目白ヨシノ治療院

目白ヨシノ治療院は新宿区下落、目白駅から徒歩3分、マニュアルメディシンを用いたマッサージ、手技治療,リハビリの専門治療院です。病院では特に問題のなかったつらい症状、日常生活で困る痛み、肩こりや腰痛、首の痛み、またはよく分からない目の奥の痛みや頭痛など機能障害に関する問題の治療を行っています。

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松ぼっくり通信

松ぼっくり通信 2024年 5月号

やれちゃうトレーニング

ストレッチ・筋トレははまる人ははまるけれど、はまらない人はまったくはまりません。時間が取れなくても、体力がなくても、そもそも運動が嫌いでも、なんとなくやっているだけなのに後から見れば全然ちがう。そんなトレーニングです。

1 下半身を強くする「台所・洗面台」

つま先立ち・片足立ち 夕食の準備をしながらつま先立ちをします。歯を磨くときは片足立ちをします。習慣にしてしまえばなんとなくやるようになります。

アキレス腱伸ばし 足元のクッション(青竹・少年ジャンプほか)に足を載せてアキレス腱を伸ばしましょう。パソコン作業の人はけっこうアキレス腱が縮まっているはずです。毎日やるとぜんぜんちがいますよ。

2 どんな人でも必ずやれる!「リビング・居間」

やっと家に帰ってきたからリビングでのんびりしたい。わかります!でもちょこっとだけトレーニングの要素を加えると、運動嫌いのあなたでも「運動やった感」を経験できます。そしてじみーに体力が上がります。

「立つとき・座るときだけスクワット」 ソファーにどかーんと座らず、そろりとおしりを下ろします。トイレに行くとき、冷蔵庫に飲み物を取りに行くときは、ゆーっくりと立ち上がりましょう。するとあら不思議!知らず知らずのうちにスクワットをやっているのでした。あれほどおっくうだったスクワットも生活の一部にしてしまえばけっこうできます。

「ちょこちょこ筋トレ」 部屋の入り口付近に軽めのダンベル(あるいはペットボトル)を置いておきます。そこを通りがかるたびに2.3回ダンベルを上げ下げしましょう(どんなやり方でも◎)。「ちりも積もれば山となる」ので、上半身筋トレです。

足くび廻し・かかと踏み踏み ソファでテレビ・読書・ゲームしているとき、ときどき足だけ動かしてみましょう。足をぐるぐる回したり、屈伸したり、かかとを踏みつけたりいろいろやってみましょう。足は第2の心臓、下半身のむくみ取りに役立ちます。

3 ラクして体幹トレーニング「おふとん・ベッド上」

おしり歩き 足を使わず、おしりを使って歩きます。やってみるとあんがいむずかしい。体幹をねじる動きをふだんやれていない人は苦戦するかもしれません。でも姿勢コントロールの素晴らしい練習です。それにおふとんの上ならお尻が痛くない。風呂上りなどにチャレンジしてください。

秘儀!瞬間寝返り おふとんの上でごろりと体を回すのではなく、同じ位置で右へ、左へと向きを変えます。肩とおしりを使ってできるだけ速くやってください。これが素早くできる人は、歩いたり走ったりも上手にできるはずです。

全身ストレッチ からだのすみずみまでゆるめられる魔法のストレッチです。やりかたはかんたん、寝そべったまま全身の筋肉を脱力させます。手足だけでなく、顔からおしりまであらゆるところをゆるめます。ぐっすり寝ている赤ちゃんと同じ感じです。しばらくするといろんなところがぴくぴく動いたり、ちくちくしたりするかもしれませんがそのままにしましょう。これだけでも肩こりや腰痛が良くなったりするからあら不思議!

4 「お買い物」は総合トレーニング

女優のように歩こう 家の外に出るとどうしても人の目が気になるのを逆手にとって、思いっきり見られることを意識して動いてみます。脳内イメージで女優さん(オードリー・ヘプバーン、吉永小百合etc.)になりきって美しく歩いてみましょう。野菜一つ持ち上げるのにもひたすら美しい所作で行い、レモンに口づけしたりします(ダメか⁈)。これも修行、疲れた分だけふだん使わない筋のトレーニングになっています。

「スーパー」新記録を狙おう 歩きでも自転車でもいいから記録を狙います。家を出て、買物をして帰ってくるまでの時間を記録しておきます。新記録を樹立するためには、歩くスピード・献立の中身・売り場での判断力・お札を取り出すスピードなど総合的な力が求められますから、主婦力・主夫力の頂点を目指してがんばりましょう。

自転車はトレーニング 転ぶと危ないからと言われて自転車を取り上げられるご高齢の方を散見しますが、自転車を押すのも乗るのも一種のトレーニングです。いくつまで乗れるかは人それぞれ、個人差・状況で判断してあげてください。できることを奪うのではなく、どうやったら体を動かすことを続けられるのか。この工夫をすることが、今の時代に大切だと考えています。

 

ねりまインクワイアラー 204 一日のタンパク必要量は?

一日のタンパク必要量は男性60-65g、女性50-55gくらいです。魚・肉100gあたり15-20gがタンパク質と言われています。サケの切り身で18g、豚の生姜焼きで20グラム、ソーセージ2本で6g、ご飯2杯で6gとすると合計50g、男性ではまだ10gほど足りません。みなさんはちゃんと摂れていますか?

