目白ヨシノ治療院

目白ヨシノ治療院は新宿区下落、目白駅から徒歩3分、マニュアルメディシンを用いたマッサージ、手技治療,リハビリの専門治療院です。病院では特に問題のなかったつらい症状、日常生活で困る痛み、肩こりや腰痛、首の痛み、またはよく分からない目の奥の痛みや頭痛など機能障害に関する問題の治療を行っています。

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松ぼっくり通信 2024年 5月号

やれちゃうトレーニング

ストレッチ・筋トレははまる人ははまるけれど、はまらない人はまったくはまりません。時間が取れなくても、体力がなくても、そもそも運動が嫌いでも、なんとなくやっているだけなのに後から見れば全然ちがう。そんなトレーニングです。

1 下半身を強くする「台所・洗面台」

つま先立ち・片足立ち 夕食の準備をしながらつま先立ちをします。歯を磨くときは片足立ちをします。習慣にしてしまえばなんとなくやるようになります。

アキレス腱伸ばし 足元のクッション(青竹・少年ジャンプほか)に足を載せてアキレス腱を伸ばしましょう。パソコン作業の人はけっこうアキレス腱が縮まっているはずです。毎日やるとぜんぜんちがいますよ。

2 どんな人でも必ずやれる!「リビング・居間」

やっと家に帰ってきたからリビングでのんびりしたい。わかります!でもちょこっとだけトレーニングの要素を加えると、運動嫌いのあなたでも「運動やった感」を経験できます。そしてじみーに体力が上がります。

「立つとき・座るときだけスクワット」 ソファーにどかーんと座らず、そろりとおしりを下ろします。トイレに行くとき、冷蔵庫に飲み物を取りに行くときは、ゆーっくりと立ち上がりましょう。するとあら不思議!知らず知らずのうちにスクワットをやっているのでした。あれほどおっくうだったスクワットも生活の一部にしてしまえばけっこうできます。

「ちょこちょこ筋トレ」 部屋の入り口付近に軽めのダンベル(あるいはペットボトル)を置いておきます。そこを通りがかるたびに2.3回ダンベルを上げ下げしましょう(どんなやり方でも◎)。「ちりも積もれば山となる」ので、上半身筋トレです。

足くび廻し・かかと踏み踏み ソファでテレビ・読書・ゲームしているとき、ときどき足だけ動かしてみましょう。足をぐるぐる回したり、屈伸したり、かかとを踏みつけたりいろいろやってみましょう。足は第2の心臓、下半身のむくみ取りに役立ちます。

3 ラクして体幹トレーニング「おふとん・ベッド上」

おしり歩き 足を使わず、おしりを使って歩きます。やってみるとあんがいむずかしい。体幹をねじる動きをふだんやれていない人は苦戦するかもしれません。でも姿勢コントロールの素晴らしい練習です。それにおふとんの上ならお尻が痛くない。風呂上りなどにチャレンジしてください。

秘儀!瞬間寝返り おふとんの上でごろりと体を回すのではなく、同じ位置で右へ、左へと向きを変えます。肩とおしりを使ってできるだけ速くやってください。これが素早くできる人は、歩いたり走ったりも上手にできるはずです。

全身ストレッチ からだのすみずみまでゆるめられる魔法のストレッチです。やりかたはかんたん、寝そべったまま全身の筋肉を脱力させます。手足だけでなく、顔からおしりまであらゆるところをゆるめます。ぐっすり寝ている赤ちゃんと同じ感じです。しばらくするといろんなところがぴくぴく動いたり、ちくちくしたりするかもしれませんがそのままにしましょう。これだけでも肩こりや腰痛が良くなったりするからあら不思議!

