しびれた、さあどうする?
しびれの相談はめずらしくないのですが、奥が深くてなかなか説明がむずかしいです。今回のお話です。
1 だれにでもしびれは起きる
私の実感では、しびれの相談が十あるとすると九割がたはほっとくか様子を見るだけで済むもの、残り一割は調べたほうがいいものです。先日マラソン大会に出たとき、脱水が原因で指が腫れてしびれました。ゴールしてからたっぷり水分補給をしたらしびれが治りました。そのほか競歩の練習で腕をいっぱい振ってしびれたり、長時間のランニングで坐骨神経痛(しびれ)が出たりいろいろなしびれを経験しました。
救急外来に勤務しているときよく診たのは過換気症候群の患者さんで、からだじゅうがしびれ、息が苦しくて救急車で担ぎ込まれます。本人にすれば苦しくて死にそうなのですが、患者さんの口に紙袋をあててゆっくり呼吸させる(今は古いやり方)とすぐに治りました。私自身なったことがあって、あの切迫感・恐怖感はよくわかります。
デスクワークなどあまり体を動かさない人たちの中にも手足のしびれを感じる人がいます。厳密な意味でのしびれ(神経障害)ではなく、脳やせき髄の検査をしてもはっきりした異常は見つかりません。ここからは私の意見なのですが、おそらく慢性型の過換気症候群(習慣的に呼吸が浅い)だと考えています。細かい理屈は省きますが、深い呼吸の仕方を覚えてもらうとしびれがなくなってくるようです。
正座を続けて足がしびれるのはかなりの人が経験していると思います。腕を上げた格好や横向きで長く寝たりして腕がしびれた人もいるはずです。どちらも神経が圧迫されるために起きると言われています。細かく診ていくと、手足のあちこちに神経のウイークポイント(骨のすきまや筋肉の中で神経が圧迫されやすい部位)があり、相談を受けるしびれの多くはこれが原因です。
2 これは要注意!しびれ
つぎにほっといたら×のしびれを考えてみましょう。
● 脳から来るしびれ・・・脳梗塞や脳出血でしびれが出ることがありますが、たいていは運動まひなどほかの症状が合併します。
● せき髄から来るしびれ・・・神経の経路に沿ってしびれが出ます。痛みが伴うことが多いですが、しびれだけのこともあります。多くは椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症が原因ですが、三浦雄一郎さんのせき髄血腫のようにめずらしい病気もあります。
● 神経そのものの炎症・・・脳・脊髄・末梢神経それぞれに炎症(難病指定のことが多い)を起こす病気があります。しびれる場所がだんだんと変化していきます。肩から腕に激痛がおきる神経痛性筋萎縮症もたまに経験します。
● 糖尿病・リウマチ疾患など・・・糖尿病で有名なのが手袋・靴下型のしびれです。太もも前方の痛み・しびれがでることもあります。そのほか小さな枝神経の故障があるとあちこちにしびれが生じます。
● 栄養不足・・・意外に多いのがビタミンB1の欠乏症です。足首から下の感覚が鈍くなります。白米中心の食生活で少食だとなりやすいです。ビタミンB12の欠乏症もちらほら見かけます。胃の手術後、胃酸を抑える薬の常用、動物性食品の摂取不足(ベジタリアン、少食の人)がある人でしびれ・歩きづらさがあったら可能性があります。
そのほか、 内臓の病気、がん、トリガーポイントのような筋肉の故障でもしびれがでることがあります。
3 しびれとのつきあい方
● 生活に支障のないしびれだったら、とりあえずのんびりかまえましょう。食事内容や睡眠に気を配り、運動やストレス発散を行いながら様子を観ましょう。多くのしびれは自然に消えていきます。
● 痛み、筋力低下、歩きづらさ、手先の細かい作業がしずらいなど、しびれ以外に症状があるときは一度お医者さんに相談してみてください。
● 「しびれ」にはいろいろな感覚があって、人によって全然違うことを言っている気がします。自分のしびれがどんな感じなのか(ズキズキ、ちくちく、ぴりぴり、何かがくっついている、だるい、動かしにくい、力が入らない、つかれる、ふらふらする他)、どんなタイミングであるのか(24時間連続、ときどき、たまに、一回だけ、何かをしているときだけなど)、どこらへんに感じるのかを説明できるようにしましょう。しびれは目に見えないので、あなたのことばがたよりです。ここをきちんとやらないと、正しい診たて・治療に結びつかない可能性があります。
ねりまインクワイアラー 199 ブギウギ
朝ドラ「ブギウギ」おもしろいですね。主人公役の趣里さんは子供のころからバレリーナを目指していましたが、足のけが(踵骨剥離骨折)でキャリアをあきらめざるを得ませんでした。でもあんなに踊れてるのに?!と思いますが、それだけ厳しい世界なのでしょう。私の趣里さん押しひとつめは、自分も同じけがをしたのでその苦労がよくわかること。もうひとつはお母さんの伊藤蘭さん(元キャンディーズ)が高校の同窓だからです。
今どきの手術
じっさいに手術をやっていたのはだいぶ前で、最近の事情を聞くと驚くことがあります。一方、基本はやっぱり同じだな~とも思っています。皆さんが(手術が必要なのかな?)と思ったときのアドバイスです。
1 生きるための手術、元気になるための手術、実験的な手術
大きなけがや病気で命を助けるために手術をする。たとえばやぶれた大血管を治したり、重要な臓器を守るために手術をするのは外科医冥利に尽きます。やるときはやるしかない!ので迷いもないし、あとはベストを尽くすだけです。
整形外科医の私の場合、そういう場合もなくはなかったのですが、機能を復活・改善させるためにメスを握ることが多かったです。あるとき電車の中で声をかけられて、「先生のおかげで歩けるようになった」と言われたときはうれしかったです。命を救うわけではないけれど、それが良くなったら患者さんの人生が変わる。これも大事な手術の目的だと思います。
もうひとつ、今ある治療法では良くすることができないとき、一般的な方法ではないけれど治る可能性があると考えて手術が行われるときがあります。そこに至る前にさまざまな研究や実験(動物で同じ治療をするなど)をして検討を行い、病院の倫理審査委員会をパスし、患者さんやご家族の同意を得て行われるもので、大学病院や一流病院で行われます。患者さん+医学の進歩のために行われますが、当然リスクも存在します。
ここでは、私の経験から機能を良くするために行う手術について考えてみたいと思います。
2 手術しか方法がない?