松ぼっくり通信 2024年 4月号

歩き方を整える一週間

 よちよち歩きの子を見ると、みな楽しそうに歩いています。とてもかわいいのですが、ステップが軽やかでらくちんな感じがしますね。いまのおとなだって昔はこうやって歩いていたのです。重苦しくつらそうに歩いている人たちを見て、「どうやったら元気に歩けるようになるのかな?」と一週間の練習法を考えてみました。

1 足うらをしっかり使って立つ(第1日)

 おやゆびのつけ根、小指のつけ根そしてかかと。この三点を意識して立ってみましょう。はじめはいすにすわったまま、両足うらにかかる圧力を感じます。三点にひとしく体重をかけるイメージです。今度は立ち上がって同じようにやってみます。できた人はつぎに片足立ちにチャレンジしましょう。片足のときでも三点にひとしく体重がかかることを意識してください。

2 腕ふりの練習(第2日)

 スムーズにまっすぐ歩くには腕ふりが大切です。肩の力を抜き、ひじを直角に曲げ、軽く手を握ります。左右の肘を交互に後ろに引いて振り子のように動かします。せすじは丸くもならず伸ばしもせず、無理のない姿勢を保ちましょう。鼻呼吸の方が望ましいですが、できない方は口呼吸でも結構ですので、いつまでも続けられそうなリズムで腕を振り続けてください。10-15分は続けられるようにがんばりましょう。

3 踏み出した足に体重を乗せる(第3日)

まっすぐ立った状態から一歩を踏み出します。踏み出した足の上にすぐに体重をのせましょう。体重がのったらまた後ろ足に体重を戻しましょう。そしてまた前足にのせ、また後ろ足に・・・と体重のうつし方を練習します。両側とも上手にできるようにしましょう(注意:足元を見ると腰が引けるので前をまっすぐ見てやってくださいね。)

4 足踏みの練習(第4日)

 走るときとちがって、歩くときは必ずどちらかの足が地面についています。でも体重は必ず片側の足にのせますから、片足立ちの練習をして足腰を鍛えましょう。腰がぐらつかないように立ち、しずかに足を下ろしたら反対の足を上げます。これをくりかえしてください。

5 腕を振って足踏み(第5日)

 目線を高くして、腕を振って足踏みします。腕と足の動きが同期するようにリズムをつけて足踏みをしましょう。  上半身と下半身の動きを合わせる練習です。

6 股関節を動かす(第6日)

 股関節の柔軟性がないと歩幅が広がりません。かべにつかまりながら足を前後に動かします。上半身はまっすぐにしたままでやってください。できるだけ力を抜き、足がブランコになった気持ちで足を後ろに引き、ゆれ幅を広げていきましょう。

7 オールインワン(最終日~)

 一週間の成果を試す日がやってきました。大手を振って元気よく歩きましょう。無理に歩幅を広げるのではなく、リズムに乗って進んでください。スマホのミュージックを聞きながら歩くのも楽しいと思います。

  • 目線はまっすぐ前を向けましょう

  • 歩いているときおしりの筋肉を使えていますか(手で触れるとわかります)

  • 慣れてきたら少しペースを上げてみましょう

  • 自信がついてきたら階段や坂道にもチャレンジしてください

  • 少しずつ距離を伸ばしていきましょう

ねりまインクワイアラー 203 産業のコメ

 お米は食事のキホンで、お米なしには日々の食生活が立ちゆきません。同じようにこれがないとほとんどの産業が成り立たない製品が産業のコメと呼ばれています。かつては鉄鋼、今は半導体が産業の米です。現在どこかで電気を使う商品(スマホ・パソコン、自動車、あらゆる家電、最近ではクレジットカードなど)なら必ず半導体が使われていると言っていいでしょう。

 日本のお家芸だった半導体産業は最近元気がありませんが、国を挙げて応援体制が作られています。なんとかがんばってほしいですね。

松ぼっくり通信 2024年 3月号

からだのくせを知る

 ふだんの仕事の中で一番簡単なのが切り傷や骨折・ねん挫などの治療です。治し方が決まっているので工夫の余地はそれほどありません。いちばんむずかしいのは、頭痛・肩こり・腰痛などぱっと見ではわかりにくい症状の場合です。くすりやマッサージで軽くできるけれど、そこからが問題です。なぜこうなったのだろう?どうしてこの人に出たのか?なる人とならない人のちがいは何か?良くなっても長続きしない人がいるのはどうしてだろう?このように考えたときに「くせ」が気になるのです。

1 みんな違うけれどみんな似ている

 先日の箱根駅伝をテレビ観戦して気づいたのは、各大学別に選手たちの走り方に特色があるということでした。広く全国から選手がスカウトされて各大学へ入学しますから、最初はもっと走り方にバラエティがあったはずですが、チームとして練習するうちに何となく似通ってきたのだと思います。

 では一流の選手ならみんな同じような走り方をするのかと言えば、そうではなさそうです。やはりテレビ中継で見た全国男子・女子駅伝の場合、中学生~実業団の選手が出身都道府県別にチームを作って走りますが、走り方はとてもバラエティに富んでいます。それでも全員が全国レベルの選手なのですから、誰にでも当てはまる正しいフォームはないのだと思いました。

 からだのくせを観るときも同じです。絶対に正しい姿勢・からだの使いかたはないので、その都度人それぞれに向いた使いかたや疲れにくい姿勢をみつけていかなくてはなりません。

2 くせは生き方そのもの

 くせのなかには生まれつきに関わるものがあります。身長、筋肉のつき方、手足の長さや形、動作の俊敏性など持って生まれた素質からからだの動かし方が決まり、くせとなります。

 社会的・文化的な習慣も大きいです。アジアの多くの国では正座やあぐらをするのが日常生活の一部ですが、欧米系の人たちは正座やあぐらが苦手な方が多いです。また稲作文化圏では村落の中で他人と密接にかかわる機会が多く、長幼の順・礼儀作法を重視する習慣が育まれました。今でも私たちは相手との関係をおもんばかってお辞儀の深さを変えたり、目上の人の前ではやや前こごみとなり尊敬の意を示すなどなかば無意識にやっていることがありますが、これもくせの一種です。

 そして一人ひとりの経験からもくせが生まれます。子供は親を見て育つので、親の身ぶり・歩き方をよくまねます。ヒトの脳には他人の動作・表情をまねるための神経組織(ミラーニューロン)が内蔵されていて、上手にしぐさや表情をまねられるし、仕事やスポーツの動きを見て覚えられるのもこの仕組みがあるからです。つまりくせはその人のこれまでの人生に深く根差したものだと言えます。

