目白ヨシノ治療院

目白ヨシノ治療院は新宿区下落、目白駅から徒歩3分、マニュアルメディシンを用いたマッサージ、手技治療,リハビリの専門治療院です。病院では特に問題のなかったつらい症状、日常生活で困る痛み、肩こりや腰痛、首の痛み、またはよく分からない目の奥の痛みや頭痛など機能障害に関する問題の治療を行っています。

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松ぼっくり通信

松ぼっくり通信 2021年 9月号

からだの危機を脱するには

 まだ若かったころ、あちこちの病院に転勤しました。大学の出張病院をぐるぐる回るのが当時のやり方でしたが、いいこともあれば?と思うこともあり、患者さんを長く診れないことが不満の一つでした。一転開業すると、定点観測で患者さんを長く診ることができます。赤ん坊だった子が大きくなって、大学生や社会人になり、さらにその子供を診ることだってあります。久しぶりに診ると、この子はうまくいってそうだなとか、ちょっと苦闘してるかな?とかいろいろなことを考えます。今回は長く診ている中で気づいたことをお話ししましょう。

1 からだはどんどん変わる

 年齢のちがいは大きいです。子どもの頃はどんなケガでも順調に治り、ほとんど跡を残さないことも珍しくありません。思春期から20代はじめは体力がどんどん増大する時期です。やったらやっただけのことが身に付きますから、公私ともに実り多い時期です。20代後半から中年期は体力的には守りの時期、油断をすると体力・気力が落ちてきます。「前はできたことなのに」「こんなことでケガ(病気)をするなんて」と思うのがこの時期です。でもメンテナンスをすればまだまだいける!と思うのもこの時期で、個人差が大きくなってきます。

 そして老年期。どんな人でも体力面の低下が避けられませんが、人生経験が深まった分、物事の多面的な見方ができるようになり、勝負や比べ合いを脱して、自分なりの楽しみを見つけられるはずです。長生きの時代、この時期の過ごし方については、私も患者さんから日々学んでいます。 壮年期、自分やまわりの人たちも疲れを感じてくる時期。長く患者さんを診ていると、このあたりが体力面から見た人生の分岐点のようです。楽に流されるか、もういっちょう!とがんばってみるか。仕事・育児・家庭状況の先が見えてきて、何を張りにして生きていくかあらためて考える時期です。体は何よりの資本、ここで自分の体に手をかけることができるかが分かれ目と言えます。

2 心当たりがない≠原因がない

 まったく何かをした覚えがないのにどこかが痛くなったり、調子が悪くなったりするのはどうしてでしょうか。考えられることとしては①運動不足による廃用(筋の短縮・委縮・関節のこわばり・じん帯の柔軟性低下)②累積的効果(仕事や運動中の小さな無理が積み重なったもの)③じっとしていることに起因する筋の疲労・こり④自分にとっては記憶に残らないが、実際には体に負担になっていること(例;電車に遅れまいと急いで階段を上った・青信号が点滅したので急いで歩道を渡ったなど)が挙げられます。

 昨年来のコロナ禍による外出制限の影響からか、在宅ワークが増えたためなのか①②③が原因となったからだの不調が増えている印象があります。三密を避けつつも運動やストレッチを行い、体の調子を保ちましょう。在宅ワークの場合、朝夕の仮想通勤時間を作る(勝手に歩く・走る・自転車を使う)のも手です。

3 時間がかかるときががある

 わりかしシンプルな故障のようでいて、実際には治るのに時間がかかることがあります。骨折は1,2か月、肉離れは一か月くらい、捻挫は2~3週のような何となくみんなが抱いているイメージがあるのですが、実際には程度・年齢・体の具合(慢性疾患や疲労の影響)で治りがゆっくりになることが珍しくありません。お医者さんと患者さんで考え方に一番ギャップがあるのが治療期間のイメージでしょう。

 ただし、体はあきらめずにちょっとずつでも治っていくのです。半年過ぎても、もっと時間がかかっても、体の修復システムは働き続けます。骨折・手術の経験をした私も日々実感しているのですが、もうだめかと思ってもあきらめずに運動を続けていくとそれなりに改善しているのを感じます。粘り強さが大事だと思ってください。

4 危機を脱するには

 では体力面の危機を脱するにはどうすればよいのでしょうか?いくつかヒントをお話しします。

  • 努力はうそをつかない…筋トレやストレッチであれ、ウォーキングやいろいろなスポーツであれ、続けていけば必ず上手になります。進歩は停滞の後に来ます。ブレイクスルーは間近かもしれません。

  • 完ぺきを求めない…体の特性・年齢・体力差などがあって、自分の理想に届かなくても良しとしましょう。楽しむことが大事です。

  • 小分けにして考える…複雑な動きを全部一気に改善するのではなく、小さな一点を改善してみます。それを繰り返せば、ちりも積もって山となります。だからもっと上手になっていきますよ。

  • 人と比べない…自分が楽しむことが大切、みんなでワイワイやるのが好きな人も一人でのんびりやるのが好きな人もいます。運動は自分中心に考えましょう。

  • いきなり高い目標は立てない…近所の公園に行って来るだけでオーケーです。動いているうちに筋肉ホルモン(マイオカイン)が出て気分が軽く、足取りも軽くなります。はじめの一歩は軽い気持ちでやってみましょう。

ねりまインクワイアラー 173 ゆっくりした動きの大切さ

 同じことをするならゆっくりやるより速くやれるほうがエライ。そう考えがちですが、あえてゆっくりと、一つ一つの動きをていねいに、気持ちを集中してやってみます。あらゆる技芸において、技を磨くコツの一つです。

松ぼっくり通信 2021年 8月号

補装具を活かす

 補装具とは杖やコルセットなど、手に持ったり着用してふだんの生活の助けをする道具のことです。車いすのように大きいものがある一方、コンタクトレンズや補聴器のように小さいものもあります。身近でないようで、意外と身近にある道具です。今回のお話です。

