歩ける・歩けないの境は微妙
外来で受ける相談は痛みやしびればかりではありません。最近増えているのは「おじいちゃん・おばあちゃんが歩けなくなった!」という相談です。何かの病気がみつかることもありますが、多いのは「久しぶりに親の様子を見に行ったら、全然歩けなくなってる!」と慌てて病院に連れてくるケースです。こんなときの考え方をお話しします。
1 ほんとうに病気がみつかる
10年前に比べ、病気で歩けないという人たちは相当減りました。栄養状態の改善、道路・歩道橋の整備、また世間的に日ごろの運動が大事なことがあまねく知られてきたためでしょう。それでも脳・せき髄、あるいは心臓や肺、リウマチなどの全身疾患が原因で歩けなくなる方がいます。いろいろな病気・からだの故障を抱えていながらしっかり歩かれている方も多くいらっしゃいます。大学病院のリハビリ外来などで「ほんとうにがんばっているのだな!」と頭が下がる患者さんにも少なからず出会いました。医師・リハビリ関係者の予想を上回り、そんなこともできているんだ‼と驚かされることも度々ありました。
歩けなくても歩行器・車を活用し、もしかすると普通の人以上に活発な人たちもいます。あえて言いますが、医者は手堅い予想をしがちなので、患者さんのがんばりで予想を上回るADL(日常生活動作)を達成する方だっています。それもそんなに珍しいことではないのですよ。
2 ゆっくりと体力が低下していた
私が散歩しているとき、屈伸したりストレッチしながら歩いている方を見かけます。そうです、どんなやり方でもいいんですよ!
ふだん歩かない道を歩く。上り下りのあるところに行く。一駅二駅遠征してみる。自転車で行くところを歩いて行ってみる。少し元気な方は10-20メートル走ったり歩いたりしてみましょう。
上半身もだいじですよ!歩くときは腕をしっかり振ります。ゴミ出し、庭の手入れなどふだんやっていることも立派な運動なので続けましょう。
同居していないとふだんの様子がわからないかもしれません。家の中が散らかってきたら要注意、必要な時にからだを動かさなくなっているのかも。ときどき一緒に外出してふらふらしないか観察しましょう。一緒に歩くと(年をとったなー)と感じるかもしれませんが、実際は年齢が原因ではなく、廃用が理由のことが多いです。
廃用なら、また元気になることができますよ!つとめて外に出る用事を作り、ワンパターンの毎日から脱出しましょう。ほんとうはできるのにやらなくなると、あっという間に廃用は進みます。1-2か月ならほっといてもだいじょうぶ?いいえ!1-2週で廃用が進み、歩けなくなる人もいます。だから病気やけがの回復期は要注意。本人に任せると動かなくなる人が多いので、まわりの人が見守るのではなく、一緒に家事や散歩をするのがいいと思います。
3 認知症が進んでいた
実は認知症が進んでいる場合もあるので、あれ?と感じたら検査するのも手です。
4 やる気がなくなった
老人性のうつもあり得る話です。認知症の外来で診てくれますよ。
5 良くなる決め手は?廃用でよろよろしてきたら、介護保険のデイサービス・訪問リハが役立つでしょう。じつは歩けるんだと実感するとどんどんやる気になって、また歩けるようになる人もいます。ただし転倒・骨折に気をつけてくださいね。
ねりまインクワイアラー 224 「化け化け」
ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)が主人公のNHK朝ドラは地味な印象ですが、プライベートな興味があります。明治維新のとき、奥さんとなるおトキさんの実家が没落して女中になります。私の父のご先祖も士族の端くれでしたが、同じころ広島(ドラマの島根県のとなり)を抜け出し、大分へ移住しました。
おトキさんの家と同じく突然幕藩体制が消え去り、家族が生きていくためやむを得ずの移住です。子孫は大分で農家となり、私はその末裔です。ドラマを見て、胸に迫るものがありました。この家族はどうなるのだろう?やっていけるのかな?今から見ればあたまが硬くて融通の利かない人たちに見えますが、当時は誰も似たり寄ったり、300年続いた江戸時代の影響はたいへん大きかったのでしょう。
ハーンさんはギリシャ出身ですが、日本で家族を持ち、日本で亡くなりました。幸いなことにハーン・トキ夫妻のご子孫は現在も達者に暮らされています(テレビにも出ています)。良かった!いまもいろいろ大変な時代ですが、50年・100年後に私たちの子孫はどんな暮らしをしているのかな?元気に、明るく暮らせる世の中であってほしいな。