4 「お買い物」は総合トレーニング

女優のように歩こう 家の外に出るとどうしても人の目が気になるのを逆手にとって、思いっきり見られることを意識して動いてみます。脳内イメージで女優さん(オードリー・ヘプバーン、吉永小百合etc.)になりきって美しく歩いてみましょう。野菜一つ持ち上げるのにもひたすら美しい所作で行い、レモンに口づけしたりします(ダメか⁈)。これも修行、疲れた分だけふだん使わない筋のトレーニングになっています。

「スーパー」新記録を狙おう 歩きでも自転車でもいいから記録を狙います。家を出て、買物をして帰ってくるまでの時間を記録しておきます。新記録を樹立するためには、歩くスピード・献立の中身・売り場での判断力・お札を取り出すスピードなど総合的な力が求められますから、主婦力・主夫力の頂点を目指してがんばりましょう。

自転車はトレーニング 転ぶと危ないからと言われて自転車を取り上げられるご高齢の方を散見しますが、自転車を押すのも乗るのも一種のトレーニングです。いくつまで乗れるかは人それぞれ、個人差・状況で判断してあげてください。できることを奪うのではなく、どうやったら体を動かすことを続けられるのか。この工夫をすることが、今の時代に大切だと考えています。

 

ねりまインクワイアラー 204 一日のタンパク必要量は?

一日のタンパク必要量は男性60-65g、女性50-55gくらいです。魚・肉100gあたり15-20gがタンパク質と言われています。サケの切り身で18g、豚の生姜焼きで20グラム、ソーセージ2本で6g、ご飯2杯で6gとすると合計50g、男性ではまだ10gほど足りません。みなさんはちゃんと摂れていますか?

松ぼっくり通信 2023年 12月号

しびれ、さあどうする?

 しびれの相談はめずらしくないのですが、奥が深くてなかなか説明がむずかしいです。今回のお話です。

1 だれにでもしびれは起きる

私の実感では、しびれの相談が十あるとすると九割がたはほっとくか様子を見るだけで済むもの、残り一割は調べたほうがいいものです。先日マラソン大会に出たとき、脱水が原因で指が腫れてしびれました。ゴールしてからたっぷり水分補給をしたらしびれが治りました。そのほか競歩の練習で腕をいっぱい振ってしびれたり、長時間のランニングで坐骨神経痛(しびれ)が出たりいろいろなしびれを経験しました。

救急外来に勤務しているときよく診たのは過換気症候群の患者さんで、からだじゅうがしびれ、息が苦しくて救急車で担ぎ込まれます。本人にすれば苦しくて死にそうなのですが、患者さんの口に紙袋をあててゆっくり呼吸させる(今は古いやり方)とすぐに治りました。私自身なったことがあって、あの切迫感・恐怖感はよくわかります。

デスクワークなどあまり体を動かさない人たちの中にも手足のしびれを感じる人がいます。厳密な意味でのしびれ(神経障害)ではなく、脳やせき髄の検査をしてもはっきりした異常は見つかりません。ここからは私の意見なのですが、おそらく慢性型の過換気症候群(習慣的に呼吸が浅い)だと考えています。細かい理屈は省きますが、深い呼吸の仕方を覚えてもらうとしびれがなくなってくるようです。

正座を続けて足がしびれるのはかなりの人が経験していると思います。腕を上げた格好や横向きで長く寝たりして腕がしびれた人もいるはずです。どちらも神経が圧迫されるために起きると言われています。細かく診ていくと、手足のあちこちに神経のウイークポイント(骨のすきまや筋肉の中で神経が圧迫されやすい部位)があり、相談を受けるしびれの多くはこれが原因です。

2 これは要注意!しびれ

つぎにほっといたら×のしびれを考えてみましょう。

脳から来るしびれ・・・脳梗塞や脳出血でしびれが出ることがありますが、たいていは運動まひなどほかの症状が合併します。

せき髄から来るしびれ・・・神経の経路に沿ってしびれが出ます。痛みが伴うことが多いですが、しびれだけのこともあります。多くは椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症が原因ですが、三浦雄一郎さんのせき髄血腫のようにめずらしい病気もあります。

神経そのものの炎症・・・脳・脊髄・末梢神経それぞれに炎症(難病指定のことが多い)を起こす病気があります。しびれる場所がだんだんと変化していきます。肩から腕に激痛がおきる神経痛性筋萎縮症もたまに経験します。

糖尿病・リウマチ疾患など・・・糖尿病で有名なのが手袋・靴下型のしびれです。太もも前方の痛み・しびれがでることもあります。そのほか小さな枝神経の故障があるとあちこちにしびれが生じます。