1 杖・松葉杖

 3年前、かかとの骨折をおこしたときに私も松葉杖のお世話になりました。慣れないうちは汗びっしょりになりましたが、そのうちあちこち出かけるようになり、家族といっしょに買い物や食事に行ったり、学会に出かけたりしました。都内の駅にはまず間違いなくエレベーターがあるので、行こうと思えばたいていのところに行けるのです。もしも杖を使わなかったら、仕事に行けず、家からも出られず、ずいぶんつらかったはずです。本当にありがたい経験でした。

 ご高齢になり、せなかが丸くなったり神経痛が出たりするときにも杖は役に立ちます。足の故障・マヒが残る人にも大きな助けとなります。 年齢が高くなったとき、杖を使ったほうがいいか聞かれることがあります。体力低下や故障のため歩くことに不安を感じているなら杖がおすすめです。「転ばぬ先の杖」のたとえ通り、いざというときにちょっと支えがあるだけで転ばずに済むなら、外に出たくなりますよ。一度杖をついたらもうやめることができないのでは?と心配する人がいますが、これは誤解です。一時的な体力低下があるとき、杖を使ってがんばって歩く練習を続ければ、ふたたび杖なしで歩けるようになります。

2 コルセット・サポーター

 コルセットとは体にまきつけるバンド状のものを指しますが、医療用ではプラスチックなどで固めに作ったものもあります。せぼねやそのまわり(靭帯や筋肉)に痛みがあって動かしづらいとき、コルセットで一時的に保護してあげるだけで痛みが軽くなることがあります。故障部位を保護するだけで治る故障も多いので、そのあいだの時間稼ぎをするわけです。

 「コルセットを長く着けると良くない」と言われることがありますが、コルセットを長く着けると腰回りの筋肉の力が落ちる可能性があります。だから故障が快癒したらコルセットを外したほうがいいと思います。しかしながら体の故障は千差万別で、長くコルセットを必要とする方もいます。ケースバイケースなので、迷ったら相談してみてください。

 サポーターは手足に巻くもので、文字通り巻いた部分をサポート(支える)します。特殊な支柱付きのものもありますが、よくあるのは弾力のある布地でできたタイプです。骨折後のリハビリ中、筋力が落ちた膝が痛むようになりました。市販のサポーター(1000円くらい)を使ってみたら楽になり、助かりました。コルセットと同じく一時的な助けになりますが、やはりつけすぎると問題です。症状が軽くなってきたら外すことを考えましょう。医療用のものもありますが値段が高めですので、まず市販品を試してみましょう。通販などで安く手に入ります。

3 マヒを助ける

 病気やけがのためにからだにマヒが残ることがあります。それでもできることをしたい、家事や仕事にもどりたい、旅行やスポーツをやりたい。そういう願いにこたえるためや、リハビリのお手伝いとしていろいろな補装具が生まれてきました。歩くための杖のほかに、膝くずれや足の引っかかりを防ぐための下肢装具がよく使われています。一人で歩くのが難しい場合は車いすや電動車いすがあります。マヒがあっても車を運転できるよう自動車を改造する方法もあります。

 まだまだ一般化されてはいないものの、ロボットスーツのような歩行機器も開発されています。将来、こういったスーツを付けた人たちが街を自由に散歩したり、買い物に出かけるようになるかもしれません。子供のころ夢物語だった携帯電話がこれだけ普及しているのだから、大いにありそうだと思いませんか。

4 補装具は勇気を与えてくれる

 下肢の故障でほとんど家から出なかった方がシルバーカーで歩き始めました。以前よりせなかがしっかりして、姿勢も良くなりました。歩くことで、使わなかった部分がきたえられたのです。前向きな気持ちを、シルバーカーが後押ししてくれたのですね。

 今年の正月のことです。よろよろとジョギング中、軽快に飛ばしているジョガーを見かけ、すれちがってびっくり!義足で走っている方でした。こりゃ、こっちもがんばらなくっちゃ!!と思いました。する人はもちろん、見た人にも勇気を与えてくれる、ちょっと感動する経験でした。

 道具である以上、補装具もどれだけ使い込むかがだいじです。使って、使って使いきる。その気持ちがあれば、使って良かったと思えるはずです。

ねりまインクワイアラー 172 ストレッチのこつ

 ストレッチのコツは①息を詰めず②力を抜いて③ゆっくりと伸ばすことです。ストレッチをしながら顔が赤くなる人は、力が入っている証拠です。伸ばしていくとここらへんからちょっときついかな?と感じるところまで来ます。そこでもう一度余計な力を抜くのです。抜けなかったら少しポジションをゆるめ、1分弱くらいそのままでいましょう。するとさっきより楽に伸びるのを実感できるはずです。

松ぼっくり通信 2021年 7月号

痛みとじょうずにつきあう

先日、ジョギング中に胸の痛みを感じました。心臓?と瞬間思ったけれど、痛みの感じからOKだな!とそのまま走りました。このようにどこかが痛くなっても、だいじょうぶなことはざらです。でもほんとうに心配なときもありますから、そのみわけ方がだいじなのです。

1 痛みは警報装置

冷蔵庫の扉を閉め忘れると、ピーピーとなって知らせてくれます。電子レンジに料理を置き忘れても、鍋が空焚きになってもピーピーなって教えてくれるので、ずいぶん安全・便利になりました。痛みも同じです。虫歯になりかかってますよー!とか、うっかり指先を切っちゃたみたい!とか、昨日は飲みすぎちゃったねー!とか教えてくれるので、痛いところをかばったり休養を取って体の調子を元にもどす手助けをしてくれます。

人体には、からだの内側にも外側にも膨大な数の警報装置がついています。痛みのほかに、温冷感、振動、圧迫、虚血、かゆみ、めまい感などたくさんの装置があり、脳にむかって絶えず情報を送っています。脳はスーパーコンピュータみたいなもので、拾い上げた情報を使って(これはキケン!そっちはほっといて良し)(これは医者に行ったほうがいいかも?)といった判断をするわけです。

コンピューターと同様、脳も経験値がものを言います。だから痛みをむやみに怖がらず、ちょっと考えて判断することが必要です。絶えず修正・バージョンアップをしていくことでどんどん役に立つ脳に変わっていくのです。

