動きを味わう
立つ。すわる。歩く。走る。誰もがあたりまえにやっている動作にも、意外なくらい個性があります。動きの個性の中には、ときにからだの故障につながるものがあります。そこで一度自分の体の動きをしっかりと味わってみると、新鮮なおどろきがあるかもしれません。
1 動きの個性とは
一番わかりやすいのは鉛筆やはしの持ちかたです。わたしは左利きですが、同じ左利きでも字の書き方は千差万別です。それと比べれば右利きは一見皆同じに見えますが、鉛筆を握りこんだような持ち方から軽く親指と人差し指でつまんだ持ち方までさまざまです。立っているとき、やや前屈みだったり反り気味だったり、背中のカーブが平べったくなることもあります。歩くときに骨盤が回転して足がスッと前に伸びる人もいれば、腰が固まったままで歩く人もいます。椅子から立ち上がるとき、からだの姿勢をあまり崩さずに立ち上がる人、一度からだを前に倒してから腰をそらして立つ人、必ず何かにつかまって立つ人などさまざまなやり方があります。
どんな動き方でも問題がなければいいのですが、エネルギー効率が悪いと疲れやすくなり、関節や筋肉に負担がかかれば故障しやすくなります。
2 仕事や暮らしの影響
人間があらゆる作業を自分でやっていたころとちがい、生活がとても楽になりました。いまは歩かずにバスや電車が使えます。水汲みに行かずに水道水が使えます。ガスコンロで煮炊きができます。電気を使って照明や風呂焚きをします。他の人がやった仕事に頼って現代的な生活が送れますが、自分の仕事は(からだの動かし方から見れば)ほぼ同一作業の繰り返しになります。
繰り返し作業で使い方が少ない部分は筋肉が弱くなり、関節がこわばります。使いすぎた部分は関節が腫れたり筋肉の故障がおきます。座り仕事では身体中をおおっている筋肉や靭帯のバランスが崩れがちで、腰痛・肩こりなどの不調がおきます。
3 動きを味わう
なんらかの不調を抱えている人はたくさんいます。そのすべてが筋肉からくるわけではありませんが、無意識に力を入れる習慣があることで、筋肉の故障を起こしていることは珍しくありません。
そこでからだをゆっくりと動かして、筋肉に力が入ったりぬけたりする感覚を味わってみましょう。たとえばゆっくりと歩きながら、この瞬間ひざはどう動いているのか、ふくらはぎの力は抜けているのか入っているのか、骨盤の動き、足の動き、腕の振りのリズムを感じます。「動く」という大きなくくりを一回捨てて、なにもかも初めての感覚で見直してみます。
おそらくはじめはよくわからないはずです。ゆっくり動きながらわずかに関節の角度を変えたり、足のつき方を変えたり、手の振り方を変えたり・・・微妙な動きを感じるには練習が必要です。
ここがかたいかな?力が入っているかな?と思ったら、わざと力を抜いてみます。寝転がってその場所をゆっくりと動かしてみます。思ったより軽い力で動かせるかもしれません。
よくあるのは脊椎の微妙な動きができなくなった状態です。背骨は小さな骨の集まりで本来は細かく動かせる仕組みがあります。ある一ヶ所だけに気持ちを集中してそこを動かせるか試してみましょう。数より質です。少ない回数で構わないのでその動きを味わいましょう。参考に「痛みのない暮らしのための筋再教育」著者クレイグ・ウィリアムソンさんのビデオ(右のQRコードを利用してください)を紹介します。いかに微妙な動きなのかよくわかると思います。
4 味わうと変わる
みなさんのからだをスマホに例えるとけっこう高性能なのですが、どういうアプリを入れるかで使い勝手はずいぶん変わります。いまあなたが使っている「運動アプリ」はだいぶ古いかもしれません。カラダは変わっていきます。赤ちゃん〜中高年、生活スタイルそれぞれに合わせてバージョンアップが必要です。動きを味わった感覚が、脊髄・脳に伝わり、運動プログラミングの修正が行われます。ゆっくりと動き、身体中にはりめぐらされた神経組織を使って動きの再調整を行う。「感じることは、すなわち生きること」だから、あたりまえと思っていた身動きにもう一度スポットライトを当てると、毎日の生活も新鮮に感じられるはずです。あせらず、ゆっくりとからだの動きを味わいましょう。
ねりまインクワイアラー 155 チーズダニ?
