目白ヨシノ治療院

目白ヨシノ治療院は新宿区下落、目白駅から徒歩3分、マニュアルメディシンを用いたマッサージ、手技治療,リハビリの専門治療院です。病院では特に問題のなかったつらい症状、日常生活で困る痛み、肩こりや腰痛、首の痛み、またはよく分からない目の奥の痛みや頭痛など機能障害に関する問題の治療を行っています。

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06月

松ぼっくり通信 2018年 7月号

一日では治りません!

 毎日の仕事の負担で手関節の腱鞘炎になってから1年ほど過ぎました。患者さんの足を持ち上げて診察する際に、不意に体を動かされると手首が痛みます。痛みが出にくくなるように手の持ち方を変えたり、手順を変えたりしているうちに、少しずつ良くなってきました。「薄紙をはがすように」という表現がぴったりで、治療のプロがそれでいいの?と思われるかもしれませんが、時間のかかるものはかかる!ことをお話しします。

1 医療が変わってきている

 20世紀は医学にとって大きな進歩の時代でした。歯ぐきから出血する壊血病や歩けなくなる脚気。むかしはなぞの病気でしたが、不足したビタミンを補給する治療法が見つかります。不治の病と思われていた結核やらい病。病気を引き起こす細菌が発見され、治すための抗生物質が発明されます。そのほか、かつては命を奪い、恐れられていた病気の治療法が次々と見つかり、医学がこのまま進歩していけば人類は病気から解放され、誰もが幸せに長生きができるようになる。お医者さんもふくめ、みんながそう思える時代があったのです。その反面、このクスリ、この治療法で治るというわかりやすい説明に慣れてしまって、どんなからだの不調にも治す方法があるはずだと思い込みが生まれてきました。それも手軽に、簡単に。

 ところが長生きが当たり前となった現在、病気で亡くなる人は激減したものの、毎日になにがしかの不調を訴えて病院を訪れる方はむしろ増えています。そしてこういう相談に対しては、地味に一歩一歩進めていくような解決策が必要な場合が多いのです。

2 できないことはできない

 ときどき「一発で治してください!」と言う患者さんがいます。これは困ります。また、「旅行に行くので」「試合に間に合うように」治してほしいという相談も困ります。こういうとき、どのお医者さんも心の中で(それができたら苦労しないよ~)とつぶやいているはずです。電気製品やロボットなら部品を取り換えてすぐに修理できますが、人間の体は生きている細胞でできています。細胞が治るのには時間が必要です。故障の仕方と治療の善し悪しで変わると思いますが、数週間かかることがあれば、数年もかかることもあります。あるいは良くはできるが、すっきり治らない場合もたくさんあります。とくに長生きすることで故障が起きた場合、老化そのものを治すことはできないので、良くなってもそれなりで、人によっては満足できないこともあります。お医者さんがいつも100%期待に沿えないのはどうしてなのか。なぜ必ず治せないのか。それは「治る力」には限界があるからです。

3 治る力を利用する

 ビタミン剤や抗生物質の治療はわかりやすく、クスリだけで治ったように見えますが、じつは「治る力」を補強しているにすぎません。栄養の欠乏や特殊な細菌の性質があって治癒力が十分に働かないとき、それを手助けする薬があるとからだは治ってきます。ちょうど家の補修工事中に道具と材料を十分に補給して、職人さんにボーナスをはずむようなものです。このように薬やほかの治療法も手助けはできるのですが、治しているのは修理を担当する細胞(職人さん)なので、細胞の元気度のちがいで仕事は早くも遅くもなります。

 また、故障の程度によっても変わってくるでしょう。壁のペンキ塗りぐらいなら数日ですみますが、腐った土台を取り換えるような大仕事では数か月に及ぶこともあるはずです。職人さんも、早いけど少し仕事が粗いとか、ゆっくりだけど仕事がていねいだとか個性があります。これが治癒力の個人差になります。

 年齢も関係します。年をとると修理を担当する細胞自体も年をとり、数が減ってきます。最近、私もすり傷や切り傷の治りが遅くなった気がして、年齢にはやっぱり逆らえないなあと思ったりします。