しかしくせの中にはまちがった動き方や自分のからだに合わない動き方が入っていることがあり、慢性的な肩こりや腰痛、スポーツや仕事の中で繰り返し発症するさまざまな故障や音楽演奏・スポーツなど技術面での伸び悩みにつながることもあるのです。

3 くせは直すべきか

 くせのすべてが問題ではありませんから、その人の暮らしや仕事に差しさわりを生じたときにくせの修正を考えてください。たとえばなぜか自分だけ調子が良くない、故障が多いと感じたとき。とくに反復動作が多い職業・スポーツをしている方は注意してください。キーボード作業なら手指~前腕、介護職なら腰、ランニングなら膝~足、テニス・野球なら肩・肘というように、繰り返し負担のかかるところに累積型の故障が生じやすくなります。「塵も積もれば…」の例え通りです。

 今は問題がなくても将来を考えてくせを直すのもありだと思います。ただしその仕事・スポーツをよく理解していて、酸いも甘いもかぎ分けられる指導者がいないとなかなか難しかもしれません。ここまでくると治療ではなく予防ですから、医療は側面からのサポートしかできないかもしれませんね。

4 くせの取り方

  • 思っていることとやっていることは違う・・・自分ではちゃんとやっているつもりでも、じつはできていないことはざらです。信頼できる指導者のことばには耳を傾けましょう。

  • 細部にとらわれない・・・いきなり細かいことにこだわるのではなく、まずおおまかな動きづくりから始めよう。

  • 目より身体感覚を磨こう・・・目であちこちを観察するのではなく、動きの感覚を磨きましょう。

  • 色々な状況でシミュレーション・・・場所・シチュエーション・疲労度を変えても同じことができるようにしよう。

ねりまインクワイアラー 202 練馬に地震はおきるのか

 最近の調査では、今後30年で70%の確率で東京にも地震がおきると予測されています。気になるのが活断層ですが、練馬区にはないようです。しかし立川活断層(埼玉県名栗村から府中市まで)や23区東部で起きた地震の影響は必ず受けるはずです。ハザードマップで自宅や近所の地質をチェックしておきましょう。また自宅近くの避難拠点を調べてみましょう。

松ぼっくり 2024年 2月号

「転びそうで転ばない」練習をしよう

コロナ流行の3年間でおどろくほどけが人が増えました。以前はけっこう元気だった人が転倒して、顔や手足をケガしてクリニックを訪れます。年のせいにするにはおとろえ方が早すぎるので、運動不足が大きな理由ではないかと思っています。けがを避けるのに必要なからだのきたえ方をお教えします。

1 スクワット

スクワットに始まり、スクワットに終わるくらい重要な練習です。きちんとやれば体幹・下半身の筋肉がまんべんなくきたえられます。転びそうになったときにふんばりきれないのは下半身の筋肉が弱くなっているからです。ひたすらこればかりやってもいいくらい、足の立ち巾や手の位置を変えたりして、転びそうな瞬間にしっかりとふんばれる準備をしましょう。

 足出し

転びそうになると姿勢がくずれます。その一瞬、前に足が出るかどうかが運命の分かれ目です。体が前にかたむいたときに足をさっと出すことで、転ぶ寸前に足を出してからだを支える練習を行います。これは反射神経の訓練ですから、足をすばやく出すことを意識しましょう。

3 壁にトン!

足が出ないで転ぶとなったら、今度はいかに体を守るかがだいじです。転ぶ一瞬に手でかばえず、顔や胸をケガする人が増えています。とっさに手が出るように、からだを前にかたむけながら、かべに手をつく練習をします。これも反射神経の練習なので、力を入れるのではなくさっと手を挙げることを意識しましょう。

(ドンと強くつくと手首を痛めるかもしれないので、軽く「トン」とついてください。)

4 注意点

この3つの練習は、とりあえず一人でなんとか歩けている方向けに書いています。杖でやっと歩けるぐらいの人はまずスクワットをたくさんやって地力を養ってください。

  • スクワットを安全にやるためにはイスに座った状態から始めて、いつ姿勢がくずれても座れるようにしておくといいでしょう。同じく手すりなどにつかまりながら行うのもいい方法です。

  • スクワットに慣れてきたら、できるだけゆっくりとやってください。とくにしゃがむときにゆっくりやるといい練習になって、いざというときにふんばれる体に変わってきます。

  • 上の写真のように、何かあったときにすぐにつかまれる場所でやると安全です。

  • じょうずにできるようになってきたら、家の外でもやってみてください。外の地面はでこぼこしていますからいい練習になります。でもそれで転んでしまっては元も子もないので、気をつけてやってください。

  • もっとじょうずになったら、長めに歩いて少し疲れてから練習してみるといいでしょう。ここまでできたら、かんたんには転ばないからだに変わっているはずです。

ねりまインクワイアラー 201 カーボンニュートラル

カーボンニュートラルとは、自動車や工場などから出る二酸化炭素の量と、海や地中に吸収される二酸化炭素の量を等しくすることです。地球温暖化を防ぐためにはできるだけ早くカーボンニュートラルを達成することが必要です。日本は2050年にこれを達成すると宣言しました。

と聞いても、今一つ実感のわかない方も多いのでは?大まかに言えば石油・ガス・木材を燃やさずにエネルギーを作ることと、ゴミを減らすことがポイントです。太陽光・風力発電や電気自動車もその流れで注目されているのですが、私としては車に乗らずに出かける習慣をもっともっと普及させたいなーと考えています。

