目白ヨシノ治療院

目白ヨシノ治療院は新宿区下落、目白駅から徒歩3分、マニュアルメディシンを用いたマッサージ、手技治療,リハビリの専門治療院です。病院では特に問題のなかったつらい症状、日常生活で困る痛み、肩こりや腰痛、首の痛み、またはよく分からない目の奥の痛みや頭痛など機能障害に関する問題の治療を行っています。

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松ぼっくり通信 2018年 7月号

一日では治りません!

 毎日の仕事の負担で手関節の腱鞘炎になってから1年ほど過ぎました。患者さんの足を持ち上げて診察する際に、不意に体を動かされると手首が痛みます。痛みが出にくくなるように手の持ち方を変えたり、手順を変えたりしているうちに、少しずつ良くなってきました。「薄紙をはがすように」という表現がぴったりで、治療のプロがそれでいいの?と思われるかもしれませんが、時間のかかるものはかかる!ことをお話しします。

1 医療が変わってきている

 20世紀は医学にとって大きな進歩の時代でした。歯ぐきから出血する壊血病や歩けなくなる脚気。むかしはなぞの病気でしたが、不足したビタミンを補給する治療法が見つかります。不治の病と思われていた結核やらい病。病気を引き起こす細菌が発見され、治すための抗生物質が発明されます。そのほか、かつては命を奪い、恐れられていた病気の治療法が次々と見つかり、医学がこのまま進歩していけば人類は病気から解放され、誰もが幸せに長生きができるようになる。お医者さんもふくめ、みんながそう思える時代があったのです。その反面、このクスリ、この治療法で治るというわかりやすい説明に慣れてしまって、どんなからだの不調にも治す方法があるはずだと思い込みが生まれてきました。それも手軽に、簡単に。

 ところが長生きが当たり前となった現在、病気で亡くなる人は激減したものの、毎日になにがしかの不調を訴えて病院を訪れる方はむしろ増えています。そしてこういう相談に対しては、地味に一歩一歩進めていくような解決策が必要な場合が多いのです。

2 できないことはできない

 ときどき「一発で治してください!」と言う患者さんがいます。これは困ります。また、「旅行に行くので」「試合に間に合うように」治してほしいという相談も困ります。こういうとき、どのお医者さんも心の中で(それができたら苦労しないよ~)とつぶやいているはずです。電気製品やロボットなら部品を取り換えてすぐに修理できますが、人間の体は生きている細胞でできています。細胞が治るのには時間が必要です。故障の仕方と治療の善し悪しで変わると思いますが、数週間かかることがあれば、数年もかかることもあります。あるいは良くはできるが、すっきり治らない場合もたくさんあります。とくに長生きすることで故障が起きた場合、老化そのものを治すことはできないので、良くなってもそれなりで、人によっては満足できないこともあります。お医者さんがいつも100%期待に沿えないのはどうしてなのか。なぜ必ず治せないのか。それは「治る力」には限界があるからです。

3 治る力を利用する

 ビタミン剤や抗生物質の治療はわかりやすく、クスリだけで治ったように見えますが、じつは「治る力」を補強しているにすぎません。栄養の欠乏や特殊な細菌の性質があって治癒力が十分に働かないとき、それを手助けする薬があるとからだは治ってきます。ちょうど家の補修工事中に道具と材料を十分に補給して、職人さんにボーナスをはずむようなものです。このように薬やほかの治療法も手助けはできるのですが、治しているのは修理を担当する細胞(職人さん)なので、細胞の元気度のちがいで仕事は早くも遅くもなります。

 また、故障の程度によっても変わってくるでしょう。壁のペンキ塗りぐらいなら数日ですみますが、腐った土台を取り換えるような大仕事では数か月に及ぶこともあるはずです。職人さんも、早いけど少し仕事が粗いとか、ゆっくりだけど仕事がていねいだとか個性があります。これが治癒力の個人差になります。