栄養不足・・・意外に多いのがビタミンB1の欠乏症です。足首から下の感覚が鈍くなります。白米中心の食生活で少食だとなりやすいです。ビタミンB12の欠乏症もちらほら見かけます。胃の手術後、胃酸を抑える薬の常用、動物性食品の摂取不足(ベジタリアン、少食の人)がある人でしびれ・歩きづらさがあったら可能性があります。

そのほか、 内臓の病気、がん、トリガーポイントのような筋肉の故障でもしびれがでることがあります。

3 しびれとのつきあい方

生活に支障のないしびれだったら、とりあえずのんびりかまえましょう。食事内容や睡眠に気を配り、運動やストレス発散を行いながら様子を観ましょう。多くのしびれは自然に消えていきます。

痛み、筋力低下、歩きづらさ、手先の細かい作業がしずらいなど、しびれ以外に症状があるときは一度お医者さんに相談してみてください。

「しびれ」にはいろいろな感覚があって、人によって全然違うことを言っている気がします。自分のしびれがどんな感じなのか(ズキズキ、ちくちく、ぴりぴり、何かがくっついている、だるい、動かしにくい、力が入らない、つかれる、ふらふらする他)、どんなタイミングであるのか(24時間連続、ときどき、たまに、一回だけ、何かをしているときだけなど)、どこらへんに感じるのかを説明できるようにしましょう。しびれは目に見えないので、あなたのことばがたよりです。ここをきちんとやらないと、正しい診たて・治療に結びつかない可能性があります。

 

ねりまインクワイアラー 19 ブギウギ

朝ドラ「ブギウギ」おもしろいですね。主人公役の趣里さんは子供のころからバレリーナを目指していましたが、足のけが(踵骨剥離骨折)でキャリアをあきらめざるを得ませんでした。でもあんなに踊れてるのに?!と思いますが、それだけ厳しい世界なのでしょう。私の趣里さん押しひとつめは、自分も同じけがをしたのでその苦労がよくわかること。もうひとつはお母さんの伊藤蘭さん(元キャンディーズ)が高校の同窓だからです。

松ぼっくり通信 2017年 3月号

わかりにくい考えと向き合う

あたりまえだと思っていたことがちがうと言われた。自分の考えた理屈と全然あわないのでついていけない。聞いたこともないので判断に困る。予想もしない話を聞かされた時、こういう風に感じるのは人間の本性です。直感や経験をねじふせて理論や理性だけで判断することは、私たちの得意分野ではありません。

ではありますが、それではまずい!場合があることをお話しします。

1 「母親たちの救い主」ゼンメルワイスのはなし

  19世紀中ごろのオーストラリア・ウイーンの出来事です。産科医のゼンメルワイスは、同じ病棟で分娩を行った女性のうち産褥熱で亡くなる人の割合が、助産婦の介助に比べ、医師の介助のときに10倍も高くなることに気づきました。当時の医師は別室で素手のまま解剖を行い、特別に手を洗うことなくそのままお産の介助をするという習慣があり、ゼンメルワイスはこれが原因ではないかと考えました。そこで試しに医師がお産の前には必ず石炭酸で手を洗うようにしたところ、産褥熱による死亡率が劇的に下がったのです。産褥熱の原因を医師が手を洗わないからとした発表はセンセーションを引き起こしました。発表の内容は筋道の通ったものだったのですが、医師たちの反発は大きく、ゼンメルワイスは仕事を追われたばかりか肉体的な暴力がもとで命を失いました。

 まだ細菌の発見以前であり、何が産褥熱の原因になったのか完全に説明できなかった点もあげられますが、なによりも医師が患者を殺したことになるという主張がどうしても世間の感情に受け入れられなかったのです。

