歩き方から足を変える
足うらの痛みという相談では、インソール(中敷き)の工夫や靴の選び方の指導をすることが多いです。大半の方はそれで良くなりますが、なかなか治らない人もいます。こういう場合、歩き方が一番の問題では?と考えていましたが、具体的な指導ができずに困っていました。今回アメリカのインストラクターYamuna Zakeさんの本を元にして上手に歩く練習法をまとめてみました。
1 なぜ痛くなるのか
足の裏は厚い皮ふと特殊な脂肪組織でできていて、はだしで歩いたり走ったりできるようになっています。私が子どものころ、はだしで外に出て遊んだり(親には怒られましたが)、はだしで運動会を走ったりするのはふつうでした。土の道が消え、かたいアスファルトの道ばかりになった現在、靴は必要と思います。ですがあまりにも靴にたよりきった生活を長く続けると、じょうずな歩き方を忘れてしまうようです。足うらを守るために必要な筋肉も弱ってしまって、足うらを地面にたたきつける歩き方にかわってしまいます。 じょうぶな足の裏ですが、一時間しっかり歩けば片足で5000回地面に着地することになります。やわらかく接地するかわりに叩きつけるように歩く。これを数千~数万回毎日行えば、足うらが痛くなっても不思議ではないと思いませんか。
2 足の裏を4つに分けて考える
では足に無理の来ないソフトな歩き方はどのようなものでしょうか。わかりやすくするために足のうらを4つの部分に分けます。
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かかと…みずいろ
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外側…あおいろ
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指のつけ根…きいろ
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つま先…あかいろ
ソフトな歩き方を習得するために、まず立った状態で右足を前に出し、足うらを床につける練習をしてみましょう。①のかかとをゆっくりと床につけます。そこから②外側を床につけ、しっかり体重を乗せたら、そのまま流れるように③指のつけ根に体重を移していきます。このとき小指側から母指側へと順番に体重を乗せていくように意識すると良いでしょう。からだの重みを右足に載せていき、指のつけ根全体に体重がかかるようにします。
ここで左足を前に出して床につけながら、右足のかかとを持ち上げて④つま先を床に押し付けます。このとき母指から小指までしっかりと力が入るのが理想ですが、人によって力が入りにくい指があると思います。はじめはそれで良し、慣れるうちにしだいに力がついてくるはずです。
左右を替えてこれを繰り返します。この練習をするときはできるだけゆっくりとやり、足うらの感覚に気持ちを集中するよう心がけてください。ちょっとした時間のあいまに練習し、その後で足うらの感覚に集中しながら10メートルくらい静かに歩いてみましょう。練習前と比べて歩き方がちがってきたことを感じるはずです。
3 歩き方を良くするためのヒント
足うらの痛みを治すうえでカギとなるのが足の外側を活用することです。多くの人は歩くときに、かかとからいきなり指のつけ根に体重が乗る歩き方をしています。足の外側に体重がかかることを意識すると、かかとからつま先方向にかけてなめらかにからだの重心を移動できるようになります。だから、急いで歩いたり、走ったりするときでも衝撃の少ない着地ができるようになります。
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ストレッチをしよう 知らず知らずのうちに指を動かす筋肉が縮まったり足の関節が固まっていることがあります。指の先をつまんで、上下左右に動かしてほぐしましょう。足を手でつかんでいろいろな方向にねじって、かたまった関節や筋肉を動かしましょう。