2 要相談の痛みのみわけかた

ということで、痛みの見分け方をお教えします。思いっきり簡単にしましたから、体が痛くなったら思い出して使ってみてください。

  • 自分の感覚で中以上の痛みなら相談 軽度なら様子見OK

  • じっとしていても痛みがとぎれず続くなら相談

  • 一瞬~数秒の痛みは様子見OK 10分以上連続してつづくなら相談

  • 吐き気・めまい・マヒ・発熱‣発疹などほかの症状があったら相談

  • きつい痛みだが1回きり 様子見OK

  • 生活に困らないくらいの痛み 様子見OK 長引くなら相談

こんなところでしょうか。誰のからだにも故障しやすいところがあるので、こういった判断を続けるうちに(うん?ちょっと痛いけれど、これくらいならもう少し様子を見ても良さそう)といった実際的な判断ができるようになってきます。

3 隠れた主役は「不安」

じつは痛みの陰に隠れていて、本当はボスキャラ(黒幕)なのが「不安」です。冷静に考えればたいしたことのない痛みだとしても、ひょっとしてなにか悪い病気のサインではないか?このまま置いといたら大変なことになるのではないか?というように不安感が頭の中でぐるぐる回っている状態になると、症状以上につらくなってくるのです。

不安の感じやすさには個人差がありますが、いろいろなストレスで脳がお疲れモードに入っているときはとくに不安を感じやすいようです。昨年からのコロナ騒ぎでは誰もがストレスを感じていますから、元気なときなら気にしないくらいのことでも心配になって、相談に訪れる方が少なくないです。

痛みのことが心配になったら、あわてずに痛みの見分けをしてみましょう。ちょっと冷静に状態を分析する時間を作るだけでも不安が和らぐはずです。

4 痛くてものんびり暮らすのは悪いことではない

はじめにお話しした胸の痛みは、結局肋軟骨(肋骨の一部)の痛みでした。年を重ねるといろんなことが起きます。でも数日で収まったから、そのまま運動もやっています。ふだんでもあちこち痛くなるけれど、これもトレーニングの一部と思ってやっています。

きつめの肉体労働を経験している人、若いときにスポーツをやっていた人はおわかりのように、どこも痛くならず故障もせずにやっていくことはムリです。たまに痛くなるのがあたりまえです。だから多少の故障も織り込みつつ、様子を見ながらやるべきことを続けていく。それで治るものは治っていく。こういうおおらかな考え方でいいわけです。これは内臓の痛みでも共通していますから、体は「治せるものは治している」のです。痛みへの過敏な反応は考え物、まずは落ち着き、痛みの見分けをすることです。

ねりまインクワイアラー 171 音楽は才能、絵は努力

弟から新しく出版した本が送られてきました。本業とは別に音楽評論家として活躍してきた彼、赤ん坊のころ音楽を聴いて、おむつをつけたおしりを揺らして踊っていました。長じてからもドラムをたたいたり、コンピューターで作曲したり、ほんとうに音楽が好きみたいです。音の聞き取りやリズム感など音楽にまつわる才能の9割は遺伝で決まるそう、「三つ子の魂百まで」ってよく言ったものです。

反対に絵の才能は遺伝的には5割くらい、後は努力だそうです。つまり、練習すればだれでも絵はうまくなるということ。わたしはこっちで地味にやっていきましょう。

松ぼっくり通信 2021年 6月号

トリガーポイントの不思議

 トリガーポイントとは筋肉の中にできた押すと痛むしこりのことです。疲労の蓄積、けがや使いすぎなど筋肉に負担がかかるとできますが、それ自体は悪い病気ではなく、無症状~軽いこり感ですむことが珍しくありません。だから軽く見られがちですが、ときに強い痛みに変わったり、意外な症状が出ることがあります。ほんとうはトリガーポイントが原因なのに、ほかの病気とまちがえられる可能性もあります。今回のお話です。

その1 はなれたところに理由がみつかる

 トリガーポイントそのものはきわめてよくあるもので、毎日の外来でもひんぱんに見つかります。ところが訴えの部位(痛みやしびれ)と原因の部位がはなれているので、患者さんにしてみると「えー⁈」と思うみたいです。たとえば手関節痛の原因が肘の近くにあったり、下肢痛の原因がおしりにあったり、頭痛の原因がくびにあったりします。

その2 多彩な症状

でもまったく予想外のところにみつかるわけではありません。それぞれの筋肉にトリガーポイントができるとどこに痛みが出るのか?一生をかけてこれを調べたトラベル博士というお医者さんがいました。きれいな図版と詳細な説明のあるトリガーポイント・マニュアルという本を書きました。この本を見ればほぼすべての筋肉のトリガーポイントの症状が書いてあるので、私もこれを参考にして診察しています。

 一般的なトリガーポイントは痛みが症状なのですが、それ以外の訴えがみられることがあります。今まで診療で経験したものだけでも、歯の痛み・歯がしみる(頭の筋肉)、めまい・ふらつき(くびの筋肉)、声が出にくい、ものを飲み込みづらい、口がまわりづらい(くびの筋肉)、動悸(胸・背部の筋肉)、腹痛(せなかや腹の筋肉)、足のけいれん(下肢の筋肉)、手足のむくみ感、しびれ感(各所)など多彩です。ほかにも吐き気・嘔吐、不整脈、下痢・便秘の原因になることもあります。

 本格的な病気とのちがいは、①動作・姿勢で症状が変化し②症状のある部位を調べても何も異常がなく、きちっと触診をすると筋肉の中にトリガーポイントが見つかります。そしてトリガーポイントをマッサージ・ストレッチ(ときには注射)で治療して症状が改善すれば、やっぱりこれが原因だったとわかるのです。

その3 私の経験から

 トリガーポイントは一つの筋肉に生じることもありますが、同時にたくさんの筋肉に生じることもあります。私の場合、慢性のアキレス腱炎+かかとの骨折(手術で治療)のリハビリに苦労する中で複数のトリガーポイントに悩まされました。つま先が上がりにくく、足先がしびれて力が入りません。歩いたり、ゆっくり走ることはできるのですが、速く走ろうとすると足が勝手に内側に曲がって、まともに着地をすることができません。けがから2年が過ぎ、(これはもう戻らないのでは?)と思い始めたとき、なにげにふくらはぎの筋肉を押してみたらとても痛いところが見つかりました。

