骨質を語ろう
骨粗鬆症の程度を示すとき骨量を使います。「若い時に比べて〇〇パーセント」「同年齢の平均と比べて〇〇パーセント」といった説明があってわかりやすいです。でも今回はもっとわかりにくい「骨質」のお話です。
1 骨量と骨質のちがい
味噌や醤油を買うとき、値段もだいじですが味もだいじです。でも味噌を何グラム買いたいか人に伝えるのはかんたんですが、自分が求めている味をきちんと伝えるのは難しいです。同じように骨量を測るのは割合かんたんで、レントゲンやDEXA(デキサ)を使うとすぐに結果がわかります。骨質はまったく別です。「骨質がいい」とは、ほねに適度なしなやかさがあり、強い力がかかってもかすかにたわんだりへこんだりして、すみやかにもとのかたちにもどることを指しています。え‼骨ってやわらかいの?と思った人、じつは骨は意外と柔らかいのです。とくに若いころの骨はやわらかく強靭です。グラスファイバーという素材が自動車のボディ、スキー板などに使われていますが、へこまず割れず、たわむことで力をためて強い反発力を生み出すため重宝されています。最近ではパラ陸上選手の義足に使われていますから、みなさんも目にしたことがあるはずです。 グラスファイバーは細く繊維状に伸ばしたガラスをプラスチックで固めたものですが、骨も同じようにコラーゲンというタンパク質にカルシウムが沈着してできています。グラスファイバー=コラーゲン、プラスチック=カルシウムと考えるとわかりやすいです。そしてコラーゲンが骨質の決め手なのです。
2 骨質を決めるもの
コラーゲンはひも状のタンパク質で、これをどう配置するかで性質が変わってきます。皮フの場合は皮膚細胞の下にコラーゲンがひらたく編み込まれて伸び縮みできるようになっています。腱では弾力がありかつ強靭な登山用ロープのように編み込まれています。骨ではコラーゲンが縦方向に配列され、真ん中には空洞(骨髄腔)が作られます。軽くてしなやかな竹みたいなイメージです。
むちむちの赤ちゃんのはだと、お年寄りのかさかさとしたはだ。小さい子のやわらかい体と、かたいおとなの体。転んでもかんたんに折れない骨と、ちょっとしたことで折れる骨。これらすべてにコラーゲンの性質のちがいがかかわっています。そして年をとるとコラーゲンの合成量が減り、配列も乱れてもろくなりがちです。ですからからだを若々しく保ち、骨質をよくするためには、コラーゲンの状態を改善しなければなりません。
3 骨質は測れるのか
いろいろ調べたのですが、骨質を測れる装置はまだ作られていないようです。からだが柔らかいかどうかは動かしてみないとわからないように、骨を曲げたり伸ばしたりしてどこまで耐えられるのか見ないことには骨のしなやかさは測れないのかもしれません。
もしかしたら骨の一部を切り出して曲げたり伸ばしたりして強度を測ることはできるかもしれませんが、実際にはなかなか難しいと思います。いまのところは骨量(骨密度)を測って大ざっぱな目安とし、ふだんの暮らしの中でいかに骨質を上げるかを考えればいいでしょう。
4 骨質を上げるには
骨質を上げるには骨そのものに多様な刺激を与えることが必要です。そうすることでコラーゲンの健康な形成が促され、しなやかで丈夫な骨が作られます。
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ワンパターンでない体の使い方をしよう・・・特定の運動だけでなくいろんなことをやるほうがいいです。運動と名がついてもつかなくても、家事・仕事・趣味・遊びで多彩な体の使い方をしましょう。
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タンパク質をしっかり摂ろう・・・年配の方に伺うと(タンパク質が足りてないのでは?)と思うことがままあります。筋肉や骨を丈夫にするためにタンパク質をしっかり摂りましょう。
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休養もだいじ・・・ホッとする時間も必要です。生活にめりはりをつけましょう。
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糖尿病に気をつけよう・・・糖尿病はコラーゲン老化の大敵です。甘いものの摂りすぎに注意!