機能を復活させるために手術を考えた場合、まず考えなければいけないのは「ほんとうに手術しか方法がないのか?」です。安全で、肉体的・精神的に負担が少なく、効果的な治療法が望ましいのでできれば手術をしたくないと考えるのが人情ですが、じつはお医者さんたちだって同じです。できれば切らないですましたい。冷静を装っていても、やはり人の体にメスを入れるのは心の負担になります。いや、そういう気持ちを持つ医師こそ外科医になるべきであって、何人切った!と得意になるような人は外科医失格です。そんな医師はいないと信じたいのですが、長くこの業界に暮らしていて、そんな人は絶対にいない!と自信をもっては言えません。
だから患者さんたちも自分なりに調べることが大切です。手術以外に方法がないのか信頼できる情報を集めたり、複数のお医者さんに聞いてみたり、最後に決めるのは自分だと考えてください。自分の意見を強く押し付けたり、あまりに突飛な意見だったり、すすめる方法に利害関係を持っていないかなど、慎重な判断を行いましょう。
私の場合、かかとの手術を受けたとき、まったく迷いはありませんでした。専門分野なので、この手術は必要と知っていたし、信頼できるお医者さんに任せたので安心して手術を受けることができました。
3 大谷選手の場合
大リーグで活躍する大谷選手がひじを傷め、2回目の手術を受けました。トミージョン手術(じん帯再建術)+人工じん帯を使う特殊な手術だそうです。24歳で1回目の手術ですから5年しか持たなかったわけですが、大リーグにチャレンジして二刀流の大活躍、ホームラン王になるまでよく役に立った!とも言えます。プロとしてかけがえのない時期、時速150キロで球を投げ続けることができたのですからもとは取ったのかもしれませんね。あたらしい手術がどれくらい持つのかわかりませんが、年間ウン十憶円と言われる収入がこれから数年続くだけでも大きな違いになるでしょう。
でも一般の人だったら数年しか持たないかもしれない手術を受けるのがいいことなのかよく考えないといけません。人工股関節の場合今は20年以上(かそれ以上)持つと考えられていますが、ひざはもうちょっと短いようです。そのほかの関節ではさらに期間が短くなります。手術によるからだの負担を考えると(壊れたら直せばいい!)という考え方は危険です。
リハビリも大変です。大谷選手にはきっと専属のセラピスト・トレーナーがついて、文字通り血と汗と涙のトレーニングが続くことと思います。それでも復帰しようとする意志と実行力はまさにプロの鏡ですが、一般の方がそこまでやるか・必要があるのかは?です。
4 手術を考えたとき
健康保険が整った日本では割合気楽に手術が受けられますが、整形外科のように機能を良くする手術法の場合、絶対的適応(誰が見ても手術しか手立てがない状態)があることはまれです。また手術でなにもかもがすぐに良くなるわけでなく、完全には治らなかったり、長い安静期間が必要だったりもあり得ます。急場の治療ではありませんから、たっぷり考えて判断されることをお勧めします。
ねりまインクワイアラー 198 バッテリー問題
EV(電気自動車)が古くなったとき、バッテリーをどうするかが問題です。リユース(再利用・転用)かリサイクル(分解して資源利用)か。これを解決しないとEVの将来は危うくなりかねません。
見えないものをみています!
嗅覚・視覚・聴覚・味覚・触覚の五感のうち、医学の世界ではどうしても視覚にたよりがちです。今回は、見えないものを見る技法についてのお話しです。朝ドラ「らんまん」で主人公の友だち、波多野くんが叫んだ言葉を表題にしてみました。
1 物質をみわける
大昔、ギリシャのアリストテレスは世界が「土・水・空気・火」の4つですべてできていると考えていました。世界が何でできているか?目で見てわかるわけではないためこれは長いことなぞのままでした。ところがいろいろな物質を砕いたり、焼いたり、煮たり、溶かしたりをくりかえすとだんだんと不純物が取り除かれ、最後に単一の物質(たとえば金)が残ることが知られてきました。こうやって根本的な物質(元素)が発見され、じみ~に化学実験をくりかえしてちょっとずつ物質の組成(たとえば水は酸素と水素でできている)がわかってきましたが、タンパク質やホルモンのような複雑な物質だとこのやり方ではむり!もう一工夫が必要でした。たとえば左図のビタミンDの化学構造式、目に見えないのにどうやってこんなことを調べられたのでしょうか?