私が好きなチーズの一つ、エダムチーズはなんとチーズダニ(コナダニの一種)がつくことで熟成されるのだそうです。ミモレットも同じ、ちょっとびっくりですね。ダニがチーズの表面につくと独特の風味を作り出す発酵が進むのでしょう。念のため、市販品は表面を取り除いていてダニは付いていません。
無理なくモミモミ、おうちマッサージ
マッサージというと、みなさんはどういうイメージを持つでしょうか?世間的には慰安的なマッサージやクイックマッサージのイメージが強いのではないでしょうか。私もそう思っていて、医者になってからも長い間その思いを払しょくできませんでした。
しかしながら、クリニックでたくさんの患者さんを診つづけているうちに考えが変わってきました。 腰痛や肩こりに限らず、ちょっとした体の痛みの相談のうち、かなりの数が筋肉に原因のある痛みであって、マッサージやストレッチで良くすることができるのを実感したからです。 でもクリニックで治療できる時間は限られますから、やり方を患者さんに覚えてもらって家でやってもらうと大変効果的なのです。
自分でするマッサージをセルフマッサージと呼びますが、力が弱かったり手の関節症があったりでやりづらい人もいます。そこで指の代わりにマッサージ用の道具を使ってみると便利です。使い勝手を見ていきましょう。
1 テニスボール
テニスボールを使った手製マッサージ器。左はテニスボール2個を並べて靴下に入れたもの(ここでは筒状包帯で代用)で、寝転がったまま背中のアチコチに置いて痛いところを指圧します。背骨の両側を同時にできるのが便利です。右はテニスボールをストッキングの先に入れたもの。使い方はこんな感じです。
ストッキングの取っ手を手で持って高さを調整すれば、上から下までマッサージが簡単にできます。足を使って体全体をゆらすように動かせば、ボールがゴロゴロ動いて本格的なマッサージができます。
セルフマッサージのコツはやりすぎないことです。え!これっぽっち?くらいがちょうどいいのです。そのかわりこまめに一日に何回かやることです。その場で効果を期待するのではなく、2、3日たってからちょっといいかな?と思うくらいでいいのです。毎日続ければ効果が積み上がり、すばらしい結果が生まれるかもしれません。
2 マッサージ棒
一見すると妙な形のマッサージ棒。杖の持ち手に似ていますが、実際に使ってみるとこの形が便利です。
三つの取っ手それぞれの形がちがっていて、真ん中あたりを手で握って押します。足裏など厚みのある部分にもシッカリと力をかけることができます。 指の関節に負担をかけることなくしっかりと力をかけることができるすぐれた道具だと言えます。指の痛い人や女性にもおすすめで、プロのセラピストで手を痛めた人はこのタイプのマッサージ棒を使うことを検討してみてはいかがでしょうか。
日用品にもマッサージに役立つものがあります。スクリュードライバーのグリップの部分、傘の取っ手、麺棒やスリコギなどですが、角がやや鋭角で使い方によっては皮膚を痛めるかもしれません。このように家にあるいろいろな道具もマッサージに使えますが、使い方にはこつがいるようです。 最後にだいじなことを一言。痛みを感じるところと、押して痛いところは一緒ではありません。押して痛いところは、自分が痛いと思うところよりやや近位(体の中心に近い場所)に見つかることが多いです。そこが痛みの原因部位なのです。マッサージをするときは押して痛いところに行いましょう。
ねりまインクワイアラー 154 誤った記憶
テレビ番組「料理の鉄人」の名セリフ、「私の記憶が正しければ・・・」は懐かしいですが、人の記憶ほどあやふやなものはないことが最近の研究でわかってきました。記憶とはユーチューブの動画みたいなものではなく、小さな記憶の断片で構成されています。言ってみればレゴのブロックのようなもので、あとから好きな形に脳が積み上げていきます。その時々の状況に合わせて組み立てるから、出来上がりも異なります。ですから、みなさん、「言った!」「言わなかった!」の口争いはやめましょう。自分が本気で正しいと思っていても、そもそも記憶は不確かなのですから。
医療のすきま
お医者さんの専門は内科、外科、小児科、産婦人科などに分かれていますが、最近ではさらに細かく分かれて聞きなれない専門がどんどんできてきました。医療がどんどん精密になり、一人のお医者さんがすべてをカバーしきれなくなったためですが、それがいいこともあればこれは?と思うこともあります。今回は若かったころの経験をもとに少しだけお話ししましょう。
1 もとは全部一つだった
朝9時から夜6時まで昼休みを除き、びっちり授業。これが基本で、実験や実習があれば完了するまでなので、夜8時過ぎまでかかることも。夏休み冬休みは小学生なみ。それも補習や追試で削られます。解剖実習の追い込み時は徹夜する猛者もいました。これが6年間続くのが当時の医学生の生活で、今はもっときつくなっているはずです。とにかく覚えることが多いのが医学部の特徴です。知識はどんどん増えるのに、人間の能力は以前のままです。むかしは一人のドクターがあらゆる病気を診ていたのが、今の高い医療水準をたもつためには分担が必要になってきたのです。
2 話を聴く
いまとちがって研修医はほぼ無給、そのため夜間救急のバイト代で暮らしていました。診療技術はおぼつかなく、できる検査も限られひやひやの毎日で、腹痛や胸の痛みを訴える患者さんが来ると大変、あわてて当直室で医学書のページをめくります。
そんな中でひとつ学んだことがありました。よく聴くと患者さんの話にヒントが隠れているのです。だから外来では話を注意深く聴くことを心がけました。
ある日背中の痛みを繰り返し訴える年配の女性の話を聴いているとき、身動きに関係なく痛みが出ることに気がつきました。内科に相談するも戻され、また相談しては戻され…最後に膵臓の病気が見つかりました。
腰下肢痛で診るもじつは大動脈瘤、股関節痛の原因が特殊な腸ヘルニアだったなど、問診・触診で運よく診断できた経験が続いたので、しだいに診断学にのめりこむようになりました。なかでも痛みを扱うぶ厚い医学書に出会ったことが大きな転機となりました。
3 びっくりの経験
