不動が体に与える影響
私が入院したようなリハビリ病院では①患者本人がリハビリを一生懸命やれるように環境・設備を整えている②医師、看護師、理学・作業・言語の3療法士(PT/OT/ST)、ソーシャルワーカー、介護福祉士+サポートスタッフ(栄養士、施設メンテナンス、清掃スタッフなど)全員が、どうやったら患者さんが気持ちよく過ごせて、リハビリ(からだの回復)に専念できる環境を作るか考えているのが特徴でした。「病気ではなく病人、それも入院前までふつうの暮らしをしていた人たちに寄り添い、励まし、手助けする」ことが徹底されているのを入院中に実感しました。
それでも入院生活の肉体・精神的負担は大きかったです。とくにベッド上でじっとしている時間が長いこと(入院直後の時期)が影響しています。現在入院されている方・今後入院の可能性のある方向けに不動の影響(急に動かなくなるだけで調子をくずす)と対策を挙げていきます。今は元気という人もよろしければご参考にしてください。
1 関節が固くなる
動かさないだけで関節まわりの筋肉・じん帯の弾力が失われます。縮まったところは伸ばすと痛いので、じっとしているだけでも節々が痛くなってきます。
対策・・・かべやベッド・椅子を利用してストレッチを行う。狭いところでも工夫次第でいろいろなことができるのを実感しました。
2 姿勢が悪くなる
1と似ていますが、股関節・くびから背中まわりの筋肉が縮まってくると本人の意図に関わらず姿勢が崩れてきます。私も気をつけていましたが、肩こりや首の痛みが出てきたので対策を立てました。
対策・・・ストレッチ+テニスボールマッサージ(クリニックホームページに詳細)が有効です。入院した後、家族にテニスボール(靴下上の袋にテニスボールを入れたもの)を持ってきてもらい、ベッド上で使いやっと一息つけました。リハビリ病院では療法士さんと外の散歩に行けたので、これも助かりました。
3 内臓の働きが落ちる
内臓も体を動かすことで刺激を受けてちゃんと働くようにできています。とくに消化器は影響を受けやすいようです。便秘薬を飲む前にまず体を動かしましょう。
4 むくむ(皮ふ・皮下組織)
皮ふ・皮下組織も動かさないだけでむくみ、固くなります。下肢の静脈瘤や肝臓・心疾患・内服薬の影響でむくみが出やすい人は特に要注意。全身のリンパの流れを良くするためにできるだけからだを動かす機会を作ることです。病院の環境でも、いろいろな工夫をすればむくみの予防はできると思います。
5 あたまが煮詰まる
ぼける・元気がなくなるなど言葉を探しましたが『煮詰まる』がいちばんぴったりくる感覚でした。入院というだけで心配・不安は尽きません。お見舞いの人、(そんな必要はないのに)入院仲間や病院スタッフのちょっとした言動や表情を気にしてしまう、ゆったりと構えようと思ってもなかなかできない自分が情けなくなります。
解決策・・・からだを動かすこと。リハビリ病院だったからか、検査や治療のない時間帯はわりあい規則が緩く、ちょっとした時間に病院ロビー・病棟内の廊下・リハ室(空いている時間帯のみ)を歩いていても見とがめられませんでした。もちろん走り回ったり、キャッチボールしたりは✖ですが、からだを動かすとあたまの中身も動くことを実感しました。
6 知的活動
今の時代、パソコンやスマホを持ち込めばかなりのことができるはずです。デスクワークで過労気味の人は休んだほうがいいかもしれません。ご家族や信頼できる主治医のアドバイスに耳を傾けましょう。私の場合は脳梗塞後の刺激療法の一環としてパソコンを使えたことはむしろ役立った気がします。故障の中身と治療方針で変わるところです。
※入院の理由・からだの状態によって以上のアドバイスがあてはまらない場合もあり、病院で一度確認してください。。
ねりまインクワイアラー 222 寝ていれば楽?
ぐっすり寝たら疲れがとれたという経験は皆さんもあるでしょう。ところが寝ていても疲れが抜けず、かえってあちこちが痛くなった(つらくなった、こってきた)という場合もあるのです。人間のからだは真四角の箱ではなく、おしり・おなかなどがでっぱり肩や股関節が大きく動きます。頭・くび・せなか・手足も独特の形をしていて、筆箱の中の鉛筆のようにじっとしていることはできません。
だから寝返りをして固まった関節や筋肉を動かし、血行を良くし、栄養を受け取り、老廃物を排出する必要があります。大人になって寝相が良くなるのは、疲れをためやすい習慣を無意識に行っているのと同じです。
寝ても疲れが抜けないときは「寝返りをしていないから、からだがこった」可能性を考えてください。眠る前にベッドの上で準備体操をして体をほぐしておくのもいい考えです。
脳出血で入院しました
7月末から脳出血で入院しました。突然の休院でみなさんにはたいへんご迷惑をおかけしました。幸いなことに現在でも歩けるし話せますから、ぼちぼちと外来を再開いたします。
1 発症後の経過
8月号の最後に書いたように、自転車で遠くまで出かけたときに発症したようです。直後は何が起きたのか記憶があいまいで、少しづつ後から思い出せるようになりました。家族や医師仲間のご尽力でリハ病院に入院できて、おもに高次機能障害のリハビリを2か月ほど続けました。
具体的には短期記憶に問題があったものの、ずいぶん良くなりました。まだ言いたい言葉が出にくいことがありますが、大筋では発症前に近づいてきました。みなさんの相談事にできるだけ対処できるよう、がんばっていくつもりです。
2 反省点
自己管理が甘かった・・・血圧が油断すると高くなりがちで、塩分摂取量の管理が甘かったかもしれません。チーズを摂りすぎたのかも。