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筋力強化は粘り強く 長い間使わなかった筋肉の力が戻るには時間がかかります。骨と関節しかないように見える足ですが、小さな筋肉がたくさんついています。小さいけれど体のバランスをとるうえでだいじな筋肉たちです。ケガや病気でしばらく歩かないでいると、この小さな筋肉がとても弱ってきますから、歩き方がぎこちなく疲れやすくなります。短い距離はともかく、長く歩くとどうしてもバランスが悪くなってしまう。ここであきらめないでください。持久力をつけるにはくりかえし長く歩くことです。投げ出さず、粘り強く歩く。前に難しいと思ったことがほんの少しだけ楽に感じるようになった。これを繰り返していけばいいのです。
ねりまインクワイアラー 174 横網町公園
関東大震災で3万8000人の方が亡くなった陸軍被服廠跡が横網町公園です。被服廠は震災の前年に赤羽に移転しており、震災当時は公園でした。慰霊堂のそばに近辺の工場にあった機械が展示されていますが、鋼鉄があめ玉のように溶けているのがわかります。信じられないほどの高熱が人々を襲ったのです。
からだの危機を脱するには
まだ若かったころ、あちこちの病院に転勤しました。大学の出張病院をぐるぐる回るのが当時のやり方でしたが、いいこともあれば?と思うこともあり、患者さんを長く診れないことが不満の一つでした。一転開業すると、定点観測で患者さんを長く診ることができます。赤ん坊だった子が大きくなって、大学生や社会人になり、さらにその子供を診ることだってあります。久しぶりに診ると、この子はうまくいってそうだなとか、ちょっと苦闘してるかな?とかいろいろなことを考えます。今回は長く診ている中で気づいたことをお話ししましょう。
1 からだはどんどん変わる
年齢のちがいは大きいです。子どもの頃はどんなケガでも順調に治り、ほとんど跡を残さないことも珍しくありません。思春期から20代はじめは体力がどんどん増大する時期です。やったらやっただけのことが身に付きますから、公私ともに実り多い時期です。20代後半から中年期は体力的には守りの時期、油断をすると体力・気力が落ちてきます。「前はできたことなのに」「こんなことでケガ(病気)をするなんて」と思うのがこの時期です。でもメンテナンスをすればまだまだいける!と思うのもこの時期で、個人差が大きくなってきます。
そして老年期。どんな人でも体力面の低下が避けられませんが、人生経験が深まった分、物事の多面的な見方ができるようになり、勝負や比べ合いを脱して、自分なりの楽しみを見つけられるはずです。長生きの時代、この時期の過ごし方については、私も患者さんから日々学んでいます。 壮年期、自分やまわりの人たちも疲れを感じてくる時期。長く患者さんを診ていると、このあたりが体力面から見た人生の分岐点のようです。楽に流されるか、もういっちょう!とがんばってみるか。仕事・育児・家庭状況の先が見えてきて、何を張りにして生きていくかあらためて考える時期です。体は何よりの資本、ここで自分の体に手をかけることができるかが分かれ目と言えます。
2 心当たりがない≠原因がない
まったく何かをした覚えがないのにどこかが痛くなったり、調子が悪くなったりするのはどうしてでしょうか。考えられることとしては①運動不足による廃用(筋の短縮・委縮・関節のこわばり・じん帯の柔軟性低下)②累積的効果(仕事や運動中の小さな無理が積み重なったもの)③じっとしていることに起因する筋の疲労・こり④自分にとっては記憶に残らないが、実際には体に負担になっていること(例;電車に遅れまいと急いで階段を上った・青信号が点滅したので急いで歩道を渡ったなど)が挙げられます。
昨年来のコロナ禍による外出制限の影響からか、在宅ワークが増えたためなのか①②③が原因となったからだの不調が増えている印象があります。三密を避けつつも運動やストレッチを行い、体の調子を保ちましょう。在宅ワークの場合、朝夕の仮想通勤時間を作る(勝手に歩く・走る・自転車を使う)のも手です。
3 時間がかかるときががある
わりかしシンプルな故障のようでいて、実際には治るのに時間がかかることがあります。骨折は1,2か月、肉離れは一か月くらい、捻挫は2~3週のような何となくみんなが抱いているイメージがあるのですが、実際には程度・年齢・体の具合(慢性疾患や疲労の影響)で治りがゆっくりになることが珍しくありません。お医者さんと患者さんで考え方に一番ギャップがあるのが治療期間のイメージでしょう。
ただし、体はあきらめずにちょっとずつでも治っていくのです。半年過ぎても、もっと時間がかかっても、体の修復システムは働き続けます。骨折・手術の経験をした私も日々実感しているのですが、もうだめかと思ってもあきらめずに運動を続けていくとそれなりに改善しているのを感じます。粘り強さが大事だと思ってください。