外科医のトレーニングや研究とは別に、触診や手を使う診断治療を扱う本を少しづつ読み始めました。そこには一般の医学書とはちょっとちがう世界が広がっていて、ほんとにこんなことがあるのかな?と思うような経験例が多数書かれていて、半信半疑ながら興味をもって読み込んでいきました。
そんなある日、大学病院の外来に内科入院中の患者さんが廻ってきて、たまたま私が診ることになりました。右のわき腹痛で半年の間入院している方でしたが、当時考えられる検査をすべて行っても痛みの原因が突き止められませんでした。そこでほとんど期待せずにまあ整形外科にも診させておこうということになったようです。
よくわからないがとにかく触診が大事!と思った私が胸のある場所を軽く押すと、患者さんが「痛い」と言います。そこでもう一回押したとたん、ぼこん!と衝撃がして患者さんが「ぎゃ!」と叫びました・・・意図せずに行ったこの一押しで患者さんの痛みは全快し、内科のドクターも私もよくわからないまま患者さんは無事退院しました。
4 医療のすきま
これは決定的な出来事で、難しい手術をこなす有名なドクターになるという野心がなくもなかったのが、地味にこつこつ患者さんを診る今のスタイルを求めていくきっかけとなりました。テレビドラマに出るようなすごい病気やけがを扱う世界は(それほど劇的ではないにせよ)実際に存在します。しかし、一般の外来では、有名な病気と病気のはざまに名前もつかない小さな故障があって、意外な症状が現れることも知ってもらいたいのです。
そして小さな故障は小さいだけにみつけにくいです。命にかかわる故障ではありませんが、症状から深刻な病気と見誤ることがあります。とくに痛みの診たてには小さな故障が混じっていて、診断が混乱しがちです。こういう小さな故障は医師の専門の中心ではなく隅っこのほうにありますから、どうしても注目されにくく、ときに忘れられがちです。たとえば整形外科では骨折、スポーツ医学、骨粗しょう症や骨腫瘍は専門の中心ですが、病名のつきづらい腰痛や肩こりははじっこのほうと言えるでしょう。顎関節痛にいたってはどの科のお医者さんも専門と思っていない節があります。同じことが医療のすきまのあちこちで起きているかもしれません。すきまの診療はたいへん地味なのですが、やってみると結構おもしろく、それなりに技量も必要です。もっと多くのドクターに関心を持ってもらいたい。そう願っています。
ねりまインクワイアラー 153 ねりまちてくてくサプリ
スマートフォンにいれるアプリの一つです。スマホを持ち歩くだけで一日の歩数をカウントしてカレンダーにのせてくれます。キャンペーンを行っている期間、目標歩数に達すると賞品をもらえるみたいなので、今度やってみようと思います。ちょっとウォーキングでもしようと思っている方は試してみるといいですよ。
力を抜く
数十年ぶりの強さの台風で家にこもっているので、ちょっとむずかしいことを書いてみましょう。表題のように余計な力を抜くことはとても大事です。うまく力が抜けているだけで痛みが消えてしまうこともあり、そもそも体が故障しにくいのです。でも、力を抜くということはほんとうに難しい。私の体験談を交えてお話しします。
1 「力をぬく」ことは脱力ではない。
脱力発作という特殊なてんかんでは崩れ落ちるように倒れてしまうのですが、普通の人はここまで脱力することはできません。神経系には姿勢や動作をコントロールしている無数のシステムが働いています。車を運転する人はハンドルとアクセル・ブレーキだけ意識していても、現在のコンピューター化した車では複雑な制御が行われているのと同じです。すなわち「力を抜く」とは、なめらかにハンドルを回し、絶妙のタイミングでアクセル・ブレーキを踏むことと考えるとわかりやすいと思います。最高の動きをするためには不必要な筋肉の緊張を取り去るが、なおかつスムーズに力を抜いたり入れたりすることが「力を抜く」意味だと考えてください。
2 技を磨くということ
私の経験をお話しします。あるとき何気なくネットを見ていると、一輪車のブログを見つけました。50歳を超えると一輪車に乗れないと書いてあったので、「?」と思ってさらに調べると70歳で乗れるようになった人もいることがわかりました。
それならということで一輪車を購入したのですが、いざやってみるとサドルにまたがるのも大変で、手すりに両手で必死につかまり、なんとかペダルに足をかけたものの前後左右にぐらぐら動いて手を放すどころではありませんでした。そんな状態から始めて雨の日も風の日も手すり磨きをつづけたある日のことです。手を放してペダルを回すことがほんの2,3メートルだけどできました!そこからだんだんと距離が延び、電柱一本ぐらいの距離は走れるようになったものの、今度は息が上がって続きません。疲れてそれ以上は進めませんでした。
そんなある日、ふっと体が軽くなる感じがして、息が上がらずに50メートルくらい走れました。そこからは順調、長い距離も平気、楽に曲がり、坂を上り下り、軽くジャンプもできるようになったのです。ここまで来てやっとわかったのは、それまではがちがちに力が入っていて、ずっと息をつめた状態だったのですね。最初からリラックスしていればもっと早くから乗れたのに…と思いましたが、あとの祭り。いきなり力を抜くことはできないようです。
最近のことです。競歩を数年前から続けて最低限の動きはできるようになったものの、速く歩くと息が上がって続きません。ある日、ユーチューブを見ていたら競歩しながら笑ったり話をしている人がいるぞ!と気付きました。そんなことができるのなら、もっと楽をしてもいいんじゃないか!そう思ったのです。じゃあタコのようにやわらかくなって、お尻をフリフリ歩いてやろう。思いっきりくねくね変な格好で歩いてみました。あれ?この感じ、これなら長く歩けそう。街のウインドウに映る姿は意外にも悪くない。競歩っぽい。この感じがわかって、かなり歩くのが楽になってきました。
3 力を抜くじゃまをするものと対策
自分の経験、スポーツ医学やボディワークの知識から力を抜くさまたげになることをあげてみました。
からだができていない 一輪車になかなか乗れなかったのは、体幹の筋力が弱かったことが一番の理由です。私たちの筋力はごく普通の生活をしているだけで落ちていき、とくに体幹の衰えは著しいです。年をとったら筋トレは必要です。