別次元の高温対策が必要・・・外部環境の変化を軽く考えすぎ。4・5年前と比べて今どきの夏は別次元の暑さ対策が必要と思います。夏の真昼は運動を避けるべきでした。氷冷・水分摂取を徹底すること。夏場は激しい運動を避けなければなりません。
年齢も考える・・・自分の体力・能力を冷静に判断する。からだを使い続けることは大切ですが、使い続けるにはどうすればいいか毎年新しく考え直す必要があります。
患者さん、家族や職場の人たちに迷惑をかけた・・・自分一人のからだではないということを痛感しています。健康管理は個人の責任を越えています。
3 高次機能障害とは
パッと目にはわからないが、話を続けていると微妙につじつまが合わなかったり、身近な家族が本人と話していてわかるようなこと(例:家族の生年月日があやふや)など、微妙だが前とはちがう何かが残っている状態。長期的に改善する可能性もありますが、何らかの影響が残ることもあります。
一般的な脳機能障害(まひ・失語症など)よりずっと微妙な障害ですが、脳の働きに問題が生じているのは同じです。脳はスーパーコンピューターなので回路の一部が壊れてもある程度は自動的に修理できる機能がついています(脳の可塑性といいます)。しかし脳を使い続けることが神経修復を促しますから、あきらめずに使い続けることがとても重要です。脳梗塞・脳出血のリハビリで一番大事なことです。
4 みなさんのお役に立つアドバイスは
ふだんの健康管理がたいせつ・・・脳血管障害(脳梗塞・脳出血)では、血圧の管理が大切です。血圧が高くてもそれだけでは何も起きないように思えますが、長期的には動脈硬化が進行して発症します。私のように親や兄弟がすでに脳血管障害になっているケースではリスクが高いと言えるでしょう。『何も起きないうちに血圧を管理しておく』ことがなによりもたいせつです。
食生活の見直しを・・・日本式の食事だとどうしても塩分摂取が多くなりがちです。コレステロールや血糖値にも気を配りましょう。
忙しさをいいわけにしない・・・今回の私の一番の反省点です。仕事が終わって帰宅し、食事を食べてぐたーとする毎日を送っていました。入院先リハスタッフに勧められて、毎日のリハビリ内容(理学・作業・言語の3種類)、三食の内容・味付け・感想、その時点で改善したところと残っている点、お通じや飲んだ薬、家に戻ってから予想されるできごと・対処法など、どんなことでも大学ノートに毎日書き続けました。ふだんあたりまえだと思っていることもあたりまえでなく、誰かの支え・気づかいがあったからやれていたことがあらためて理解できたのは大きかったです。この経験を未来に活かせ!・・・まだ医師になりたてのころに聞いた話(ジンクス)です。「だいたいの医師は年齢を重ねると、自分の専門領域の病気・ケガになる人が多い」そうです。これまで骨・関節・筋のケガはいっぱいやりましたが、今回はもう一つの専門・リハビリにどっぷり浸かってしまってジンクス通りになりました。なりたくはないが、なってしまったからにはリハビリをたっぷり味わおう!と思いました。自分が患者になったからわかることがいっぱいありました。この経験を、これからの毎日の仕事に活かしていくつもりです。
ねりまインクワイアラー 221 ウロリフトって?
前立腺肥大で頻尿や排尿困難があり、困っている方に朗報です。今まで薬物療法のあとは前立腺切除が次に考える治療法でしたが、そこに新しい方法「ウロリフト」が入りました。
おなかを切らず、尿道からの麻酔で尿道鏡を使って治療します。前立腺を切除せず、特殊な糸を使って前立腺内の尿道を広げるだけなので、手術後から自力排尿が可能で副作用が少ないです。2022年に健康保険適応となりました。興味のある方は泌尿器科の先生にぜひ相談してみてください。入院は1日くらいです。
からだの変形について
めだつ症状がなくてもからだの変形は気になるものです。ほかの人は気にしていなくても、相談内容がプライベートなことだとだれに相談したらいいのか判断に迷います。今回のテーマです。
1 見た目だけで判断してはいけない
望聞問切(ぼうぶんもんせつ)とは、望(見る)聞(聞く)問(問いかける)切(触ってみる)という意味で、むかしのお医者さんの診察のやり方をまとめたものです。顔色や舌のむくみを見たり、訴えを聞いたり、いろいろ質問したり、おなかや手足を触ったりで診たてをする時代が長く続きましたが、現代の医学は検査や診断装置で見えない部分の異常をみつけることができるようになりました。でも見た目だけで判断することからはなれてきた今の医学の中にも、まだまだ見た目に引きずられる部分が残っています。とくに目に触れやすい手足やせなかの相談ではその傾向が目立ちます。
2 外反母趾が悪いのか?
「外反母趾が痛いので何とかしてください!」という相談が多いのですが、足のおや指(やその周り)がなぜ痛くなるかと言えば骨・筋など何かにダメージがあるから痛むわけで、それをみつけて治せば痛みは無くなります。実際の診療で外反母趾の痛みの原因は千差万別です。強調したいのは痛みの原因をみつけるのがたいせつで、見た目上のの「外反母趾」を直すのではないことです。
外反母趾自体は長い時間をかけてしだいに形が変わったものです。はじまりは5歳くらいからと言われていて、靴の中で長いこと圧迫されることで生じていきます。例外的に極度の変形があるときには手術をして直すことがありますが、ほとんどの人では痛みが訴えなので、地味な治療(薬・履物のくふう・マッサージなど)で良くなります。
足に限らずからだの変形はその人の長い人生の軌跡を反映したものです。良くも悪くも木の年輪のようなものですから、元気に暮らせるように今からできるやりくりの方法をみつけることがだいじです。
3 ひざの痛みは変形からくるのか?
