命と元気のはざま
わたしも還暦を過ぎたので、将来のことなどときどき考えることがあります。体があちこち痛み、走っても以前ほどは頑張れなくなってきました。今回は長生きと生きがいについて考えてみたいと思います。
1 医療は「生かす」のが目的
ヒポクラテスの誓いやらなんやら崇高な理念を学び巣立つ医者の卵たちも、いつのまにか俗世間の垢にまみれてくるのですが、「命がいちばん」というテーゼ(暗黙の約束事)だけはみな頭に叩き込まれています。それでいい場合が多いものの、もう少し深く(あるいはゆるく)考えてみては?とも思っています。
医療が進み、かなりの人たちが長生きできるようになりましたが、長生きができればできるほどいいのだろうか?という疑問も湧き上がってきました。もしも長生きだけを目標にするなら、少食を旨とし、運動そのほか体にかかるストレスを最小限にしてどちらかといえば不活発な毎日を送った方が長生きできることが分かっています。でも、ほんとうにそれが私たちの目標でいいのでしょうか?
2 現場はフクザツ
骨や関節を専門にして医者をやってきましたが、若いころは町の救急病院で全科の宿直をしたり、三次救急の病院でも働きました。リハビリを専門として、けがや病気が落ち着いた後の患者さんの相談に携わることもありました。
そういう経験の中で「とりあえず助ける」だけでいいのかな?という疑問もわいてきました。夜中の患者さんはさまざまで、ぜんそくで苦しむ小さいお子さんから、自分をコントロールできず衝動に走り体を壊したり、事故にあった人までバラエティに富んでいました。けがの治療は終わったものの後遺症で全く身動きができず、何もできないことにイラついたり落ち込む人も見てきました。
くりかえし大きなケガにあいながらもあきらめずにレースに挑み続けたオートバイレーサー、長患いででまったく体を動かせないにもかかわらず周りの人や看護婦さん・医者に優しかった患者さんなど、いろいろな思い出があります。医者も人間ですから、毎日の仕事の中で元気づけられることもあれば、嫌な思いをすることもあります。立派な人を見て尊敬するし、この人は?と思うことだってあります。
多かれ少なかれほとんどのお医者さんが同じような経験をしているでしょう。立場や仕事内容で意見の濃淡はあるでしょう。でも多くのお医者さんたちが、長生きを目標にするのではなく、その人なりに充足して生きていくことが大切だと思っている。わたしはそういう印象を持っています。
3 「生かす」から「活かす」へ
年を取ってくるとあちこち故障が増えてきます。でも使えるところは使った方がいいです。患者さんたちに「あなたのからだは中古自動車と同じ。」「まだまだ使えるから、思い切り乗り回してください。」とお話ししています。
おぎゃあと生まれて成長期を過ぎたら、それ以降あなたのからだは中古品です。でもかけがえのない一品なので、手入れも怠らないけれど、使わなければもったいない!使って使って、使い倒す。あらゆる部品が擦り切れて、いよいよ自動車(からだ)の寿命が切れるとき、「よく使って、楽しかったなあ!」と思えるようになりたいものです。
だから長生きするかどうかは神様・お釈迦さまにおまかせして、自分が好きなことを、やりたいことをやってください。医療は人生の一側面に過ぎないのだから、影響されすぎないように気を付けましょう。
4 できることから始めよう
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ゆとりをもってー高名な画家さんの作品を見ると、年が進むにしたがって作風がどんどん自由になっている方が多いようです。筋道をしっかり歩むのでなく、どんどん離れていく。同じように、決まりごとから離れていき、自分なりの楽しさを見つけていきましょう。
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ちょっとやせがまんー少々の痛みなら涼しい顔で動く。くたびれても、自分よりくたびれた人がいたら助ける。見守ってあげる。いままでより一歩でもいから動く。お金に関係なく、なにか世の中の役に立つことを(ちょっとだけ)やってみる。
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習慣化させるーたくさんの方を診て思うのは、若い時からやっていたことは年を取ってからも続けられるようです。歌や踊りであれ、釣りやゴルフであれ、習慣になったことなら年をとっても続けている方が多いです。直接体を動かすような趣味でなくとも、続けていれば体を使う用事が生まれてくるものです。なんでもいいので続けてみましょう。
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ボケなき徘徊―前号でも書いたように人間は探索する生き物です。いくつになっても外に出るから新しい発見があります。用事がなくても外に出て、あちこち見物に行きましょう。
ねりまインクワイアラー 182 スマホ・パソコンはこわくない
生まれたときからスマホがある世代といまだに慣れない世代の開きをデジタル・デバイドといいます。いまのスマホはやってみるとかんたんです。使えば世界が広がりますよ。
まず一歩から始めよう
歩けることが一番大事だと深く考えることもなく思っていましたが、「人生は一回きり」と考えれば、もう少し柔らかくとらえてもいい気がします。コロナのため外出が極端に減り、VR(バーチャルリアリティ)やネトフリ・ビデオゲームが楽しみの人も多い現在、もう一度歩くことの意義について考えてみました。
1 歩きは本性
仏教には輪廻転生という考え方があり、人はいろいろなものに生まれ変わると言われています。大空を飛ぶ鳥や海の中を泳ぐイルカやクジラに生まれ変わったら?あるいはアリやダニ、もっと微小なクマムシに生まれ変わったら?