松ぼっくり通信 2024年 1月号

超高齢化社会に向かって

 令和18年(今から12年後)に3人に1人、令和47年(41年後)には2.6人に1人。何かというと、高齢者(65歳以上)の予想比率です。私が医者になりたての頃、90歳以上の患者さんを診るとき「イヤー、すごいですね!」と話していましたが、今は(あー、また90台の人ですか)と思ったりします。でも自分もほどなくお仲間入りなので、他人ごとではありません。これからを考えてみました。

1 世の中がガラリと変わる

 これほどの高齢化社会は人類史上初めてで、日本はさらにそのトップを走っています。だれも経験していないのですから、本当にどうなるのかはだれにもわかりません。でも数年単位で劇的に変わるテクノロジーが日常生活の細々としたところに影響を及ぼし、極端な人手不足が仕事を根本から変えるでしょう。AI(人工知能)やロボット化が進んで人間が今までやっていた仕事のかなりを肩代わりするでしょう。いまの高齢者さんの孫世代が暮らす未来世界では、社会のしくみや考え方ががらりと変わって世代間のギャップはとんでもなく大きいはずです。「わたしの若い時には・・・」という経験談は役立たずの世の中になりますが、これからの高齢者は今までの世代が絶対味わえなかったミラクルな毎日を過ごせるかもしれません。何歳になっても新鮮な経験は必要、一日一日を楽しんで暮らしていきたいですね。

2 最高の時代

80歳代で年代別ボディビルダー選手権に優勝した方の記事を読みましたが、ご本人は130歳まで生きて記録を作りたいとお話しされていました。若いころとはちがって日本食をしっかり食べる、トレーニングは量より質、けっして無理をせず、ウェイト(重り)は軽めにゆっくりやるそうです。その分野でトップになった人がトライアンドエラーをくりかえしオリジナルプランを作るやり方は、だれにとっても参考になると思いました。

皆さんは君原健司さんをご存じでしょうか?1964年の東京オリンピックにマラソンで出場されたのですが、以前あるマラソン大会で走る姿をお見かけしました。現在は82歳、今も走られているようです。一流選手でも長く走り続けている方はまれなので頭が下がります。

先日トレラン(山の中のマラソン)に参加した時、60歳以上は20人だけ、さすがに減ってきたなーと思いました。長く何かを続けるコツは、「とにかく続けること」だと思います。レベルが落ちても、ヘタになっても続けていればいいことがあります。何日も筋肉痛が残りますが、飯がうまく、自然の中で動くと生き返った感じがします。年が進めばどこかでやめることになるでしょうが、その日までは楽しんで続けようと思いました。

長生きだけをとるならば、今は最高の時代です。だから「どう生きるのか」がだいじになりますね。

3 人間らしさの原点

SF小説「地球最後の男」(映画化されました)を読んだとき、自分がもし地球で最後の人間になったらどうだろう?と考えました。食料はあちこちに残っているから心配ありません。車やガソリンもたっぷりあるのでどんなところにも出かけられます。ビデオや映画は見放題です。でもどこに行っても誰もいません。けんかをする相手もいないけれど、話したり悩みを打ち明ける相手もいません。遠い将来、自分が死ぬまでひとりぼっちが続くのです。

おそらくこの状態に耐えられる人はほとんどいないのではないでしょうか。つまるところ人間らしさの根っこは「他人とコミュニケーションがとれる」ことなのでしょう。ことばでも、身ぶりでも、顔の表情でもいいから相手に何かを伝えることができる。そして相手から反応が返ってくる。これが人間らしさの基本ひとつめです。

そしてふたつめは「移動できる」ことです。移動することで食べる・排泄など基本的な生体機能を確保できるし、あちこち出かけてコミュニケーションを行えるからです。

4 未来に備えてできることをしよう

  • 最後まで歩けるからだを作ろう・・・長いこと患者さんを診ていて、まめに体を動かしている人はやっぱりちがいます。運動とかスポーツとか名前はつかなくても、とにかくマメに体を動かすことです。むだ足、遠回り、徘徊(家に帰ってね!)大歓迎。能率無視で歩数をかせごう。

  • 身の回りでいいことを・・・何でもいいので、誰かの役に立つことをしてみよう。ゴミ拾い、ちょっと声かけ、ちいさなお手伝い。そこからコミュニケーションが生まれます。

  • 働けたら働こう・・・3人に一人が老人の時代だから、できる人は働きましょう。人手不足のお助け、お小遣い稼ぎ、健康維持(体を動かす、日に当たる)、誰かの役に立てると実感できます。

  • 未来ををおっくうがらない・・・スマホはもちろんのこと、これからAI(人工知能)、ロボット、自動運転のクルマなど身の回りにやってくる最新テクノロジーがめじろ押しです。年だからと言わずどんどんチャレンジしてみよう。

 

ねりまインクワイアラー 200 警察もの

ミステリー小説が好きですが、なぜか警察物を読んだことがありませんでした。ところがはまった!今野敏さんの「隠蔽捜査」シリーズ、ユニークなエリート官僚が主役です。最新刊が待ち遠しいです!

松ぼっくり通信 2023年 12月号

しびれ、さあどうする?

 しびれの相談はめずらしくないのですが、奥が深くてなかなか説明がむずかしいです。今回のお話です。

1 だれにでもしびれは起きる

私の実感では、しびれの相談が十あるとすると九割がたはほっとくか様子を見るだけで済むもの、残り一割は調べたほうがいいものです。先日マラソン大会に出たとき、脱水が原因で指が腫れてしびれました。ゴールしてからたっぷり水分補給をしたらしびれが治りました。そのほか競歩の練習で腕をいっぱい振ってしびれたり、長時間のランニングで坐骨神経痛(しびれ)が出たりいろいろなしびれを経験しました。

救急外来に勤務しているときよく診たのは過換気症候群の患者さんで、からだじゅうがしびれ、息が苦しくて救急車で担ぎ込まれます。本人にすれば苦しくて死にそうなのですが、患者さんの口に紙袋をあててゆっくり呼吸させる(今は古いやり方)とすぐに治りました。私自身なったことがあって、あの切迫感・恐怖感はよくわかります。