そこでレントゲン(X線)が登場します。応用してX線解析装置や電子顕微鏡といった機械が作られ、目で見たかのように物質の複雑な構造がわかるようになったのです。そして様々な発明につながりました。いま私たちが乗っているクルマ、持っているスマホ、住んでいる家、飲んでいるクスリなど、すべてはこの成果をもとに始まっているのですよ。
2 昔と今
明治のはじめ、東京の医学校を卒業した新米の医師たちは、医療器具や薬などを買いそろえてから地元へ戻り、各地で医院を開きました。診察の時、まず顔色、目の結膜や舌を見て、脈をとり、おなかや手足を触り、体温を測ったり、聴診器で胸・腹部の音を聞きました。まだレントゲンのない時代ですから、後は尿や便の色や調べるくらい、今のお医者さんだったら診断の手立てが少なすぎてたいへん心細い思いをしたはずです。その分、手を使った診察をいっしょうけんめいにやったと思います。
今と比べたらたいした薬もなく、栄養や休養に気を配り、患者のそばで見守りはげます。なにもできないことも多かったはずですが、患者さんのそばにいる時間は長くとれたはずです。
現在、レントゲンは言うに及ばず、MRI,CT、超音波ほかたくさんの診断機器があり威力を発揮していますが、そのぶん昔ながらの診察がおろそかになっていないのか。目で見るのみならず、聞いて触ってみる。古臭いやり方のように見えて、それでしかわからないことがあると考えています。
3 触診でわかること
指先には微小なセンサーがたくさん集まっていて、これをフルに利用するといろいろなことがわかります。経験上温度差は0.1度単位で感じ取れますし、目で見ただけではわからないむくみやこわばりも触れるとわかります。こつはできるだけ軽く触ることで、これが初心者には難しいのです。
また動きの「質」を感じると、痛みの原因が骨、じん帯、筋のどれなのか、あるいは全然関係のない内臓や神経からの痛みなのかおおよその判断をつけることができます。これは整形外科の診療にはものすごく役に立ち、レントゲンを撮る前段階でほぼ痛みの原因が見当つくこともまれではありません。
レントゲンやCT/MRIなど現代医学の最新機器を使ってもわかりにくいことが実はたんとあります。触診の初心者のときにはわからなかったことが、慣れてくるにしたがってだんだんとわかるようになる。イメージでいうと脳の中の診断プログラムがどんどんバージョンアップされていく感じです。もともと人間の体には精細なセンサーが集まっているのですから利用しない手はありません。手を使うことでまさに「見えないものを見ている」感じになるのです。
4 触診が活かされる場面とは
診断機器のようにデータが分析・加工されると利用しやすくなりますが、そのぶん雑多な情報が無視され、ほんとうは重要な情報が見逃されることがあります。生の情報を扱う触診が得意な分野はこんな感じです。
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よくある症状の中からあぶなっかしいもの(ひょっとしたら深刻な病気かも?)をさがしだす。
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想定外に対処する。生情報の強みがここに生かされます。頭で考えずに肌で感じるのですから。
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もやーとしたはっきりしない相談の診察。御用聞きが街の隅っこまで出歩く感じで、小さなヒントをみつけられるかもしれません。
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山の上、電車・飛行機内などできることが限られる場面で、急場の処置をするとき効果を発揮します。
ねりまインクワイアラー 197 夏の運動不足
連日の暑さで家から出なかった方も多いようですが、そろそろお外に出ましょう。週に2,3回、少し長めのお散歩から始めてください。慣れたらチョット速いかな?くらいのスピードまで上げてみましょう。
なにが正しいか考えよう
当時の常識がまちがっていて、新しい考え方のほうが真実だとわかったとき、すぐに受け入れる人はまれです。「太陽が地球を回っているのではなく、地球が太陽を回っているのだ」という考えがひろく受け入れられるようになるのには数世紀の期間が必要でした。しかしスマホやネットがあたりまえになり、ものごとがガラッと変わるスピードが速くなった今、新知識についていくのがたいへんです。新しいことと向き合うヒントをお話しします。
1 コロナはただのかぜ?ワクチンは有害?
21世紀の時代に、まさかこれほど新型コロナという伝染病が広がるとは!長らく医学では伝染病をどう克服するかが大きなテーマでした。一般的な見方では伝染病は世界の一部の地域に残るばかり、ふだんの生活には関係がないように多くの人が感じていたはずです。でもこわがらずにやることをやれば、ある程度の感染予防や症状の悪化を防げることもわかってきました。当初ワクチンがないために恐れられた新型コロナウイルスですが、きわめて短期間でワクチンが作られ、多くの人に接種することである程度流行を抑えることができました。これまた短期間で抗ウイルス薬が作られたのもビックリでした。伝染病治療・予防の歴史から見れば、これはすごいことです。
反面、新ワクチンで健康を損ねたり亡くなった方がいるのも事実です。世の中のすべてと同様、絶対的に良いものや悪いものはありません。良いほうだけを取り上げるのも、悪いほうだけ見るのもまちがったやり方です。コロナの存在を否定するのも、過度にこわがって人との接触を避けようとするのも?と思います。
テレビやネットを観るとき、この情報は事実なのか、あるいは誰かの見解なのかをしっかり考えることがたいせつです。そして一次情報(生のままのデータ)まで自分なりに調べらればさらにいいと思います。
2 長生きをするほど幸せなのか?
医学のもう一つ大きなテーマはいかに人間の寿命を延ばすかでしたが、これはほとんど達成されているように思います。ただし、「健康に」という付箋付きで考えると、長寿が必ずしも幸せか疑問に考える声も出てきました。さすがに江戸時代のように60を過ぎれば定年(命が定まる≒そろそろ寿命)と言われるよりは今のほうがずっといいと私も思います。ですが、毎日を充実して生きるには明晰な心とじょうぶな足腰が必要で、単なる長命だけでいいのかとも考えます。
認知症になったり、足腰が立たなくなったりするのが、生活習慣から来るのか素質からくるのかはまだはっきりとしませんが、少なくとも(医師の手を借りずに)自分で工夫し対処できる期間をなんとか伸ばしたいものです。そうすることで生きている一瞬一瞬が宝物となるように暮らしてみたい。みなさんも長生きの意味をとらえなおし、長さ以外のなにかで命を測ってみませんか。
3 痛みには原因がある?