なったらなったで、しっかり生き続けるはずです。人間と異なり深く考えることはできないのですから、むしろ悩まずに虫生を全うできるかもしれません。でも人間は考える生き物ですから、困ったり喜んだりを繰り返しながら生きていくのが自然なのでしょう。もう一つ、歩くことも人間の本性の一つだと思っています。歩くことで世界を探索し、必要なこと・楽しいことをみつける。生まれた瞬間から体に組み込まれている仕組みなのです。
2 コロナ下の経験から
2020年緊急事態宣言が出て以来、極端に外出せず、体を動かさない人が増えました。各種イベントやスポーツ大会は軒並み中止、国内海外問わず旅行はできなくなり、飲食店は休業や営業短縮を迫られ、各種学校は休校・オンライン学習への移行を迫られ、会社では通勤による感染機会を減少させるため在宅ワークへの移行が進みました。
以前はとても元気だったのに、久しぶりにお会いすると驚くほど弱っている人が増えました。ふしぶしの痛みを訴える方が増え、転倒による骨折も増えた印象があります。表情が乏しく、話が要領を得なくなり、精神的にもかなり弱った人が増えている印象です。
二本足で歩けるように何百万年もかけて進化してきた私たちのからだは、歩き回れるように作られています。というよりも、歩かざるを得ないように設計されています。
たとえば歩くことで腸がゆすられ、腸内細菌の働きが促進されて消化が進み、便通が促進します。調子がいいときの腸内細菌はその分泌物を使って脳と連絡を取り、脳の働きを活性化することもわかってきました。
そのほか骨も血管も各種の臓器も同じように脳との情報のやり取りをしており、歩くことですべてが元気になり、お互いに調整しあって体を最善の状態に持っていくことができるようになっているのです。ですから、体のメカニズム上歩くことがたいせつです。歩くことを人生の目標にする必要はないけれど、充実した毎日を送る下支えとして、やっぱり足腰は鍛えたほうがいいと思います。
3 楽しみをみつける
江戸東京博物館に行ったら東海道53次のすごろくをみつけました。ほかに五十三次の名所絵や旅行ガイド(弥次喜多ものが有名)もあり、庶民の間で歩く旅行が人気だったことがよくわかります。日本橋から京都まで約560キロ、男性なら2週間、女性でも3週間くらいで歩いたそうですから、毎日平均30-40キロは歩いた計算になります。この話をすると多くの人がむかしのことだから・・・という顔をするのですが、わたしのひいおじいさんは江戸時代の生まれだったのです。いま10-20代の人たちだって、ひい・ひい・ひいおじいさんまでさかのぼれば江戸時代の生まれなんですよ。長い歴史の中で見れば、つい最近までみんなこんな歩き旅をしていました。そしてとても楽しんでいたのです。
4 歩き始めのアドバイス
コロナ対策も変化していますから、今年は外に出ましょう。基本的な感染対策を忘れずに動き回ることは可能です。今のままでいると感染予防のメリットより運動不足のデメリットが上回る恐れがあります。 動き始めるに当たってのアドバイスを挙げてみます。
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これっぽっち?くらいから始める…想像以上に体力は落ちているのでごく軽めから始めましょう。
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すぐに息が上がる…心筋・呼吸筋も弱っていますから、あせらずに続けましょう。
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長い距離が歩けない…ちょっとずつ距離を伸ばしましょう。筋肉のミトコンドリア(充電池みたいなもの)はゆっくりと増えていきます。
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疲れる…週に1・2回疲れましょう。それはいいトレーニングです。
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からだが痛い…動けていれば少々痛くてもOKと考えましょう。痛みに過敏にならないこと。
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やる気がしない…何かをやっているつもりになるだけでトレーニング効果があるというおもしろい理論があります。頭の中でゴルフのスイングを練習するだけでもトレーニング効果があるそうです。これなら何でもやり放題。やりたいことを思い描こう。そのうちほんとうに体を動かすチャンスが巡ってきます。
ねりまインクワイアラー 181 宇宙インターネット
人工衛星を使ってネット環境を整備する事業が本格化してきました。離島や山のてっぺんでも動画サービスが見れるようになります。キャンプ場で喜ばれそうですね。
「ロコモっぽさ」を自覚する
毎日患者さんに接していると、直接の相談事とは別に患者さんの身のこなしが気になります。40~50歳代、人生でもいちばんあぶらの乗った時期なのに「だいじょうぶ?」と思うのですが、余計なお世話なのであえて口にはしません。でも気になるので、今回は少しだけ触れてみましょう。
1 ロコモティブ・シンドローム(ロコモ)とは
整形外科学会が言い出したことばで、ロコモティブ(locomotive)を辞書で調べると「蒸気機関車」と出てくるので、はじめは「はあ?」と思いました。実際は筋力低下などで移動能力が低下した状態のことを指す用語です。
というと、「おれは運動嫌いだし、家でおいしいものを食べてのんびりするのが大好きだからそんなに歩かなくったっていいんだ!」と考える方がいるかもしれません。でもロコモは、単に歩きづらくなること以上の意味を持っています。
筋肉や骨だけでなく、内臓・血管・脳・皮膚などからだのあらゆる装置が運動することを前提に作られています。だから動かなくなるといろいろとまずい事が起きるのです。くすり・注射や手術だけが医療だと思わずに、運動もたいせつだ!と強調するために作られた用語です。
2 その場で寝返り
ベッド(診察台)のうえですばやく寝返りができません。あお向けから横向き、そしてうつぶせになります。その逆もやってみましょう。狭いベッドの上なので、肩やおしりの位置を瞬間的にずらさないとベッドの横から落ちそうになります。子供や20代の人なら数秒でできますが、それ以上の人では数十秒かかることもあります。
体幹(肩まわりから腰までの部分)の筋肉を自在に動かせているか?を見る方法です。重いものを持ち上げたり、速く歩いたり走ったりするとき、じつは体幹をしっかり動かせていることが必要です。体幹の動きが鈍いということは、すべての動きが鈍いということになります。うまくできない人はまだ「ロコモティブ・シンドローム」ではないかもしれませんが、そのとば口にさしかかっていると言えるでしょう。
うまくできなかった人は、つぎに「おしり歩き」に挑戦してみましょう。文字通り、足を使わずおしりで歩きます。足をのばしてすわり、両手を肩口で抱えます。足をできるだけ使わず、左右のおしりを交互に前に出して進みます。後ろに進んだり、左右に向きを変えることもできます。
どちらも問題なくできた人は、「うつぶせダッシュ」にチャレンジしてみましょう。ただし運動不足を自認する人はケガの危険もありやめたほうが無難かも。やり方は簡単、うつ伏せに寝ころびます。そこから立ち上がり、足元方向に向けてダッシュしましょう。立ち上がり方はなんでも結構、10~50メートルくらい走って終わり、距離を決めて何秒でできるか測ればアジリティ(瞬発力)の目安にもなります。
3 一本線上を歩く
歩道のブロックの継ぎ目などを利用して、一本の線上に左右の足を置いて歩きます。歩幅を小さくゆっくり歩けばバランス感覚の練習、歩幅を大きくとれば骨盤の動きを使ったダイナミックな歩き方の練習になります。
特に体の故障もないのに、足の着地が左右に揺れて、よたよたと歩く人がいます。見た目も若々しくないのですが、下半身の柔軟性不足だったり、体幹や股関節の筋力低下のサインかもしれません。またバランスを司る小脳・脳幹・前庭の機能低下かもしれないので、気持ちを集中して歩く練習をしましょう。
