めします。不安ならマスクはつけたままでよいと思います。2,3週動かないと体力や内臓機能も落ちてきますし、日光を浴びることで体内合成できるビタミンDは免疫機能に大切な働きを持っています。自然のエレメント(風、陽ざし、花の色・香り、音、雲の動きなど)で五感を刺激し、心のバランスを取り戻しましょう。
ネット、SNSを見る時間は最小限にして、好きな本や映画を見たり、楽しいテレビ番組を見るのも手です。SNSでもインスタグラムやピンタレストは明るい内容が多くておすすめです。先が見えないと不安を感じるのは当然ですが、出口のないトンネルはありません。ここは気持ちをしっかり持って、みんなで乗り切りましょう。
ねりまインクワイアラー 157 なわとび
マラソン大会がぞくぞくと中止になり途方にくれました。そこで妻がやっているなわとびに、私もチャレンジしてみました。これがキツイ‼100回もつづけるとぜいぜい言います。キツイということは効く‼けがで弱ったふくらはぎもばんばん張ってきました。しばらくやってみることにしました!
役立つストレッチ
18歳のときスキーで膝をひねって以来、左下肢の重苦しい痛みが残っていました。35歳のときにストレッチを始めて半年たったころ、痛みが消えていることに気づきました。それからずっとストレッチの信奉者だったのですが、なんでもストレッチが効くか?というとそうではありません。今回のお話です。
1ストレッチのコツ
ストレッチはたしかに効きますが、効かせるにはコツがあります。①ゆっくりと②伸ばすところの力を抜いて③ちょっと痛いくらいで④少し長め(20秒くらい)でやりましょう。毎日やったとして、伸びてきたと実感するには2,3週はかかるでしょう。筋肉が原因で感じる痛みやしびれはもう少し長くかかるかもしれません。おすすめの回数は週2回くらいから毎日までいろいろですが、わたしは毎日を勧めます。そのほうが習慣になってやり忘れが減ると思います。経験上、1日1回で十分なのですが、2,3回するとより効果が感じられるかもしれません。
一例として、私もやっている真向法(まっこうほう)をQRコードで紹介します。
2ストレッチの種類
大きく二つに分かれています。一つは静的なストレッチで、静かにゆっくりと筋肉を伸ばす方法です。一般的なストレッチ法で、先に挙げた真向法もこれに入ります。
もう一つはダイナミック・ストレッチと言って、動かしながら行うストレッチ法です。細かく分けるとリズミカルに動かす方法(バリスティック・ストレッチ)やPNFなどいろいろあるのですが、動かしながらストレッチをするという点で共通するやり方です。 ストレッチといえば静的なストレッチだと誰もが思っていたのですが、ここ十年で話が変わってきました。
3アンチ・ストレッチ派の逆襲
永いこと、ストレッチは体にいいということに誰も疑問を持つことはありませんでした。ところが少し前から静的なストレッチをスポーツの前(試合の直前)に行うとパフォーマンスが損なわれるという主張が出てきました。調べると確かにその通りで、静的なストレッチを行った直後は瞬発力・筋力が下がることが明らかになったのです。
そこで「ストレッチは体に良くない」という意見が出てきましたが、これはちょっと極端だったようです。スポーツをする直前に静的なストレッチを行うのは良くありません。しかしリズミカルにからだを大きく動かすダイナミック・ストレッチをスポーツの前に行えば、ウォーミングアップになると同時にからだの柔軟性向上に役立つことがわかってきました。
では、ゆっくりとからだを伸ばす静的なストレッチは不要なのでしょうか?いえ、そんなことはありません。はじめに書いたように筋肉痛の改善につながるだけでなく、姿勢のくずれを治し、腰痛や肩こりを軽くします。手足が楽に動かせるようになりますから、スポーツの動きが上手になり、けがや故障も少なくなります。つまり日ごろはゆっくりとしたストレッチを行い、運動の前には大きく体を動かすダイナミック・ストレッチをするのがベストです。
4ストレッチの注意点
ストレッチに慣れてきたころ、足を大きく開いて前屈するストレッチ(真向法第3法)をしているときに腿の付け根にぶちっと衝撃が走り、肉離れを起こしてしまいました。ちょっと痛いくらいのほうが効くと書きましたが、なにごともやり過ぎは禁物です。筋肉の柔軟性は日々変化します。からだの反応を感じながら加減して行いましょう。
ストレッチを続けていたのですが、あるとき太ももうらの痛みがでてきて、座ったり走っているときに自覚するようになりました。ストレッチをさらに懸命にやっても、むしろ痛みが強くなった気がしました。考えた末、ストレッチを3か月ほど止めてみました。なんと!これで痛みが完全に消えてしまったのです。からだの仕組みは複雑です。良かれと思ってすることが必ず体のためになるとは限りません。アタマをやわらかく使うこともだいじです。
若々しさを感じさせる動き、はずむような身のこなしはどこから生まれるかというと、体中の筋肉が文字通りバネのようにはたらいて、力を瞬時にためて即座に放す!動きをしているからです。ゆっくりしたストレッチだけではこの機能を鍛えられません。けがや病気で体力が低下した人がリハビリをするとき、ストレッチや筋トレだけでは回復がいま一つなのはこれが理由です。私もリハビリ中ですが、やわらかく機能的な筋肉にするためにダイナミック・ストレッチをもっと取り入れねばと考えています。
ねりまインクワイアラー 156 ホーソン効果
1924年、アメリカのある工場で照明の明るさが作業効率に与える影響の調査が行われました。作業場を明るくすると効率が上がりましたが、ものの試しに前より暗くしてもやはり効率が上がったのです。
この一見なぞのような現象は、工場の名前をとってホーソン効果と呼ばれています。ヒトはどんな形にせよ、注目されるとがんばって結果を出します。ある病院で金属のバンドを手くびに巻いたら患者さんの転倒事故が減ったという報告を聞いて、これを思い出しました。日本の有名なテーマパークで、実際にこの効果を職員管理に活用しているそうです。