早く結果を出そうとする はじめから速く歩こうとしたのがいけませんでした。じっくり歩型を身につけるよう教わったのに、忍耐心がなさすぎです。こういった余裕のなさも力みの原因になります。またそれぞれのスポーツで筋肉の使い方もちがいます。筋力だけでなく神経系を慣らしていく練習が必要です。
姿勢メーターの目盛りが狂う 一輪車・競歩ともに姿勢はまっすぐがいいのに、実際は背中が反り気味になっていたようです。からだを積極的に動かさなくなると、位置感覚の目盛りが少しづつ狂ってきます。まっすぐ立っているつもりでねこぜやそり腰になっている人は珍しくありません。鏡やビデオを利用して修正しましょう。
人の目が気になる 気にしないようでも気になっているものです。対策としては、まずあまり人気のないところで練習し、上手にできるようになったら人の目に触れて場数をこなすといったところでしょうか。競歩の場合、ランニングマシン上で目をつぶると歩きに集中できました。ほかの競技でも基礎トレやシャドウ・トレーニングのときに応用できそうです。
思い込みを消す なんとなくこうあるべきだと決めつけていることがあるはずです。ためしに真逆のことをやってみるのも手です。競歩でもがんばって歩くという思い込みを消すことが必要だったのです。
ねりまインクワイアラー 152 マッサージ棒を使おう
自分でするマッサージはおすすめなのですが力が弱かったり、指の関節痛があったりで難しい人もいます。そんなとき、スクリュードライバーの頭、かさのとって、すりこぎなどつかみやすく先が丸くなったものを使ってマッサージするといい感じです。自分でやるから痛みの加減ができて安全です。もう少しいいものが欲しいと思ったら、市販のマッサージ棒を使ってみましょう。ネットで検索するとたくさんみつかります。
ヒトのトリセツ
いろいろな道具や機械を買うと、取扱説明書がついてきます。書かれたとおりに使えば壊れにくく、長持ちするのですからだいじな情報です。私たちのカラダにもトリセツがあったら、どんなふうなのかな?とチャレンジしてみました。
ヒト(ホモ・サピエンス)現行型 取扱説明書
このたびは当社の製品をご購入いただきありがとうございました。末永くご愛用頂けるように、以下、使用上の注意点をお守りください。
1 毎日の使用が必要です
本製品は毎日の使用を前提として設計されています。使用せずに放置しておくと各部に廻る血流量が減少し、老廃物が蓄積されがちです。むくみ・関節のこわばり・腰痛・肩こり・便秘などさまざまな不調の原因になりますので、手足のすみ
ずみまで一日に何回か動かすことをおすすめします。
2 週に数回しっかりと動かしましょう
本製品には自動調整機能が内蔵されています。使用率が比較的少なく、低い負荷で使い続けた場合、自動調整機能により心臓・血管・筋肉・じん帯そのほか動作に関わる組織が弱くなり、強めの運動や緊急の際に故障することがあります。毎日の使用とは別に、週に数回やや強めに体を動かす時間を作りましょう。
3 長時間の連続運転は×
本製品には自動回復機構が組み込まれており、これを十分に活用することで、長期にわたるメンテナンスフリーを可能にしています。回復メカニズムはおもに夜間に働きますから、一日7・8時間程度睡眠をとる必要があります。やむを得ず連続使用した場合は、十分な休養・回復期間を置くことをお勧めします。
4 集中制御装置(脳)について
本製品はスーパー・コンピューター・システム(脳)を搭載しています。脳の機能維持のため、からだの各部分と同様上記1~3の項目をお守りください。また経年変化を受けやすい部分ですので、強い負荷や連続運転はできるだけ避けることをお勧めします。
5 燃料について
本製品はさまざまなエネルギーに対応しています。ほぼ地球上のすべての地域でエネルギー供給が可能となっています。エネルギーとなる生物資源(動植物)の詳細については各地のユーザー情報を参考にしてください。またオーダーメード製品ですので、最適の燃料構成にはばらつきがあることをご承知ください。
6 毎日のお手入れ法
・適度に汗をかくことは肌の保湿・バリア形成に重要です。適度な運動をお勧めします。
・運動は腸の機能に重要です。腸の機能維持のためにも毎日運動してください。
・皮膚にビタミンD合成機能を搭載しています。毎日20~30分の日光浴が必要です。骨・免疫・脳機能維持のためこまめに太陽に当ててください。
7 故障かと思ったら
・何らかの不調が見つかった場合、上記1~3の手順を繰り返してください。それでも改善しない場合はサービスショップにご連絡ください。
・ときどきコンピューター(脳)のオーバーホールを行ってください。通常運転をいったん休止し、デバグやファイルの管理、不必要なプログラムの整理を行ってください。友人とのチャット、旅行、新しい冒険、お笑いなどのリカバリープログラムを実行してください。
ゴッド&ネイチャー・コーポレーション
ねりまインクワイアラー 151 キャッシュレス社会
現金(キャッシュ)を持たないで暮らしができる?そんな生活が現実味を帯びてきました。最近JRが発行するSUICAカードをスマホに移し替えて、モバイルSUICAを使い始めました。駅の売店や自販機でスマホを機械にあてるとあら不思議!お金を払わなくても物が買えます。いや、正確にいうとお金を払っているのですが、すべてが電子世界の中で取引されて、最終的に銀行の預金口座から差し引かれるのです。
ICカードやスマホを持ち歩けば都市近郊なら現金なしでも生活できます。でも田舎では?小さな街のお店では?スマホの電池が切れたらどうする?停電したら?まだまだ問題点は多く、お金の出番はそう簡単には消えないでしょう。それと電子マネーの会社がどうやって利益を出しているのか不思議です。クレジットカードの場合、加盟店から手数料をとっていますが、現在盛んに宣伝しているペイペイ、LINEペイは今のところ手数料をとっていません。顧客獲得競争を勝ち抜けばいろいろな商売のタネがみつかりそうですが、それまでは体力勝負の消耗戦が続きそうです。
筋肉のことをもっと知ろう