おしりの筋肉が固い人も一本線歩きは苦手なはずです。両足をそろえ、両膝をくっつけてすわったら、前こごみになって左右の外くるぶしに触れてみてください。楽に触れる人はだいじょうぶ、手が届かなかったり両足が開いてしまう人はおしりの筋肉が固くなっています。股関節まわりのストレッチをしましょう。またおなかが大きすぎて前屈がしずらい人もいますが、さすがに太りすぎです。運動とダイエットを両輪にしてやせましょう。
4 椅子からゆっくりと立ち上がる
熱気球が膨らみ始め、ゆっくりと地面から浮き上がっていく様子を想像してください。あんな感じにふわあっと立ち上がると優雅で、かっこいい。皇族やハリウッド・スターの記者会見を思い浮かべれば、なんとなくわかるのではないかしら。
フラッシュがバチバチとたたかれる前で行われる記者会見。その当事者が自分だと想像してみましょう。にこやかに微笑みながら、静かに座り、立ち上がる自分。さて、現実にはどしんと座り、横にすわっている人がぴょんと持ち上がったりしませんか?膝に手をつき、「どっこらしょ!」って言いながら立ちあがっていないかな?きれいな身のこなしをしている人は見えないところで努力しています。逆にいえば、あなたも目に見えないところで努力すれば、また若々しい自分に戻ることができます。病院に行って妙なハゲじいに「やせろ!」とか「運動しろ!」と言われることもありません。オミクロンが落ち着きつつある今、ロコモ予備軍から脱出する絶好の機会が来たと考えましょう。
ねりまインクワイアラー 180 世界のコロナ状況
コロナ感染者が一時世界有数となったブラジル、大きな生活制限をしなかったスウェーデン、比較的早くに防疫をゆるめたイギリス。いずれも今は感染者が減少しているようです。さて、まん防はどうなるのかな?
無理なくキレイに歩こう!
他にすることがなかったためか、昨年はかなり走りました。やりすぎで、しゃがむときにひざの痛みを感じるようになりました。ところがこれからお話しするウォーキング・テクニックでは、痛みなしで歩くことが可能です。体重がかかっているあいだ、ひざがまっすぐに伸びているのがキー・ポイントです。
1 ウォーキングとランニングのちがい

図A 図B 図C
図ではこんな感じ。 AとCはウォーキング、Bはランニングです。 Aでは、着地のとき膝が伸びています。ちょっとむずかしいが理想的なフォーム。Bでは一瞬、両足が離れていて、これがランニング。Cでは着地のとき、膝が曲がっています。曲がるほど膝への負担が強くなる歩き方です。
Aは練習が必要ですが、一度習得するとなめらかで負担の少ない歩行ができます。
実際にはCの歩き方が多いのですが、この歩き方だと効率が悪く、速く歩こうとすると疲れやすいです。
2 ウォーキングの基本
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両足をそろえてまっすぐ立ちます。
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片足を床からちょっとだけ浮かし、膝を伸ばしたまま前後にぶらぶらとゆすってみましょう。力を抜いてできるまで練習してください。
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慣れてきたら、前に足が出たときにかかとからそっと着地します。何回か繰り返してください。
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反対側の足でも②③をやってください。
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次に前足と後ろ足をともに床につけたまま、交互に体重を乗せる練習をします。左右いずれも慣れるまで続けましょう。
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いよいよ次の一歩を踏み出します。前に踏み出した足に体重を乗せたら、後ろ足を前に振り出します。そしてかかとから着地します。
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着地の瞬間ひざが伸びていることを確認しながら数歩歩いてみます。慣れたら距離を伸ばしていきます。
3 ウォーキングのこつ
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前こごみにならない…はじめのうち、どうしても足元を確認しようとして前こごみになりがちです。からだをまっすぐに起こし、10メートルくらい先の地面を見るようにしてください。
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力を抜く…とくに肩から余計な力を抜きましょう。肘を直角くらいに曲げたまま、腕を振り子のようにゆすってください。
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足をからだの真下にまとめる…必ずからだの真下、動く方向に沿って着地することを心がけます。両足が一本の線上を通るのが理想ですが、はじめはこだわらないほうがいいでしょう。
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着地の瞬間、上にはねるのではなくかかとを後ろに押し出します。後ろ足を進めるとき、足うらが地面すれすれを通るのを意識してください。
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胸を張りすぎず、前こごみにもならず、一番自然な姿勢でできるだけリラックスして歩きましょう。呼吸が楽にできているかがだいじです。
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ひざは力を入れて伸ばすのではなく、下肢全体をブランコのように前に振って、伸びたところで地面にかかとを置きます。「膝カックン」されたときみたいに、力が抜けている感じです。だから後ろ足が前に進むとき(地面についていない間)の膝は曲がっています。
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いろいろやってみながらスマホで撮影、自分で見てみるとわかりやすいです。
4 ウォーキングの楽しみ
ふつうのウォーキングは時速4キロくらい、この歩き方だと時速5,6キロ以上、その気になれば時速10キロ以上で歩くことができます。だからスポーツのクロストレーニングとしても十分な運動になりますよ。
基本はモデルウォークとほとんど同じ、だから見た目もばっちりです。着地の衝撃が少ないので、足腰の故障を抱えている方や、ケガのリハビリ中の方にもいいでしょう。ただし骨そのものに痛みがあるケース(疲労骨折や骨挫傷など)には無効ですから、痛みがなくなるまで運動は辛抱してください。説明がいま一つわかりづらかった方は、ユーチューブで「モデルウォーク」「ウォーキング」などの動画をぜひ参照してください。ウォーキングの講習会もあちこちで開かれていますよ。
ねりまインクワイアラー 179 カキの筋トレ
殻付きのカキは日持ちが短いのが欠点です。そこで生育中にときどきカキを空気中にさらし、貝殻を強く閉める練習をさせたところ、貝柱が太く日持ちのいいカキが出来上がったそうです。カキにも筋トレが効くのですね。
ビタミンDの Q&A
ビタミンは体の中で作ることができないか、少ししか作れないために食べ物から補給する必要がある物質です。炭水化物・タンパク質・脂質のような栄養素ではないものの、決して欠かすことのできないものです。私のクリニックでは、手足の関節痛や骨粗しょう症の治療でビタミンDをよく使っています。今回はちょっと突っ込んだお話です。
1 キノコにビタミンDが多いのはどうして?