変形をどう扱うか?お医者さんでも微妙に考え方がちがいます。典型は変形性関節症によるひざの痛みです。私の場合は、多くの症例でビタミンD内服を行っていますが、これは変形関節症の痛みの原因が骨(軟骨下骨)にあると判断しているからです。でもお医者さんによってヒアルロン酸注射(関節の摩耗を避けるため)や痛み止めを処方したり、手術(半月板の損傷を修復するetc.)をすることもあります。X脚やO脚を直す矯正手術を行う病院もあります。
コロナで緊急事態宣言が出たあたりから骨性のひざの痛みが増えました。試みにビタミンDを内服してもらうとみんな症状が良くなりました。以前は筋肉性の痛みの人が多く、痛みの原因が急速に変化しておどろきました。現在は骨痛・筋痛ともに診ていますが、レントゲンだけにたよらず(変形にまどわされず)触診に基づいた治療を心がけているのは同じです。
4 脊椎の変形
「背骨が曲がっている」と人に言われた、自分で気がついた、検診で指摘されたという相談は多いです。変形を治したいと来院する方もいます。変形はあっても様子を見るだけでいい例が多く、痛みの原因が筋肉にある(疲労の蓄積や運動不足による)ことが大半です。椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症では痛みが強いとき一時的に背骨が曲がることがありますが、症状が落ち着くと変形も消えていきます。
思春期にみられる特発性側弯症では、変形は進まないか進んでも目立たないぐらいで落ち着く場合が多いです。肩こりや腰痛がでるときも疲労や使い過ぎでおきているだけなので安心してください。ただし骨密度が低いと変形が進む恐れがあるのでタンパク質やカルシウムの豊富な食事をとり、日光浴でビタミンDを作ってくださいね。年配の方の側弯症でも同様なので、骨粗しょう症対策をしっかりと心がけてください。
5 見た目からはなれて考えてみる
見た目を考えて治療しなければいけない病気や故障もあることは承知しています。ただ日々のこまごました相談を受ける立場から見ると、見た目にとらわれて相談内容がきちんと整理できていない人が珍しくないと感じています。
l ほんとうに困っているのは何なのか・・・仕事や家事に支障がある?痛くて眠れない?それとも見た目が気になる?自分の相談事は何なのか整理してみよう
l 個人差は異常ではない・・・骨格や形には個性がありますが、それは異常ではありません
l かたちと機能は別・・・きちんと仕事・生活ができていているならどんな形でもそれは正常です
ねりまインクワイアラー 220 ロードレース
東京で自転車のロードレースが行われると聞いて見物に出かけました。朝早く出発、1時間待ったのに通過するのは一瞬!でも本格的なレースの雰囲気は格別だったです。
脳疲労をやりくりする
疲労の本質は脳の疲労であることがわかってきました。だからどんなことにもくじけない強靭さ・粘り強さ(タフネス)を養うには脳を鍛えることが必要です。今回のテーマです。
1 疲れ るのは 脳のせい
ちょっと動いただけで疲れてしまう。気力が続かなくなった。だからつい引っ込み思案になってしまう。こういった相談をよく受けます。貧血、糖尿病や慢性の内臓疾患があれば疲れやすくなりますが、多くの場合は原因がはっきりしないケースです。疲労の原因は長らく筋肉など肉体側にあると考えられてきましたが、最近の研究で疲労の本質は脳の機能であることがわかっています。体の微小なダメージが蓄積していくと、神経を介して脳に情報が伝わります。そして脳がこれ以上のからだのダメージを避けるためにからだにブレーキをかけようとします。これが私たちの感じる疲労の正体です。このブレーキは本来必要なものですが、脳自体が弱ってくるとすぐにブレーキを踏むようになりがちです。からだは適度な刺激を受けることで元気になっていくものですが、十分な刺激を受けるより前にブレーキを踏んでしまうと元気になる機会を失ってしまうのです。
2 脳にも栄養 (脂肪) が 存在する
脳は血液で運ばれてくるブドウ糖を使って仕事をしています。ところが長時間の運動(マラソンなど)をするときには、脳内の脂肪(ミエリンという組織内にある)を分解して神経の栄養源にしていることがわかってきました。体の脂肪が長時間の運動に備えて蓄えられているのと同じく、脳の脂肪も脳を長時間使用できるように備えられているのです。
エネルギー源としてブドウ糖から脂肪への切り替えが起きるのは細く長く使用したときですので、筋肉なら短距離走や重量挙げよりサッカーやマラソン、脳ならばストレス少なめでのんびりと続けられる作業が脂肪燃焼に向いており、脳が疲れにくいと言えるでしょう。そして脳が疲れにくくなれば、結果的に体の持久力も高まっていきます。
3 からだ で脳を鍛える
脳のトレーニングでだいじなのは、受け身のトレーニング(テレビを見る、ネットを見るなど)ではなく自発的なトレーニング(自分から働きかけてなにかをするもの)を多く取り入れることでしょう。そのほうがたくさんの脳内ネットワークを使用しますから効果が大きくなります。
からだを動かす作業はどんなことでも脳の大半を利用するので脳トレとして効率的です。たとえば冷蔵庫の中身を調べながら夕方の献立を組み立て、スーパーに行き食材を選定購入し、段取りを考えて調理し味付けを調整、配膳や片付けをスマートに行えば広範に脳の機能を使っています。日常生活全般(たとえば庭の手入れ・風呂そうじ)や趣味も同じで、自分なりの工夫や計画(いつ・どのように)を立てて行動すれば立派な脳トレです。もちろん運動全般でも同様、考えながらやることで立派な脳トレとなるでしょう。
4 心で脳を鍛える
● びくびく・ドキドキからはなれる
長いこと診療して思うのは、症状以上に不安が患者さんを苦しめているケースが多いことです。「これからどうなるのだろう?」「仕事や学校に影響が出るのでは?」「じつは悪い病気(がんそのほか)が隠れているのでは?」と考える人もいるでしょう。でも考えすぎは良くありません。それ自体がストレスになります。悪い病気でなければのんびりかまえましょう。後から見ればたいていのことはなんとかなっています。
● 一意専心
たくさんの用事を抱えているときでも、結局は一つずつ片付ければいいだけです。マルチタスク(同時にいくつかのことをやる)はかっこよく見えますが、脳には負担です。複雑なことも小さく分解して少しずつやれば意外とスムーズにできるものです。
● 休むときは休もう
これは忘れがちです。ほんとうに疲れたらちゃんと休みましょう。
● 長嶋さんを見習おう
脳梗塞になった長嶋さんは周りがびっくりするくらいリハビリに励み、同病の人たちを励ましたそうです。リハビリをやり続けたことはウソをつきません。心の持久力を上げれば体の持久力も上がります。ふだんの暮らしでも長嶋さんを見習いたいですね。
ねりまインクワイアラー 21 9 フラット登山
飛騨高山で、昔の巡礼道や田舎道をとことこ歩きました。高いところはお寺(千光寺)くらい、これってハイキング?ウォーキング?登ることを目的としない山歩きをフラット登山と呼ぶそうです。
ふだん考えていること お話しします
仕事が忙しいときものんびりしたときもありますが、ぽっかり時間が空くといろいろ考えます。今回のお話です。
1 きちんとケアをしたらどれくらい体がもつのか?