4 危機を脱するには
では体力面の危機を脱するにはどうすればよいのでしょうか?いくつかヒントをお話しします。
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努力はうそをつかない…筋トレやストレッチであれ、ウォーキングやいろいろなスポーツであれ、続けていけば必ず上手になります。進歩は停滞の後に来ます。ブレイクスルーは間近かもしれません。
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完ぺきを求めない…体の特性・年齢・体力差などがあって、自分の理想に届かなくても良しとしましょう。楽しむことが大事です。
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小分けにして考える…複雑な動きを全部一気に改善するのではなく、小さな一点を改善してみます。それを繰り返せば、ちりも積もって山となります。だからもっと上手になっていきますよ。
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人と比べない…自分が楽しむことが大切、みんなでワイワイやるのが好きな人も一人でのんびりやるのが好きな人もいます。運動は自分中心に考えましょう。
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いきなり高い目標は立てない…近所の公園に行って来るだけでオーケーです。動いているうちに筋肉ホルモン(マイオカイン)が出て気分が軽く、足取りも軽くなります。はじめの一歩は軽い気持ちでやってみましょう。
ねりまインクワイアラー 173 ゆっくりした動きの大切さ
同じことをするならゆっくりやるより速くやれるほうがエライ。そう考えがちですが、あえてゆっくりと、一つ一つの動きをていねいに、気持ちを集中してやってみます。あらゆる技芸において、技を磨くコツの一つです。
補装具を活かす
補装具とは杖やコルセットなど、手に持ったり着用してふだんの生活の助けをする道具のことです。車いすのように大きいものがある一方、コンタクトレンズや補聴器のように小さいものもあります。身近でないようで、意外と身近にある道具です。今回のお話です。
1 杖・松葉杖
3年前、かかとの骨折をおこしたときに私も松葉杖のお世話になりました。慣れないうちは汗びっしょりになりましたが、そのうちあちこち出かけるようになり、家族といっしょに買い物や食事に行ったり、学会に出かけたりしました。都内の駅にはまず間違いなくエレベーターがあるので、行こうと思えばたいていのところに行けるのです。もしも杖を使わなかったら、仕事に行けず、家からも出られず、ずいぶんつらかったはずです。本当にありがたい経験でした。
ご高齢になり、せなかが丸くなったり神経痛が出たりするときにも杖は役に立ちます。足の故障・マヒが残る人にも大きな助けとなります。 年齢が高くなったとき、杖を使ったほうがいいか聞かれることがあります。体力低下や故障のため歩くことに不安を感じているなら杖がおすすめです。「転ばぬ先の杖」のたとえ通り、いざというときにちょっと支えがあるだけで転ばずに済むなら、外に出たくなりますよ。一度杖をついたらもうやめることができないのでは?と心配する人がいますが、これは誤解です。一時的な体力低下があるとき、杖を使ってがんばって歩く練習を続ければ、ふたたび杖なしで歩けるようになります。
2 コルセット・サポーター
コルセットとは体にまきつけるバンド状のものを指しますが、医療用ではプラスチックなどで固めに作ったものもあります。せぼねやそのまわり(靭帯や筋肉)に痛みがあって動かしづらいとき、コルセットで一時的に保護してあげるだけで痛みが軽くなることがあります。故障部位を保護するだけで治る故障も多いので、そのあいだの時間稼ぎをするわけです。
「コルセットを長く着けると良くない」と言われることがありますが、コルセットを長く着けると腰回りの筋肉の力が落ちる可能性があります。だから故障が快癒したらコルセットを外したほうがいいと思います。しかしながら体の故障は千差万別で、長くコルセットを必要とする方もいます。ケースバイケースなので、迷ったら相談してみてください。