デスクワークなどあまり体を動かさない人たちの中にも手足のしびれを感じる人がいます。厳密な意味でのしびれ(神経障害)ではなく、脳やせき髄の検査をしてもはっきりした異常は見つかりません。ここからは私の意見なのですが、おそらく慢性型の過換気症候群(習慣的に呼吸が浅い)だと考えています。細かい理屈は省きますが、深い呼吸の仕方を覚えてもらうとしびれがなくなってくるようです。

正座を続けて足がしびれるのはかなりの人が経験していると思います。腕を上げた格好や横向きで長く寝たりして腕がしびれた人もいるはずです。どちらも神経が圧迫されるために起きると言われています。細かく診ていくと、手足のあちこちに神経のウイークポイント(骨のすきまや筋肉の中で神経が圧迫されやすい部位)があり、相談を受けるしびれの多くはこれが原因です。

2 これは要注意!しびれ

つぎにほっといたら×のしびれを考えてみましょう。

脳から来るしびれ・・・脳梗塞や脳出血でしびれが出ることがありますが、たいていは運動まひなどほかの症状が合併します。

せき髄から来るしびれ・・・神経の経路に沿ってしびれが出ます。痛みが伴うことが多いですが、しびれだけのこともあります。多くは椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症が原因ですが、三浦雄一郎さんのせき髄血腫のようにめずらしい病気もあります。

神経そのものの炎症・・・脳・脊髄・末梢神経それぞれに炎症(難病指定のことが多い)を起こす病気があります。しびれる場所がだんだんと変化していきます。肩から腕に激痛がおきる神経痛性筋萎縮症もたまに経験します。

糖尿病・リウマチ疾患など・・・糖尿病で有名なのが手袋・靴下型のしびれです。太もも前方の痛み・しびれがでることもあります。そのほか小さな枝神経の故障があるとあちこちにしびれが生じます。

栄養不足・・・意外に多いのがビタミンB1の欠乏症です。足首から下の感覚が鈍くなります。白米中心の食生活で少食だとなりやすいです。ビタミンB12の欠乏症もちらほら見かけます。胃の手術後、胃酸を抑える薬の常用、動物性食品の摂取不足(ベジタリアン、少食の人)がある人でしびれ・歩きづらさがあったら可能性があります。

そのほか、 内臓の病気、がん、トリガーポイントのような筋肉の故障でもしびれがでることがあります。

3 しびれとのつきあい方

生活に支障のないしびれだったら、とりあえずのんびりかまえましょう。食事内容や睡眠に気を配り、運動やストレス発散を行いながら様子を観ましょう。多くのしびれは自然に消えていきます。

痛み、筋力低下、歩きづらさ、手先の細かい作業がしずらいなど、しびれ以外に症状があるときは一度お医者さんに相談してみてください。

「しびれ」にはいろいろな感覚があって、人によって全然違うことを言っている気がします。自分のしびれがどんな感じなのか(ズキズキ、ちくちく、ぴりぴり、何かがくっついている、だるい、動かしにくい、力が入らない、つかれる、ふらふらする他)、どんなタイミングであるのか(24時間連続、ときどき、たまに、一回だけ、何かをしているときだけなど)、どこらへんに感じるのかを説明できるようにしましょう。しびれは目に見えないので、あなたのことばがたよりです。ここをきちんとやらないと、正しい診たて・治療に結びつかない可能性があります。

 

ねりまインクワイアラー 19 ブギウギ

朝ドラ「ブギウギ」おもしろいですね。主人公役の趣里さんは子供のころからバレリーナを目指していましたが、足のけが(踵骨剥離骨折)でキャリアをあきらめざるを得ませんでした。でもあんなに踊れてるのに?!と思いますが、それだけ厳しい世界なのでしょう。私の趣里さん押しひとつめは、自分も同じけがをしたのでその苦労がよくわかること。もうひとつはお母さんの伊藤蘭さん(元キャンディーズ)が高校の同窓だからです。

松ぼっくり通信 2023年 11月号

今どきの手術

 じっさいに手術をやっていたのはだいぶ前で、最近の事情を聞くと驚くことがあります。一方、基本はやっぱり同じだな~とも思っています。皆さんが(手術が必要なのかな?)と思ったときのアドバイスです。

1 生きるための手術、元気になるための手術、実験的な手術

 大きなけがや病気で命を助けるために手術をする。たとえばやぶれた大血管を治したり、重要な臓器を守るために手術をするのは外科医冥利に尽きます。やるときはやるしかない!ので迷いもないし、あとはベストを尽くすだけです。

 整形外科医の私の場合、そういう場合もなくはなかったのですが、機能を復活・改善させるためにメスを握ることが多かったです。あるとき電車の中で声をかけられて、「先生のおかげで歩けるようになった」と言われたときはうれしかったです。命を救うわけではないけれど、それが良くなったら患者さんの人生が変わる。これも大事な手術の目的だと思います。

もうひとつ、今ある治療法では良くすることができないとき、一般的な方法ではないけれど治る可能性があると考えて手術が行われるときがあります。そこに至る前にさまざまな研究や実験(動物で同じ治療をするなど)をして検討を行い、病院の倫理審査委員会をパスし、患者さんやご家族の同意を得て行われるもので、大学病院や一流病院で行われます。患者さん+医学の進歩のために行われますが、当然リスクも存在します。

ここでは、私の経験から機能を良くするために行う手術について考えてみたいと思います。

2 手術しか方法がない?