患者さんたちにはセルフケアが大事だと伝えています。五年十年で考えればきちんとケアをしているか否かで体の状態はまったくちがってきますが、三十年四十年で見るとどうでしょうか?ハーバード大学の卒業生を対象にした調査では長生きの度合いや体の調子ではっきりしたちがいがあることがわかりました。でも私が気になるのは、「ストレッチを続けていれば体はいつまでもやわらかいのか?」とか「ランニングを続けていれば90歳になっても走り続けられるのか?」といったことなのです。バレエのように柔軟性が必要なアーチスト・アスリートの方たちを見ていると、日ごろからストレッチをやる効果がはっきりとあるのだなと感じます。手入れを続けることで手足の関節はかなり柔らかさが保てますが、せぼね(脊椎)は年と共に硬くなる方が多いようです。それでも日常の生活動作には肩・ひざ・股関節の影響が大きいので、やはりストレッチは有効です。
ランニングの場合、海外では101歳でフルマラソンを完走した人がいます。マラソン大会に参加すると70歳以上の参加者が増えているのを実感します。たしかに記録は落ちてきますが、走ることを楽しむ気持ちがあれば意外と長く続けられるのではという気がしています。さすがに90代は?と思いますが。日に当たるのでビタミンD補給もばっちりです。
2 「お客様」より参加者になろう
患者さんに今後の見通しを伝えたとき、反応が大きく二つに分かれます。一つ目は「これから良くなるために何をしたらいいのですか?」、二つ目は「いつごろ治りますか?」と聞いてくる場合です。筋肉や関節の故障の回復期は、患者さん自身がからだを動かし硬いところをほぐし弱いところを強くしなければなりません。病院にたよりきりではだめです。だから二つ目の質問を聞くとだいじょうぶ?と思ってしまいます。
私事ですが5年前に足のけがをして以来あきらめずに動きストレッチを続けていると、毎日(あれ少しやわらかくなったな!)(ちょっと前より楽に動ける!)と感じます。まさに「けがは一瞬・リハビリは一生」ですね。長くかかっても良くなることがいっぱいありますから、あきらめずに続けることが大切です。自分のからだの責任者はあくまでも自分!積極的に体を動かし、整えましょう。
3 転び始めたら要注意
ちょっと前までとても元気だった人が「転んでしまった!」と受診することが多くなりました。ハイキングやトレランをしているとき転びそうで転ばないことはしょっちゅうですが、疲れて何でもないところで転ぶことが数回ありました。つま先が上がらないのに気がつかず小さな根っこや段差に足先がひっかかってしまうのです。転びやすい人は、つま先を地面でこするように歩くくせを直しましょう。つま先を上げようとせず、ひざを上げてください。腿のつけ根にある腸腰筋という大きい筋肉を動かすことを意識します。すると転びにくくなるし、足がひっかかっても次足がさっと出てリカバリーができるはずです。
まだ元気なうちに「手を前に出す」練習をしておきましょう。壁に向かって立ち、手を下ろしたままからだを前に傾けていきます。倒れそうになったらさっと手を挙げて壁につき体を支えます。慣れてきたら壁との距離を広げてやってみてください。これは反射神経の訓練です。転ぶ瞬間に手が出ずに上半身のけがをする方が多いので、ふだんからすぐに手が出るように訓練しましょう。
4 どんな場合も「治る力」がだいじ
医者になってからいろいろと経験して、こういう風に仕事をしたいと考えてきたのは①患者さんの治る力を利用する②無駄な検査はしない③薬・注射は必要最小限④しないですむ手術はしないの4点です。自分が患者さんだったらこうしてほしいと思うことなので、あたりまえのことばかりかもしれませんね。
それでも長く続けていると仕事のしかたに個性が出ているようです。患者さんによってですが、(もっと検査をしてほしい)(もっと薬を出してほしい)(注射をしてほしい)(手術をしてさっさと直してほしい)と言われることがあります。しかし①~④を守るためにそれなりにくふうがあり、努力もしています。とくに①はほんとうに大切だと思っています。だから食事やエクササイズのアドバイスをしたり、マッサージやストレッチを取り入れたり、日光浴を勧めたり、歩き方や身のこなしのアドバイスをしたり・・・地味だからがっかりする人がいるかもしれません。でも意外なくらい効果を発揮することも多いのです。私が理想とする町医者の仕事はこんな感じです。これからもこの方針は変えずに続けて、みなさんの信頼にこたえられるように(でもがんばりすぎず)やっていきたいです。
ねりまインクワイアラー 218 長崎歩き旅
先日長崎―雲仙小浜の歩き旅(マラニック)に参加しました。山を越え、海岸線を歩き、広大なジャガイモ畑を進み、むかしの線路跡を抜け、最後は温泉街にゴール!8時間ちょっとかかりましたが、一歩一歩が思い出に残った気がします。みなさんも歩き旅、挑戦してみませんか?
みんな水分が足りてません!