サーモンなど海産魚の切り身、レバー、キノコ。ビタミンDが多く含まれている食べ物です。動物由来の食品でビタミンDが多いのはわかるのですが、キノコは?と思いませんか。じつはキノコは植物ではありません。真菌類という全く別の生き物です。はるか昔、単細胞の生物からさまざまな生き物が枝分かれして進化しましたが、キノコのご先祖は植物が生まれるずっと前に枝分かれしていて、どちらかというと動物のご先祖に近いのです。野菜売り場にキノコが置いてあるのはある意味不思議なわけですね。
2 ビタミンDは骨のビタミンなの?
あらゆる動物の細胞では、表面がコレステロールを含んだ物質でおおわれているのですが、植物の細胞はセルロースという物質で覆われています。ところがキノコの細胞表面はコレステロールとよく似た物質が含まれていて、これに日光が当たるとビタミンDに変化するのです。やはり生い立ちが動物に近いからでしょう。人間の肌に日光が当たるとビタミンDが合成できるのですが、これとよく似たしくみなのです。
ビタミンDのはたらきには骨を強くすることが含まれますが、ほんとうのはたらきはカルシウムの新陳代謝です。体中のすべての細胞の中でカルシウムは重要な役割を担っています。複雑な機械…たとえば飛行機でたとえるなら、パイロットが操作するさまざまなスイッチの役割をカルシウムは行っています。筋肉細胞の場合は筋肉に力を入れる、つまり収縮させるときにカルシウムが働きます。脳細胞が活発に働くときにも、免疫細胞が機能するときにもカルシウムが働きますから、体中のあらゆる機能にビタミンDがかかわっているといっても過言ではありません。
ですから骨粗しょう症のみならず、うつ病、免疫疾患、アレルギー、感染症やがんなどさまざまな病気でビタミンDが有効であるという報告がでているのです。
3 ビタミンはどうやって作るのか
肝油ドロップをご存じでしょうか。いまでも売られていて私も愛用しています。もともとはタラなどの魚から抽出されたビタミンD・Aを栄養食品として販売していました。臭いを抑えるため糖衣をつけたドロップ状にして、かわいい缶に入れて学校で売られていました。現在では植物由来の成分と化学合成を組み合わせて作られていますから、水銀など有害物質の混入もなく、安全な製品が作られています。これは薬品会社も同様です。
ところが昨年、日本ではビタミンD製剤の供給が底をつきかけるアクシデントがありました。ジェネリック医薬品の製造会社数社がほぼ同時に操業停止になり、たくさんの医薬品の供給不足が起きたためです。その後操業再開したものの、原材料は海外から輸入しており、一気に増産というわけにはいかなかったようです。私のところでも一時ビタミンDの長期投与を控えていたのですが、今はだいぶ落ち着いてきました。
4 なぜ関節痛にビタミンDが効くのか
はじめにお伝えしておくと、すべての関節痛にビタミンDが効くわけではありません。関節周囲の骨強度が落ちてきて日常生活の動作でも骨の痛みが起きる(骨内の痛み神経が刺激される)場合に有効です。そんなことがあるの?といぶかる方がいると思いますが、新コロナウイルスの流行が始まってから急激に増えた印象です。
微細な骨の変化なのでレントゲンだけでの診たてがむずかしく、関節を動かしたときの痛みの出方を調べたり、かすかな熱感や腫れの有無をチェックして判断しています。たとえば手指を握った時の痛みの出方、歩行時やしゃがむときの痛みの出方に注目して診察します。そしてビタミンDを内服してもらうと、痛みが改善、消失します。一か月ですっきりする人もいますが、もっと時間がかかる人もいます。おそらく骨強度の低下にかなりの個人差があるからだろうと考えています。
そして日光浴が大事です。理論上日光浴だけでビタミンDの必要量を体内生産することができるといわれていますが、服装・ライフスタイルから十分に日光を浴びていない人が大半と思います。また授乳中のお母さん(そして母乳栄養で育つ赤ちゃん)、年配の方(ビタミンDの合成能力が低い)、肌の色が黒め(後天的な日焼けを含む)の人はビタミンDの不足が起きやすいので注意が必要です。ハワイのサーファーたちでも半数以上がビタミンD低下だったそうですから、(まさか自分が?)と思う方でも関節痛が出たら、一度は疑ってみる必要があります。 ビタミンDの体内半減期は30日未満であるといわれているので、意外と簡単にビタミンD不足になるかもしれません。ふだんから肝油ドロップやサプリを使って予防するのもおすすめです。ただし摂りすぎは体に悪く、ビタミンD中毒になることがあります。過ぎたるは及ばざる…というわけです。
ねりまインクワイアラー 178 ボードゲーム
いまボードゲームがブームです。スイッチやスマホゲームとはちがったおもしろさがあります。信じられないくらいいろいろな種類が売られていて見飽きません。頭のトレーニングにもよさそうですよ!