 年齢も関係します。年をとると修理を担当する細胞自体も年をとり、数が減ってきます。最近、私もすり傷や切り傷の治りが遅くなった気がして、年齢にはやっぱり逆らえないなあと思ったりします。

 この治癒力をうまく利用しようとするのが治療なので、治癒力の限界は医学の限界になります。だから切断した足がまた生えてくることはないし、脊髄損傷後の完全麻痺が回復することもありません。また長生きに上限があるのもこのためです。

4 「治る」より「元気になる」ことを考えよう

 家の補修工事の話に戻ります。施主さんの心配りも十分、職人さんは多少年はいっているがベストを尽くしてくれました。雨漏りも治ったし、配管も新しくして台所やお風呂の使い勝手も格段に改善できました。目的は十分に達していますが、でも新築に戻ったわけではありません。あちこちに古びた部分が残っていますし、近所のピカピカの家に比べれば見劣りがします。欲を言ったらきりがないけれど、予算があったらもう少し手を入れるところもあったと心残りも感じています。

 しかし、この家で長く暮らし、いろいろな経験をしてきました。柱のキズ一つにも思い出があります。家が変わるように、住む人の生活も変わります。これからどういう生活をするかは住む人にかかっています。充実して元気な毎日を送る。それは築年数に関係なく、暮らし方次第でできるのだと思います。

 

ねりまインクワイアラー 136 先生って

 クリニックのスタッフが4月から小学校の先生になって旅立ちました。風の便りでは、毎朝4時半起きで準備をしているのだそう。大変だと聞いていたけれど、想像以上です。就労時間が長く、休みも少なく、気苦労が多いのに?と思いますが、それでもやりがいの感じられる仕事なのでしょうね。

松ぼっくり通信 2018年 6月号

 

変化のある毎日を

デカンショ節で知られる哲学者のカントは時間に正確なことで有名でした。毎日同じ時刻に同じコースの散歩を行うので、沿道の人たちは先生の歩く姿を見かければ時間がわかったそうです。カント先生の規則正しい運動の習慣は、当時としては長生きできた(80歳)理由にもなっていると思います。ですが現在では、からだの機能促進・老化防止のためには毎日の生活に変動があったほうがいいことがわかっています。

1 同じ職業の人は似ている

一般に同じ職業の人たちは似た印象があります。服装や表情が似ているのは当たり前ですが、立っているときの姿勢や歩き方にも一定の傾向があります。診察では、職業や普段の生活の様子を確認した後に手足の柔軟性や筋肉のつき具合、背骨や関節の可動性を調べるので、同じ職業の人には一定の特徴があることがよくわかります。例えば銀行員の人たちは体が固いことが多いとか、建築家はねこぜ気味、消防士は筋肉質のような大まかなイメージがつかめます。献身的に仕事に関わるほど、言い換えれば長時間にわたり一定の作業に従事し、休みが少ない・取りづらい仕事の人は疲労が抜けにくく、筋肉が縮まり関節が固まりやすいのかもしれません。見た目の特徴が同じということは、無理のかかりやすいからだの個所も同じということであり、病院に来た時の相談内容も似てきます。こういった体の特徴=くせが少ないほど体のあちこちにかかる負担が減り故障をしにくくなりますから、くせをつけないライフスタイルを確立することが大事です。

2 規則正しさのメリット・デメリット

規則正しい生活を送ることには、はっきりしたメリットがあります。天気や体調に関わらず、毎日やることが決まっている人は、「今日は何をしようかな」と考えている人と比べると毎日の運動量が確保され、生活のリズムができるので体調管理をしやすいでしょう。診療をしていると、定年退職した時のように今まで規則正しく行ってきたことを急に止めてしまい、やることがみつからないときに体調を崩しやすいと感じています。
しかし規則正しさにもデメリットがあります。生活がワンパターンに陥りやすく、メリハリのない毎日だと感じることがあります。心も体も毎日同じことを繰り返すわけですから、使うところは使うが、使わないところは使わないというかたよりが生まれます。強いところは強いが弱いところは弱い、柔らかいところもあるが固いところはそのままといった傾向が続くために、からだ(と心)にくせがついてきます。これが、各自の弱点が生じる理由になります。