医学生のころ、痛みの発生回路について教わり(ホントに電気回路みたい!)と思いました。それからうん十年がたち・・・最近の痛みの考え方は「痛みには原因があることもないこともある。脳が痛いと感じたなら、それが痛みなのだ。」ということになっています。
え?と思いませんか。でも、長いこと痛みを中心として診療を行ってきた経験からはなかなかうなずける説明なのです。心の痛みってほんとうなのですね。からだに何の異常もないのに(医者から見て不可解な)痛みを訴える人をたくさん診てきました。診たての不十分さもあるかもしれませんが、精密な電気回路のようなからだの仕組みからは理解しにくい痛みはやはりあります。そしてよくわからないきっかけで良くなったり、悪くなったりするのです。
良くしてなんぼの臨床医ですが、理屈に合わない経験をすると心が乱れます。そして医学はみなさんが思っているほど整然とした世界ではなく、まだまだ謎にあふれています。かたくなりがちな頭をやわらかくして、なんとかついていきたいです。
4 さて、あたらしい考えについていくには
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積み重ねられた事実があれば受け入れる・・・一歩一歩まちがいがないか確認しながら事実を積み重ねていく。その結果が世間の常識と異なるように見えてもきちんと検証できていればまずは受け入れてみる。
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声が大きいから、有名な人が言うから、正しいと思わない。
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昔から言われていても正しいとは限らない。逆に新しいから本当とは限らない。
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「専門家」が本当に専門家なのかは慎重に判断しよう。人が聞きたいこと、自分が言いたいことを言うだけの人かもしれません。
- わかりやすいことが正しいと限らない。反対にむずかしいから正しいとも限らない。かんたんなことをむずかしく言うほうがありがたがられますが、むずかしいことをかんたんに説明するほうがほんとうはたいへんです。
ねりまインクワイアラー 196 山酔い(軽症の高山病)
先日家族で富士山に登りました。わたしは平気でしたが山酔い(頭痛・食欲不振)になる者もいて、やっぱり富士山はたいへんだ!と思いました。なりやすさには脱水・年齢のほか素質も関係するそうです。
骨質を語ろう
骨粗鬆症の程度を示すとき骨量を使います。「若い時に比べて〇〇パーセント」「同年齢の平均と比べて〇〇パーセント」といった説明があってわかりやすいです。でも今回はもっとわかりにくい「骨質」のお話です。
1 骨量と骨質のちがい
味噌や醤油を買うとき、値段もだいじですが味もだいじです。でも味噌を何グラム買いたいか人に伝えるのはかんたんですが、自分が求めている味をきちんと伝えるのは難しいです。同じように骨量を測るのは割合かんたんで、レントゲンやDEXA(デキサ)を使うとすぐに結果がわかります。骨質はまったく別です。「骨質がいい」とは、ほねに適度なしなやかさがあり、強い力がかかってもかすかにたわんだりへこんだりして、すみやかにもとのかたちにもどることを指しています。え‼骨ってやわらかいの?と思った人、じつは骨は意外と柔らかいのです。とくに若いころの骨はやわらかく強靭です。グラスファイバーという素材が自動車のボディ、スキー板などに使われていますが、へこまず割れず、たわむことで力をためて強い反発力を生み出すため重宝されています。最近ではパラ陸上選手の義足に使われていますから、みなさんも目にしたことがあるはずです。 グラスファイバーは細く繊維状に伸ばしたガラスをプラスチックで固めたものですが、骨も同じようにコラーゲンというタンパク質にカルシウムが沈着してできています。グラスファイバー=コラーゲン、プラスチック=カルシウムと考えるとわかりやすいです。そしてコラーゲンが骨質の決め手なのです。
2 骨質を決めるもの
コラーゲンはひも状のタンパク質で、これをどう配置するかで性質が変わってきます。皮フの場合は皮膚細胞の下にコラーゲンがひらたく編み込まれて伸び縮みできるようになっています。腱では弾力がありかつ強靭な登山用ロープのように編み込まれています。骨ではコラーゲンが縦方向に配列され、真ん中には空洞(骨髄腔)が作られます。軽くてしなやかな竹みたいなイメージです。
むちむちの赤ちゃんのはだと、お年寄りのかさかさとしたはだ。小さい子のやわらかい体と、かたいおとなの体。転んでもかんたんに折れない骨と、ちょっとしたことで折れる骨。これらすべてにコラーゲンの性質のちがいがかかわっています。そして年をとるとコラーゲンの合成量が減り、配列も乱れてもろくなりがちです。ですからからだを若々しく保ち、骨質をよくするためには、コラーゲンの状態を改善しなければなりません。
3 骨質は測れるのか
いろいろ調べたのですが、骨質を測れる装置はまだ作られていないようです。からだが柔らかいかどうかは動かしてみないとわからないように、骨を曲げたり伸ばしたりしてどこまで耐えられるのか見ないことには骨のしなやかさは測れないのかもしれません。
もしかしたら骨の一部を切り出して曲げたり伸ばしたりして強度を測ることはできるかもしれませんが、実際にはなかなか難しいと思います。いまのところは骨量(骨密度)を測って大ざっぱな目安とし、ふだんの暮らしの中でいかに骨質を上げるかを考えればいいでしょう。
4 骨質を上げるには
骨質を上げるには骨そのものに多様な刺激を与えることが必要です。そうすることでコラーゲンの健康な形成が促され、しなやかで丈夫な骨が作られます。
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ワンパターンでない体の使い方をしよう・・・特定の運動だけでなくいろんなことをやるほうがいいです。運動と名がついてもつかなくても、家事・仕事・趣味・遊びで多彩な体の使い方をしましょう。
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タンパク質をしっかり摂ろう・・・年配の方に伺うと(タンパク質が足りてないのでは?)と思うことがままあります。筋肉や骨を丈夫にするためにタンパク質をしっかり摂りましょう。
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休養もだいじ・・・ホッとする時間も必要です。生活にめりはりをつけましょう。
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糖尿病に気をつけよう・・・糖尿病はコラーゲン老化の大敵です。甘いものの摂りすぎに注意!