リハビリを乗り越えるには
掲示期間が短い一月号ではエッセイ風に書くことが多いです。8歳のときに足の骨を折り治療を受けたのですが、3年前にも足の骨を折り、子供のころより治りは遅いしリハビリも時間がかかると痛感しています。今回はリハビリの苦労と楽しみを書いてみました。
1 若いってすばらしい
だいぶ前のことです。当時勤務していた病院に3歳のこどもが入院してきました。大腿骨と骨盤が折れる大けがです。さっそく上半身から折れている足のつま先あたりまでギブスをまきました。これだけ折れると内出血が激しく、亡くなる人もいますからまわりはたいへん気を使いました。1週間後、なにげなく廊下を歩いていると病室から「キャッ!キャッ!」と声がしました。振り向くと、あのギブスをまいた子がベッドの上でぴょんぴょん飛んでいました!あわてて駆け寄ったものの、楽しんでやっているのにびっくりしました。回復が早く、1か月くらいで退院しましたが、以降もときおり診察する機会がありました。骨はついたもののかなり変形があったのですが、高校生ぐらいになると、見た目も機能的にも問題ないくらいに矯正されており、これなら絶対オーケーと太鼓判を押せるようになったのです。
子供の回復力はほんとうにすごいです。それに比べると・・・やはり年をとればとるほど治癒の力は弱くなり、回復にかかる時間も長くなってきます。でも、それは治らないということではありません。時間はかかるし、工夫もいるが、いくつになっても治る力は残っています。
2 リハビリの障壁
治る力は残っているが、それが働きにくい場合があります。
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からだの調子に問題あり…はっきりした病気や、疲労の蓄積、睡眠不足や栄養のアンバランスなど回復力に悪影響を与える理由があるときです。
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リハビリがかみ合っていない…無理をせずからだを休める時期、少しづつ刺激をかけて回復を促す時期、持久力・筋力・スキル向上のため自分で汗をかかなければいけない時期があります。ありがちなのが①あせって休養が大事な時期なのに早めに強い刺激をかけて、かえって回復を遅らせてしまう②楽をする時期とがんばる時期の切り替えができず、楽な方向に向きすぎる③病院やリハビリから徐々に離れ、広い世間に自分の創意と工夫で向かい合っていく時期なのに、なかなかふんぎりがつかない、などのケースです。
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医療・リハビリの力不足…まだまだできないこと、工夫が足りないことがいっぱいあります。医学は物理や化学のようなハードサイエンスではなく、科学っぽいところからむかしながらの経験の積み重ねまでを集めた雑多な世界です。ハードはまだまだ足りないし、知恵や工夫もまだまだ足りないでしょう。
3 リハビリの苦労と楽しみ
足に力が入りにくく、つまさきがひっかかって転びそうになる。足うらがつる。指先がしびれる。走るとすぐに疲れて休みたくなる。腰やモモが張って夜にぐっすりと眠れない。紙に書くとこんな感じでリハビリを続けていますが、ちょっと動き方を変えたり、トレーニングの仕方を変えてみたりすると、毎日なんらかの気づきがあり、ちょっとだけ進歩があります。松葉づえで歩いていたころから見ると長足の進歩ですが、まだまだ先は長い。そう感じています。
だれにでもいいときがあり、悪いときがあります。いいときばかりだといいのですが、それはあり得ないでしょう。だからどんな時でも楽しむ気持ちを忘れない。リハビリをいやいやするのではなく、その過程を楽しむ。楽器を演奏する人が練習を楽しむように、運動選手が練習を楽しむように、私もリハビリを楽しむ。そうありたいと思っています。
4 人生はリハビリ
先日山の中を駆け抜けるトレイルランニング大会に参加してきました。まだちゃんとは走れないのですが、山の中は上ったり下ったりで歩きだけでもなんとかなるのです。登りは得意なので何人も抜けるのですが、下りはあっという間に抜かされます。というより、どうぞどうぞという感じで先に行ってもらいます。先はまだまだ長い、山の中を一人でゆっくりと下っていっても、動き続ければ必ずゴールにたどり着きます。自分のペースでいけば何時ごろにどのチェックポイントに到達できるのかわかっていますから、ケガをしないこと、栄養補給をしっかりすること、脱水を予防することを守ればいい。レースと名がついていても、私のレベルではまさに自分との戦い、他人との競争ではありません。天気は良く、ときおり鳥の鳴き声が聞こえます。落ち葉に木漏れ日があたってキラキラ輝いて、まるで春の花のようです。こういった大会に幾つまで出場できるかわかりませんが、あきらめずに続けようと思っています。またひとつ年を取ったら、それはまた新しい体験、一日一日が冒険です。こうやって考えていると、「人生はリハビリ」という言葉が思い浮かびました。自分で自分に働きかけること、すべてがリハビリ。日は沈んできましたが、ゴールまであとひとふんばりです。
ねりまインクワイアラー 177 コロナの行方
新しくできたオミクロン株は、それまでの株を駆遂する勢いで増えているそうです。ところが感染力は強いものの、症状はちょっとした風邪くらい…こわいのかこわくないのかわからないですよね。専門家の間でも、いよいよ流行が終わる兆しととるか、いやまだ危ないぞ!と考えるか意見が分かれています。立場上、お役い方向で予想し準備するのはしかたがないと思います。さあどんな年になるのでしょうか。
シップのことをもっと知ろう
なかなか根強い人気があるシップですが、日本以外ではほとんど使われていないのをご存知ですか?シップがない国では困っていないのかな?なくても平気なのかな?今回の話題です。
1 シップの効能
シップの原型は薬草を砕いたものを粘土などに混ぜて直接体に塗ったり、布地に塗って貼り付けたものだったようです。打ち身や切り傷の上に貼ることで痛みを和らげたり、回復を早めることを狙ったのです。たしかに薬草の成分にはけがに効くもの(たとえば柳の葉→アスピリン)がありますから、いろいろな薬草が使われたことでしょう。今でも世界各地で同様の方法が使われているはずですが、いわゆる民間医療とみなされているのかもしれませんね。 シップの働きは①水分が蒸発することで皮膚の熱を持ち去る②薬剤を皮膚から浸透させる③メントールの清涼効果の3つだと考えられています。
①は気化熱という現象を利用したもので、これは結構大事な効果です。濡れたタオルや氷を持ち歩くよりずっと簡単に患部の冷却ができますからとても便利です。でも乾いてくると効果が薄れるのは欠点です。