2年続きでたいへん暑い夏が続いたので、今年がどうなるか心配です。例年暑い時期にも運動を心がけていましたが、昨年は体調をくずしてしまいました。今考えると慢性の脱水になっていたのだと思っています。今年の夏を乗り切るためにたいせつな「水」のお話です。
1 からだの大部分は水でできている
人のからだは約37兆の細胞でできています。地球全体の人口が80億人と言われていますから、どれだけ多いのか見当もつかない数と言えるでしょう。でもその一つ一つの細胞が体液にかこまれていて、そこから栄養や酸素をもらったり、老廃物を洗い流してもらっているのです。赤血球・白血球のように体液の中を漂っているか、あるいは内臓や筋肉のようなかたまりへ体液がしみ込んでいくかのちがいはあるものの、海水とほぼ同じ濃度の体液の中で暮らしているのがあらゆる細胞の共通点です。だから、脱水になるとすべての細胞が影響を受けます。
一般的に体重の60~70%は水でできていますから、体重60キロの人なら40キロ弱、すなわち40リットルが水でできています。水分2リットル(体重の3%)以上の脱水が起きるといろいろな症状が出てくると考えられています。
2 不感蒸泄と発汗
不感蒸泄とは「自分では全く汗をかいていないと感じていても、気づかないうちにからだから失われている水分」のことです。体重60キロの人で一日900ml の不感蒸泄があると言われています。気温が上がると不感蒸泄も増えていき、運動の最中は6倍まで増えたという報告があります。
そして発汗です。汗ばむような運動をしているとき、だいたい1時間当たり1~1.5リットルの汗が出ると言われています。汗っかきの人だともう少し多いかもしれませんが、運動中は30分で500mlのペットボトル1本は飲むべきと思ってください。
以前山の中を71キロ、24時間以内にゴールするレースに参加したことがあります。6リットルの水を担いでスタート、途中で1.5リットルの補給をして完走できましたが、計7.5リットル飲んでもまだ脱水気味だったです。外来で話を聞いていると(水分が足りないのでは?)と思うことがしばしばです。暑い季節になったら、不感蒸泄900ml+おしっこの量300ml=1200ml/日の水分補給では絶対足りないです。迷ったら水分は多めに取りましょう。
3 脱水の症状
砂漠地帯で十数日間さまよい、後に生きて発見された人の話を読んだことがあります。皮膚にしわがより唇が縮み歯がむき出しで、まるでミイラのように見えたそうです。声帯が縮んで悲鳴のような音しか出せなかったとか。ここまで極端なケースでなくとも、ふだんから水分の摂り方が少ない人が暑さなどで発汗(エアコンですぐ乾くので気がつかないことも多い)が増えるとき、本人や周りも気がつかないうちに脱水が進んでいるかもしれません。
脱水の初期は、筋けいれん・頭痛・口の渇き・微熱・皮膚の乾燥などがおきます。中等度ではいらいらした(興奮)状態になり、進めば意識障害⇒死亡することもあります。先日ハーフマラソンの救急室に勤務したとき、脱水になった人のほとんどは足の筋けいれんくらいでしたが、一人意識障害を起こした方は救急車に乗りました。
4 脱水になりやすい人と対策
ü 高齢者・・・体液の大部分は筋肉内にあるので、筋肉量の少ない高齢者は脱水になりやすいです。①もともと渇きを感じにくくて飲水量が少ない②薬(利尿剤など)や加齢の影響で尿量が多い③発熱や下痢がある④糖尿病やホルモンの病気(アジソン病・尿崩症など)があるとさらになりやすいです。
慢性的な脱水になると反対にのどの渇きが減り、ふらつきや失神が起きやすくなります。脱水になると血中の薬物濃度が高くなり、ふだんは見られない副作用(睡眠剤が効きすぎる・血圧が下がりすぎるなど)が出てきます。失禁や夜間のトイレを心配して水分をとりたがらない方もいますが、やはりきちんと摂りましょう。
ü 子ども・・・大人より水分量が多く赤ちゃんは70%を超えます。熱発や下痢があるとき、とくに暑い夏は心配です。大人に比べからだが地面に近いので、照り返しの影響を強くうけます。吐き気などで水分が摂りにくいとき、経口補水液(OS-1など)やスポーツ飲料を少しづつ飲ませてください。
ü アスリート・・・電解質も失われるのでスポーツ飲料(経口補水液)は良いです。持ち運びが大変な人は粉のタイプもあります。塩飴や塩梅もいいですね。レースの時など給水を意識するあまり水中毒(これはこわい!)になることがありますから、おなかがちゃぽちゃぽ鳴る(飲んだ水が吸収できていないサイン)ようなら給水のペースを落としましょう。
ねりまインクワイアラー 217 万博どうする?
娘から大阪万博のチケットをもらいました(会社で買わされたらしい)。人混みが苦手だし、暑そうなのがイヤだなー。でも建築は面白そうなのがいっぱいありそうです。たこ焼き・お好み焼きは食べたいけれど。行くかどうか迷っています。電子チケットの発行は評判通りめんどうくさかったです
ビタミンDを作ろう・摂ろう!
微量ですが生きていくのに欠かせない有機化合物のことをビタミンと呼んでいます。そのなか唯一自分の体で合成できるのがビタミンDです。また、気をつけないと不足してしまうのもビタミンDの特徴です。毎年恒例となったビタミンDキャンペーン第4弾です!