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上半身を忘れずに・・・歩くだけでは上半身の骨質は良くなりません。手もしっかり動かそう。庭仕事や拭き掃除などもいい刺激になりますよ。
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栄養食品(コラーゲンなど)は不要・・・ネット情報の大部分は一種の宣伝です。商品購入を促す内容だったら飛びつかないこと。ふだんの食事に偏りがなければじゅうぶん。むだな出費はさけましょう。
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イメージでいうと骨形成促進薬(ビタミンDなど)は骨質優位、破骨細胞抑制薬(ビスフォスフォネート製剤など)は骨量優位の薬と言えます。使い方はケースバイケースですが、わたしはビタミンDを中心に治療を組み立てることが多いです。
ねりまインクワイアラー 195 ブルーカーボン
この夏も暑いですね。ブルーカーボンとは海藻などに取り込まれた二酸化炭素のこと。空気中の二酸化炭素発生量を抑えて地球温暖化を軽減するために、いま活用する研究が進んでいます。
良くなったけどすっきりしないときは…
ケガや病気から立ち直っても、期待したほど回復しない、前とはちがう…と感じることがあります。お医者さんから「病気は治っています」「様子を見てみましょう」と言われても、どうもすっきりしない。こんなときのお話です。
1 完治!はありません
患者さんから聞くことはあっても、お医者さんが使うことのないことばが「完治」です。がんや胃潰瘍が治っても、コロナ感染症や骨折が治っても、かならず何かのキズ跡が体に残ります。うちみやねんざのような軽いけがであっても微細なダメージが残ります。完治を求められるというのは、壊れたツボをあずかって、ていねいに破片をつないだり金接ぎをして苦労して修理して直しても、「壊れていないまっさらなツボになっていない」と言われるようなものです。
長く生きればどんな人でもあちこちに傷がつきます。真っ白な紙にしわやシミがつくように、おぎゃあと生まれた日から今日までの痕跡が体に残ります。お医者さんにできるのはとりあえず使えるように戻す手助けなので、そこからどれだけ回復させるか、生きてて良かったなーと思えるようにするかは本人次第なのです。
2 一歩一歩進んでみよう
いまから5年前、私自身もけがをして手術を受けました。ケガ前の状態には今も戻っていませんが、それでも毎年ちょっとずつ良くなっているのがわかります。階段を上りやすくなったり、以前できなかったストレッチができるようになったり、長い時間動いても疲れにくくなったことを実感しています。苦労話は省きますが、小さな積み重ねが大切です。大事だと思うことを挙げてみます。
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できるだけわかりやすい目標を立てる・・・ただ元気になりたいではなく、「あそこのレストランに行きたい」「高尾山にまた行きたい」のように具体的に。
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細かく分解、ちいさな進歩を体験する・・・今できることをほんのちょっとだけ増やしてみる。外に出るのが大変なら家の玄関まで行って、靴を履く練習をする。速く歩けないなら、電柱一本分だけ速く歩いてみる。
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週2・3回以上は練習する・・・練習の効果は間をあけすぎると失われます。週単位で小さな進歩を積み重ねましょう。
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長いスパンで見よう・・・患者さんたちを診ていて、気の短い人が多いと感じます。マンガのヒーローのようにあっという間に回復しないので、のんびり粘り強くやることです。
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あたらしい経験をしよう・・・今までやらなかったことをしてみると、別の刺激が入って良い効果があるかもしれません。新しいトレーニングややり方にチャレンジしてみるのも手です。
3 限界とのつきあい方
はあ、やっぱりだめだったか…もうちょっとがんばれると思ったのになあ。もう年かな。こんな風に感じることってありますよね。あるいはほんとうにがんばったのにダメだった、出し尽くしたのに届かなかったという経験は誰にでもあるはずです。それに、誰もが知っている有名スポーツ選手だっていつかは年齢や体力の限界で引退します。
でも(ここまでがんばった)という記憶はあなたの心に残り、チャレンジしたことでからだは確実に変わっています。医学的に言えば、脳の前頭葉が刺激され、強い意志や決断・実行力が高まりました。筋肉や内臓も鍛えられて、まったくちがう分野にチャレンジしても体を動かす準備ができているはずです。
先日、山の中でウルトラマラソン参加中、時間切れのリタイヤとなったとき、こんなことを考えました。たしかに年齢とともに体力は落ちていきますが、これからも好きなこと(私はランニング)を続けていこうと思いました。
4 柔軟に生きよう
ミルトン・エリクソンさんは19歳の時ポリオにかかり、全身のマヒがおきました。唯一動かせる目を使って周囲の人たちを観察するうちに、声の調子やかすかな表情の変化から人の心を読み取れるようになり、その後医師となり杖を使いながら「魔術師」と人が呼ぶ名医になったのです。何が幸いするかは後になるまでわかりません。
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上から見下ろすのでなく、下から見上げよう・・・いきなり高いところに目標を置いてまだこんなところなのかとがっかりするより、少し上を目指してあきらめずにがんばってみよう。後から見れば意外と高いところまで来ているものです。
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ほんとうにできないことにぶち当たった時は、コースを変えてみよう。がんばったことは記憶にも肉体にも残るので、まったく新しいチャレンジにも役立ちます。
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完ぺきでない自分を愛そう・・・お茶の世界では、割れた茶碗を金接ぎにして大切に扱っている人がいます。完璧でないから味わいがあるのです。同じように不完全な自分を愛しましょう。
ねりまインクワイアラー 194 シンギュラリティ
直訳すると「一点突破」みたいなことばです。人工知能(AI)が自ら学ぶ力を発揮し、人間を超えた知性を獲得することで世の中を根っこから変えてしまう。SFの世界のようですが、いまや本気で議論されています。20年後(いや数年後か)、世界はどう変わっているでしょうか?