35年前、医者になりたてのころと比べると、一番ちがうのは筋肉の見方が変わったことです。筋肉と言えば肉離れや打ち身ぐらいしか思いつかなかったのが、今では体中の痛みやしびれの原因を探るときに筋肉の故障を調べるのが必須だと考えています。今回は筋肉のお話です。
1 肩こりや筋肉痛は医学部で教えない
日本だけでなく世界の医学書を調べても、肩こりや筋肉痛を細かく書いている本はありません。医学がダイナミックに役立つようになったのはほんの最近で、これまでの専門書は「いかに命を助けるか」について書かれていました。栄養状態が改善し、病気で亡くなる人が減って長生きが当たり前になった現在では、「死ぬようなことはないが、なってみると不快でつらいからだの故障」が増えてきました。その一つが筋肉に原因があって起きる様々な不調(痛み・しびれ・まひなど)で、よくある症状なのですが、本人も筋肉が原因とは思わず、診断でも見誤りやすいものです。
運動不足の人が急に体をいっぱい使うと「筋肉痛」になりますが、ここで言う筋肉の故障は別物です。きつい運動や打ち身などの外傷をきっかけとして起きることもありますが、多くの場合、仕事で行う繰り返しの作業、日常生活で行っているしぐさやくせ、疲労の蓄積や睡眠時間の不足、栄養のアンバランスなどが合わさって故障します。まれに自分で触って痛い筋肉を見つける人がいますが、ほとんどの人はさわって痛む場所を自覚せず、神経痛や関節痛、ときには内臓の病気と誤解されていることもしばしばです。
2 さわらないかぎりわからない
ほかの病気と見誤りやすい最大の理由が「さわらないとわからない」ことです。MRIという診断装置が現れたとき、何日もかけて検査をしていたことがわずか数十分でわかるようになってショックを受けました。しかし、筋肉のどこかにまわりよりも固いこわばりがあり、押すと痛む場所があることを明示してくれる装置は残念ながら今でも存在しません。
また、患者さんが痛いと自覚している部位の直下に原因となる筋肉があることはまれで、少し離れたところにみつかることが多いのです。筋肉の端には起始停止という2か所の付着部があって、ここに痛みを感じることが多い一方、故障そのものは筋腹(筋の真ん中)に多いのが一つの説明です。さらに全身にはりつめられた神経の仕組みによって遠く離れたところに痛みを感じることがあります。こういったわかりづらさがあり、一見するとなんだか適当に説明をつけているようだし、画像診断のようにはっきりわかる証拠(データ)もなく、「押して痛いから、ここが原因」と言われても…ちょっと納得しずらいかな?と思う気持ちはよくわかります。
3 例を挙げると…
手首が痛いという相談では前腕筋の故障が理由のことがとても多いです。五十肩の大半は腱板という肩口の筋群に故障がありますが、患者さんが自分でもんだりシップを張っている部位はほぼ「はずして」いることが多いですね。
腰痛は一つの病気ではなく、脊椎やその周りにあるたくさんの付属構造物に「何かが起きている」ときに感じる症状です。筋肉はその原因の一つなのですが、痛みの原因部位(筋)と自覚症状の部位(腰痛)がけっこう離れていることが多いです。何年も痛いという相談でも、実態は「筋肉の故障」だったことはめずらしくはありません。
股関節痛、膝の痛み、下腿・足の痛み、坐骨神経痛。こういった相談でも筋肉の故障が隠れていることがあります。骨や関節の故障に付随して起きていたり、単独でおきていることもあります。ながらく神経痛、関節痛だと思っていたらじつは筋肉が原因と言われてびっくり!ということがあります。その反対もありますから、レントゲンなどの検査と触診などの診察を組み合わせて診ることがとても大切です。
4 セイケイゲカはバックカントリー
バックカントリーとは整備されていない自然状態の野山のことです。都会を離れて観光地に行くと「やっぱり自然はいいなあ!」と思ったりしますが、ほんとうの自然は過酷で何が起きるかわかりません。道もなく、毒虫も蛇もいます。ルールがないのであらゆることを想定して準備しなければ、入ることが危険です。
整形外科医として長年過ごしてみると、循環器科、消化器科のような内科系の診断学は整然としてきれいに見えます。先人たちの努力があってそこまで来たことはわかっていますが、それに比べると整形外科の世界はワイルドです。ホネ、カンセツ、シンケイ、キンニクそのほかなんでもあり!道はありますが、舗装路以外に農道・林道、それどころかシングルトラックの山道があり、けものみちと間違えそうなところもあります。整然とした都会の町並みは美しく見えますが、私としては山道に入ると楽しいのです。何でもありだから、役に立つことなら何でも試してみる。危ないと思ったら、引き返す。崖から落ちたりせず、道迷いもせずになんとかゴール(山の頂上)に着いたらきっと楽しいはず。そう思って仕事をしています。
ねりまインクワイアラー 150 水耕栽培ビジネス
土を使わず、循環水を用いて根から栄養素を吸収させる水耕栽培。未来型の農業ビジネスとしてブームになりましたが、なかなか利益が出ませんでした。ブレークスルーとなったのは、なんとLED!。LEDは明るいうえに熱があまり出ないので、建物内で多段式に栽培できるようになりました。また、できた野菜の品質が安定しており、病害虫がつかず、衛生的で安全性が高いのが特徴です。コンビニやスーパーで売られるお弁当やサンドイッチに最適です。食べてみるとみずみずしく柔らかい。値段がもうちょっと安くなれば最高です。
魔法の弾丸
先日、鍼や漢方を研究する学会に参加した時のことです。東洋医学特有の診察をして実際に鍼を打つデモンストレーションを見ていろいろ考えました。漢方は私も使っていますが、鍼にはまたちがった考え方があるようです。どんな治療法にも得手不得手があって、東洋医学も万能ではありませんが、ときにはすばらしい効果があることも知っています。と同時に、同じ症状を治療するなら西洋医学のほうがはるかにスピーディで確実に治せる場合があることも知っています。
独特の診断・治療法は世界中にたくさんありますが、ほかでは見落としている治癒のメカニズムを上手に使っている方法があるかもしれません。そういったすべてをかみわけて、「ワンストップで必ずベスト」の治療を提供できる病院(クリニック、接骨院、治療院、鍼灸院そのほか)はありえるのでしょうか?