1 なぜ不足するのか
いろいろなビタミンがありますが、共通しているのは「毎日の暮らしの中で絶えず使う必要がある」物質だということ。たとえるなら台所のみそ・塩・しょうゆみたいなものです。だから気をつけていないとなくなり困るはずですが、特に意識せずともバランスの取れた食事をしていればかなりのビタミン類が補えています。ところがビタミンDだけは現代の生活(とくに都会に暮らす人)で不足しがちなのです。
なぜなら、私たちのからだは自分でビタミンDを合成できるように組み立てられているからです。生活習慣の変化でほぼ日に当たらずに生活している人が増えたため、ビタミンD不足の人が増えたのだと考えられています。
2 どんな人がビタミンD不足になるのか
太陽光線(紫外線B)があたると皮ふの中でビタミンDが合成されます。そして腎臓で活性化され骨や体中の組織にいきわたっていろいろな仕事をします。国立環境研究所の報告では、夏の東京、お昼ごろなら顔と両手(の面積)に10分日が当たれば一日当たりのビタミンD必要量をまかなえるとされています。
ではみなさんが本当に日光をしっかり浴びているか?よく考えてみましょう。上の報告は直射日光がしっかりと肌にあたった場合の話です。ビルの陰や木陰に入れば著しく効果が薄れます。窓越しの日光では肝心の紫外線がブロックされるのでほとんど効果がありません。衣類や化粧品(サンブロック機能があるもの)の影響も大きいです。スイミングやバレーボールなどのインドアスポーツではほとんど日に当たりません。朝や夕方の日光は紫外線が少ないのであまり効果がありません・・・というように「きちんと日光を浴びている」人は意外と少ないのです。
週に一回1時間のウォーキングをしたとします。両手顔出しでまったく日陰のないところを歩いたとしても、1週間分にはまだちょっと足りません。また寒い季節は太陽光線も弱くなり、厚着の影響もうけますから春夏秋に冬の分のビタミンDをからだに貯めなければなりません。スポーツや肉体労働をしっかりやると骨や筋肉の補修工事にビタミンDをたくさん使うので、意外とビタミンD不足の症状が出やすいようです。最近、東京都の住民を対象に調べたところ98%の人がビタミンD不足だったそうですから、ほぼだれもがビタミンD不足だと言えるのかもしれません。
3 症状は?
コロナ大流行のあたりからビタミンD不足の方が激増しました。多いのはひざなど下半身の痛みですが、手指の痛み・こわばり、肘の痛み、足うらの痛みなどもずいぶん増えました。腰痛やおしりの痛みにもビタミンDが効く人がいます。また五十肩が治らないという相談の時に、ビタミンDが効果的な人がいることにも気がつきました。
サッカー・野球・ラグビーなど屋外スポーツをしっかりやっている人を診たとき、はじめのうち(しっかり日焼けしている人だからビタミンDはいらないだろう!)と思い薬を使わずに様子を見ていました。ところがすっきりしないので試しにビタミンDを処方すると効果的なケースがあることも発見しました。日焼けをすると皮膚内のメラニン色素が紫外線をブロックしますから、過度の日焼けはビタミンD合成にマイナスと考えてよさそうです。
4 ビタミンD補給が必要な人
l 高齢者・・・皮ふ自体のビタミンD合成機能が低下します。屋外に出る時間が少ない方が多いようですから、ビタミンD内服がおすすめです。ビタミンDは骨粗しょう症治療の基本になっています。また食が細い人はビタミンD不足になりやすいので気をつけましょう。
l 閉経期以降の女性・・・骨造成機能のある薬がおすすめですが、ビタミンDはその一つです。痛みなど症状がある人を診たとき、わたしはまずこれを処方しています。
l 屋内作業中心の方・・・在宅ワークの方は要注意です。外に出て日を浴びましょう。ビタミンDの薬やサプリも有効です。
l 運動量の多い方・・・以前東海道を(小分けして)走ったとき、途中から右ひざが痛くなりました。ビタミンDサプリを飲みながらゆるゆる歩いたり走ったりで京都まで行きましたが、今はまったく問題なく走れるようになっています。軽い痛みの原因がビタミンD不足である可能性も考えてみましょう。
l 日光浴ができない・したくない方・・・いろいろな事情や体の問題で日光浴ができない方がいることは承知しています。サケ・サンマ・キノコ類などを食べることでビタミンDを摂れますが、食事だけで十分に補給するのは難しいと思います。ビタミンDサプリは比較的安価で、普通のドラッグストアで買えますからおすすめです。私もサプリを飲んでいます。また日本なら、10分程度の日光浴ではほとんど日焼けしない方も多いですよ。
ねりまインクワイアラー 216 はだしで歩く
暖かくなったので自作のゴムサンダルで歩き始めるつもりです。はだしとほぼ同じ、足うらの感覚が新鮮です。
トリガーポイントとお付き合い
トリガーポイントは筋肉の中にできる押すと痛むしこりのことです。いわゆる「こり」と同じですが、より症状が強いのがトリガーポイントと考えてください。腰痛や肩こりの大半はトリガーポイントが原因です。身近なのに案外知られていないトリガーポイントとの付き合い方をお話しします。
1 なぜトリガーポイントができるの?
研修医になりたての頃、いちばん苦手だったのが朝夕の点滴でした。仲間同士で手分けして病棟の患者さんたちに点滴を行うのですが、血管が硬い人や太っている患者さんだとけっこう難しいです。中には20~30分かけてやっと入ったとか、見かねた看護婦さんが代わりに入れてくれたとか、患者さんには迷惑な話でした。
そして教授回診。テレビでよく見るアレですね。直立不動で1時間のプレゼンテーション、さらに1時間くらいぞろぞろと病棟を歩き、質問に答えます。手術室では助手をやり、重たい手足を持ち上げたり筋肉をよける鉗子(かんし)をつかんで長時間立ち続けます。病棟に戻ると患者さんの移動介助(ベッド⇔車いすなど持ち上げ・下ろすの繰り返し)、病棟処置(ガーゼ交換など)など前かがみの作業が続きます。夕方にまた点滴、そのまま夜に突入、救急病院の夜間当直に出かけたり当直に入ったりでまともに眠れない日々が続きました。
若かったので何とかやれたのですが、腰痛や肩こりはしょっちゅうで、全然疲れが抜けなかったのを覚えています。無理な姿勢での長時間の労働、ストレス、休憩・睡眠時間の不足。これらは典型的なトリガーポイントの発症要因なのです。
2 トリガーポイントがおこす症状
痛みが弱いときはコリ、重圧感、しびれ感、チクチク感などと表現されますが、ズキンと響いて動けなくなるほど強くなる場合もあります(例:ぎっくり腰)。筋肉痛なので基本はからだを動かすと感じる痛みです。しかし、圧迫されても痛みが生じますから、坐っているときのおしり、あおむけで寝ているときの背中、横向きのときのおしりやひざなどにも痛みが出ます。
姿勢に関わる筋肉の場合、姿勢によって自動的に力が入りますから「じっと座っている」「じっと立っている」ときにも痛みを感じます。腰痛の多くはこれにあてはまると思います。
また吐き気や下痢などの消化器症状、不整脈やめまいなど意外な症状が現れることがあります。痛みを感じる神経と自律神経系が奥深いところで連絡しあっているのが理由だと考えられています。
3 これまでの経験から
l ひざの痛み・・・コロナ以前は筋性(主にトリガーポイント)の痛みが一般的でしたが、今は骨性の痛みがとても多いです。最近またぼちぼちと筋性の痛みを診るようになってきました。外出量の減少・運動不足が大きく影響しているのでしょう。
l 腰痛・・・スポーツやきつい仕事がきっかけの腰痛が減り、坐り続けが原因の腰痛が増えています。パソコンの仕事が増えたこと、とくに在宅ワークの広がりでおきた極端な運動不足が根っこにあるのだと考えています。筋性の痛みが多いです。
l 頚肩腕部痛・・・筋性の痛みが増えています。パソコン仕事の増加が根底にあるのでしょう。前腕のように小さな筋肉が密集している部位の故障ではズキッと感じる鋭い痛みが手まで広がることが多いです。少ないですが、くびの故障や手根管症候群も見られます。意外に多いのがくびの偽痛風。頚椎の関節の炎症で、症状はくび肩に広がる痛みです。
l 頭痛・・・私が診る頭痛は筋性が多いです。原因はくび・あご関連の筋肉が多いですね。片頭痛は血管性の痛みと考えられていますが、トリガーポイントが誘発することもあるようです。だから一度はトリガーポイントのチェックが必要かもしれません。
4 トリガーポイントと上手に付き合おう
わかっていても体調を崩したり、睡眠不足になったりストレスをためこむのが人間です。だからトリガーポイントを絶対作らないのは無理だと思います。トリガーポイントができたらどうすればいいのでしょうか?