 この治癒力をうまく利用しようとするのが治療なので、治癒力の限界は医学の限界になります。だから切断した足がまた生えてくることはないし、脊髄損傷後の完全麻痺が回復することもありません。また長生きに上限があるのもこのためです。

4 「治る」より「元気になる」ことを考えよう

 家の補修工事の話に戻ります。施主さんの心配りも十分、職人さんは多少年はいっているがベストを尽くしてくれました。雨漏りも治ったし、配管も新しくして台所やお風呂の使い勝手も格段に改善できました。目的は十分に達していますが、でも新築に戻ったわけではありません。あちこちに古びた部分が残っていますし、近所のピカピカの家に比べれば見劣りがします。欲を言ったらきりがないけれど、予算があったらもう少し手を入れるところもあったと心残りも感じています。

 しかし、この家で長く暮らし、いろいろな経験をしてきました。柱のキズ一つにも思い出があります。家が変わるように、住む人の生活も変わります。これからどういう生活をするかは住む人にかかっています。充実して元気な毎日を送る。それは築年数に関係なく、暮らし方次第でできるのだと思います。

 

ねりまインクワイアラー 136 先生って

 クリニックのスタッフが4月から小学校の先生になって旅立ちました。風の便りでは、毎朝4時半起きで準備をしているのだそう。大変だと聞いていたけれど、想像以上です。就労時間が長く、休みも少なく、気苦労が多いのに?と思いますが、それでもやりがいの感じられる仕事なのでしょうね。

松ぼっくり通信 2018年 6月号

 

変化のある毎日を

デカンショ節で知られる哲学者のカントは時間に正確なことで有名でした。毎日同じ時刻に同じコースの散歩を行うので、沿道の人たちは先生の歩く姿を見かければ時間がわかったそうです。カント先生の規則正しい運動の習慣は、当時としては長生きできた(80歳)理由にもなっていると思います。ですが現在では、からだの機能促進・老化防止のためには毎日の生活に変動があったほうがいいことがわかっています。

1 同じ職業の人は似ている

一般に同じ職業の人たちは似た印象があります。服装や表情が似ているのは当たり前ですが、立っているときの姿勢や歩き方にも一定の傾向があります。診察では、職業や普段の生活の様子を確認した後に手足の柔軟性や筋肉のつき具合、背骨や関節の可動性を調べるので、同じ職業の人には一定の特徴があることがよくわかります。例えば銀行員の人たちは体が固いことが多いとか、建築家はねこぜ気味、消防士は筋肉質のような大まかなイメージがつかめます。献身的に仕事に関わるほど、言い換えれば長時間にわたり一定の作業に従事し、休みが少ない・取りづらい仕事の人は疲労が抜けにくく、筋肉が縮まり関節が固まりやすいのかもしれません。見た目の特徴が同じということは、無理のかかりやすいからだの個所も同じということであり、病院に来た時の相談内容も似てきます。こういった体の特徴=くせが少ないほど体のあちこちにかかる負担が減り故障をしにくくなりますから、くせをつけないライフスタイルを確立することが大事です。

2 規則正しさのメリット・デメリット

規則正しい生活を送ることには、はっきりしたメリットがあります。天気や体調に関わらず、毎日やることが決まっている人は、「今日は何をしようかな」と考えている人と比べると毎日の運動量が確保され、生活のリズムができるので体調管理をしやすいでしょう。診療をしていると、定年退職した時のように今まで規則正しく行ってきたことを急に止めてしまい、やることがみつからないときに体調を崩しやすいと感じています。
しかし規則正しさにもデメリットがあります。生活がワンパターンに陥りやすく、メリハリのない毎日だと感じることがあります。心も体も毎日同じことを繰り返すわけですから、使うところは使うが、使わないところは使わないというかたよりが生まれます。強いところは強いが弱いところは弱い、柔らかいところもあるが固いところはそのままといった傾向が続くために、からだ(と心)にくせがついてきます。これが、各自の弱点が生じる理由になります。