3 変化のある毎日を

だから変化のある毎日が必要です。散歩をするときには同じところを歩かずコースを変えます。平べったいところだけでなく坂や階段も歩きます。アスファルト以外に草むらや土の上を歩きましょう。知らない街や旅行先を歩くのもいい経験です。つま先が上がりにくくなった、転ぶのが怖いと思う人は膝を意識的に上げて運動会の行進のように歩いてみましょう。またわざとゆっくりと歩いたり、小刻みだったり大股で歩いたり変化をつけます。しっかり歩ける方は数メートルだけ走ってみます。少し自信がついたらもう少し長く走ります。慣れればより長く走れるようになります。
トレーニングの理論に「ハード・イージー」という考え方があります。きつい(ハード)トレーニングをした後2・3日は軽い(イージー)トレーニングをはさむというやり方です。きついことばかりを続けるとからだが慣れる(適応する)時間が取れません。適度な運動をつづけながら体力・競技能力を上げていくためにとても大事な方法です。これを皆さんの生活にあてはめてください。楽ばかりでもダメ、きついばかりでもダメなのです。
下半身だけでなくボディや上半身も大切です。最近の研究では筋トレに事実上の若返り効果があることがわかってきました。週2回の筋トレを行うとかなりのちがいが実感できるはずです。
知的な刺激はとても大切です。新しい経験なら、スポーツだけでなく、家事や遊びもみな歓迎です。まったく新しいことにチャレンジするのも手ですが、昔やったことがあるものに再チャレンジするのがとっつき早いようです。面倒くさいこと、時間がかかることをするのもまたトレーニングです。コツは一時に全部やってしまおうと思わないこと。ほんの一部分でいいからやってみます。毎日ちょっとずつでも続けていけば必ず結果が出ます。これは立派な脳トレーニングであると言えます。

4 人生100年時代に向けて

歴史ものを読んで思うのは、時代の変わるスピードがどんどん速くなっていることです。江戸時代の初めと終わりを比べたときの生活の変化より、昭和30年代~現在の変化のほうがはるかに大きいのではないでしょうか。必要なものしか持たず、ものより経験を重視し、会社や一つの職業にしがみつかない生き方がこれからは求められることを、若い人たちはひしひしと感じているようです。基本はやはり体です。中高年・年配の方もこれまでの暮らし方にこだわらず、身も心もやわらかく生きていく努力を重ねましょう。

 

ねりまインクワイアラー 135 VRとAR 

 自宅にいながらパリの街角を歩き回り、ケニアのサファリパークに出かけ、エベレストの頂上から世界を眺める。VR(仮想現実)を使うと、本当にそこにいるかのような実感をともなって仮想空間を動き回ることができます。対してAR(拡張現実)は現実の空間内に動く画像が現れます。目の前に遠く離れた相手が現れ、手ぶり身振りを交えて会話することが可能です。車の自動運転化につづく大きな技術革新になりそうです。

 

松ぼっくり通信 2018年 5月号

腰痛は心なのか体なのか

医者になりたてのころ、椎間板ヘルニアの手術の助手をつとめました。手術前にとても痛がっていた患者さんが、麻酔が醒めたときに「すっかり楽になった」とお話しされたことを思い出します。手術は大ざっぱに言えば「悪いものを取り出す」方法です。腫瘍を切除したり、壊れてそのままでは危険な臓器(の一部)を切り出します。椎間板ヘルニアの場合、飛び出た軟骨の一部が神経にあたり、腰や足の痛みをおこします。壊れた部品を修理することで腰痛が治るなら、話はシンプルです。しかし30年たった今、そうは簡単でないことを実感しています。

