変化のある毎日を
デカンショ節で知られる哲学者のカントは時間に正確なことで有名でした。毎日同じ時刻に同じコースの散歩を行うので、沿道の人たちは先生の歩く姿を見かければ時間がわかったそうです。カント先生の規則正しい運動の習慣は、当時としては長生きできた(80歳)理由にもなっていると思います。ですが現在では、からだの機能促進・老化防止のためには毎日の生活に変動があったほうがいいことがわかっています。
1 同じ職業の人は似ている
一般に同じ職業の人たちは似た印象があります。服装や表情が似ているのは当たり前ですが、立っているときの姿勢や歩き方にも一定の傾向があります。診察では、職業や普段の生活の様子を確認した後に手足の柔軟性や筋肉のつき具合、背骨や関節の可動性を調べるので、同じ職業の人には一定の特徴があることがよくわかります。例えば銀行員の人たちは体が固いことが多いとか、建築家はねこぜ気味、消防士は筋肉質のような大まかなイメージがつかめます。献身的に仕事に関わるほど、言い換えれば長時間にわたり一定の作業に従事し、休みが少ない・取りづらい仕事の人は疲労が抜けにくく、筋肉が縮まり関節が固まりやすいのかもしれません。見た目の特徴が同じということは、無理のかかりやすいからだの個所も同じということであり、病院に来た時の相談内容も似てきます。こういった体の特徴=くせが少ないほど体のあちこちにかかる負担が減り故障をしにくくなりますから、くせをつけないライフスタイルを確立することが大事です。
2 規則正しさのメリット・デメリット
規則正しい生活を送ることには、はっきりしたメリットがあります。天気や体調に関わらず、毎日やることが決まっている人は、「今日は何をしようかな」と考えている人と比べると毎日の運動量が確保され、生活のリズムができるので体調管理をしやすいでしょう。診療をしていると、定年退職した時のように今まで規則正しく行ってきたことを急に止めてしまい、やることがみつからないときに体調を崩しやすいと感じています。
しかし規則正しさにもデメリットがあります。生活がワンパターンに陥りやすく、メリハリのない毎日だと感じることがあります。心も体も毎日同じことを繰り返すわけですから、使うところは使うが、使わないところは使わないというかたよりが生まれます。強いところは強いが弱いところは弱い、柔らかいところもあるが固いところはそのままといった傾向が続くために、からだ(と心)にくせがついてきます。これが、各自の弱点が生じる理由になります。
3 変化のある毎日を
だから変化のある毎日が必要です。散歩をするときには同じところを歩かずコースを変えます。平べったいところだけでなく坂や階段も歩きます。アスファルト以外に草むらや土の上を歩きましょう。知らない街や旅行先を歩くのもいい経験です。つま先が上がりにくくなった、転ぶのが怖いと思う人は膝を意識的に上げて運動会の行進のように歩いてみましょう。またわざとゆっくりと歩いたり、小刻みだったり大股で歩いたり変化をつけます。しっかり歩ける方は数メートルだけ走ってみます。少し自信がついたらもう少し長く走ります。慣れればより長く走れるようになります。
トレーニングの理論に「ハード・イージー」という考え方があります。きつい(ハード)トレーニングをした後2・3日は軽い(イージー)トレーニングをはさむというやり方です。きついことばかりを続けるとからだが慣れる(適応する)時間が取れません。適度な運動をつづけながら体力・競技能力を上げていくためにとても大事な方法です。これを皆さんの生活にあてはめてください。楽ばかりでもダメ、きついばかりでもダメなのです。
下半身だけでなくボディや上半身も大切です。最近の研究では筋トレに事実上の若返り効果があることがわかってきました。週2回の筋トレを行うとかなりのちがいが実感できるはずです。
知的な刺激はとても大切です。新しい経験なら、スポーツだけでなく、家事や遊びもみな歓迎です。まったく新しいことにチャレンジするのも手ですが、昔やったことがあるものに再チャレンジするのがとっつき早いようです。面倒くさいこと、時間がかかることをするのもまたトレーニングです。コツは一時に全部やってしまおうと思わないこと。ほんの一部分でいいからやってみます。毎日ちょっとずつでも続けていけば必ず結果が出ます。これは立派な脳トレーニングであると言えます。
4 人生100年時代に向けて
歴史ものを読んで思うのは、時代の変わるスピードがどんどん速くなっていることです。江戸時代の初めと終わりを比べたときの生活の変化より、昭和30年代~現在の変化のほうがはるかに大きいのではないでしょうか。必要なものしか持たず、ものより経験を重視し、会社や一つの職業にしがみつかない生き方がこれからは求められることを、若い人たちはひしひしと感じているようです。基本はやはり体です。中高年・年配の方もこれまでの暮らし方にこだわらず、身も心もやわらかく生きていく努力を重ねましょう。
ねりまインクワイアラー 135 VRとAR
自宅にいながらパリの街角を歩き回り、ケニアのサファリパークに出かけ、エベレストの頂上から世界を眺める。VR(仮想現実)を使うと、本当にそこにいるかのような実感をともなって仮想空間を動き回ることができます。対してAR(拡張現実)は現実の空間内に動く画像が現れます。目の前に遠く離れた相手が現れ、手ぶり身振りを交えて会話することが可能です。車の自動運転化につづく大きな技術革新になりそうです。