3 変化のある毎日を

だから変化のある毎日が必要です。散歩をするときには同じところを歩かずコースを変えます。平べったいところだけでなく坂や階段も歩きます。アスファルト以外に草むらや土の上を歩きましょう。知らない街や旅行先を歩くのもいい経験です。つま先が上がりにくくなった、転ぶのが怖いと思う人は膝を意識的に上げて運動会の行進のように歩いてみましょう。またわざとゆっくりと歩いたり、小刻みだったり大股で歩いたり変化をつけます。しっかり歩ける方は数メートルだけ走ってみます。少し自信がついたらもう少し長く走ります。慣れればより長く走れるようになります。
トレーニングの理論に「ハード・イージー」という考え方があります。きつい(ハード)トレーニングをした後2・3日は軽い(イージー)トレーニングをはさむというやり方です。きついことばかりを続けるとからだが慣れる(適応する)時間が取れません。適度な運動をつづけながら体力・競技能力を上げていくためにとても大事な方法です。これを皆さんの生活にあてはめてください。楽ばかりでもダメ、きついばかりでもダメなのです。
下半身だけでなくボディや上半身も大切です。最近の研究では筋トレに事実上の若返り効果があることがわかってきました。週2回の筋トレを行うとかなりのちがいが実感できるはずです。
知的な刺激はとても大切です。新しい経験なら、スポーツだけでなく、家事や遊びもみな歓迎です。まったく新しいことにチャレンジするのも手ですが、昔やったことがあるものに再チャレンジするのがとっつき早いようです。面倒くさいこと、時間がかかることをするのもまたトレーニングです。コツは一時に全部やってしまおうと思わないこと。ほんの一部分でいいからやってみます。毎日ちょっとずつでも続けていけば必ず結果が出ます。これは立派な脳トレーニングであると言えます。

4 人生100年時代に向けて

歴史ものを読んで思うのは、時代の変わるスピードがどんどん速くなっていることです。江戸時代の初めと終わりを比べたときの生活の変化より、昭和30年代~現在の変化のほうがはるかに大きいのではないでしょうか。必要なものしか持たず、ものより経験を重視し、会社や一つの職業にしがみつかない生き方がこれからは求められることを、若い人たちはひしひしと感じているようです。基本はやはり体です。中高年・年配の方もこれまでの暮らし方にこだわらず、身も心もやわらかく生きていく努力を重ねましょう。

 

ねりまインクワイアラー 135 VRとAR 

 自宅にいながらパリの街角を歩き回り、ケニアのサファリパークに出かけ、エベレストの頂上から世界を眺める。VR(仮想現実)を使うと、本当にそこにいるかのような実感をともなって仮想空間を動き回ることができます。対してAR(拡張現実)は現実の空間内に動く画像が現れます。目の前に遠く離れた相手が現れ、手ぶり身振りを交えて会話することが可能です。車の自動運転化につづく大きな技術革新になりそうです。

 

松ぼっくり通信 2018年 5月号

腰痛は心なのか体なのか

医者になりたてのころ、椎間板ヘルニアの手術の助手をつとめました。手術前にとても痛がっていた患者さんが、麻酔が醒めたときに「すっかり楽になった」とお話しされたことを思い出します。手術は大ざっぱに言えば「悪いものを取り出す」方法です。腫瘍を切除したり、壊れてそのままでは危険な臓器(の一部)を切り出します。椎間板ヘルニアの場合、飛び出た軟骨の一部が神経にあたり、腰や足の痛みをおこします。壊れた部品を修理することで腰痛が治るなら、話はシンプルです。しかし30年たった今、そうは簡単でないことを実感しています。

1 ヘルニアが原因

 薬草。温めた石。温泉。けん引。はり、マッサージその他、腰痛にいろいろな治療が行われてきました。結果はいいときもあれば悪いときもあり、ある人にはよく効いた治療法がほかの人にはダメだったり、有名な医師でも治せないことがあれば、インチキ治療でもよくなることがあり、古今東西にたくさんの説はあれど、どれ一つとして的を射るものがないのが腰痛治療の実態だったのです。

