手技療法とは何か
手技療法とは文字通り手を使った治療法のことです。マッサージ(ヨーロッパ由来)やあんま・指圧(東洋由来)が有名ですが、理学療法(医療の一分野)やカイロ(アメリカ発祥)なども含まれます。一般的な医療(薬物・注射・手術など)から見るとちょっと外れた感じのする領域ですが、私がおもに扱う骨・関節・筋肉の故障ではたいへん効果的な治療法になります。今回クリニックは閉まりますが、うちではどんな工夫をして仕事していたのかご紹介します。
1 手技療法との出会い
医者の一年目の仕事のひとつに外来の手伝いがありました。ふつうの外来と研究班(私は脊椎班)の特別外来を受け持つのですが、薬処方や検査の担当が大部分です。でも上の先生が多忙の時は患者さんの診察も行いました。基本的に術後の落ち着いた患者さんを診るのですが、なかには経過が思わしくなく、いろいろな訴えを抱える方もいました。俗にいう民間療法の経験談も聞きました。なかにはそれでずいぶん良くなったという方もいて、あとでどんな治療法なのか調べたりしました。
大学では神経ブロックの注射と手術しか治療法がないのに、民間療法のバラエティの豊富さに感心しました。ある時アルバイト先の病院で、カイロプラクティックを学んで帰国した鍼灸師の方と知り合いました。いろいろ面白い話を聞かせてもらいました。
2 手技療法にのめりこむ
手技療法の理論・方法が多彩なことに驚くと同時に世間の評判や医師間の評価も聞いて、いったいなにがほんとうなの?と思いました。本屋さんをまわって手技療法の民間書~専門書を探し、診察・治療に活かせないかトライアンドエラーをくりかえしました。経験談~英語の専門書・学会誌まで200冊は読んだと思います。しだいに手技療法への興味が強くなり、日ごろの診療でも手技療法をおそるおそる使い始めました。そして(これはひょっとして役立つのでは!)と思うようになり、開業をきっかけに本格的に自分なりの工夫を加え診療を始めました。
3 手技療法でわかったこと
手技療法のターゲットは筋肉やじん帯など弾力があり伸び縮みする組織ですから、関節拘縮や筋肉の短縮に効果的なのは予想通りでした。少し意外だったのはヘルニアや脊柱管狭窄症のような脊椎・神経の病気にも有効なことです。いろいろ考えた結果①ヘルニアや狭窄症そのものを治すというより神経周囲の組織をゆるめると神経もゆるむ②姿勢に変化を与えることで脊椎の圧迫部位がゆるむ、の二つのメカニズムが働いて痛みやしびれが軽くなるのではと考えています。
手技療法でどんな腰下肢痛も治せるわけではありませんが、手技療法で良くできるケースがあるとがわかったのは心強かったです。また手技療法を学んで診断力が上がったのは意外な収穫でした。
たとえばひざの変形性関節症のなかには、骨性の痛みが主因でビタミンD内服が奏功するケースが多いことを発見しました。痛み止めを使わないでビタミンDだけで良くできる関節痛が案外と多いのですが、その診たてには必ず手による触診が必要なのです。これは学会でも聞いたことがなく、手技療法を学んだからこそわかったことだと考えています。これを自分だけにとどめておくのはもったいないので、近日中に本(仮題「手技療法の教科書」)を出版する予定です。医学書ですが、一般の方でも読みやすいように作っていますので、興味のある方は本屋さんで探してみてください。
4 クリニックの30年
小さな町のクリニックですが、ときには大病院・大学病院でもできない診療をして、患者さんたちにさまざまな手助けをできたと感じています。たとえ話をするなら、街角のちょっとこだわりのレストランみたいな存在だったかもしれませんね。おいしいものを、リーズナブルな価格で提供するお店です。「ここに来るとほっとする!」と言われることが多かったのは良い思い出になりそうです。読んでいるみなさんはどうお感じになりましたでしょうか。この後もホームページは残す予定なので、おひまな時にでものぞいてみてください(「高野台松本クリニック」で検索)。
ねりまインクワイアラー 226 マヒ部の固定は必要か
脳出血の後遺症で右足にマヒが残りましたが、しだいに足のコントロールができるようになり、だいぶ良くなってきました。入院した病院では装具の話は出ず、そのままで歩く練習を続けました。装具なしは最初大変に感じますが、神経系に適切な刺激が入ります。装具をつけると、装具をつけた歩き方にからだが慣れる(適応してしまう)という意見は正しいと思います。装具なしだと毎日自分の歩き方が良くなる実感があり、やる気が入ります。とりあえず装具なしで歩けるならそのままリハビリした方が良いと私は思います。装具を使っている方は、担当の医師・療法士さんと相談して装具を外せるか検討してみたらいかがでしょうか。マヒの部位・程度によって判断は変わってくると思います。
それにしてもリハ病院はやることが多くてたいへんでした。でも、それが良かったのだと思います。リハビリはウソをつきません。やったらやっただけのことが帰ってくるのです。