おすすめはテニスボールを使ったマッサージです。コリや痛みを感じたらひどくならないうちにやってみてください。テニスボールをふたつ靴下の中に入れて両端をしばります(右図)。
自覚する痛みの場所やその周囲にテニスボールを押し当てて、痛むところをみつけてください。何か所も見つかることが多いです。そこをテニスボールでマッサージします。力を入れにくい、手が届きにくい部位の場合は、床(ふとんやクッション含む)とからだの間、壁とからだの間にテニスボールをはさみこんでごろごろと転がすように動かしてください。自分で場所がいまいちわからない場合はご相談に来てください(細かいやり方はクリニックホームページにも載せてあります)。
ねりまインクワイアラー 214 自転車のやめ時は?
自転車には免許がない分、年をとったときのやめ時が難しいです。①一本の線上を10m進める②乗ったまま8の字を描ける③急ブレーキをかけて止まれる。この三つが乗り続ける最低条件かな?と思っています。
運動を「いちから」始めるには
子どものころからひょろっと背は高かったものの、運動がちょっと苦手な子供でした。中年になって運動をはじめ、今は運動をしないと調子が良くないと感じるようになりました。運動を始めようとする方たちへのアドバイスです。
1 いくつになってもおそくはない
いままでまったく運動らしいことをしたことがない人でも、年齢が高くなった人でも、おそすぎることはありません。またほとんどの病気(一部の深刻な病気を除く)があっても運動はできます。
運動をすると、食欲が進み、お通じが良くなり、睡眠が深くなるなどからだにいいことがいっぱいあります。外で運動すれば、太陽の光を浴びたり、新鮮な空気に触れたり、景色の移ろいや草花の変化を楽しむことができ、体だけでなく気持ちもリフレッシュすることができます。歩く・走るなどリズミカルに体を動かすことは脳にいい影響を与えることがわかっています。悩みごとや気分の浮き沈みがあっても、動いているだけで気持ちがアップしていくことはまれではありません。
そして、何よりからだを動かすことは楽しいです。子どものときの跳ねまわっているだけでうきうきした気分になる、あのころの感じをもう一度味わってみませんか。
2 いやなことはやらない
運動嫌いの人の中には、学校に通っているころに運動で嫌な思いをしたことのある人もいると思います。私もなかなか泳げなかったり、逆上がりができなかったりで体育の時間が楽しくない時期がありました。子どもたちで野球をするとき、いつもライトで8番のみそっかすでしたが、走ったり自転車に乗ったりローラースケートをしたりするのは大好きでした。
いまは大人になったので、もう嫌なことをする必要はありません。だから私の場合一人で走ったり、歩いたり、自転車にのったりしています。それで十分楽しいし、だれにも迷惑をかけず、体の調子も整えることができています。
反対に人と集まってやる方が楽しいという人も多いはずです。年齢が高くなってから野球やサッカーを始めたり、スタジオでエアロやダンスをするのが好きな方もいるでしょう。スポーツと名前がつかなくてもからだを動かすこと(スケッチ、写真、バードウォッチング、釣り、パワースポット巡りetc.)ならグッドです。だれもが自分の好みに応じてやりたいことをやればいいのです。
3 人と比べない
人間はもともとおサルの仲間なので、集団生活に適応するように進化してきました。だからどうしても周りと比べて考えがちです。でも自分のために運動をするのですから、ほんとうは比べる必要がないのです。
しかし、他人が気になるのも人情です。私もマラソンを一生けんめいやっていたころは自分の記録を見て(40代の中では上の方?)(あの人より上or下⁈)とか勝手に気をもんでいました。今でも走っていますが、年をとって遅くなってきたことに加え、数年前にけがをしたころからぐっとスピードが落ちたこともあって、人と比べずに走ることそのものを楽しむようにしています。でもまだ記録や順位にこだわる自分もすこし残っているようです。煩悩を含めて自分なのですから、いろいろ考えることもセットで楽しんでいけたらと考えています。
4 始めるにあたってのアドバイス
トライ・アンド・エラーをしよう・・・以前やったことの方が始めやすく続きやすいと言われていますが、まったく新しいことにチャレンジするのも手です。やったら思いのほか楽しいかもしれませんし、そうでないかもしれません。気軽にチャレンジして、合わないと思ったらすぐに撤退するのもOKです。
からだのやわらかさがだいじ・・・何をするにもからだは柔らかい方がいいです。日ごろのストレッチをおすすめします。
栄養に気を配る・・・からだを今まで以上に動かす⇒より骨や筋肉に負担がかかる⇒今までより栄養が必要となります。特にタンパク質・カルシウム・ビタミンの豊富な食事を心がけましょう。サプリや栄養補助食品を摂るのも一手です。
はじめは習おう・・・上手なやり方を教わった方が進みも速く、故障もしづらいです。からだづくりはあせらずに・・・早く上手になろうとしてやり過ぎる、詰め込み過ぎると体を壊してしまうことがあります。からだを動かし始めたころに多い失敗です。運動を続けることで骨・じん帯・筋肉、神経系、心臓など循環器系、肺などの呼吸器系ほか、体中のあらゆる組織が強くなっていきますが、それには時間がかかります。あせりは禁物、体と相談しながらゆっくりと練習してください。