1 ベストは魔法の弾丸
講演でひざの痛みに灸をしたり、くびが回らない人に鍼を打った症例などの説明がありましたが、(この症状ならマッサージのほうが効くのでは?)(これは薬のほうが絶対早いはず!)と内心思うケースもありました。でも、すべての治療の神髄を会得している人はいないのです。まったく逆に、(この例だったら鍼が絶対いい!)ということもあるでしょう。
最高の治療とは、「年齢・体質など個人の特質に関係なく、副作用もなく、一発で、苦痛もまったくなく、100パーセント症状が消えて、再発などのあとくされもない治療」のことです。パッと飲んだらあっという間に治るクスリという考えを魔法の弾丸と呼びますが、言い換えると「奇跡」が最高の治療であって、これはムリな相談です。では、今ある無数の治療法の中から、ある人にとって一番いい方法を見つけられる医師(治療家、ヒーラーあるいはコンピューター?)はいるのかな?これが気になります。
2 人は死ぬもの
こういう仕事をしていると、根っこの部分ではいかに生きるか・死ぬかが問題だと感じています。永遠に生き続ける話(不老不死の伝説、手塚治虫さんの「火の鳥」など)は魅力的ですが、そんなに長く生きて楽しいのか考える必要はあるでしょう。
映画「永遠に美しく」のように、腹に向こうが見えるほどの大穴が開いてもアタマがちぎれても生き続けられたら恐ろしい気がします。SF小説「老人と宇宙」では、現役引退した年寄りたちが軍に入隊し、最新のテクノロジーで強化された新しい肉体を与えられてエイリアンと戦います。一度死んだようなものだから心おきなく戦えるし、ふだんはスーパーボディで好きなことをやり放題というわけで希望者が続出します。
映画「アンドリューNDR114」は人間そっくりのアンドロイドが主人公です。はじめはロボットっぽいのですが、しだいに改良されてほとんど人間と区別がつかなくなります。ところが一緒に暮らしている人間の家族はどんどん年を重ね、世代を交代していきますが、アンドリューはまったく年をとりません。かわいがっていた赤ちゃんが成人し、やがて年老いて亡くなっていくのを見たアンドリューは決心し、最新のテクノロジーを使って人間に生まれ変わります。人間になれば、自分も年をとって死んでいくことができるのですから。
3 AI(人工知能)ならできる?
さて、すべての診断・治療法に精通し、酸いも甘いもかみわけて、100パーセントもっともいい治療法を見つけられる診断法はできるのでしょうか?どんなに研鑽しても一人の人間には不可能だと思います。ではAIならどうでしょうか?
世界中の研究機関、大学病院や学会から知識を集め、代替治療のみならずちょっと怪しいがひょっとしたら役に立つかもしれない治療法まで情報として飲み込み、思い込みや偏見などの人間くささとは無縁。でもアンドリューのように人間の弱さも理解して、ときにははげまし、ときには慰める。すべては電子世界のアルゴリズムで動いていても、限りなくかんぺきに近い未来の医師は、クラウドを使って世界中に現れるかもしれません。今はわかりませんが、案外近い将来にみなさんの街に来るかもしれませんよ。
ねりまインクワイアラー 149 ウォーキングは奇跡のクスリ
海外からのメール通信、ハーバード大学医学校発の「ウォーキング:5つのおどろくべき効能」を紹介します。
1 毎日1時間しっかり歩くと、肥満遺伝子の働きが半分になる
2 毎日15分歩く習慣があると甘いものを欲しがる傾向が減る
3 週に7時間以上歩く人は乳がんの発症率が14%減少する
4 週に少なくとも10キロ歩く人は変形性関節症の発症率が下がる
5 週に5日一日20分以上歩く人は感染症にかかる率が43%も下がる
著者によれば、考えられる限り奇跡の治療に近いのはウォーキングだそうです。私としては、4番の関節症の話を強調したいです。レントゲンで変形があっても今それほど痛くない人たちに、ぜひウォーキングをお勧めします。もちろん10キロ以上歩いてもオーケーですよ。
転ばずに動く!
転ぶ人がとても多い。最近のクリニックでの印象です。人間の赤ちゃんは生まれたとたんに歩くことができないので、1年以上かけて歩くことを学びます。このときに脳や神経が学習して体の動かし方を覚えるのです。記憶と同じように、覚えたことは忘れます。立ったり歩いたりは生まれつきの能力ではなく学んだことです。だから忘れたら、もう一回練習しなおす。そうすればまた歩く能力はよみがえってきます。
1 立ち上がりのひとふんばり
赤ちゃんが始めて立ち上がった時を見てみましょう。それまでつかまって立っていたのに、はじめて立ち上がる時です。ゆっくりとお尻を持ち上げて膝を伸ばしながら、床に置いた手をそっとはなします。お尻の筋肉を使って用心深くからだをおこし、最後に背筋を伸ばします。こういう動きができるように、数ヶ月の間ハイハイをしたりつかまり立ちをしてお尻の筋肉を鍛えたり、バランス感覚を磨いてきました。
そっと立ち上がる動きをするにはおしりの筋肉がしっかりしていることが必要です。ところが座り仕事が一般的になり、車や電車での移動が増えたためか殿筋が弱くなっている人が増えています。殿筋が弱いといざという時に踏ん張りが利かず、よろけて転んでしまいがちです。
そこでお尻を鍛えましょう。やることはとても簡単、ゆっくりと立ち上がるだけです。はじめのうちはどこかにつかまってかまいませんから、そうっとお尻を浮かして、椅子の座面から数センチ浮かしたまま踏ん張ってみましょう。慣れてくるに従い浮かしている時間を伸ばしていきます。これは等尺性筋収縮という効果的な筋トレ法です。毎日無理のない範囲で繰り返してみましょう。だんだんと立ち上がるときにからだがしっかりしてきたことに気がつくはずです。
2 もう一歩前へ
よく転ぶという人たちの特徴の一つは、足を使う前につかまろうとすることです。短い時間ならつかまらないでも立っていられるが、つかまったほうが安定するのでつかまっている。こういう人ならつかまろうとして手がすべっても、つかまったものがぐらついても転ばないで済むでしょう。
ところが文字通り体を支えるためにつかまろうとすると、手がすべったりつかまったものがぐらついてだけで転んでしまいます。これを避けるためには、いつももう一歩前に足を運んでからつかまるようにすることです。手を伸ばしてつかまろうとするのではなく、つかまるものに十分体を近づけてからつかまるようにしましょう。
3 足元から動く
まだリモコンがなかった頃のテレビでは、チャンネルを変えるときにテレビのところまで歩いて行ってがちゃがちゃチャンネルを回していました。部屋の明かりはひもをひっぱって点灯していましたし、風呂を入れるときはガス釜のそばにしゃがみこみ火をつけていました。今から見るとずっと不便でしたが、家の中でいまより足をたくさん使っていました。今はリモコンやスイッチでいろいろなことができるようになりましたが、その分足腰を使う機会が減ってきています。