1 ヘルニアが原因

 薬草。温めた石。温泉。けん引。はり、マッサージその他、腰痛にいろいろな治療が行われてきました。結果はいいときもあれば悪いときもあり、ある人にはよく効いた治療法がほかの人にはダメだったり、有名な医師でも治せないことがあれば、インチキ治療でもよくなることがあり、古今東西にたくさんの説はあれど、どれ一つとして的を射るものがないのが腰痛治療の実態だったのです。

ところが20世紀の初めのイギリスで画期的な論文が発表されました。頑固な腰下肢痛の患者さんに対し、神経を圧迫していた軟骨のかたまりを摘出したところ腰痛が消えたという報告です。史上初めて目に見える形で腰痛の原因を提示し、物理的に原因を取り去れば症状が消える。これ以上わかりやすい説明はなかったので、お医者さんたちの世界ではいっきに腰痛=ヘルニア説が広まりました。

しかしながら、たしかに手術で症状が改善した人はいたのですが、それだけでは説明できない腰痛があること、手術だけですべての腰痛を治療するのはムリがあることに気が付いた人もすくなからずいたのです。

2 ヘルニア説の凋落

 1970年代からCT、80年代からMRIという、体を切り開かずに調べる画像診断法が開発され、腰痛の診断が一気に進歩しました。ところが不思議なことがわかりました。腰痛の人に必ずヘルニアが見つかるわけでなく、まったく腰痛がない人にもけっこうな割合でヘルニアが見つかったのです。こうなるとヘルニア=腰痛説はあやしくなり、腰痛を一から考え直す必要が出てきました。わかったのは、ヘルニアがあってもなくても長い目で見ると腰痛が軽くなる人が大多数であること、ヘルニアが見つかって手術をした人としなかった人のどちらも5年後には良くなっていて結果に大きな差がないこと、画像診断では説明しずらい腰痛が一定の割合で存在することでした。

 そこで医者・研究者は骨や筋肉の働きを調べなおし、痛みに関わると考えられた脳・神経の仕組みを研究し、痛みに心理学が関わっていることがわかったために治療や生活指導の方法を根本から変えていきました。みんなが当たり前と思っていたことが通用しなくなり、全く新しい考え方・やり方が広まることをパラダイム・シフトと呼びます。まさにこの30年は腰痛のパラダイム・シフトがおきた時間だったと言えるでしょう。

3 非特異的腰痛とは?

 お医者さんたちが特に困ったのは、非特異的腰痛と呼ばれる原因のはっきりしない腰痛が予想以上に多く、ほぼ9割がこれに当てはまるということです。この中には、おそらく疲労性の筋痛、無意識の筋けいれん、せぼねの加齢性変化など検査では異常のないものが入るはずです。

また、腰痛には心理的影響が強いことがわかっており、痛みに対して過剰に反応する人がいたり、痛みがあることがその人に利点があるときに症状が強くなったり長引くこともわかっています。

よく外来で聞く例では、数年前から年に二三回腰痛があるという相談があります。ある程度の年になればこれぐらいは当たり前と考えることもできますが、慢性の腰痛が続いている状態と考える人がいます。朝起きぬけに腰が痛い、草むしりの後に腰が痛いのは年のせいということもできますが、何かの病気の先触れではないか、将来歩けなくなるのではないかと不安になり、病院を訪れる人は珍しくありません。このように、痛みの強さとは別に本人がどのように考えているかもだいじで、ものの見方を変える練習が必要なこともあります。

4 心なのか体なのか

 以前、腰痛の原因はほとんどが心の中の怒り・不安・わだかまりなどのストレスであるという説が人気を博したことがあります。たしかに痛みを感じているのは脳ですから、脳に強いストレスがかかった時に痛みが出やすい・強くなりやすいというのはほんとうかもしれません。