「ばんそうこう理論」とは
おくすりや注射を使わなくても治ることがある。と言うと、「え?そんなことがあるの⁈」と驚かれることがあります。
でもそんなに力技を使わなくても、からだにはもともと治る力が備わっています。いちばんわかりやすいのがひざこぞうなどをすりむいた時。ばんそうこうを貼って、傷を守ってあげるだけでどんどん治っていきます。ばんそうこうと同じように、体を守るしくみをじょうずに使えば、治る力を最大限に発揮できるのです。
1 からだじゅうに治る力が備わっている
これを読んでいるみなさんは、ひょっとして病院で治療を受けないと病気やケガが悪くなってしまうと思っていませんか?たしかにそういうこともたまにはありますが、たいていの故障・不調はとくに治療をせずとも治っていきます。
昨年の自分をふりかえってみましょう。頭痛、、胃のもたれ、肩こり、湿疹、鼻水、打ち身そのほかいろいろあったはずですが、それなりに良くなっていませんか。かんぺきでなくても、からだはなんとかやりくりしてくれるのです。まったくなにもなかった人でも、体の中では小さな故障が絶えず起きていて、小さな修理屋さん(白血球やせんい芽細胞など)が故障を直す仕事をしてくれます。わりに大きな故障があるばあい、からだのコントロールセンター(脳)に連絡があって、(しばらく脂っこいものをさけて胃の負担を減らしておこう⇒胃のもたれ感発信!)とか(骨にかかる負担を減らして早く治るようにしよう⇒関節痛の出力アップ!)のように症状を自覚するのです。
こういうからだを守る・修復するしくみがうまく働いていれば、たいていのことはなんとかなるものです。ところがなんとかなるはずなのにうまくいかないとき、くすりやお医者さんに出番がまわってくるのです。
2 治る力を阻害するもの
擦り傷の治り方で説明しますが、基本的に体のどの場所でも理屈は同じです。
ひざに擦り傷を作ったとき、はじめに白血球が傷口にやってきて、入り込んできた細菌をやっつけます。つぎにリンパ液が沁み出して、死んだ細菌や壊れた皮膚組織を洗い流します。そのあと、せんい芽細胞が傷口をつないで皮膚細胞が傷のまわりから伸びてきて傷をふさいでいきます。よくできていますね。
小さな細胞たちのはたらきをじゃましなければ、けがは最短で治ります。傷をこすらないようにやわらかいガーゼや包帯を当てる。激しい動きをさけて傷を刺激しないようにする。細胞たちが元気に働けるように、たんぱく質やビタミンが豊富な食事をとる。同じく休息をじゅうぶんに取って、修理の時間をたっぷり作ってあげる。これをわかりやすくたとえたのが「ばんそうこう理論」です。そして理論の真逆をやれば、傷のなおりがどんどん遅くなっていきます。
3 治る力を発揮するには
上記に加え、運動器(骨・関節・筋肉)の場合、症状を生じる原因となった物理的な刺激をさけることが必要になります。
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痛みが出にくい動き・姿勢がある・・・たとえば腰部脊柱管狭窄症では腰をそり気味で歩いたり、長時間座りっぱなしでいると発症しやすくなります。上肢痛の場合、ねこぜ+くびがそり気味で症状が悪化する人が多いです。痛みが出にくい姿勢や動作を習慣にするだけで治るスピードがぐっと速まります。「ばんそうこう理論」でも大切な部分。クリニックで指導していますが、くらしの中でどれくらい気を付けてもらえるかがポイントです。
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体幹をきたえたり、全身のストレッチをするのはいいことです。きれいな身のこなし=故障をしにくい・回復しやすい動きと考えてください。
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歩き方もだいじです。足のうらをじょうずに使い、なめらかに足を運べば下半身にかかる衝撃が軽くなり、ひざや足腰の痛みの回復に有利です。
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ほんとうの急性期(1週間)を過ぎたら、適度の運動はむしろ修復を促進しますから、痛み=安静ではありません。トライアンドエラーで試してみてください。
ねりまインクワイアラー 193 朝型・夜型
朝型か夜型かは体質的に決まっているそうです。わたしはほっといても早く起きる子供でしたが、わが子の中にも夜型のタイプがいます。コロナをきっかけとして在宅ワークが広がりましたが、最近ゆりもどしで出社型に戻す動きが増えているそうです。夜型の人はゆっくり寝て、ゆっくり起きて仕事に取り組むほうが能率がいいのでは?もっと働き方は柔軟でいい気がします。
ビタミンD押し活中‼
コロナ流行の3年間、仕事でびっくりするほど増えたのがビタミンD不足の患者さんたちです。以前国が行った調査では成人女性の約8割がビタミンD不足だったのですが、現時点では老いも若きも、ねこも杓子もビタミンD不足になった感じがしています。みんなビタミンDが足りてないぞ!ビタミンD押しキャンペーン第3弾です。
1 証拠は現場にあり
レントゲンや検査ではわからないことがいっぱいあるので、手で触る(触診する)ことが大事だと考えています。そうやって診察すると、一見同じような痛みでも、これは筋肉、あれは神経、こっちは骨が原因と見当がつきます。コロナ前から仕事のやり方は変えていないのに、緊急事態宣言が出たあたりから痛みの原因が骨のケースが急増しました。
仕事の中身や生活習慣について聞いて、(太陽の光を十分に浴びていない⇒ビタミンD不足では?)と疑い始めました。そこで、ためしにビタミンDを飲んでもらうとこれがよく効きました。一番多い膝の痛みでビタミンDが効くのを確かめてから、おそるおそるほかの痛みの相談(股関節、肘、指ほかetc.)でも試してみました。すると痛み止め(飲み薬)を使わずにビタミンDだけで良くなる方がいっぱいいることがわかり、わたしのビタミンD愛がさらに深まったのです。
刑事もの小説のことばを借りれば、まさに「証拠は現場に落ちている」のだと実感します。現代の、ふつうに暮らしている日本の生活ではビタミンD不足が一般的ではないのか。そう考えるようになったのです。
2 そもそもビタミンDとは何ぞや
以前にも触れましたが、ビタミンDは骨だけに効くわけではありません。からだを構成しているあらゆる細胞の働きにはカルシウムが必要です。このカルシウムの調節を行っているのがビタミンDなのです。
骨はかたくてじょうぶ。この「骨をかたくする」にビタミンDが不可欠なのですが、ほかにがん予防、うつ予防や不妊予防などの働きがあります。最近では筋肉強化(ビタミンDが足りないと筋力がつかない)や慢性炎症(老化や動脈硬化の遠因)の防止効果があることもわかってきました。あらゆる細胞の機能に不可欠なビタミンDですから、さらに研究が進めばいろいろな効果がわかることと思います。