サポーターは手足に巻くもので、文字通り巻いた部分をサポート(支える)します。特殊な支柱付きのものもありますが、よくあるのは弾力のある布地でできたタイプです。骨折後のリハビリ中、筋力が落ちた膝が痛むようになりました。市販のサポーター(1000円くらい)を使ってみたら楽になり、助かりました。コルセットと同じく一時的な助けになりますが、やはりつけすぎると問題です。症状が軽くなってきたら外すことを考えましょう。医療用のものもありますが値段が高めですので、まず市販品を試してみましょう。通販などで安く手に入ります。
3 マヒを助ける
病気やけがのためにからだにマヒが残ることがあります。それでもできることをしたい、家事や仕事にもどりたい、旅行やスポーツをやりたい。そういう願いにこたえるためや、リハビリのお手伝いとしていろいろな補装具が生まれてきました。歩くための杖のほかに、膝くずれや足の引っかかりを防ぐための下肢装具がよく使われています。一人で歩くのが難しい場合は車いすや電動車いすがあります。マヒがあっても車を運転できるよう自動車を改造する方法もあります。
まだまだ一般化されてはいないものの、ロボットスーツのような歩行機器も開発されています。将来、こういったスーツを付けた人たちが街を自由に散歩したり、買い物に出かけるようになるかもしれません。子供のころ夢物語だった携帯電話がこれだけ普及しているのだから、大いにありそうだと思いませんか。
4 補装具は勇気を与えてくれる
下肢の故障でほとんど家から出なかった方がシルバーカーで歩き始めました。以前よりせなかがしっかりして、姿勢も良くなりました。歩くことで、使わなかった部分がきたえられたのです。前向きな気持ちを、シルバーカーが後押ししてくれたのですね。
今年の正月のことです。よろよろとジョギング中、軽快に飛ばしているジョガーを見かけ、すれちがってびっくり!義足で走っている方でした。こりゃ、こっちもがんばらなくっちゃ!!と思いました。する人はもちろん、見た人にも勇気を与えてくれる、ちょっと感動する経験でした。
道具である以上、補装具もどれだけ使い込むかがだいじです。使って、使って使いきる。その気持ちがあれば、使って良かったと思えるはずです。
ねりまインクワイアラー 172 ストレッチのこつ
ストレッチのコツは①息を詰めず②力を抜いて③ゆっくりと伸ばすことです。ストレッチをしながら顔が赤くなる人は、力が入っている証拠です。伸ばしていくとここらへんからちょっときついかな?と感じるところまで来ます。そこでもう一度余計な力を抜くのです。抜けなかったら少しポジションをゆるめ、1分弱くらいそのままでいましょう。するとさっきより楽に伸びるのを実感できるはずです。
痛みとじょうずにつきあう
先日、ジョギング中に胸の痛みを感じました。心臓?と瞬間思ったけれど、痛みの感じからOKだな!とそのまま走りました。このようにどこかが痛くなっても、だいじょうぶなことはざらです。でもほんとうに心配なときもありますから、そのみわけ方がだいじなのです。
1 痛みは警報装置
冷蔵庫の扉を閉め忘れると、ピーピーとなって知らせてくれます。電子レンジに料理を置き忘れても、鍋が空焚きになってもピーピーなって教えてくれるので、ずいぶん安全・便利になりました。痛みも同じです。虫歯になりかかってますよー!とか、うっかり指先を切っちゃたみたい!とか、昨日は飲みすぎちゃったねー!とか教えてくれるので、痛いところをかばったり休養を取って体の調子を元にもどす手助けをしてくれます。
人体には、からだの内側にも外側にも膨大な数の警報装置がついています。痛みのほかに、温冷感、振動、圧迫、虚血、かゆみ、めまい感などたくさんの装置があり、脳にむかって絶えず情報を送っています。脳はスーパーコンピュータみたいなもので、拾い上げた情報を使って(これはキケン!そっちはほっといて良し)(これは医者に行ったほうがいいかも?)といった判断をするわけです。
コンピューターと同様、脳も経験値がものを言います。だから痛みをむやみに怖がらず、ちょっと考えて判断することが必要です。絶えず修正・バージョンアップをしていくことでどんどん役に立つ脳に変わっていくのです。
2 要相談の痛みのみわけかた
ということで、痛みの見分け方をお教えします。思いっきり簡単にしましたから、体が痛くなったら思い出して使ってみてください。