ところが20世紀の初めのイギリスで画期的な論文が発表されました。頑固な腰下肢痛の患者さんに対し、神経を圧迫していた軟骨のかたまりを摘出したところ腰痛が消えたという報告です。史上初めて目に見える形で腰痛の原因を提示し、物理的に原因を取り去れば症状が消える。これ以上わかりやすい説明はなかったので、お医者さんたちの世界ではいっきに腰痛=ヘルニア説が広まりました。

しかしながら、たしかに手術で症状が改善した人はいたのですが、それだけでは説明できない腰痛があること、手術だけですべての腰痛を治療するのはムリがあることに気が付いた人もすくなからずいたのです。

2 ヘルニア説の凋落

 1970年代からCT、80年代からMRIという、体を切り開かずに調べる画像診断法が開発され、腰痛の診断が一気に進歩しました。ところが不思議なことがわかりました。腰痛の人に必ずヘルニアが見つかるわけでなく、まったく腰痛がない人にもけっこうな割合でヘルニアが見つかったのです。こうなるとヘルニア=腰痛説はあやしくなり、腰痛を一から考え直す必要が出てきました。わかったのは、ヘルニアがあってもなくても長い目で見ると腰痛が軽くなる人が大多数であること、ヘルニアが見つかって手術をした人としなかった人のどちらも5年後には良くなっていて結果に大きな差がないこと、画像診断では説明しずらい腰痛が一定の割合で存在することでした。

 そこで医者・研究者は骨や筋肉の働きを調べなおし、痛みに関わると考えられた脳・神経の仕組みを研究し、痛みに心理学が関わっていることがわかったために治療や生活指導の方法を根本から変えていきました。みんなが当たり前と思っていたことが通用しなくなり、全く新しい考え方・やり方が広まることをパラダイム・シフトと呼びます。まさにこの30年は腰痛のパラダイム・シフトがおきた時間だったと言えるでしょう。

3 非特異的腰痛とは?

 お医者さんたちが特に困ったのは、非特異的腰痛と呼ばれる原因のはっきりしない腰痛が予想以上に多く、ほぼ9割がこれに当てはまるということです。この中には、おそらく疲労性の筋痛、無意識の筋けいれん、せぼねの加齢性変化など検査では異常のないものが入るはずです。

また、腰痛には心理的影響が強いことがわかっており、痛みに対して過剰に反応する人がいたり、痛みがあることがその人に利点があるときに症状が強くなったり長引くこともわかっています。

よく外来で聞く例では、数年前から年に二三回腰痛があるという相談があります。ある程度の年になればこれぐらいは当たり前と考えることもできますが、慢性の腰痛が続いている状態と考える人がいます。朝起きぬけに腰が痛い、草むしりの後に腰が痛いのは年のせいということもできますが、何かの病気の先触れではないか、将来歩けなくなるのではないかと不安になり、病院を訪れる人は珍しくありません。このように、痛みの強さとは別に本人がどのように考えているかもだいじで、ものの見方を変える練習が必要なこともあります。

4 心なのか体なのか

 以前、腰痛の原因はほとんどが心の中の怒り・不安・わだかまりなどのストレスであるという説が人気を博したことがあります。たしかに痛みを感じているのは脳ですから、脳に強いストレスがかかった時に痛みが出やすい・強くなりやすいというのはほんとうかもしれません。

 しかし、椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などからだにはっきりした故障を起こす身体疾患があるのも事実です。つまるところ、腰痛を治すには心も体も考えるという、古株のドクター・治療家が経験的に知っていたことを現代の研究が裏付けたのでしょう。

 

ねりまインクワイアラー 134 「反共感論」

 相手の身になって考えることを共感と呼び、一般的には良いことだと思われています。ところが共感することは必ずしも良いことばかりではないという本を読みました。人間は共感すれば手助けしたいと思います。手助けの結果、相手に喜んでもらえればやって良かったと感じます。ですが、本当に相手や世の中のためになるかを知るには一度共感から外れ、冷静に検討する必要があるという内容です。なかなか考えさせられる本です。