 試しに強くマッサージすると、少し症状が軽くなった気がしました。それからは、毎日あちこち痛いところを探してはマッサージを繰り返すと薄紙をはぐように症状が軽くなりはじめ、まだまだ完ぺきとは言えないものの少しづつ走れるようになってきました。

 炎症・手術で筋肉や関節が固くなったのが原因だから、トリガーポイントは関係ない。筋肉の診たてに自信を持っていた私なのに、いつのまにかそういう思い込みをしていたようです。同じことを外来でもよく経験します。本来の病気やけがの後で故障が残ったとして、その中にトリガーポイントの症状が紛れ込むことがよくあります。故障による筋力低下やバランスの悪さから、二次的に筋肉にトリガーポイントが生じ、本来の故障以上に患者さんを苦しめることがあるのです。

その4 トリガーポイントはだれにでもおきる

 クリニックで受ける相談で見ると、腰痛や肩こりの相談のうち8割はトリガーポイントが原因です。五十肩では9割がトリガーポイントでしょう。膝の痛みは骨・関節が原因のことが多いですが、なかには太ももの筋肉にトリガーポイントがあって膝が痛く感じる人がいます。足がつるという相談では、栄養や腰の問題もありますが、ふくらはぎのトリガーポイントを治すとよくなる方が多いです。

 今これを読んでいるあなたも、試しに膝や太ももの筋肉をあちこち押してみてください。痛いところが見つかったら、潜在的なトリガーポイントの可能性があります。今は症状がなくても、疲れがたまり、ストレスが積もって神経の緊張が高まったり、慣れない仕事をやったり、眠りの浅い日が続いたりすることがきっかけで発症するかもしれません。ふだんからこまめに自分でマッサージをしたり、ストレッチをしたり、有酸素運動をとり入れて、やわらかくしなやかなからだを作ることです。予防は最高の治療、ふだんから体のお手入れをすることがだいじなのです。

ねりまインクワイアラー 170 旧石器人の遺伝子

 日本人はネアンデルタール人由来の遺伝子を比較的多く持っています。この中にはコロナの重症化を防ぐ遺伝子が含まれており、東アジアの人が比較的コロナに強い理由(ファクターX)の一つとして考えられています。

松ぼっくり通信 2021年 5月号

リハビリ できること・できないこと

 クリニックのホームページにも載せていますが、「リハビリをしてほしい」と相談を受けてもお受けできないことがあります。健康保険の仕組み、適応の有無、設備・人員の問題やリハビリそのものの限界など理由はさまざまですが、お役に立てないと判断したら正直に伝えています。でもどうしてなのかわかりづらいですよね。今回のお話です。

1 リハビリって?

 一言で言うと「元気になる手助けをする」ということです。うちのクリニックでは、ストレッチ・マッサージ、かんたんな体操や筋トレの指導、姿勢や歩き方のチェックなどがメインとなっていますが、元気にするきっかけになるならほんとうは何でもいいのです。病院によっては電気や牽引器などの物理療法や、PT(理学療法士)さんの運動療法が中心のところもあるでしょう。  ただ世過ぎをするからには、お上の声を聴かなければなりません。医療に関する法律・規則を守り、指導も受けています。私たちの場合、筋肉や関節を中心とした手技療法に重きを置いているので、形の上では「消炎鎮痛処置」(医療費明細書の項目)をしていることになります。できることはしているつもりですが、公定治療費が安価な分①短い時間でも効果が出るように細かく分けて治療②患者さんができることはしてもらうためにストレッチやマッサージの指導をする、といった工夫をしています。

2 リハビリの得意分野

  • かたいものをやわらかく、縮まったものは伸ばす・・・手技療法(マッサージ・ストレッチをふくむ)でできることです。細かい説明は省きますが、これでかなりのことができます。やわらかくてしなやかなからだは健康の要諦と言えるでしょう。良くなったら、自分でストレッチに取り組みましょう。

  • 弱ったものを強く・・・筋トレや体操です。ただし、教えることはできても、やるかやらないかは患者さんしだいで、指導力が問われます。とくにご高齢の方では苦労するところです。リハビリはやったらやっただけ結果が出てきます。努力が実を結ぶ分野。

  • カンを取り戻す・・・姿勢・歩行・動作指導、およびその反復練習など。中枢神経系に良い動きができるように刺激を与えます。ここはもう少し時間がかけられたらいいのに…と思っています。

  • 発想の転換・・・押してもだめならひいてみる。こうしなきゃと思っていることをほんとうにそうなの?と考えてみる。がんばっていたのを肩の力を抜いてみる。この手がダメならあの手を使ってみる。やわらかい発想でつらい時期を乗り越えると意外と元気になるものです。

  • できること、できないことを明らかにする・・・根性!努力!ですべてが解決するわけではありません。故障の具合、年齢、収入や住環境など、条件に合わせてできることを探します。あきらめるのではなく、一歩でも幸せに近づく道を探す。むずかしいけれどこれがリハビリの本道です。

3 困る相談とは

 これはちょっと⁈と思う相談を挙げてみます。

  • 疲れたので、もんでほしい・・・健康保険で禁じられています。自費の治療院に行ってください。

  • 希望の治療をしてほしい・・・診断上ベストの選択をします。医学的にむりな(有効でない)治療だと判断すれば、そう伝えます。

  • マヒを治してほしい、むかしの状態に戻してほしい・・・気持ちはわかるのですが、やはりできないことはそう伝えるしかありません。ただし、いままで見落としていた点を見つけて症状を軽くする、動きやすくすることはできるかもしれません。

  • くすりやマッサージで歩けるようになりたい・・・自ら汗をかくことは、リハビリで欠かせない部分です。筋力をつける、体力をつけるのは絶対にくすりやマッサージではできません。が、意外と多い相談です。