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自分の感覚で中以上の痛みなら相談 軽度なら様子見OK
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じっとしていても痛みがとぎれず続くなら相談
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一瞬~数秒の痛みは様子見OK 10分以上連続してつづくなら相談
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吐き気・めまい・マヒ・発熱‣発疹などほかの症状があったら相談
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きつい痛みだが1回きり 様子見OK
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生活に困らないくらいの痛み 様子見OK 長引くなら相談
こんなところでしょうか。誰のからだにも故障しやすいところがあるので、こういった判断を続けるうちに(うん?ちょっと痛いけれど、これくらいならもう少し様子を見ても良さそう)といった実際的な判断ができるようになってきます。
3 隠れた主役は「不安」
じつは痛みの陰に隠れていて、本当はボスキャラ(黒幕)なのが「不安」です。冷静に考えればたいしたことのない痛みだとしても、ひょっとしてなにか悪い病気のサインではないか?このまま置いといたら大変なことになるのではないか?というように不安感が頭の中でぐるぐる回っている状態になると、症状以上につらくなってくるのです。
不安の感じやすさには個人差がありますが、いろいろなストレスで脳がお疲れモードに入っているときはとくに不安を感じやすいようです。昨年からのコロナ騒ぎでは誰もがストレスを感じていますから、元気なときなら気にしないくらいのことでも心配になって、相談に訪れる方が少なくないです。
痛みのことが心配になったら、あわてずに痛みの見分けをしてみましょう。ちょっと冷静に状態を分析する時間を作るだけでも不安が和らぐはずです。
4 痛くてものんびり暮らすのは悪いことではない
はじめにお話しした胸の痛みは、結局肋軟骨(肋骨の一部)の痛みでした。年を重ねるといろんなことが起きます。でも数日で収まったから、そのまま運動もやっています。ふだんでもあちこち痛くなるけれど、これもトレーニングの一部と思ってやっています。
きつめの肉体労働を経験している人、若いときにスポーツをやっていた人はおわかりのように、どこも痛くならず故障もせずにやっていくことはムリです。たまに痛くなるのがあたりまえです。だから多少の故障も織り込みつつ、様子を見ながらやるべきことを続けていく。それで治るものは治っていく。こういうおおらかな考え方でいいわけです。これは内臓の痛みでも共通していますから、体は「治せるものは治している」のです。痛みへの過敏な反応は考え物、まずは落ち着き、痛みの見分けをすることです。
ねりまインクワイアラー 171 音楽は才能、絵は努力
弟から新しく出版した本が送られてきました。本業とは別に音楽評論家として活躍してきた彼、赤ん坊のころ音楽を聴いて、おむつをつけたおしりを揺らして踊っていました。長じてからもドラムをたたいたり、コンピューターで作曲したり、ほんとうに音楽が好きみたいです。音の聞き取りやリズム感など音楽にまつわる才能の9割は遺伝で決まるそう、「三つ子の魂百まで」ってよく言ったものです。
反対に絵の才能は遺伝的には5割くらい、後は努力だそうです。つまり、練習すればだれでも絵はうまくなるということ。わたしはこっちで地味にやっていきましょう。
トリガーポイントの不思議
トリガーポイントとは筋肉の中にできた押すと痛むしこりのことです。疲労の蓄積、けがや使いすぎなど筋肉に負担がかかるとできますが、それ自体は悪い病気ではなく、無症状~軽いこり感ですむことが珍しくありません。だから軽く見られがちですが、ときに強い痛みに変わったり、意外な症状が出ることがあります。ほんとうはトリガーポイントが原因なのに、ほかの病気とまちがえられる可能性もあります。今回のお話です。
その1 はなれたところに理由がみつかる