機能を復活させるために手術を考えた場合、まず考えなければいけないのは「ほんとうに手術しか方法がないのか?」です。安全で、肉体的・精神的に負担が少なく、効果的な治療法が望ましいのでできれば手術をしたくないと考えるのが人情ですが、じつはお医者さんたちだって同じです。できれば切らないですましたい。冷静を装っていても、やはり人の体にメスを入れるのは心の負担になります。いや、そういう気持ちを持つ医師こそ外科医になるべきであって、何人切った!と得意になるような人は外科医失格です。そんな医師はいないと信じたいのですが、長くこの業界に暮らしていて、そんな人は絶対にいない!と自信をもっては言えません。

だから患者さんたちも自分なりに調べることが大切です。手術以外に方法がないのか信頼できる情報を集めたり、複数のお医者さんに聞いてみたり、最後に決めるのは自分だと考えてください。自分の意見を強く押し付けたり、あまりに突飛な意見だったり、すすめる方法に利害関係を持っていないかなど、慎重な判断を行いましょう。

私の場合、かかとの手術を受けたとき、まったく迷いはありませんでした。専門分野なので、この手術は必要と知っていたし、信頼できるお医者さんに任せたので安心して手術を受けることができました。

3 大谷選手の場合

大リーグで活躍する大谷選手がひじを傷め、2回目の手術を受けました。トミージョン手術(じん帯再建術)+人工じん帯を使う特殊な手術だそうです。24歳で1回目の手術ですから5年しか持たなかったわけですが、大リーグにチャレンジして二刀流の大活躍、ホームラン王になるまでよく役に立った!とも言えます。プロとしてかけがえのない時期、時速150キロで球を投げ続けることができたのですからもとは取ったのかもしれませんね。あたらしい手術がどれくらい持つのかわかりませんが、年間ウン十憶円と言われる収入がこれから数年続くだけでも大きな違いになるでしょう。

でも一般の人だったら数年しか持たないかもしれない手術を受けるのがいいことなのかよく考えないといけません。人工股関節の場合今は20年以上(かそれ以上)持つと考えられていますが、ひざはもうちょっと短いようです。そのほかの関節ではさらに期間が短くなります。手術によるからだの負担を考えると(壊れたら直せばいい!)という考え方は危険です。

リハビリも大変です。大谷選手にはきっと専属のセラピスト・トレーナーがついて、文字通り血と汗と涙のトレーニングが続くことと思います。それでも復帰しようとする意志と実行力はまさにプロの鏡ですが、一般の方がそこまでやるか・必要があるのかは?です。

4 手術を考えたとき

健康保険が整った日本では割合気楽に手術が受けられますが、整形外科のように機能を良くする手術法の場合、絶対的適応(誰が見ても手術しか手立てがない状態)があることはまれです。また手術でなにもかもがすぐに良くなるわけでなく、完全には治らなかったり、長い安静期間が必要だったりもあり得ます。急場の治療ではありませんから、たっぷり考えて判断されることをお勧めします。

 

ねりまインクワイアラー 198 バッテリー問題

EV(電気自動車)が古くなったとき、バッテリーをどうするかが問題です。リユース(再利用・転用)かリサイクル(分解して資源利用)か。これを解決しないとEVの将来は危うくなりかねません。

松ぼっくり通信 2023年 10月号

見えないものをみています!

嗅覚・視覚・聴覚・味覚・触覚の五感のうち、医学の世界ではどうしても視覚にたよりがちです。今回は、見えないものを見る技法についてのお話しです。朝ドラ「らんまん」で主人公の友だち、波多野くんが叫んだ言葉を表題にしてみました。

1 物質をみわける

大昔、ギリシャのアリストテレスは世界が「土・水・空気・火」の4つですべてできていると考えていました。世界が何でできているか?目で見てわかるわけではないためこれは長いことなぞのままでした。ところがいろいろな物質を砕いたり、焼いたり、煮たり、溶かしたりをくりかえすとだんだんと不純物が取り除かれ、最後に単一の物質(たとえば金)が残ることが知られてきました。こうやって根本的な物質(元素)が発見され、じみ~に化学実験をくりかえしてちょっとずつ物質の組成(たとえば水は酸素と水素でできている)がわかってきましたが、タンパク質やホルモンのような複雑な物質だとこのやり方ではむり!もう一工夫が必要でした。たとえば左図のビタミンDの化学構造式、目に見えないのにどうやってこんなことを調べられたのでしょうか?

そこでレントゲン(X線)が登場します。応用してX線解析装置や電子顕微鏡といった機械が作られ、目で見たかのように物質の複雑な構造がわかるようになったのです。そして様々な発明につながりました。いま私たちが乗っているクルマ、持っているスマホ、住んでいる家、飲んでいるクスリなど、すべてはこの成果をもとに始まっているのですよ。

2 昔と今

明治のはじめ、東京の医学校を卒業した新米の医師たちは、医療器具や薬などを買いそろえてから地元へ戻り、各地で医院を開きました。診察の時、まず顔色、目の結膜や舌を見て、脈をとり、おなかや手足を触り、体温を測ったり、聴診器で胸・腹部の音を聞きました。まだレントゲンのない時代ですから、後は尿や便の色や調べるくらい、今のお医者さんだったら診断の手立てが少なすぎてたいへん心細い思いをしたはずです。その分、手を使った診察をいっしょうけんめいにやったと思います。

今と比べたらたいした薬もなく、栄養や休養に気を配り、患者のそばで見守りはげます。なにもできないことも多かったはずですが、患者さんのそばにいる時間は長くとれたはずです。

現在、レントゲンは言うに及ばず、MRI,CT、超音波ほかたくさんの診断機器があり威力を発揮していますが、そのぶん昔ながらの診察がおろそかになっていないのか。目で見るのみならず、聞いて触ってみる。古臭いやり方のように見えて、それでしかわからないことがあると考えています。

3 触診でわかること

指先には微小なセンサーがたくさん集まっていて、これをフルに利用するといろいろなことがわかります。経験上温度差は0.1度単位で感じ取れますし、目で見ただけではわからないむくみやこわばりも触れるとわかります。こつはできるだけ軽く触ることで、これが初心者には難しいのです。