4 柔軟に粘り強く

 大学にいたころ、わたしは脊髄損傷の治療の研究をしていました。脳やせき髄の中枢神経系は一度傷つくと戻らないと言われていましたが、それを何とかできないかと考えていました。でも現実には治らない患者さんを多く見送るうちに(もっと何かできないのかな)と考えるようになり、リハビリの世界に目を向けるようになりました。当時高名だったドクターが「リハビリはネバー・ギブ・アップ!です」と言ったのに感動し、紆余曲折を経て今に至りました。

 小さいクリニックですが、現在の仕事は気に入っています。医者としての戦闘力はおそらく何倍も高くなっているはずです。毎日の外来で見つかる小さな課題を、これからも粘り強く探求していくつもりです。

ねりまインクワイアラー 169 コロナこれから

 コロナ対策がいろいろおこなわれていますが、若い人たちの生活・収入・学業・楽しみを強く押さえつけている印象です。外来で相談を受けていると、屋内閉じこもり、運動不足や交流の制限で調子を崩している人たちもいます。なんとか乗り越えてほしいですが、早晩方策の再検討・改善が必要と思います。

松ぼっくり通信 2021年 4月号

靴の苦労とじょうずなおつきあい

 だいぶ前のことですが、靴で苦労したことがあります。安売りの靴店で買った革靴を履くと、10分も歩かないうちに痛みが出ました。冠婚葬祭のときしかはかないのでしばらくしんぼうしたのですが、ついにがまんできなくなって新しい靴(ブランド品)に買い換えました。するとびっくり!全然痛くありません。今でもその靴を履いていますが、靴ってこんなにちがうのだと改めて実感しました。今回のお話です。

1 うおのめ、たこ、いぼ

 うおのめ・たこは靴の中であたるところにできます。ほんとうにぴったり足に合う靴を履いていればできないはずですが、歩き方のくせのためにできることもあります。まわりに人のいない場所で、路面が平たんなところを選び、10mほど目をつぶって歩き、足裏の感覚に集中します(自信のない人は止めてください)。かかと→足うら全体→親指つけ根の順番に体重をかけるのが自然な歩行パターンです。

このパターンがくずれると、力が集中してかかるところにうおのめやたこができてきます。よくあるのは指のつけ根(とくに2・3番目)足うら側のたこで、親指側にうまく体重がのせられないのが原因です。うおのめ、たこが痛いときに、わたしは靴の中敷きに穴をあける方法をおすすめしています。痛いところの下に小さな穴をあけて圧を逃がすと、すぐに痛みがなくなります。むかし東京マラソンの前にうおのめが痛くなったとき、このやり方で無事マラソンを完走しました。

イボはイボウイルスの感染で起きますが、うおのめとまぎらわしいことがあります。痛みが強いときはお医者さんに相談してみてください。

2 足うらの痛み

 足うらの痛みのほとんどは脂肪クッション、足底腱膜や筋の痛みですが、先日かかとの骨挫傷(目に見えないヒビ)の人が二人受診しました。どちらも武道をやっている人で、練習でかかとを強く打ち付けるのが原因だったようです。

 靴底のクッション性が乏しい靴、短期間の体重増加、長時間の立ち仕事、運動量の増加がきっかけになることが多いです。歩幅を大きくとり、かかとを地面に押し付けるように歩く人はかかとなど後ろ側の痛み、ヒールのある靴で指のつけ根側を地面にたたきつけるような歩き方をする人は前側の痛みが出ることが多いです。

 どちらの場合も骨盤の動きを意識して歩くと、歩行が滑らかになり痛みが軽くなっていきます。歩き方については、ユーチューブなどの動画が参考になると思いますよ。

3 うす底・厚底

 スポーツ(特にランニング)をする人にとって、スポーツシューズの選択はとても大事です。最近のはやりは厚底シューズで、猫も杓子も…と言いたくなるくらい各社から販売されています。靴マニアとしていろいろ試した印象は、

  • 厚底はたしかに楽。だが走り方(動き方)のくせをカバーしてくれる分、くせの修正にはマイナスかも。厚底は本番用にとっておき、ふだんはうす底で練習したほうがいいのかもしれません。

  • うす底は自然な足の運びを練習するには好適。けがからの回復中(私のように)の人はこっちでまずカラダ作りをするべきか(ちょっと反省中)。

  • 速い人用の厚底は、F1レーシングカーのようなもの。はきこなすにはかなりの体力強化が必要。

  • どんな靴であれ動きづくりが大切で、ゆっくり軽い動きからはじめて徐々に慣らしていく。あわてて結果を求めない。といったところです。

4 どんな靴が合う

  • いいものはいい・・・履いた瞬間気にいった(履き心地が素晴らしい)ならたぶん合っています。

  • ギミックにまどわされない・・・高性能の素材とか新技術の搭載など宣伝文句に惑わされない。履いただけで速くなる(故障知らずになる)シューズはありません。

  • 足の痛い人・・・一般のシューズで足の問題をすべて解決することはできないけれど、中敷きや別売りのインソールを工夫するとかなりのことができます。それに医療用のものよりずっと安あがりです。

  • 値段もだいじ・・・ある程度の値段は品質保証と考えてください。いろいろ試してみましたが、安いのにはそれなりの理由があります。

  • 靴はへたる・・・どんなに体に合ってお気に入りの靴でもかならずへたります。へたった靴が原因で足の痛みを訴えることは珍しくありません。痛みが出てきたら靴の買い替えを検討してください。

ねりまインクワイアラー 168 緊急事態宣言

 コロナウイルスの感染のピークを減らし、医療のひっ迫を避ける。これが緊急事態宣言の目的です。しかし今までのやり方では十分な対応ができなくなっているようです。医療に偏りすぎず、経済とバランスをとって新しい方針を打ち出せるのか。これからが注目と思います。

松ぼっくり通信 2020年 12月号

めずらしい相談

 ふだんの仕事では腰痛、五十肩や骨折・ねん挫などを扱うことが多いのですが、ときにはあまり出会わないめずらしい相談を扱うことがあります。今回は今までの経験から印象に残ったケースをお話しします。