トリガーポイントそのものはきわめてよくあるもので、毎日の外来でもひんぱんに見つかります。ところが訴えの部位(痛みやしびれ)と原因の部位がはなれているので、患者さんにしてみると「えー⁈」と思うみたいです。たとえば手関節痛の原因が肘の近くにあったり、下肢痛の原因がおしりにあったり、頭痛の原因がくびにあったりします。
その2 多彩な症状
でもまったく予想外のところにみつかるわけではありません。それぞれの筋肉にトリガーポイントができるとどこに痛みが出るのか?一生をかけてこれを調べたトラベル博士というお医者さんがいました。きれいな図版と詳細な説明のあるトリガーポイント・マニュアルという本を書きました。この本を見ればほぼすべての筋肉のトリガーポイントの症状が書いてあるので、私もこれを参考にして診察しています。
一般的なトリガーポイントは痛みが症状なのですが、それ以外の訴えがみられることがあります。今まで診療で経験したものだけでも、歯の痛み・歯がしみる(頭の筋肉)、めまい・ふらつき(くびの筋肉)、声が出にくい、ものを飲み込みづらい、口がまわりづらい(くびの筋肉)、動悸(胸・背部の筋肉)、腹痛(せなかや腹の筋肉)、足のけいれん(下肢の筋肉)、手足のむくみ感、しびれ感(各所)など多彩です。ほかにも吐き気・嘔吐、不整脈、下痢・便秘の原因になることもあります。
本格的な病気とのちがいは、①動作・姿勢で症状が変化し②症状のある部位を調べても何も異常がなく、きちっと触診をすると筋肉の中にトリガーポイントが見つかります。そしてトリガーポイントをマッサージ・ストレッチ(ときには注射)で治療して症状が改善すれば、やっぱりこれが原因だったとわかるのです。
その3 私の経験から
トリガーポイントは一つの筋肉に生じることもありますが、同時にたくさんの筋肉に生じることもあります。私の場合、慢性のアキレス腱炎+かかとの骨折(手術で治療)のリハビリに苦労する中で複数のトリガーポイントに悩まされました。つま先が上がりにくく、足先がしびれて力が入りません。歩いたり、ゆっくり走ることはできるのですが、速く走ろうとすると足が勝手に内側に曲がって、まともに着地をすることができません。けがから2年が過ぎ、(これはもう戻らないのでは?)と思い始めたとき、なにげにふくらはぎの筋肉を押してみたらとても痛いところが見つかりました。
試しに強くマッサージすると、少し症状が軽くなった気がしました。それからは、毎日あちこち痛いところを探してはマッサージを繰り返すと薄紙をはぐように症状が軽くなりはじめ、まだまだ完ぺきとは言えないものの少しづつ走れるようになってきました。
炎症・手術で筋肉や関節が固くなったのが原因だから、トリガーポイントは関係ない。筋肉の診たてに自信を持っていた私なのに、いつのまにかそういう思い込みをしていたようです。同じことを外来でもよく経験します。本来の病気やけがの後で故障が残ったとして、その中にトリガーポイントの症状が紛れ込むことがよくあります。故障による筋力低下やバランスの悪さから、二次的に筋肉にトリガーポイントが生じ、本来の故障以上に患者さんを苦しめることがあるのです。
その4 トリガーポイントはだれにでもおきる
クリニックで受ける相談で見ると、腰痛や肩こりの相談のうち8割はトリガーポイントが原因です。五十肩では9割がトリガーポイントでしょう。膝の痛みは骨・関節が原因のことが多いですが、なかには太ももの筋肉にトリガーポイントがあって膝が痛く感じる人がいます。足がつるという相談では、栄養や腰の問題もありますが、ふくらはぎのトリガーポイントを治すとよくなる方が多いです。
今これを読んでいるあなたも、試しに膝や太ももの筋肉をあちこち押してみてください。痛いところが見つかったら、潜在的なトリガーポイントの可能性があります。今は症状がなくても、疲れがたまり、ストレスが積もって神経の緊張が高まったり、慣れない仕事をやったり、眠りの浅い日が続いたりすることがきっかけで発症するかもしれません。ふだんからこまめに自分でマッサージをしたり、ストレッチをしたり、有酸素運動をとり入れて、やわらかくしなやかなからだを作ることです。予防は最高の治療、ふだんから体のお手入れをすることがだいじなのです。
ねりまインクワイアラー 170 旧石器人の遺伝子
日本人はネアンデルタール人由来の遺伝子を比較的多く持っています。この中にはコロナの重症化を防ぐ遺伝子が含まれており、東アジアの人が比較的コロナに強い理由(ファクターX)の一つとして考えられています。