また動きの「質」を感じると、痛みの原因が骨、じん帯、筋のどれなのか、あるいは全然関係のない内臓や神経からの痛みなのかおおよその判断をつけることができます。これは整形外科の診療にはものすごく役に立ち、レントゲンを撮る前段階でほぼ痛みの原因が見当つくこともまれではありません。

レントゲンやCT/MRIなど現代医学の最新機器を使ってもわかりにくいことが実はたんとあります。触診の初心者のときにはわからなかったことが、慣れてくるにしたがってだんだんとわかるようになる。イメージでいうと脳の中の診断プログラムがどんどんバージョンアップされていく感じです。もともと人間の体には精細なセンサーが集まっているのですから利用しない手はありません。手を使うことでまさに「見えないものを見ている」感じになるのです。

4 触診が活かされる場面とは

診断機器のようにデータが分析・加工されると利用しやすくなりますが、そのぶん雑多な情報が無視され、ほんとうは重要な情報が見逃されることがあります。生の情報を扱う触診が得意な分野はこんな感じです。

  • よくある症状の中からあぶなっかしいもの(ひょっとしたら深刻な病気かも?)をさがしだす。

  • 想定外に対処する。生情報の強みがここに生かされます。頭で考えずに肌で感じるのですから。

  • もやーとしたはっきりしない相談の診察。御用聞きが街の隅っこまで出歩く感じで、小さなヒントをみつけられるかもしれません。

  • 山の上、電車・飛行機内などできることが限られる場面で、急場の処置をするとき効果を発揮します。

 

ねりまインクワイアラー 197 夏の運動不足

連日の暑さで家から出なかった方も多いようですが、そろそろお外に出ましょう。週に2,3回、少し長めのお散歩から始めてください。慣れたらチョット速いかな?くらいのスピードまで上げてみましょう。

松ぼっくり通信 2023年 9月号

なにが正しいか考えよう

 当時の常識がまちがっていて、新しい考え方のほうが真実だとわかったとき、すぐに受け入れる人はまれです。「太陽が地球を回っているのではなく、地球が太陽を回っているのだ」という考えがひろく受け入れられるようになるのには数世紀の期間が必要でした。しかしスマホやネットがあたりまえになり、ものごとがガラッと変わるスピードが速くなった今、新知識についていくのがたいへんです。新しいことと向き合うヒントをお話しします。

1 コロナはただのかぜ?ワクチンは有害?

 21世紀の時代に、まさかこれほど新型コロナという伝染病が広がるとは!長らく医学では伝染病をどう克服するかが大きなテーマでした。一般的な見方では伝染病は世界の一部の地域に残るばかり、ふだんの生活には関係がないように多くの人が感じていたはずです。でもこわがらずにやることをやれば、ある程度の感染予防や症状の悪化を防げることもわかってきました。当初ワクチンがないために恐れられた新型コロナウイルスですが、きわめて短期間でワクチンが作られ、多くの人に接種することである程度流行を抑えることができました。これまた短期間で抗ウイルス薬が作られたのもビックリでした。伝染病治療・予防の歴史から見れば、これはすごいことです。

反面、新ワクチンで健康を損ねたり亡くなった方がいるのも事実です。世の中のすべてと同様、絶対的に良いものや悪いものはありません。良いほうだけを取り上げるのも、悪いほうだけ見るのもまちがったやり方です。コロナの存在を否定するのも、過度にこわがって人との接触を避けようとするのも?と思います。

テレビやネットを観るとき、この情報は事実なのか、あるいは誰かの見解なのかをしっかり考えることがたいせつです。そして一次情報(生のままのデータ)まで自分なりに調べらればさらにいいと思います。

2 長生きをするほど幸せなのか?

医学のもう一つ大きなテーマはいかに人間の寿命を延ばすかでしたが、これはほとんど達成されているように思います。ただし、「健康に」という付箋付きで考えると、長寿が必ずしも幸せか疑問に考える声も出てきました。さすがに江戸時代のように60を過ぎれば定年(命が定まる≒そろそろ寿命)と言われるよりは今のほうがずっといいと私も思います。ですが、毎日を充実して生きるには明晰な心とじょうぶな足腰が必要で、単なる長命だけでいいのかとも考えます。

認知症になったり、足腰が立たなくなったりするのが、生活習慣から来るのか素質からくるのかはまだはっきりとしませんが、少なくとも(医師の手を借りずに)自分で工夫し対処できる期間をなんとか伸ばしたいものです。そうすることで生きている一瞬一瞬が宝物となるように暮らしてみたい。みなさんも長生きの意味をとらえなおし、長さ以外のなにかで命を測ってみませんか。

3 痛みには原因がある?

医学生のころ、痛みの発生回路について教わり(ホントに電気回路みたい!)と思いました。それからうん十年がたち・・・最近の痛みの考え方は「痛みには原因があることもないこともある。脳が痛いと感じたなら、それが痛みなのだ。」ということになっています。

え?と思いませんか。でも、長いこと痛みを中心として診療を行ってきた経験からはなかなかうなずける説明なのです。心の痛みってほんとうなのですね。からだに何の異常もないのに(医者から見て不可解な)痛みを訴える人をたくさん診てきました。診たての不十分さもあるかもしれませんが、精密な電気回路のようなからだの仕組みからは理解しにくい痛みはやはりあります。そしてよくわからないきっかけで良くなったり、悪くなったりするのです。

良くしてなんぼの臨床医ですが、理屈に合わない経験をすると心が乱れます。そして医学はみなさんが思っているほど整然とした世界ではなく、まだまだ謎にあふれています。かたくなりがちな頭をやわらかくして、なんとかついていきたいです。

4 さて、あたらしい考えについていくには

  • 積み重ねられた事実があれば受け入れる・・・一歩一歩まちがいがないか確認しながら事実を積み重ねていく。その結果が世間の常識と異なるように見えてもきちんと検証できていればまずは受け入れてみる。