②については実験があり、有効成分が皮下3ミリまでは達することがわかっています。たったの3ミリと思ってしまいますが、ここから毛細血管に吸収され近隣の組織に入り込んだり、血行により全身に回ってから効果を及ぼしているのでしょう。だからシップ=安全というわけではありません。鎮痛消炎剤の入ったシップをたくさん貼れば、全身に影響を及ぼす可能性があるわけです。年配の方、妊婦さんや喘息・腎臓病のある方は特に気を付けてください。
③のメントールの香りは皆さんおなじみだと思います。メントールはミントの主成分で、胃もたれや呼吸器疾患の治療にも使われています。貼った瞬間すっとするのはこの成分の効果です。
2 シップが「効かない」と言われるわけ
ここまで読むと、シップが効きそうな気がしませんか?その通りです。急性期の炎症、打ち身・ねん挫などに効果を発揮します。でも、一般の外来でよくある症状、肩こりや腰痛などには効果がないか、あっても一時的でしかないと考えられています。
筋肉にせよ、骨や関節にせよ、実際にコリや痛みを訴えるのには複雑な理由があります。体の加齢現象、慢性炎症(急性炎症とは全く別物)、生活習慣、ストレス、疲労の積み重ね、認知のゆがみや思考パターンの癖など、シップや薬で解決できないことがごまんとあることがわかっています。だから漫然とシップを貼り続けても、たいした治療にならないと考えるのは筋が通っていると言えます。
国や自治体もお金が足りなくなっていますから、健康保険で賄える薬の使用には目を光らせていて、シップの利用にチェックが入りやすくなっています。ここぞというときにはOKだが、だらだらと使うのは避ける。お財布(自分も国も)のことも考えて使いましょう。
3 東洋医学とプラセーボ
点温膏(てんうんこう)という膏薬があって、たまに肩こりに使っています。シップと異なり小さい貼り薬なので押して痛いところをみつけて数か所貼ると良く効きます。「押して痛いところ」とさらっと書きましたが、これが阿是穴(あぜけつ)と言われるもので、東洋医学のツボの基になった現象です。東洋医学のメカニズムにはまだ謎が多いですが、現場のお医者さんとして安全で役に立つのであれば試していいのではないかと考えています。
シップを小さく切ってつぼ(経絡)の上に貼る。書きながら思いついたのですが、今度試してみたいです。
もう一つ、シップにはプラセーボ効果がありそうです。薬効とは別に、「貼って安心できる」なら期待以上に効くことがあるかもしれません。日本人のシップ・膏薬好きを考えると、案外馬鹿にできないアイデアだと思います。
4 うまくシップと付き合う
よく「温めるシップと冷やすシップのどちらがいいのか?」と質問を受けます。じつは医療用のシップでほんとうに温めるシップは存在せず、貼った時ヒヤッとするかしないかの違いと思ってください。見た目が白いほうは、より水分を多く含んでいるので冷やす効果が高いです。ですが肌色のシップのほうが伸び縮みしやすくはがれにくいので、こちらを好む方も多いです。
シップではないのですが、活性炭入りの温熱パッドを使用する方も多いと思います。これからの季節、冷え性の人に愛用されますが、パッドが直接肌に当たらないよう気をつけてください。特に高齢の方は低温やけどになりやすいので注意が必要です。
ねりまインクワイアラー 176 ワクチン接種の証明
新型コロナワクチンの接種証明ができる書類を見せるとスポーツイベント・コンサートへの参加、飲食店での優遇が得られる仕組みが準備中です。スマホ版(アプリ)も作成中とのことです。
コロナ腰に気をつけろ!
去年の2月ころからはじまったコロナ流行は、私たちの生活にたくさんの影響を与えました。クリニックでは、その頃から腰の痛みを訴える方がとても増えています。世界中で同じようで、パンデミック(世界的疫病)のような腰痛=パンデミック・バックと呼ばれています。わかりやすく「コロナ腰」と言い換えてみました。
1 コロナ腰とは
コロナウイルスが原因で起きる腰痛という意味でなく、コロナウイルスが流行るようになってから爆発的に増えた腰痛のことを指します。世界中で外出制限やロックダウンが行われて、外遊び・スポーツ・旅行そのほか体を使うアクティビティを行うことができなくなました。感染予防のため在宅ワークに移行する人が増えましたが、通勤という「運動時間」が無くなり、一日中座り続けることも珍しくなくなりました。 体を動かすことで食べ物を手に入れ、疲れたら寝転がり、夜は寝る。これを毎日繰り返すことができるように人のからだは設計されています。じっとすわったまま動かないでいるのは本来の使い方ではないので、疲れのたまるところ=肩・腰などの筋肉がこってきて、ときには強い腰痛になるのです。
2 動かないから痛くなる
結婚式や法事に出ると妙に体がこるのを経験します。じっとするための筋肉に力を入れ続けなければならず、肩から腰にかけての筋肉がこってくるのです。
小さな子を見ているとよくわかるように、人間はもともとじっとしているのが苦手です。飛んだり跳ねたり走り回ったりは得意ですが、じっとすることに向いていません。ある種の動物、たとえばナマケモノやカメレオンはじっとするのが得意です。じっとすることで背景に溶け込んだり、気づかれずに獲物を待ち伏せることができるように体ができていますから、何時間もじっとしていて平気なのです。
人の場合、じっとしていると筋肉がこってきます。動くとコリが改善されますが、動くことが少ないとコリはどんどん強くなり、最後は固くなって血の巡りが滞ったり筋肉がけいれんしてきます。多くの場合、背中のまん中あたりで筋肉がけいれんし、けいれんした背筋が腰の筋肉が引っ張るために腰痛を自覚するのです。
3 セルフケア
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猫背は×…パソコン・デスクワークで要注意。とくに在宅ワークの人は気を付けてください。
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ちょこまか体を動かそう…座り仕事をしているとき、30分を目安として体を動かしましょう。1,2分でいいので、席を立ったり、背伸びやストレッチをしましょう。
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オフの日は運動しよう…手足を大きく動かし、汗をかくアクティビティならなんでもOKです。自転車や電車で出かけ、ショッピングで歩き回るのもありです。