1 お腹が痛くて立つことができない

 半年間大学病院に入院していた方のお話です。右のわき腹が痛くて入院し、たくさんの検査を受けましたが原因がつかめません。最後に整形外科の外来に受診した時に、たまたま私が診ることになりました。

 最初に気がついたのは、寝ている間は患者さんがまったく痛がらないことでした。ところが立たせると痛みが出て20秒と立っていられません。このように動作や姿勢で痛みがはっきり変わるときは原因が骨や筋肉にあることが多いのです。調べていくと右胸の肋骨に触ると痛いところがあったので、少し押してみました。ギャッと患者さんが叫んだのでヒヤッとしましたが、その直後から患者さんの痛みは消えて、1週間後に患者さんは無事退院されました。 このように基本的には小さな故障なのに検査で原因をつかみにくく、深刻な病気と誤認される場合をときに経験します。こういう故障を「体性機能障害」と呼びますが、その原因を考え続けたことが今の診療スタイルにいたるきっかけとなりました。

2 72時間止まらないしゃっくり

 仕事がらしゃっくりを診ることはなかなかないのですが、このときは内科の先生が困ったらしく私の外来に廻ってきました。三日間夜昼かまわずしゃっくりが続き、患者さんは食事ものどを通らず夜もまったく眠れず憔悴しきっていました。(どうすればいい?)と迷いましたが、以前くびの付け根にある神経を圧迫するとしゃっくりが治ることがあると聞いたことを思い出しました。患者さんに説明して、くびの脇にある神経の位置を両手で圧迫して数分経つと、しだいにしゃっくりが収まっていきました。

 しゃっくりの原因は横隔膜の筋けいれんです。だから横隔膜につながる神経を圧迫することでけいれんが落ち着いたのです。

3 くびの激痛

 くびを全く動かすことができない、ちょっとでも動かそうとするとあたまから背中にかけて激痛が走る。からだが弱っている人だとまったく身動きできず、救急車で病院に運び込まれる。こういうケースは今までも経験していましたが、あるときあたまの付け根にある関節を調べれば原因を見つけられることに気がつきました。環軸関節という特殊な関節に炎症が起きるとこういう症状になるのです。

 ふつうのレントゲン検査でうつりにくい場所なので触診が命なのですが、見つけてしまえば治療はわりあいかんたんです。ふつうの消炎鎮痛剤がよく効きます。

4 おなかがでんぐりがえる

 ときには患者さんの話を聞いてもよくわからない、すぐには話が呑み込めないときがあります。このときも「でんぐりがえる」ってどういうこと?と最初思いました。

 ところが患者さんのお腹を見るとびっくり!おなかがぐりぐりと動いていてでんぐり返るという意味がわかりました。これはディストニアという症状で、脳の病気や薬の副作用で出ることがあります。患者さんの内服薬を調べて、疑わしいと考えた薬を休薬していただくことにしました。2週間後、おなかはまったくでんぐりがえらなくなりました。

5 踊り続ける女性

 医者になってまだ日が浅いころのお話です。おかしな様子の人がいるので救急外来に来てほしいと連絡を受けました。行ってみるとベッドに女性が腰かけているのですが、右手だけを動かして激しく踊っているように見えます。

 一瞬(これは変わった人なのかな!)との考えが頭をよぎったものの、患者さんはきわめて真剣で、受け答えもしっかりしていました。話を伺うと、病院のトイレを使用中に突然症状がはじまったそうです。聞いた瞬間、脳の故障!を疑いました。

 そのまま神経内科に紹介、やはり脳出血ということで入院となりました。リズムの速いダンスのような動きをバリスムと呼びます。脳の基底核(中心部)に問題があると起きる症状の一つです。トイレでいきんだことが発症のきっかけになったのでしょう。

 こうやって昔の経験を書いてみると、やはり問診と診察が大切だと感じます。忙しいとついおろそかになってしまいがちですが、これからも話を聞く・体を診るをていねいにやっていかねば!と改めて思いました。

ねりまインクワイアラー 165 ビタミンDふたたび

 北海道をはじめとしてコロナの第3波が懸念されています。冬場はウイルスの生存時間が長くなることと、日光に当たる機会が少なくなりビタミンDの体内合成が減ることが問題点として挙げられています。免疫機能を高めるビタミンDの合成のため、できるだけ肌に日光を浴びるようにしましょう!

松ぼっくり通信 2020年 11月号

まず行動せよ‼

 赤いアメと青いアメ、どっちから食べるか?こんな小さなことでもなかなか決められない子供でしたが、二十歳のころに(これではいかん!)と思って読んだのが「はじめに行動があった」(アンドレ・モロア著)です。これを読んで衝撃を受け、以来考えつつ行動し、行動しつつ考えるのを心がけてきました。いいことも悪いこともあったけれど、おおむねこれで良かった気がします。今回はいかに行動することが大事なのかをお話しします。

1 行動とは脳の働きである

 行動するかどうかを決めているのは、ひたいの奥にある脳の前頭葉という場所です。以前は大人になってから脳の機能を変えることはできないと考えられていました。ところが最近の脳科学から、脳はいくつになってもトレーニングできることがわかってきたのです。手足や体幹を鍛えることができるのと同様、脳も鍛えることができます。反対に使わなければ、手足と同じく脳もしなびてきます。

2 すべてを分析するのはムリ

練習すれば速く走れるようになるのと同じように、脳の機能も鍛えることができます。行動する、決断するといった能力もまた鍛えることができるわけです。

 ゲームの世界では、短時間で判断することが求められるもの(サッカーや格闘ゲームなど)と比較的時間を自由に使えるゲーム(将棋やカードゲームなど)があります。私たちのふだんの暮らしでも、同じように短時間で決めて行動するときとじっくり考えてから行動するときがあります。ライフステージで見ると、子供のころは瞬発的に自分のしたいことをする時期、大人になると熟考し慎重に判断をすることを学ぶ時期だと言えるでしょう。

ですが大人になっても短時間の判断を求められる瞬間があります。事故に巻き込まれそうになったら、どちらに逃げるか一瞬の判断が生死を分けるときがあります。そこまでではないにせよ、日常でもバーゲン会場のように短時間で物を決めなければならないときがあります。

 短時間で何かを判断し行動するとき、あらゆることを分析する余裕はありません。それでもうまくいくようにするにはどうしたらいいのでしょうか?