2 常識は経験則に過ぎない

 これほど劇的ではありませんが、最近では傷の消毒について考え方が大きく変わってきました。わたしが学校を出たころは、傷にはヒビテンやイソジンなどの消毒薬を塗るのが一般的で、医師でこれを疑う人はいませんでした。ところが、近ごろは傷そのものに消毒薬を直接塗ると健常な組織を傷めるので塗らないほうが良いという考えが主流になっています。また抗生物質の使い方も変わってきました。以前はとりあえず感染予防に抗生物質を処方するのがふつうでしたが、今では予防的投与はできるだけ少なくして耐性菌を作らないことが大事だと考えられています。医学の世界だけでなく、世の中のあらゆる分野で昔の常識と今の常識がちがっていることはめずらしくありません。わたしたちがあたりまえと思っていることのかなりの部分は、「みんながそう思っているから、わたしもそう思っている(気になっている)」のです。たいていの場合、それでうまくいき誰にも文句を言われないのですが、環境、気候、経済や科学の進歩など新しい変化により今までの常識が通用しなくなる時があります。それに最初に気づき、声をあげられる人こそほんとうに考えている人です。常識にとらわれず、事実から推論を組み立て、新しい考え方を生み出せること。私たちはできているでしょうか?

3 本能やカンばかりではまずい

 まだ飛行機が発明されて間もないころのことです。四枚羽の複葉機が一般的で、エンジンが非力なため操縦は難しく、墜落も珍しくありませんでした。墜落の一番の理由は離陸直後のエンジンストップで、パイロットはあわてて引き返そうとします。危険を感じたら基地に引き返そうとするのは自然な反応ですが、回旋することでさらに失速し、墜落する事故が後を絶ちませんでした。飛行機の物理学を理解していれば、エンジンが止まった時はそのまま真っ直ぐに滑空して前方の空き地のどこかに不時着するのが一番安全で、パイロットは本能に逆らってそのまま飛び続けなければなりません。人間の本能は役立つことも多いのですが、このように論理的に(つまり理屈っぽく)ふるまわないとマズイ!という場合があります。学校で習ったリクツは実生活に無縁だと思っている人はどこかで損をしている可能性が高いです。 

4 プロを活用する

 スマートフォンやネットを使っている人は多いですが、そのしくみがわかっている人はめったにいないでしょう。それでもふつうに使えているのはいざというときに専門家がいるからです。平安や鎌倉時代なら一人でカバーできる技術は広範囲にわたりますが、情報が爆発的にあふれた現代に本当の専門家になるためには、かなり狭い領域を深ほりしていくことが必要です。専門馬鹿は問題ですが、専門家を尊重することも学ばなければなりません。プロ(専門家)の意見はときにあなたの直感や常識に反することがあります。期待した答えではない可能性もあります。それは深い専門知識があってのことで、ちょっと聞いただけでなぜかはわからないかもしれません。自分の知識だけで専門家の良し悪しを判断するのは慎重にすべきです。わたしも自分の仕事以外はまったくの素人ですから、何かわからないことがあったらネットや本で調べるとしても、最後はきちんとしたプロに相談することが必要だと考えています。

 

ねりまインクワイアラー 123 重力波

 アインシュタインが予言した物理現象の中で最後まで確認できなかったのが重力波です。物と物が引き合う力=重力は物と物の間にある空間のゆがみによって生じます。このゆがみは一種の波のようなもので、空間を伝わっていきますが、今まで観測することができませんでした。近年重力波を検出できたという報告が続いており、ノーベル賞の取沙汰もされています。何の役に立つのかな?今のところ誰にもわかりませんが、無重力装置やタイムマシンの発明につながるかも!と期待しています。

松ぼっくり通信 2016年12月号

神経障害性疼痛のはなし

 武田鉄矢さんのCMをご覧になった方は、シンケイショウガイセイトウツウって何だろうと思ったのではないでしょうか。診察中にはなかなかじゅうぶんに説明できていない気がします。あらためてお話しします。

1 痛みには種類がある

 たんこぶ、切り傷や骨折など。こういうわかりやすい痛みのことを、侵害受容性疼痛(しんがいじゅようせいとうつう)と呼びます。痛みを感じる神経の末端が刺激を受けて痛みを感じます。ところが神経障害性疼痛では、神経そのものに故障が起きて痛みがおきるので、神経が通っている部分(末端部)には何も問題がなく痛みを感じます。世間一般で神経痛と呼んでいるもの、帯状疱疹後の神経痛や特殊な痛み(片手症候群・CRPS・視床痛など)がこれに入ります。