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睡眠時間はぜったい確保!…睡眠5・6時間はちょっと短いかも。ためしに長めに寝てみたら、目覚めがすっきり、肩こり・腰痛も軽くなるかもしれません。
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血の巡りをよくしよう…お風呂にゆっくり入り、体を温めましょう。テニスボールなどでのセルフマッサージもおすすめです。
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体調をモニタリングしよう…安静時心拍数(起き抜けに測る)や起床時の血圧は体調の良い指標になります。最近のスマートウォッチ(アップルウォッチやガーミンなど)は、つけているだけで毎日の体調を教えてくれるのでおすすめです。
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ビタミンD補給を!…まずは日光を浴びてください。難しい人はサプリや薬もあり。腰痛の隠れた原因かもしれません。
4 ウィズコロナ時代の過ごし方
できればコロナをやっつけたいところですが、どうやら長いお付き合いになりそうです。でもワクチンがどんどん更新され、経口薬などの新治療も出てきますから、先行きは明るくなってくるでしょう。感染予防に注意を払いつつもふつうに生活し、旅行やスポーツを楽しむ。友人との会食やときには宴会にも参加する。ただし必要な予防措置は怠らないし、どこまでがオーケーでどこからがだめなのかはわきまえておく。在宅ワークの人たちは新しい生活スタイルを構築して、健康を保つ。学校ではオンライン・通学を組み合わせ、子供たちの心身の向上を計っていく。夜の社交・音楽や演劇の公演・野外フェス・各種のスポーツ大会など、それぞれが工夫しながら運営を行っていく。まさかの時には行政や医療が手助けする。早くこんな生活ができるように、ひとりひとりができることをやっていきましょう。
ねりまインクワイアラー 175 うつぶせ寝の効能
コロナによる肺炎が軽めで経過観察中のときに、ぜひ試していただきたいのがうつぶせ寝です。うつ伏せになると気管支の角度が変わり、痰が出やすくなります。腹部が圧迫されて横隔膜が働きやすくなり、肺のすみずみまで酸素が行きわたります。ある調査では重症化が半減したとのことです。
歩き方から足を変える
足うらの痛みという相談では、インソール(中敷き)の工夫や靴の選び方の指導をすることが多いです。大半の方はそれで良くなりますが、なかなか治らない人もいます。こういう場合、歩き方が一番の問題では?と考えていましたが、具体的な指導ができずに困っていました。今回アメリカのインストラクターYamuna Zakeさんの本を元にして上手に歩く練習法をまとめてみました。
1 なぜ痛くなるのか
足の裏は厚い皮ふと特殊な脂肪組織でできていて、はだしで歩いたり走ったりできるようになっています。私が子どものころ、はだしで外に出て遊んだり(親には怒られましたが)、はだしで運動会を走ったりするのはふつうでした。土の道が消え、かたいアスファルトの道ばかりになった現在、靴は必要と思います。ですがあまりにも靴にたよりきった生活を長く続けると、じょうずな歩き方を忘れてしまうようです。足うらを守るために必要な筋肉も弱ってしまって、足うらを地面にたたきつける歩き方にかわってしまいます。 じょうぶな足の裏ですが、一時間しっかり歩けば片足で5000回地面に着地することになります。やわらかく接地するかわりに叩きつけるように歩く。これを数千~数万回毎日行えば、足うらが痛くなっても不思議ではないと思いませんか。
2 足の裏を4つに分けて考える
では足に無理の来ないソフトな歩き方はどのようなものでしょうか。わかりやすくするために足のうらを4つの部分に分けます。
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かかと…みずいろ
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外側…あおいろ
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指のつけ根…きいろ
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つま先…あかいろ
ソフトな歩き方を習得するために、まず立った状態で右足を前に出し、足うらを床につける練習をしてみましょう。①のかかとをゆっくりと床につけます。そこから②外側を床につけ、しっかり体重を乗せたら、そのまま流れるように③指のつけ根に体重を移していきます。このとき小指側から母指側へと順番に体重を乗せていくように意識すると良いでしょう。からだの重みを右足に載せていき、指のつけ根全体に体重がかかるようにします。
ここで左足を前に出して床につけながら、右足のかかとを持ち上げて④つま先を床に押し付けます。このとき母指から小指までしっかりと力が入るのが理想ですが、人によって力が入りにくい指があると思います。はじめはそれで良し、慣れるうちにしだいに力がついてくるはずです。
左右を替えてこれを繰り返します。この練習をするときはできるだけゆっくりとやり、足うらの感覚に気持ちを集中するよう心がけてください。ちょっとした時間のあいまに練習し、その後で足うらの感覚に集中しながら10メートルくらい静かに歩いてみましょう。練習前と比べて歩き方がちがってきたことを感じるはずです。
3 歩き方を良くするためのヒント
足うらの痛みを治すうえでカギとなるのが足の外側を活用することです。多くの人は歩くときに、かかとからいきなり指のつけ根に体重が乗る歩き方をしています。足の外側に体重がかかることを意識すると、かかとからつま先方向にかけてなめらかにからだの重心を移動できるようになります。だから、急いで歩いたり、走ったりするときでも衝撃の少ない着地ができるようになります。
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ストレッチをしよう 知らず知らずのうちに指を動かす筋肉が縮まったり足の関節が固まっていることがあります。指の先をつまんで、上下左右に動かしてほぐしましょう。足を手でつかんでいろいろな方向にねじって、かたまった関節や筋肉を動かしましょう。