3 カンに従え

 そこでだいじなのが「カンに従う」ということです。見た瞬間、聞いた瞬間に「コレだ!」と思うことがあったら、迷わず飛び込んでみる。まずやってみて、それでどうなるのか見てみる。うまくいくならゴー!だめならやめればいい。いい意味で臨機応変、状況に応じて方法を変えたり、もっと自分がやりたい方向にシフトしていく。心も体もかろやかにステップを変えていく。年を重ねるとこういったことが苦手になってくる人がいますが、はじめにお話ししたように脳は鍛えることができます。「いまさら」「私は苦手」「もう年だから」というフレーズを使わずに、ちょっとやってみて、後から考える。これは脳の若返り運動にもなります。

 カンが働くとき、じつは言葉にしにくいさまざまな情報を脳は解釈しています。悩んでいろいろ考えたけれど、最初に思いついたことが正解だったという経験は誰にもあるはずですが、脳の働きから見てもうなずけることなのです。

4 行動こそリハビリ

 からだを動かすこと=元気と考えて診療していますが、外来で診ると腰の重い方たちが多いと感じています。万全の構えができるまでじっと様子を見ていると、「へたな考え、休むに似たり」ということわざ通りになってしまいます。少しだけ「傾向と対策」をお示しします。

  • 時間がない… ほんとうに時間がない人もいますが、たいていの場合は言い訳になっています。5、10分でもいいので、こまめに頻回に体を動かしましょう。テレビ体操でも、ストレッチでも、軽い散歩でもオッケーです。ちりも積もれば山となりますから。

  • 運動すると疲れる… あまりにもつらいときはドクターに相談してください。多くの場合は、運動不足による体力低下です。ちょっと疲れるくらいなら適度な運動ですから、しばらく続けると楽になってくると思います。

  • 病気(けが)がある… 運動の可否・注意点をドクターに相談しましょう。多くの慢性疾患では運動は禁忌でなく、むしろ体に良い・必要であるとされています。

  • 気が進まない… 自信がない・やったことがないので不安・人前に出るのがおっくうだ・お金がかかるのでは?など引っかかりがあるなら、知り合いに聞いたり、見学してみるのも手です。でも案ずるより産むが易し。長い人生経験の中で皆さんもわかっているように、たいていのことはやってみれば何とかなるものです。

ねりまインクワイアラー 164 コロナはこれから?

 コロナ流行が長引き、コロナ疲れを感じるようになってきました。これからを予測するにあたってカギとなるのは、①寒い時期に流行が広がるか否か②ワクチン完成・接種のタイミングの二つで、コロナ特別措置が見直される来年2月ごろが節目になりそうです。いまは三密回避、マスク、手洗いの3点セットで頑張るしかなさそうですね。もう一つ、日光浴も忘れずに!

松ぼっくり通信 2020年 7月号

目的別にトレーニング!

 コロナ緊急事態宣言のあいだ、みなさんはどう過ごされていたでしょうか?体力が落ちた。どこかが痛くなった。もう年のせいか?いろいろ考えてしまいますね。でも、あきらめずにトレーニングにとりくめば意外なくらい体力が上がってくるかもしれません。

1 からだが硬くなった

 毎日行っていた買い物が週一回になった。在宅勤務が増えた。コロナの影響で生活習慣にいろいろな変化が生まれました。診察して強く感じるのは、からだが硬くなった人が増えていることです。特別なストレッチをしていなくても使っているところはそれなりに柔らかさが続きます。使わないとどんどん硬くなるのは、からだを作っているコラーゲンというたんぱく質が縮まりやすいからです。

2 つまづいたり、転びやすくなった

立つ・歩く・座る・物を運ぶ・上げる・おろす。あたりまえにやっていることが実は大切です。仕事や用事のあるなしに関わらず、ひまがあったら体を動かしましょう。さらに柔らかくしたいときは、体操やストレッチをしてください。こまめにやればまた体はやわらかくなってきます。

 足が上がらなくなったのが原因です。股関節を前後に大きく動かす筋肉はももの付け根にありますが、この筋肉が弱ってきたからです。小刻みによちよちと歩くくせがつくと、付け根の筋肉を使わないのであっという間にそこが弱ります。

 手を振り、いつもより大股で、ゆっくりと歩く練習をしましょう。犬の散歩は、人の散歩の代わりになりません。犬とはべつに、自分専用の散歩を行いましょう。

3 階段で息が上がる

 心臓や肺の病気でない限り、筋力低下が原因です。年配の方は昔の軽自動車(360cc)で坂道を登った時を想像してください。車は必死で登っているのに、なかなかスピードが上りません。排気量が少ない車と同じように、筋肉量が少なくなると重力に抵抗する運動をしたときに非常につらく感じるのです。

 こういう人は筋肉を強くしましょう。まずたんぱく質を多めに摂って、筋肉がつきやすくします。つぎにスクワットや階段上りなど、足腰にややきつい運動を続けます。息が上がり、ぜーはー言うくらいでいいのです。急がず、ゆっくりとやるのがコツです。はじめのうちは駅やデパートの階段をつかまりながら上り下りするのもいいですね。慣れてきたら、階段をわざとゆっくり降りるのもいい足腰の運動になります。転ばないよう注意してください。

4 速く歩けなくなった

 筋肉には速筋と遅筋の2種類があって、年齢が高くなっても遅筋はあまり減らないのですが、速筋は減りやすいことがわかっています。速筋が減ると素早い動きをしづらくなるので、歩くのが遅くなったり、さっと足が出にくく転んだりします。 でも、年をとっても速く歩くことは可能です。実際に軽快なスピードで歩いている方がいっぱいいます。何がちがうのか?じつは「速く歩く練習をする」ことがカギです。なーんだ!と思ったかもしれませんが、これがトレーニングの「目的性」と呼ばれる考え方で、何を狙ってトレーニングをするかが大事なのです。たとえば3分速めに歩き、3分ゆっくり歩くを繰り返す。これを続けるだけで歩くスピードは速くなるはずです。