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上半身を忘れずに・・・歩くだけでは上半身の骨質は良くなりません。手もしっかり動かそう。庭仕事や拭き掃除などもいい刺激になりますよ。
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栄養食品(コラーゲンなど)は不要・・・ネット情報の大部分は一種の宣伝です。商品購入を促す内容だったら飛びつかないこと。ふだんの食事に偏りがなければじゅうぶん。むだな出費はさけましょう。
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イメージでいうと骨形成促進薬(ビタミンDなど)は骨質優位、破骨細胞抑制薬(ビスフォスフォネート製剤など)は骨量優位の薬と言えます。使い方はケースバイケースですが、わたしはビタミンDを中心に治療を組み立てることが多いです。
ねりまインクワイアラー 195 ブルーカーボン
この夏も暑いですね。ブルーカーボンとは海藻などに取り込まれた二酸化炭素のこと。空気中の二酸化炭素発生量を抑えて地球温暖化を軽減するために、いま活用する研究が進んでいます。
良くなったけどすっきりしないときは…
ケガや病気から立ち直っても、期待したほど回復しない、前とはちがう…と感じることがあります。お医者さんから「病気は治っています」「様子を見てみましょう」と言われても、どうもすっきりしない。こんなときのお話です。
1 完治!はありません
患者さんから聞くことはあっても、お医者さんが使うことのないことばが「完治」です。がんや胃潰瘍が治っても、コロナ感染症や骨折が治っても、かならず何かのキズ跡が体に残ります。うちみやねんざのような軽いけがであっても微細なダメージが残ります。完治を求められるというのは、壊れたツボをあずかって、ていねいに破片をつないだり金接ぎをして苦労して修理して直しても、「壊れていないまっさらなツボになっていない」と言われるようなものです。
長く生きればどんな人でもあちこちに傷がつきます。真っ白な紙にしわやシミがつくように、おぎゃあと生まれた日から今日までの痕跡が体に残ります。お医者さんにできるのはとりあえず使えるように戻す手助けなので、そこからどれだけ回復させるか、生きてて良かったなーと思えるようにするかは本人次第なのです。
2 一歩一歩進んでみよう
いまから5年前、私自身もけがをして手術を受けました。ケガ前の状態には今も戻っていませんが、それでも毎年ちょっとずつ良くなっているのがわかります。階段を上りやすくなったり、以前できなかったストレッチができるようになったり、長い時間動いても疲れにくくなったことを実感しています。苦労話は省きますが、小さな積み重ねが大切です。大事だと思うことを挙げてみます。
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できるだけわかりやすい目標を立てる・・・ただ元気になりたいではなく、「あそこのレストランに行きたい」「高尾山にまた行きたい」のように具体的に。
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細かく分解、ちいさな進歩を体験する・・・今できることをほんのちょっとだけ増やしてみる。外に出るのが大変なら家の玄関まで行って、靴を履く練習をする。速く歩けないなら、電柱一本分だけ速く歩いてみる。
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週2・3回以上は練習する・・・練習の効果は間をあけすぎると失われます。週単位で小さな進歩を積み重ねましょう。
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長いスパンで見よう・・・患者さんたちを診ていて、気の短い人が多いと感じます。マンガのヒーローのようにあっという間に回復しないので、のんびり粘り強くやることです。
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あたらしい経験をしよう・・・今までやらなかったことをしてみると、別の刺激が入って良い効果があるかもしれません。新しいトレーニングややり方にチャレンジしてみるのも手です。
3 限界とのつきあい方
はあ、やっぱりだめだったか…もうちょっとがんばれると思ったのになあ。もう年かな。こんな風に感じることってありますよね。あるいはほんとうにがんばったのにダメだった、出し尽くしたのに届かなかったという経験は誰にでもあるはずです。それに、誰もが知っている有名スポーツ選手だっていつかは年齢や体力の限界で引退します。
でも(ここまでがんばった)という記憶はあなたの心に残り、チャレンジしたことでからだは確実に変わっています。医学的に言えば、脳の前頭葉が刺激され、強い意志や決断・実行力が高まりました。筋肉や内臓も鍛えられて、まったくちがう分野にチャレンジしても体を動かす準備ができているはずです。
先日、山の中でウルトラマラソン参加中、時間切れのリタイヤとなったとき、こんなことを考えました。たしかに年齢とともに体力は落ちていきますが、これからも好きなこと(私はランニング)を続けていこうと思いました。
4 柔軟に生きよう
ミルトン・エリクソンさんは19歳の時ポリオにかかり、全身のマヒがおきました。唯一動かせる目を使って周囲の人たちを観察するうちに、声の調子やかすかな表情の変化から人の心を読み取れるようになり、その後医師となり杖を使いながら「魔術師」と人が呼ぶ名医になったのです。何が幸いするかは後になるまでわかりません。
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上から見下ろすのでなく、下から見上げよう・・・いきなり高いところに目標を置いてまだこんなところなのかとがっかりするより、少し上を目指してあきらめずにがんばってみよう。後から見れば意外と高いところまで来ているものです。
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ほんとうにできないことにぶち当たった時は、コースを変えてみよう。がんばったことは記憶にも肉体にも残るので、まったく新しいチャレンジにも役立ちます。
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完ぺきでない自分を愛そう・・・お茶の世界では、割れた茶碗を金接ぎにして大切に扱っている人がいます。完璧でないから味わいがあるのです。同じように不完全な自分を愛しましょう。
ねりまインクワイアラー 194 シンギュラリティ
直訳すると「一点突破」みたいなことばです。人工知能(AI)が自ら学ぶ力を発揮し、人間を超えた知性を獲得することで世の中を根っこから変えてしまう。SFの世界のようですが、いまや本気で議論されています。20年後(いや数年後か)、世界はどう変わっているでしょうか?