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筋力強化は粘り強く 長い間使わなかった筋肉の力が戻るには時間がかかります。骨と関節しかないように見える足ですが、小さな筋肉がたくさんついています。小さいけれど体のバランスをとるうえでだいじな筋肉たちです。ケガや病気でしばらく歩かないでいると、この小さな筋肉がとても弱ってきますから、歩き方がぎこちなく疲れやすくなります。短い距離はともかく、長く歩くとどうしてもバランスが悪くなってしまう。ここであきらめないでください。持久力をつけるにはくりかえし長く歩くことです。投げ出さず、粘り強く歩く。前に難しいと思ったことがほんの少しだけ楽に感じるようになった。これを繰り返していけばいいのです。
ねりまインクワイアラー 174 横網町公園
関東大震災で3万8000人の方が亡くなった陸軍被服廠跡が横網町公園です。被服廠は震災の前年に赤羽に移転しており、震災当時は公園でした。慰霊堂のそばに近辺の工場にあった機械が展示されていますが、鋼鉄があめ玉のように溶けているのがわかります。信じられないほどの高熱が人々を襲ったのです。
からだの危機を脱するには
まだ若かったころ、あちこちの病院に転勤しました。大学の出張病院をぐるぐる回るのが当時のやり方でしたが、いいこともあれば?と思うこともあり、患者さんを長く診れないことが不満の一つでした。一転開業すると、定点観測で患者さんを長く診ることができます。赤ん坊だった子が大きくなって、大学生や社会人になり、さらにその子供を診ることだってあります。久しぶりに診ると、この子はうまくいってそうだなとか、ちょっと苦闘してるかな?とかいろいろなことを考えます。今回は長く診ている中で気づいたことをお話ししましょう。
1 からだはどんどん変わる
年齢のちがいは大きいです。子どもの頃はどんなケガでも順調に治り、ほとんど跡を残さないことも珍しくありません。思春期から20代はじめは体力がどんどん増大する時期です。やったらやっただけのことが身に付きますから、公私ともに実り多い時期です。20代後半から中年期は体力的には守りの時期、油断をすると体力・気力が落ちてきます。「前はできたことなのに」「こんなことでケガ(病気)をするなんて」と思うのがこの時期です。でもメンテナンスをすればまだまだいける!と思うのもこの時期で、個人差が大きくなってきます。
そして老年期。どんな人でも体力面の低下が避けられませんが、人生経験が深まった分、物事の多面的な見方ができるようになり、勝負や比べ合いを脱して、自分なりの楽しみを見つけられるはずです。長生きの時代、この時期の過ごし方については、私も患者さんから日々学んでいます。 壮年期、自分やまわりの人たちも疲れを感じてくる時期。長く患者さんを診ていると、このあたりが体力面から見た人生の分岐点のようです。楽に流されるか、もういっちょう!とがんばってみるか。仕事・育児・家庭状況の先が見えてきて、何を張りにして生きていくかあらためて考える時期です。体は何よりの資本、ここで自分の体に手をかけることができるかが分かれ目と言えます。
2 心当たりがない≠原因がない
まったく何かをした覚えがないのにどこかが痛くなったり、調子が悪くなったりするのはどうしてでしょうか。考えられることとしては①運動不足による廃用(筋の短縮・委縮・関節のこわばり・じん帯の柔軟性低下)②累積的効果(仕事や運動中の小さな無理が積み重なったもの)③じっとしていることに起因する筋の疲労・こり④自分にとっては記憶に残らないが、実際には体に負担になっていること(例;電車に遅れまいと急いで階段を上った・青信号が点滅したので急いで歩道を渡ったなど)が挙げられます。
昨年来のコロナ禍による外出制限の影響からか、在宅ワークが増えたためなのか①②③が原因となったからだの不調が増えている印象があります。三密を避けつつも運動やストレッチを行い、体の調子を保ちましょう。在宅ワークの場合、朝夕の仮想通勤時間を作る(勝手に歩く・走る・自転車を使う)のも手です。
3 時間がかかるときががある
わりかしシンプルな故障のようでいて、実際には治るのに時間がかかることがあります。骨折は1,2か月、肉離れは一か月くらい、捻挫は2~3週のような何となくみんなが抱いているイメージがあるのですが、実際には程度・年齢・体の具合(慢性疾患や疲労の影響)で治りがゆっくりになることが珍しくありません。お医者さんと患者さんで考え方に一番ギャップがあるのが治療期間のイメージでしょう。
ただし、体はあきらめずにちょっとずつでも治っていくのです。半年過ぎても、もっと時間がかかっても、体の修復システムは働き続けます。骨折・手術の経験をした私も日々実感しているのですが、もうだめかと思ってもあきらめずに運動を続けていくとそれなりに改善しているのを感じます。粘り強さが大事だと思ってください。
4 危機を脱するには
では体力面の危機を脱するにはどうすればよいのでしょうか?いくつかヒントをお話しします。
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努力はうそをつかない…筋トレやストレッチであれ、ウォーキングやいろいろなスポーツであれ、続けていけば必ず上手になります。進歩は停滞の後に来ます。ブレイクスルーは間近かもしれません。
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完ぺきを求めない…体の特性・年齢・体力差などがあって、自分の理想に届かなくても良しとしましょう。楽しむことが大事です。
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小分けにして考える…複雑な動きを全部一気に改善するのではなく、小さな一点を改善してみます。それを繰り返せば、ちりも積もって山となります。だからもっと上手になっていきますよ。
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人と比べない…自分が楽しむことが大切、みんなでワイワイやるのが好きな人も一人でのんびりやるのが好きな人もいます。運動は自分中心に考えましょう。
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いきなり高い目標は立てない…近所の公園に行って来るだけでオーケーです。動いているうちに筋肉ホルモン(マイオカイン)が出て気分が軽く、足取りも軽くなります。はじめの一歩は軽い気持ちでやってみましょう。
ねりまインクワイアラー 173 ゆっくりした動きの大切さ
同じことをするならゆっくりやるより速くやれるほうがエライ。そう考えがちですが、あえてゆっくりと、一つ一つの動きをていねいに、気持ちを集中してやってみます。あらゆる技芸において、技を磨くコツの一つです。