「なして?」「どげん・・」ドラマで使われている方言を聞くと亡くなった祖父を思い出します。ご先祖様も苦労したのだろうな。
自分で軽くするコリ取り法
一人でいるとき、夜みんなが寝静まっているときに、自分だけで体のケアができる方法があります。そうすれば誰にも迷惑をかけないですみます。クスリみたいに副作用はないので何回でも行えますし、意外とかんたんに痛みが軽くなり驚くかもしれません。今回のお話です。
A 器具を使うマッサージ
10月号でも少しふれましたが、テニスボールやゴルフボールを二個づつ靴下型の袋に入れてマッサージに使うことができます。枕元に転がしておき、必要時にからだや頭の下に置いたり、手にもってマッサージします。
ネットで買えるマッサージ棒も便利です。左図のように手で持つとでっぱり(飛び出た部分を使う)でしっかり押圧をかけられます。手足の小さな筋肉のトリガーポイントは意外に多くて、これが活躍します。私は旅行の時、こういった器具を持ち歩いて痛いところがあるときに活用しています。
B 器具を使わないマッサージ・ストレッチ
① 全身弛緩法
からだの力を上手に抜けない方を対象に行われていた「漸進的弛緩法(リラクセーション法)」と同じですが、頭痛、肩こり、腰痛にも有効です。体のどこかが痛むときはかなりの確率で筋肉がかかわっていますので、筋肉を緩めるだけで症状が軽くなることは珍しくありません。
まず寝転がって体中の筋肉の力を抜きます。手足から始めるのがふつうですが、どこから始めてもかまいません。ほんとうに力が抜けると、自分で腕を持ち上げようと思っても力が入らず、だれかが手をを持ち上げて放したらパタンと下に落ちてしまいます。はじめは力を抜く練習が必要かもしれません。体じゅうの力が抜けたままでいるとあちこちが勝手にピクピクと動くことがありますが、これは縮まった筋肉がほどける感覚なので心配しないでください。うまくいくと、あちこちの痛みが消えているのがわかると思います。
② 局所的な弛緩法
慣れてくると押して痛みを感じるところを目印にして自分で治療することができます。筋肉内にできたトリガーポイント(押して痛むところ)を押したまま手足や体の位置を少しづつ動かすと痛みが少なくなる体の位置がわかってきます。痛みが最小になる位置を保ったまま30-90秒じっとしていると、あら不思議!痛みがきえているのがわかります。ゆっくりとからだをもとの位置に戻しても痛みが戻ってこなければ大成功です。何回もできる方法ですから繰り返し練習することでコツがわかってきます。
③ 凝ったところをストレッチ
もっとシンプルに、こっている筋肉を伸ばしていきます。かんたん‼と言いたいのですが、筋肉には起始と停止(筋肉の両端)があり、思っているよりも縦横無尽に筋肉が伸びています。専門書はありますが、中身が難しいし、値段も高いし・・・一般向きではありません。
と思ったら、最近はスマホアプリで「トリガーポイント」と検索するとアプリがみつかるので、試してみるのもアリです。
一度体の構造を覚えてしまえば応用が聞きますから、興味のある方はお試しください。たとえば左図みたいなアプリです。以前なら何万円もする本を買ってやっとみつけた情報が今は数百円で手に入る時代になりました。その代わりどう使うかはその人しだいです。
C 自分でするときに気をつけること
l 神経・血管を傷つけない・・・押してびりびりしたり、しびれる感じがしたら神経かもしれません。微妙に押す位置をずらしてしびれ感が消えるか観察してください。触れてどくどく拍動するところは血管の可能性が高いです。圧迫を避けてください。
l 筋肉はからだの一部・・・微妙に押し方や位置を調整して「ここを押すと楽な感じがする」ところを探しましょう。強く押せば効くというものではありません。
l 一回では解決しない・・・何回もするうちにちょっとずつ良くなるつもりでやりましょう。あせらないこと。
ねりまインクワイアラー 223 お見舞いの効果
2か月ちょっと入院していました。結構忙しい生活でしたが、ベッドにいる時間が長く、同じ天井・壁・窓の景色を見ているのは変わりません。家族・友人のお見舞いは大きいイベントで、来てくれてほんとうにありがたかったです。お知り合い・ご家族が入院しているとき、機会をみつけて面会に行ってあげてください。それが刺激になって、患者さんのからだ・心が元気になると思います。