 もうひとつ、忘れていけないのが心因性疼痛です。この場合も痛みを感じる部位には本当の故障は見つからず、心理的な原因のために痛みを感じます。気のせいではなく、この痛みはほんとうに痛いのです。痛みが起きるしくみははっきりわかっていませんが、脳の過敏性や筋・血管の攣縮が関係していると考えられています。

 これとは別に急性疼痛と慢性疼痛という分け方もあります。けがや病気のために痛むものは急性疼痛ですが、けがや病気が治ってから時間がたっても痛みが残る場合を慢性疼痛と呼んでいます。慢性疼痛ではいろいろな痛みが混じっているといわれていて、治療にいろいろ工夫が必要です。

2 神経は電気配線 

 神経障害性疼痛がわかりにくいのは、痛みの原因の場所と感じている場所が同じでないからです。

 頭の中でステレオセットを想像してみてください。ラジオやCDを操作する本体と左右のスピーカーは配線でつながっていますね。本体から配線をつたわって電気信号がスピーカーに流れ、音楽を楽しむことができます。どちらかのスピーカーが鳴らなくなったとしたら、①スピーカーが壊れた②つないでいる配線が途中でおかしくなった③本体が故障した④電源コードが抜けていた⑤停電などいろいろ原因を考えつくと思います。神経障害性疼痛はこのうちの②(一部③も入る)にあてはまります。スピーカーはまったく壊れていないが、配線に問題があって音が出ない場合です。むしろ接触が悪くて音が変になっている状態といったほうが近いかもしれません。

 肩が痛いのに首に原因があったり、膝が痛いのに腰に原因があったり、神経障害性疼痛はよくあります。とくに年齢が高くなり、背骨の変形が進んでくるとちょっとしたことから神経痛がおきてきます。本人にしてみると本当に肩や膝が痛むので、原因が別のところにあると言われてもすぐに呑み込めないのもわかります。痛みそのものは目に見えるものではないので、なおさらわかりづらいと思います。正直に申し上げると、お医者さんたちにとっても判断が難しいことがめずらしくありません。

3 神経障害性疼痛のみわけかた

 コマーシャルで言っているように「じんじん」「びりびり」「ちくちく」とした痛みが代表ですが、「ずきん」と刺し込むような痛みのこともあって、感じ方だけで区別するのは難しいです。背骨の変形やヘルニアが原因の場合、姿勢や体の動かし方で痛みが変化するので、患者さんにいろいろな格好をとってもらって痛みの度合いを聞いていきます。

 実際にはかなり細かい観察が必要になります。たとえばひざがしゃがんだり立ったりするときに痛むという人を診るとします。立った状態からしゃがむとき、腰椎も反る動きをするので、脊柱管狭窄症のある人では神経痛としてのひざ痛がでることがあります。もちろん膝関節の炎症がある人も屈伸で痛みますから、パッと目にはどちらも同じ症状です。そこでさらに腰や膝の細かい動きを観察してどちらがほんとうの原因かを考えます。

 あたりまえでもすごく大事なのがひざ(痛みを感じる部位)をきちんと診ることです。ひざに熱や腫れがあれば膝に問題があることがはっきりしますから、神経痛の可能性は低くなるというわけです。

4 良くするには

 すり傷を治すには、上にばんそうこうをあてて傷を保護し、皮膚がもとに戻るのを待ちます。神経痛を回復させるのも基本はすり傷と同じです。傷ついた神経が回復しやすいように、せぼねの動きや筋肉の使い方を練習します。神経に無理のない動き方を続けていれば、次第に神経は回復してきます。そのために、患者さんが積極的に治療にかかわることが必要です。注射や薬だけではなかなかすっきりしないことが多いので、人任せにせず、自分がやれることをやりましょう。かたい体は柔らかくし、弱った筋肉は強くする。病院で指導はできますが、やるのはあなたです。地味な努力をつづけることが結果に結びつくといえます。