ねりまインクワイアラー 212 伝染性紅斑(リンゴ病)
子どもがかかるとほっぺたが赤くなり発熱するリンゴ病ですが、おとながかかるとほっぺたが赤くならず数か月にわたって全身の関節痛が残ります。コロナ禍で不顕性感染が減ったためなのか、今大流行中です。
骨と筋肉の痛みをみわける
一枚の顔写真を見せられて、まだ会ったことのない人を判断せよと言われたらどうでしょうか?人生経験が増えればある程度の予想はできるかもしれませんが、実際に会ってみたら大ちがいということはめずらしくありません。骨と筋肉の痛みの診わけもこれとよく似ています。
1 神経が通っていない部位は痛まない
鍼灸師さんが使う鍼(はり)はとても細くて、上手に刺せばまったく痛みを感じません。細かく調べていくと皮膚には痛みを感じるところと感じないところがあって痛みを感じないところの方がずっと多いのです。直径0.1-0.2mmしかない鍼を皮膚に刺したとき、その刺激で痛みを感じる神経がほんのわずか(ゼロ~数個)なので痛みを感じにくいのです。 注射の場合は針がもっと太いこと、そして薬剤注入でたくさんの神経が同時に刺激を受けますから痛みを感じるのです。痛みを感じる神経が高い密度で分布しているのは、①皮膚②筋膜③骨膜です。だからすり傷、肉ばなれ、骨折の痛みが強いのです。反対に神経の通っていない部位(とくに軟骨)は相当なダメージを受けても痛みは感じません。え?どうしてといえば、神経の通っていない部位は痛みを感じないからです。
2 レントゲン、MRIですべてがわかるわけではない
医師になりたての頃、レントゲンの読影に苦労して患者さんの診察がおろそかになりがちでした。たしかに画像診断でわかることがいっぱいあります。でもレントゲンやMRIでわからないこともあります。それを挙げてみます。
1. 痛み・・・どんな検査をしても痛みそのものを検出することはできていません。
2. かたさ・やわらかさ・・・画像診断で関節・筋肉のかたさ・やわらかさはわかりません
3. 熱・冷え・・・画像診断で温度変化はわかりません(特殊な検査法はあります)
4. むくみ・脱水・・・局所のむくみ・脱水も検出しづらいです
ところがこういった画像診断でわからないことを一気に、安全・安価に検出できる方法があります。それが人間の手(触診)なのです。
3 痛みの出方に着目する
わたしがとくに注意を払っているのは、上の4項目のうち「痛みの出方」と「かたさ・やわらかさ」です。この2項目を整理整頓して意味付けするのにずいぶん時間を使いましたが、最近はだいぶこなれてきました。
手で確認した情報を整理すると、(この人は骨の痛み)(こっちは筋肉の痛み)(これはじん帯性の痛み)と判断できるので、これをもとに本人の生活状況や仕事内容・趣味やスポーツの趣向などを発症の原因と考えることができないか検討していきます。
こうして仕事をしていると、最近では骨性の痛みが増えている印象があります。ちょうど新型コロナ感染症が爆発的に流行したあたり(2020年)から激増し、自分の診たてがまちがっているのでは?と自己疑念がわき上がりました。でも診たてに沿って治療すると確かに良くなるのでまちがいではないはずです。
もしかすると(以前かかっていたお医者さんと診たてがちがう)と感じている方がいるかもしれませんね。整形外科医としてのトレーニングはどこの大学を出ても基本的には同じですから、ちょっとした見方のちがいと思ってください。たとえば「関節軟骨がすり減っていることが痛みの原因だ」と考えるのか「軟骨がすり減ったぶん、そばの骨に無理がかかって痛くなる」と考えるのかのちがいです。でもそれで治療方針が変わることがあります。たとえば、ひざなどの関節痛に痛み止め内服や注射を行わず、ビタミンDやカルシウム剤を処方するケースも多いです。
4 レントゲンも、診察も同じくらいだいじ
レントゲンなどの画像診断と手による触診を組み合わせることが整形外科的診断にベストだと考えていますが、これには多くのお医者さんが賛成してくれると思います。ただし触診の習得が意外に難しいとも感じています。これをなんとか昔のわたしのような初学者に伝えるいい方法がないだろうか?これをテーマに近い将来本が書けるのでは⁈
そのためには、アタマの中身をもっと整理して、誰もが納得する説明をできるようにしたいですね。
ねりまインクワイアラー 211 自転車よ、もう一度
以前、旧東海道(日本橋~京の三条大橋まで)を走ったことがあります。もちろん連続ではなくて、近いところは日帰り、遠いところは1、2泊のこま切れですが、とにかく走りとおしました。
そこで今度は旧中山道!現在、群馬の高崎まで来ました。さあこれからは碓氷峠を越えて信州、そして木曽路!ところがこのあたりから街道と鉄道が離れていき、場所によっては宿がみつからない地域があります。へたをすると峠道で行き倒れになりかねません。そこで自転車を使うことにしました。今、輪行(自転車を電車で運び、現地で組み立てて乗る)の方法を調べています。
子どものころから自転車が好きでした。夢よ、もう一度!来春から再開の予定です。
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