転びやすい人の別の特徴は足を動かさずに用を済まそうとすることです。すわったまま、上半身をひねって横や後ろにあるものを取ろうとします。椅子やベッドに座っていて転んだという人の話を伺うと、立ち上がってからだを動かす手間をはぶこうとしてバランスを崩していることが多いようです。
だから無精がらずに足をこまめに動かすことです。体の向きを変えるときは体をひねるのではなく、足元を動かして向きを変えましょう。
4 危なっかしいときは三点指示
登山をしたことがある人はご存知と思いますが、ゴツゴツした岩場など危ないところを通る時には三点支持のテクニックを使います。三点支持とは合計4本の手足のうち必ず3本を地面や岩に置き、残りの一本だけを動かす方法で、たとえば左手・両足を固定したまま右手で上の石をつかみ、しっかりとつかめたら今度は他の手足のどれか一本を動かしていきます。
つかんだ手がすべったり岩の上に置いた足が滑ったとしても、かならず残りの3本で体を支えているので危険なところでも安全に通ることができる方法です。
この三点支持のやり方を家の中でも利用してみましょう。足腰の力が弱っている人がせまいところから物をとりだしたり玄関など段差のあるところを上り下りする際に、しっかりしたところを選んであちこちにつかまりながら移動してみましょう。がっちりつかめた、きっちり足で体を支えられたと確認してから別の手足を動かすようにすれば、怪我をする機会がぐっと減るはずです。
ねりまインクワイアラー 148 汚れたプラスチック
リサイクル資源として輸出されたプラスチックが「汚れている」とリサイクルできず、相手国にとても迷惑をかけています。では汚れたプラスチックとはどういうものなのか? 「資源プラスチックになるのは水でさっと洗う、簡単にふき取る程度で落ちるもの。水でさっと洗う、簡単にふき取る程度で落ちないものは、資源ごみとして出さないこと」だそうです。マヨネーズやケチャップの容器はだめかな。キムチの容器も危ないかもしれません。
どんな治療が効くのかな?
何度もくりかえし読む本の一つにバーナード・ラウン博士の「医師はなぜ治せないのか」があります。現在AED(自動体外式除細動器)が病院や街のあちこちに設置され、突然の心停止からたくさんの人たちを助けられるようになってきました。そのもととなる体外除細動器を発明して、ノーベル医学賞をもらったのがラウン博士です。では、えらい学者先生の成功談の話かと思うとさにあらず、駆け出しのお医者さんが失敗を繰り返し、さまざまな問題にぶつかりながら「何が患者さんを良くしているのか」「治るきっかけとは何なのか」を探求していきます。本をのぞきながら考えたことをお話ししましょう。
1 名医の秘密
若きラウン医師の恩師レヴァイン博士は名医として有名な方でした。博士の回診では、患者さんと気軽に会話しながらちょっとしたヒントを見つけていきます。寝汗で枕が濡れている患者さんに気がつくと、枕を返して乾いたほうを上に向け「ほら、これで寝やすくなるよ!」と声をかけます。ちょっとした顔の表情や体の動きから重大な兆候を見つけ出し、まわりの医師にはなんだかわからないうちに診断を下し、さっと薬を出すとこれがまたよく効くのです。
ところがある若手の医師が「レヴァインの治療はいい加減で全然理論的じゃない」と言って、回診に参加しなくなりました。いっぽうラウン医師は(確かに診たてははっきりしないのに、なぜあんなに良く効くのだろう?)と不思議に思い、なんとかレヴァイン博士の診たての秘密を会得しようと週に六日回診に通うようになりました。
それから11年間、ラウン医師は足しげく博士のもとに通います。しだいに秘密がわかったラウン医師はなげきます。「なんと物分かりの悪かったことか!」
2 常識を乗り越える
そのころ心筋梗塞にかかった人たちはベッド上で何か月ものあいだ絶対安静を保つように指導されました。梗塞になった心筋に無理がかかれば心臓が破れて突然死をするのではないかと医師たちが恐れたためでした。
しかしラウン博士は考えます。ほんとうの急性期を過ぎたなら、むしろ体を動かして少しずつ心臓を鍛えなおし、心臓のポンプ作用を働かせたほうが患者は元気になるのでは?そこで急性期を過ぎた患者さんを慎重に動かし始めると、そのほうが早く確実に患者さんが元気になることを発見したのです。このやり方は、現在心臓リハビリテーションと呼ばれていて、心筋梗塞後の標準治療の中に組み込まれています。
3 その人を知る
病棟にひどい不整脈の患者さんが入院していました。ところが患者さんは腰痛にとても困っていて、これを何とかしてほしいと訴えていました。でも不整脈の治療で電気除細動を行う必要があったので、ラウン博士は患者さんに説明してみます。「それをやったら腰痛が治るの?」 ラウン「ええ治りますよ!」
聞いていた研修医が「そんなばかげた話は聞いたことがない!」と言いますが、博士は耳を貸さず除細動治療を行います。終わった後、患者さんは憤然としてこう言いました。「あの若い医者に言ってやがるんだ!バカなのはあんたのほうじゃないか!みごとに治ったよ!って。」
見るからにはかなげな若い女性が入院していました。ちょっと歩くだけでも苦しそうにしています。心臓弁の働きが悪く心臓が弱っていると診断されていました。細かく診察したのちに、博士はこう伝えます。「いろいろ調べた結果、だいじなことがわかりました。」 「なんでしょうか?」 「あなたの手がじっと汗ばんでいることです。それ以外は何ともありません。汗のことを気にせずに、握手のときは相手の手をしっかりと握り返しましょう。あなたの問題点はそれだけです。」入院して以来、患者さんは初めて微笑みます。そして1週間後、元気に退院していきました。
4 治癒力を発動するもの
「治せる医師・治せない医師」「医師はなぜ治せないのか」の2分冊が発刊されて20年以上たっていますが、今でも時折ページをめくっています。11年の間お師匠さんのもとに通いつめてラウン博士が会得した名医の秘密とは何だったのでしょうか?本のなかでははっきりと述べられていませんが、オリジナル英語版の表題は「失われし治癒の技~医療における思いやり(compassion)の実践」です。このcompassionという英語は、日本語の「思いやり」よりもずっと深い意味を持つと思います。相手の心にもう一人の心が響きあい、からだに本来備わっている治癒の力が発動される。こんな感じでしょうか。ラウン博士には及びませんが、思いがけない治療の経験は医師ならだれにでもあるのでは?と考えます。仕事に疲れたとき、読むと少し元気が出る本です。
ねりまインクワイアラー 147 本に興味を持った方へ
「医師はなぜ治せないのか」「治せる医師・治せない医師」は築地書館から出版されましたが、いまは中古本で入手可能です。オリジナルのThe Lost Art of Healingはアマゾンなどで購入できます。一般向けに書かれていますので、興味のある方は是非読んでください。年をとったラウン先生は、「いつもお元気ですね!」「お若いですね!」と言われると、オレはもうろくしたのか?と心配になるそうです。
なんでもないからタイヘンなのだ!