松ぼっくり通信 2016年9月号

  •  人間はおさかなだった

 小さいころの怪獣好きから恐竜の本に夢中になり、博物館の恐竜骨格に感動しました。すこし大きくなると生き物の進化の本を読むようになって、小さな単細胞の原始生命から地球上のあらゆる生き物が生まれてきたという不思議さに胸をときめかしました。いまでも生物と進化論の話は私のフェイバリット(お気に入り)ですが、進化がわかればお医者さんの仕事もわかります。医療に役立つ進化の話です。

肩はえらぶた、うではむなびれ

 人間と魚の先祖が大昔には同じだったことはたしかなのですが、どんな形をしていたのかはっきりしたことはわかっていません。ですが右図のようにほぼ今の魚に近いかっこうであったようです。えらぶたが外側に大きく張り出して、そこにむなびれがつながっている様子を想像すると、人間の肩~うでにどこか似ているような気がしませんか。じつは長い進化の歴史の中で、えらぶたが肩へ、むなびれが腕へ変化したと考えられています。親から子への変化はきわめてわずかであっても、何億世代も小さな変化が続くとほとんど信じられないくらい形や機能が変わってしまいます。えらはなくなったもののえらぶたは肩となり、水をかいていたむなびれはものを握れる腕に変わっていったのです。

おしりとかかとは遠くて近い

 魚よりもずっとむかしの御先祖のピカイアはミミズのようなナメクジのような姿をしていました(図2)。

Wikipediaより

 人間の先祖もおサルまではしっぽがあり、むかしの尾びれの名残だったのですが、いまは尾骨になっておしりの中にたくしこまれています。

ピカイアやミミズの場合、あたまからしっぽ?までが短いふし(節)に分かれていて、基本的に同じ節をたくさん並べて体ができあがっています。人間のからだははるかに複雑ですが、おどろくことに皮ふ表面の神経配列はこの体節構造のままになっています(図3)。これを見ると肩から手にかけて、腰から足にかけて帯状に線が引かれているのがわかります。肩と手、おしりとつま先はそれぞれ遠く離れていますが、神経の配列は同じグループです。この神経の配列を知っていると神経痛などの診断・治療がわかりやすくなります。

横隔膜は肩の筋肉

おなかと胸の間には横隔膜という筋肉があり、呼吸をするときにだいじな働きをしています。横隔膜は哺乳類にしかなく、鳥や(おそらく)恐竜では代わりに気嚢(きのう)という構造を使って呼吸をしています。横隔膜があるから肺をしっかり動かしてじゅうぶんに酸素を取り込み、長い時間動き続けることができるのです。この横隔膜、肩の筋肉の一部だったという説が有力です。人間のからだでは横隔膜は肩よりずっと下にあるのに、どうしてそうなるのでしょうか?進化の流れで見ると、肺は魚のうきぶくろと同じで、もともとはのどの途中にあるくぼみでした。これが複雑に発達して肺に変化していくときにからだの後ろのほうに移動していったのです。横隔膜も一緒に移動して、とうとうからだの真ん中まで降りていきました。だから、肩と横隔膜の神経は今でもつながっています。肝臓、肺や心臓など横隔膜のそばにある臓器に故障が起きると横隔膜が刺激を受け、肩が痛くなるのはこのためです。

進化が分かれば病気もわかる

 腕が痛いのにどうして五十肩だと言われたのだろう?手や背中がしびれるのにくびが原因なのはどうして?ひざや足首が痛くて病院に行ったのになぜ腰を調べるのだろう?お医者さんの診察はなぞのようで、よくわからないことがあるはずです。わからない理由の一つは体の中のいろいろな臓器や神経の配置・配線図が複雑で、ふつうに考えればとんでもないところでつながっているからです。でも今では配線のかなりの部分はわかっていて、お医者さんのトレーニングでこれを頭にたたきこまれます。後はきちんと診察・検査をして配線のどこに問題があるかを突き止めれば、オーケー!となります。

 そして治療にも役立ちます。腹式呼吸がどうして健康にいいのか、横隔膜がどうして哺乳類で発達したのかを考えればよくわかります。からだの仕組みの「なぜ?」を知ることは、すなわち進化を知ることと同じ。そう言っても言い過ぎではないでしょう。