そしてビタミンDには大きな特徴があります。それは「自分の体で作ることができる」こと。ほかのビタミンは食べることで体外から取り込むことが必要ですが、Dだけは皮膚に日光があたることで合成できるのです。もちろん食事でも摂れますが、日光の下で暮らす古くからのライフスタイルなら、かなりの割合を自分のからだで作ることができていたのです。
3 なんで不足するのか
ビタミンDに限らず、ビタミンと名がつくものは毎日結構な割合で消費されています。イメージでいうと台所にあるみそ・しょうゆみたいなものです。だから油断するとなくなってしまいます。ビタミンDの場合、日光浴プラス食品(サケ・さんま・キノコなど)で補給が可能ですが、屋内では日が当たりません。窓ガラスがビタミンD合成に必要な紫外線(UVB)をブロックするので、ベランダ越しの日光浴ではなく、ベランダや庭に直接出て日にあたってください。
赤ちゃんのビタミンD不足は世界中で問題になっており、妊産婦の方のビタミンD不足も珍しくありません。年寄りは皮膚のビタミンD合成力が下がりますし、色黒や肥満の人もビタミンD不足になりがちです。そしてコロナ流行中の外出制限・自粛がおきました。これがきっかけとなってクリニックを訪れる方が増えたのだと思います。
4 日焼け対策とビタミンD不足のはざまで
皮膚がんが怖い。シミやそばかすができる。やっぱり色白の方がいい。日光蕁麻疹がある。いろいろな理由で日にあたりたがらない・あたれない方がいます。そんな人へのアドバイスです。
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日焼けが目立つほどの日光浴は必要なく、どれくらい日にあたれば十分なのかは調べればすぐわかります。スマホ・パソコンで「ビタミンD生成・紅班紫外線量情報」と検索すれば一発です。今の季節、東京なら顔・両手出しで20分、顔・両腕出しで10分くらいです。
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ビタミンDの一日推定必要量は 成人15㎍ 71歳以上は20㎍ となっています。
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実際にビタミンD不足で症状が出たらくすり・サプリなどで補いましょう。参考に栄養食品やサプリ中のビタミンD量をあげておきます。
サントリー・ロコモア 1日6粒で5.0㎍ 雪印メグミルク・毎日すこやかMBP 一日3粒で3.0㎍
明治メイバランス(ヨーグルト)1.0㎍ ザバス・ミルクプロテイン(飲料) 5.1-11.0㎍
カワイ・カルシウム肝油ドロップ 1日2粒で3.3㎍ 赤ちゃん用BabyD 1滴あたり2.0㎍
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服の色が濃いほうが紫外線を遠ざけます。白色が一番紫外線を通します。薄い生地より厚い生地の方が紫外線をブロックします。その点、デニムの生地はかなりいい線をいっています。服装にも気を配りましょう。
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日焼け止めやサンプロテクションつきの化粧品もありですが、安全性に注意してください。
トリガーポイントの作り方
肩こり、腰痛や手足の痛みの相談で仕事上しょっちゅう出会うのが、トリガーポイントです。筋の中に触れるしこり状の部位で、押すと痛みます。痛みそのものは押したところより離れた部位に感じるので、患者さんにすれば(痛いところと違う場所をさわっている)と思うかもしれません。医師なら一度は聞いたことがあるトリガーポイントですが、その実態はあまり知られていません。そもそもトリガーポイントはなぜできるのか?今回のおはなしです。
1 トリガーポイントとの遭遇
トリガーポイントのことは大学病院での研修のころから意識していました。レントゲンや血液検査ではわからない痛みの原因があるらしいこと、そして一般に思われている以上にトリガーポイントのケースが多いのではと考えていました。なかなか良くならない腰痛の患者さんたちを診るうちに疑問が膨らんで、病院の仕事とは別に痛みの原因について調べ始めました。痛みそのものを扱った医学書自体がめずらしく、なかなか国内では見つからなかったので、海外から専門書を取り寄せ読むことを続けました。
そのなかに「トリガーポイント・マニュアル」があったのです。アメリカの医師が書いたトリガーポイントをきちんと扱った本です。読み始めてまさに目からウロコ!一般的な整形外科の専門書にはまったく書かれていない内容に驚くばかりでした。ただし、中身を100パーセント信用したわけではなく、そこに書かれていることを少しづつ実際の診療に取り入れながら、うそ?ほんとう?と自問をくりかえしつつ検討していったのです。
2 自分で経験してわかったこと
想像以上にトリガーポイントの知識がからだの故障の治療に役立つと実感したころ、ふつうの診療の現場にこれを持ち込んだらどうだろうと考えました。そこで開業を決断し、仕事もまあまあ順調だったある日、突然からだの調子を崩しました。たびたび触れていることなので委細は省きますが、クリニックのほかに医師会の仕事が加わったことと、遠方の父親が病気になり亡くなるまで肉体的・気持ち的に消耗したことが理由にあったのだと思います。
このときトリガーポイントの知識がとても役に立ちました。実際に症状が良くなったのですが、なにより「自分で自分の体のめんどうを診れる」「夜中でもどんな時でもなんとかすることができる」という気持ちになれたのが大きかったです。からだの故障があるとき、症状に加えて不安感が大きく膨らみ、むしろ強い不安のほうが本人を苦しめることがあります。こんなとき、「なんとかなる!」と思えるだけでつらさが半減するのを実感しました。
その後も運動のし過ぎが原因であちこちにトリガーポイントを作ったり、かかとの骨折で手術を受けたり、いろいろ失敗を重ねてきましたが、トリガーポイントへの対処法を知っているから「どんなときでもなんとかなる」と思えるようになりました。トリガーポイントはけっしてめずらしい故障ではなく、ごくふつうの人たちが普通の生活をつづけているのにできるのです。でもたまたま運が悪かったからできるのではなく、できるのには理由があり、それを知っていれば発症を予防したり、トリガーポイントの症状を改善・消失することができるのです。
3 トリガーポイントの作り方
トリガーポイントはちょっと特殊な筋のこりと言い換えてもいいです。ここではトリガーポイントを作る三大要因を挙げます。
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疲労の積み重ね・・・いちばんわかりやすい理由です。睡眠時間が少なく、仕事時間が長ければ、どんな人でも疲れがたまります。そのまま何か月・何年もなんとかなっていても、さらに体に負担がかかった時に堰を切ったように調子を崩します。次のストレスがきっかけになりやすいです。