からだの不調を感じ始めたけれど、何が原因なのかさっぱりわからない。こんなときは不安になるものです。思い当たるフシがないので何かわるい病気になったのではと心配する人もいるでしょう。でもちょっと落ち着いて考えると、一見何もないように見えるところに理由が見つかるかもしれません。
1 やりすぎ君の場合
やりすぎ君は真面目な性格で、締め切りに合わせて残業することもままあります。残業が続くと疲れを感じることもありますが、休日の家族サービスもできるだけやっています。忙しいけれど、まわりも同じくらい忙しいので、とくに気をとめていませんでした。
あるとき同僚が突然退職し、忙しい時期に重なったため、仕事量が急に増えて連日の残業が続きました。持ち前の几帳面さで仕事をこなしていましたが、肩や背中が張って、頭痛を感じ、しだいに腕が痺れてきました。病院でははっきりしたことはわからず、症状はなかなかスッキリしません。いったいオレの体はどうなっているのだろう?と心配になってきました。
2 のんびりさんの場合
のんびりさんは定年退職し、朝起きたらゆっくりとご飯を食べて新聞をじっくりと読み、ごろっと寝転がって過ごしていました。最近用事があって街中に出かけたときに、からだが重苦しく足が疲れやすいことに気がつきました。散歩をしてみると、ふらつきを感じ、腰が重だるくなります。何かの病気かな?と心配になってきました。
3 いっぱいさんの場合
いっぱいさんは会社を経営しています。売り上げは着実に伸びていますが、安泰とは言えず、あちこちを駆け回る毎日です。家庭にじゅうぶんな時間を割けないので家族には申し訳なく思っています。ところが、田舎の父が急に病気で倒れてしまいました。一命は保てたものの、父の生活をどうするか、田舎は行くだけでもたいへん、妻にも負担をかけているし、会社は忙しい時期にさしかかっています。
そんなある日、突然息苦しくなって目が回り、口のまわりや指先が痺れて救急車で病院に運ばれてしまいます。検査でおかしな点は見つからなかったものの、実は深刻な病気が隠れているでは?と心配です。
さて、三人には何が起きたのでしょうか?
4 理由は「なんでもない毎日」にあり
やりすぎ君は仕事を多く抱えていて、じゅうぶんな休養ができていません。現在ほとんどの仕事は、からだ全身を使うよりも一部分だけを繰り返し使う作業が大部分を占めています。とくに手を使う仕事、なかでもパソコン作業では1日何千回とキーを叩いたりクリックするので、腕の筋肉の疲労は著しい一方、くび・肩はじっと固めて動かさないためコリがひどくなります。これを毎日続けると累積疲労でくびから肩・腕にかけて痛みや痺れが生じてきます。本人にしてみれば「普通に働いているだけ」なのに困った症状が出てくるので、原因がわからないと考えてしまいがちです。
反対にのんびりさんは急に体を動かさなくなったのが原因です。仕事に出かけることでそれなりに体を動かしていたのが、退職後のんびりとしている間に著しく体力・筋力が落ちてしまったのです。このパターンの相談はけっこう多いです。
いっぱいさんの場合は、ストレスが問題です。ふだんからストレスレベルは上限ギリギリだったのに、親の病気というひと押しで心の救難信号が灯り、神経系のバランスを崩してしまったのです。
5 メリハリのある暮らしをしよう
やりすぎ君のように、いつも同じ暮らしをしていても、疲労が積み重なれば体の故障が起きます。がんばるときはがんばるけれど、休養をしっかりとって、スポーツや遊びで体にちがう刺激を入れることが大切です。のんびりさんは楽をし過ぎたために、普通の暮らしをするにも困るくらい体力が低下してしまいました。すぐに疲れてあちこちが痛くなりますが、気を持ち直して体を使い始めればしだいに体力が戻り、痛みも軽くなってきます。
いっぱいさんのようなストレスの問題は、現代人の生活にあまねく存在すると言っていいでしょう。ストレスはありすぎてもなさすぎても問題で、ちょうどいいレベルで負担がかかっているときに体・心にはりが生まれ、元気に暮らすことができます。ときには生活を見直して、もっとゆったりとした生活に変えていくことも必要です。
外来にこういった相談で訪れる方は決して珍しくありません。薬・リハビリだけでの解決はむりなので、患者さんと相談しながら、生活の組み直しをお手伝いできればと考えています。
ねりまインクワイアラー 146 腹診(ふくしん)
漢方を習い始めたころ、とまどったことの一つが腹診です。お腹をさわって、かたく張ったり押して痛いところを探します。これを虎の巻で調べると、あら不思議!その人に向いたクスリがみつかるのです。ところがどうしてそうなるかがわかりません。「昔から伝わっているから、とにかく信用しなさい」と言われているようで気がかりでした。
でも最近、神経のつながりで説明できるという研究が増えてきました。これなら納得できそうです。
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