  • 声が大きいから、有名な人が言うから、正しいと思わない。

  • 昔から言われていても正しいとは限らない。逆に新しいから本当とは限らない。

  • 「専門家」が本当に専門家なのかは慎重に判断しよう。人が聞きたいこと、自分が言いたいことを言うだけの人かもしれません。

  • わかりやすいことが正しいと限らない。反対にむずかしいから正しいとも限らない。かんたんなことをむずかしく言うほうがありがたがられますが、むずかしいことをかんたんに説明するほうがほんとうはたいへんです。

 

ねりまインクワイアラー 196 山酔い(軽症の高山病)

先日家族で富士山に登りました。わたしは平気でしたが山酔い(頭痛・食欲不振)になる者もいて、やっぱり富士山はたいへんだ!と思いました。なりやすさには脱水・年齢のほか素質も関係するそうです。

松ぼっくり通信 2023年 8月号

骨質を語ろう

 骨粗鬆症の程度を示すとき骨量を使います。「若い時に比べて〇〇パーセント」「同年齢の平均と比べて〇〇パーセント」といった説明があってわかりやすいです。でも今回はもっとわかりにくい「骨質」のお話です。

1 骨量と骨質のちがい

 味噌や醤油を買うとき、値段もだいじですが味もだいじです。でも味噌を何グラム買いたいか人に伝えるのはかんたんですが、自分が求めている味をきちんと伝えるのは難しいです。同じように骨量を測るのは割合かんたんで、レントゲンやDEXA(デキサ)を使うとすぐに結果がわかります。骨質はまったく別です。「骨質がいい」とは、ほねに適度なしなやかさがあり、強い力がかかってもかすかにたわんだりへこんだりして、すみやかにもとのかたちにもどることを指しています。え‼骨ってやわらかいの?と思った人、じつは骨は意外と柔らかいのです。とくに若いころの骨はやわらかく強靭です。グラスファイバーという素材が自動車のボディ、スキー板などに使われていますが、へこまず割れず、たわむことで力をためて強い反発力を生み出すため重宝されています。最近ではパラ陸上選手の義足に使われていますから、みなさんも目にしたことがあるはずです。 グラスファイバーは細く繊維状に伸ばしたガラスをプラスチックで固めたものですが、骨も同じようにコラーゲンというタンパク質にカルシウムが沈着してできています。グラスファイバー=コラーゲン、プラスチック=カルシウムと考えるとわかりやすいです。そしてコラーゲンが骨質の決め手なのです。

2 骨質を決めるもの

コラーゲンはひも状のタンパク質で、これをどう配置するかで性質が変わってきます。皮フの場合は皮膚細胞の下にコラーゲンがひらたく編み込まれて伸び縮みできるようになっています。腱では弾力がありかつ強靭な登山用ロープのように編み込まれています。骨ではコラーゲンが縦方向に配列され、真ん中には空洞(骨髄腔)が作られます。軽くてしなやかな竹みたいなイメージです。

むちむちの赤ちゃんのはだと、お年寄りのかさかさとしたはだ。小さい子のやわらかい体と、かたいおとなの体。転んでもかんたんに折れない骨と、ちょっとしたことで折れる骨。これらすべてにコラーゲンの性質のちがいがかかわっています。そして年をとるとコラーゲンの合成量が減り、配列も乱れてもろくなりがちです。ですからからだを若々しく保ち、骨質をよくするためには、コラーゲンの状態を改善しなければなりません。

3 骨質は測れるのか

いろいろ調べたのですが、骨質を測れる装置はまだ作られていないようです。からだが柔らかいかどうかは動かしてみないとわからないように、骨を曲げたり伸ばしたりしてどこまで耐えられるのか見ないことには骨のしなやかさは測れないのかもしれません。

もしかしたら骨の一部を切り出して曲げたり伸ばしたりして強度を測ることはできるかもしれませんが、実際にはなかなか難しいと思います。いまのところは骨量(骨密度)を測って大ざっぱな目安とし、ふだんの暮らしの中でいかに骨質を上げるかを考えればいいでしょう。

4 骨質を上げるには

骨質を上げるには骨そのものに多様な刺激を与えることが必要です。そうすることでコラーゲンの健康な形成が促され、しなやかで丈夫な骨が作られます。

  • ワンパターンでない体の使い方をしよう・・・特定の運動だけでなくいろんなことをやるほうがいいです。運動と名がついてもつかなくても、家事・仕事・趣味・遊びで多彩な体の使い方をしましょう。

  • タンパク質をしっかり摂ろう・・・年配の方に伺うと(タンパク質が足りてないのでは?)と思うことがままあります。筋肉や骨を丈夫にするためにタンパク質をしっかり摂りましょう。

  • 休養もだいじ・・・ホッとする時間も必要です。生活にめりはりをつけましょう。

  • 糖尿病に気をつけよう・・・糖尿病はコラーゲン老化の大敵です。甘いものの摂りすぎに注意!

  • 上半身を忘れずに・・・歩くだけでは上半身の骨質は良くなりません。手もしっかり動かそう。庭仕事や拭き掃除などもいい刺激になりますよ。

  • 栄養食品(コラーゲンなど)は不要・・・ネット情報の大部分は一種の宣伝です。商品購入を促す内容だったら飛びつかないこと。ふだんの食事に偏りがなければじゅうぶん。むだな出費はさけましょう。

  • イメージでいうと骨形成促進薬(ビタミンDなど)は骨質優位、破骨細胞抑制薬(ビスフォスフォネート製剤など)は骨量優位の薬と言えます。使い方はケースバイケースですが、わたしはビタミンDを中心に治療を組み立てることが多いです。

 

ねりまインクワイアラー 195 ブルーカーボン

 この夏も暑いですね。ブルーカーボンとは海藻などに取り込まれた二酸化炭素のこと。空気中の二酸化炭素発生量を抑えて地球温暖化を軽減するために、いま活用する研究が進んでいます。