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ストレス・・・いらいら、どきどき、ぴりぴり。言葉で表現するとこんな感じでしょうか。こういう状態が続くと自律神経のバランスが崩れ、交感神経優位となります。興奮モードが続き、からだの回復メカニズムが働かなくなります。こんなとき、運動が大きな役割を保ちます。
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運動不足・・・有酸素運動による新陳代謝の活性化は言うに及ばず、運動には脳の整流効果があります。余分な神経の働きを抑え込み、デフォールト・モード・ネットワーク(脳がリラックスできる状態)にもどす手助けをしてくれます。
4 トリガーポイントとの付き合い方
長いこと人間をやっていれば、だれでも調子を崩す時があるものです。トリガーポイントはだれにでもおきるものですが、命とりでもないし、痛くてもなんとか普通の生活ができるくらいのことが多いです。ときには腰が痛くて眠れなかったり、肩こりがきつくて仕事に集中できなかったり、こじれた五十肩で夜に目が覚めたりすることもあります。
はじめのうち病院の手助けも必要と思います。落ち着いてきたら、暮らしの中の問題点を見直し、運動・ストレッチ・セルフマッサージなどのセルフケアにチャレンジしてみましょう。やればできる!まず試してみましょう。
ねりまインクワイアラー 192 人工知能
絵が描ける。お話が作れる。宿題もできる。コンピューターがどんどん人間に近づいています。人がやっていた仕事をかなりこなせるようになってきました。では人にしかできないことはなんでしょうか?や
ことばはむずかしい
先日朝ドラで短歌づくりに悩むシーンを見て、もともと詩や短歌が苦手な私は(31文字ぼっちなんだからぱっと作れないのかな?)と一瞬思いました。でも、短歌作者の方はきっと血を吐く思いで作っていると想像しています。こんな私ですが、それでも仕事の中で言葉づかいに悩むことがあります。今回のお話です。
1 ことばの意味
国や文化が異なると同じ意味のことばでも、実際に与える印象が大きく異なることがあります。典型的なのは「水」です。身の回りに水が豊富にある土地に住む私たちは「さっと湯がいたり」「湯でこぼしたり」「水にさらしたり」をふつうに話していますが、水が大変貴重な砂漠地帯に暮らしている人たちにこれらの表現の雰囲気を実感してもらうのはきっと至難の業でしょう。
「古池や かわず飛び込む 水の音」という有名な俳句を鑑賞するとき、(かえるが池に飛び込んだ)という解説ではまったく不十分なのは皆さんおわかりと思います。濡れた苔に囲まれた小さな池、おそらくアマガエルが水草の上から水に飛び込み、ぼちゃんと音がして、そのあとに静けさがただよう・・・こういったことを瞬間的に理解できるのは作者と同じ環境や暮らしを経験している私たちだからできることです。
では同じ町で、同じ空気を吸っていればことばのイメージを100パーセント伝えられるのか?自分が言いたいことをなかなかわかってもらえないという経験は誰にでもあるはずです。医療の世界も同じ、こちらが伝えたいということが伝わらないという経験は医師の側にも、患者の側にもあります。それも、けっこう頻繁にある気がしています。
2 たとえ話は役に立つのか
「千里の道も一歩から」と聞けば(あーそうそう、どんなにすごいことでもはじめは小さな努力からはじまるんだよね)とわかるのはなぜかというと、学校の先生や親に教わったからです。聞いたまんま、千里の道を歩くときに一歩目からはじまる?あたりまえじゃん!と考えてもおかしくないのに、道という言葉から人生とか学業とか別のイメージに置き換えて考えることを抽象化といいます。具体的な出来事をもっと広いことにまで通用する概念に置き換えること。「たとえ話」がやっているのはこれです。
どんな分野でもむずかしいことをわかりやすく伝えたいとき、たとえ話はとても役に立ちます。でもなかなかわかってもらえないときもあります。ひとつはたとえ話の出来が悪くイメージが伝わらないとき。もうひとつは抽象化に慣れていない人と話すとき。抽象化は脳トレのひとつなので、得意な人も不得意な人もいます。たとえ話がうまくいって、(あ!わかった!)という顔を見るととてもうれしいです。うまくいかないときはちょっとがっかり、プランを練り直し別のたとえ話を試します。たとえでどれだけイメージを広げられるか。勝負のしどころです。
3 身動きを口で教えることはできる?
スポーツや習い事をはじめるとき、初心者は上手な人の動きをまねようとしますが、なかなかうまくいきません。うまくいかない理由はまだ体ができていなかったり、動きの中でどこが勘所かがわかっていなかったりさまざまです。そして練習の後、いろいろ指導されてもよくわからないってことありますよね。
あとから教わるのでなく、動いている瞬間にずばっと指導する方法を研究している人がいます。ゴルフの「チャー・シユー・メン」長嶋さんの「スウーっと来た球をガーンと打つ」に近いのですが、その人の動きをコンピューターなどで解析して一歩先を読んで指導するという研究で、ちょっとづつ成果が出ているようです。
私の仕事では、腰痛の患者さんなどで姿勢やからだの動き方を指導するのですが、自分ではわかりやすいと思っている感覚を言葉で伝えるのにとても苦労することがあります。腰という言葉一つをとっても、人によってイメージが全然違います。だから指導はオーダーメードが必要、まだまだ改良が足りないと感じています。
4 プラセボとことば
プラセボとは、「ほんとうは効果がないはずなのに(心理的な影響で)実際に効果が出てくること」を指します。新薬・治療法の開発現場ではあまりいい意味で使われていない言葉ですが、あらためて考えてみるとこれってすごいことだと思いませんか。患者さんの気の持ちよう(あるいは持たせ方)が実際の効果に無視できない影響を及ぼすのですから。うん十年医者の仕事をして感じるのは、同じことを話していても言葉の受け止め方は人によって全然違うことです。こちらがいい意味で使った言葉を悪い意味で受け取られてしまうことがあれば、その逆もあります。医療のことばは耳慣れないものばかりですから、医者が気軽に使っている言葉でも患者さんが聞けば不吉な響きがすることもあり得ます。でも長いこと診ていて思うのは「たいていのことはなんとかなる」ということ。なんとかならないように見えるのは、短期的に物事を見すぎていたり、必要以上に恐れていたりいろいろなので、その辺の心のコリをほぐしていけたらと考えています。ちょっとした見方の修正が、良い方向につながることを期待して。
ねりまインクワイアラー 191 日光と健康
日に当たってビタミンDを作るか、日光を避けて皮膚がんを作らないか。こういう二者択一の考え方をしていませんか?答えはどちらでもありません。そのあいだに解決策が見つかるはずです。