5 すぐに疲れるようになった

 貧血や栄養バランスの崩れのこともありますから、食事に注意してください。そうでなければ有酸素運動の不足が原因です。有酸素運動とはからだに酸素を取り込んで行う運動のことです。ウォーキング、サイクリング、ランニングやハイキングがこれに当てはまります(筋トレや100メートル走は無酸素運動と呼ばれます)。 有酸素運動を続けていると、体中の毛細血管が発達して全身の血行が改善します。また細胞内のミトコンドリア(エネルギーの発生装置)が活性化され、しだいに長い時間体を動かしても疲れにくくなってきます。しばらくからだを動かしていなかった場合、まずはウォーキングを1,2か月やってみましょう。週3,4日、30分くらいから始めて徐々に時間を伸ばしていきます。1時間くらい連続で歩けるようになったら、軽いジョギングをしたり、長めの街歩きやハイキングに出かけるのもいいでしょう。このくらいまでくると選択肢が広がっていろいろなことができるようになります。皆さんの好みに応じて、やりたいことにチャレンジしてください。

ねりまインクワイアラー 160 ウイルスは生物?

 生き物を大きい順に並べると、ヒトや樹木などの多細胞生物、アメーバや緑藻などの単細胞生物、細菌、そしてウイルスの順番になります。ウイルスは遺伝子であるDNAやRNAは持っていますが、細胞組織は持っていないため、じつは生物ではないのでは?という疑いがありました。現在では、ほかの生き物のからだにもぐりこんで相手の体を利用するために、遺伝子以外の成分を捨て去ったのがウイルスではないかと考えられています。ウイルス遺伝子の一部は寄生された生物の遺伝子に紛れ込み、そのまま受け継がれることがあり、ヒトの遺伝子でもウイルスの断片が入り込んでいるそうです。好き嫌いにかかわらず、ウイルスと生き物の付き合いは長く、複雑に絡み合っているようです。

松ぼっくり通信 2020年 6月号

手・腕のセルフケア

先日クリニックのスタッフに「小学生の時には学級通信をガリ版で作っていた」と話したら、「ガリ版って何ですか?」と聞かれました。デジタルネイティブ世代にとって、ガリ版は古代の道具のようです。楽になった世の中ですが、手や腕の故障は逆に増えている気がします。今回は上肢のセルフケアのお話です。

1 箱の前で8時間はつらい

今のほうがずっと便利になり、暮らしは楽になったけれど、腕から指にかけて細かい反復作業をすることが極めて多くなりました。とくにパソコン作業では長時間指先を動かし続けることで手や腕の筋肉に疲労が蓄積しやすくなり、故障の大きな原因になっています。昔の人に、「あなたの遠い未来のご子孫は、一日中四角い箱の前に座り、朝から晩まで木の板を指で叩き鳴らして暮らしています」と話したら、たぶん信じてもらえないでしょう。食べ物を得たりお金を稼ぐためには、文字通り手に汗流して働くことがあたりまえでした。原始時代からあなたの祖父祖母の世代まで、ほとんどの人はそうやって暮らしていたのです。だから、体の仕組みも汗水たらしながら動き続けることができるように設計されています。今よりずっと生活は厳しかったので、過労や栄養不足で病気になることが多く、寿命は縄文時代で30代、昭和の初めでも60代がやっとでした。

2 痛みは遠くで感じる

気が付かないような小さな故障も、チリが積もるように増えていくと、ある日どこかが痛い、腫れた、むくむといった症状になります。

ほとんどの場合で痛みはオリジナルの部位よりも遠くに飛びます。たとえば肩のつけ根の故障では痛みが腕~手に、前腕の故障では手首~指先に飛びます。

だから痛いところだけでなく、もっと体に近いところまであちこち触ってみましょう。押して痛むところがみつかったらそこが原因部位かもしれません。

3 か弱い筋肉にやさしく

もともと前腕から手のひらまでの筋肉は細かい作業をすることに長けていますが、疲れやすく持続的な力仕事には向いていません。力仕事には肩の筋肉が向いています。こういった筋肉の特徴を生かして体を動かすと故障しにくくなります。たとえばぞうきんを絞ったり、固いビンのふたを開けるとき(図)、手首を動かそうとせずに肩の力で手を動かすと楽です。また、腕は2,3キロの重さがありますから、宙に浮かして作業するよりも、クッションのような支えに乗せて重さを取り払ったほうが楽に動かせます。こうすることでキーボード操作など上肢を伸ばしたまま細かな動きをする作業でも疲れにくくなるでしょう。

(図;矢印のようにてくびをひねると痛めやすいです。手首を動かさず、肩から腕全体を動かしましょう)

4 マッサージとストレッチをこまめに

手・腕の故障の大半は筋肉の疲労が原因でおきます。筋肉は前腕と手にあって、手首と指にはありません。だからマッサージは手と前腕にします。手のひらだけでなく手の甲(骨と骨のすきま)を反対側の手の指先で押します。親指だけでなくほかの指も使って、ゆっくりとリズミカルにやってください。

押して痛いところはもちろん、こった感じがするところもマッサージしてください。1回数分でいいので、一日6-7回行うとベストです。

前腕の筋肉のストレッチも効果的です。反対側の手で手のひらをつかみ、手の甲側を伸ばし、次に手のひら側を伸ばします。筋が伸びる感じがして、かすかに痛いくらいまで伸ばします。これも一日数回やると効果的です。   すぐには効果を感じないかもしれませんが、毎日続けると痛みやこわばりが軽くなるのを実感できるはずです。

ねりまインクワイアラー 159 ガリ版とは

正式には謄写版(とうしゃばん)と言って、ロウを引いた和紙を鉄筆で削り、インクでをつけて擦ります。きわめてローテクですが、味わいのある絵が描けます。現在でも愛好家・プロの作家さんが活躍されています。