 しかし、椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などからだにはっきりした故障を起こす身体疾患があるのも事実です。つまるところ、腰痛を治すには心も体も考えるという、古株のドクター・治療家が経験的に知っていたことを現代の研究が裏付けたのでしょう。

 

ねりまインクワイアラー 134 「反共感論」

 相手の身になって考えることを共感と呼び、一般的には良いことだと思われています。ところが共感することは必ずしも良いことばかりではないという本を読みました。人間は共感すれば手助けしたいと思います。手助けの結果、相手に喜んでもらえればやって良かったと感じます。ですが、本当に相手や世の中のためになるかを知るには一度共感から外れ、冷静に検討する必要があるという内容です。なかなか考えさせられる本です。

松ぼっくり通信 2018年 4月号 

いつのまにか骨折のお話

 理由はわからないけれどどこかの部位が痛むという相談の場合、骨・筋肉・関節はもちろんですが、神経や内臓まで気にかける必要があります。痛みそのものは目に見えませんから、からだを触って腫れ・むくみ・熱感を調べたり、いろいろな検査を行って見当をつけていきます。その中で見落としやすい故障のひとつが「いつのまにか骨折」です。骨折なのにどうして見つかりにくいのでしょうか?

1 誰もがそうは思わない

 推理小説を読むと、いかにもあやしく犯行の動機がありそうな人物が複数登場します。その一方、善良そうでどう見てもあやしくない人物が出てきて、(この人は犯人ではないだろう)と考えていると意外に犯人だったりします。「いつのまにか骨折」はこの犯人によく似ています。まず、ぶつけたとか転んだりといったきっかけがありません。痛い場所を触ると軽い腫れやむくみが見つかることもありますが、多くのケースでは目立つ変化がありません。レントゲンを撮影すると正常に見えることがほとんどです。患者さんもけがをした記憶がありませんから、骨折を心配して病院に来たわけではありません。どう考えても骨折ではない。そう思ってしまうと見つからない骨折です。

 原因がはっきりしないのになってしまう骨折なので「いつのまにか骨折」と言われるのですが、原因がないのではなく、目立たず、本人が気づいていないのです。

2 実際のケース

  • 若い女性が足の痛みを訴えて来院しました。販売の仕事で歩くことが多いのですが、ケガをした記憶はありません。初回のレントゲンで正常だったものの、骨折かもしれないと本人に伝えました。1ヶ月後のレントゲンではっきりと診断がつきました。

  • 大学のサッカー選手が膝の痛みを訴えて受診しました。歩くくらいなら大丈夫だが、走ると痛むそうです。診察では膝そのものはほとんど正常で、レントゲンも異常ありません。やはり1ヶ月後のレントゲンで骨折が明らかとなりました。

  • 50代の男性が足首の痛みで来院、最近マラソンを始めたが、ケガはしていないそうです。やはり1ヶ月後のレントゲンで初めて骨折とわかりました。

  • 60歳の女性が膝の痛みで来院、とくにケガはしていないそうです。やはりしばらくして骨折とわかりましたが、後で思い返すと、バスに乗り遅れないように走った時にちょっと痛かったのだそうです。

  • 30代の男性が胸の痛みで来院、一ヶ月前から咳がひどかったそうです。肋骨の腫れと圧痛から肋骨の骨折と考えられました。

  • 70代の女性が腰痛で受診、頭脳明晰な方でしたがいっさいケガはなかったそうです。レントゲンで腰椎の圧迫骨折とわかりました。

①②③⑤は疲労骨折、④⑥は脆弱性骨折と呼ばれています。わずかな力が繰り返し骨にかかると、目に見えない小さな骨のひびが出来てきます。あまり歩くことの多くなかった人が、転職・転勤で急に歩く量が増えたとか、スポーツの運動量を急に増やしたときが典型例です。疲労骨折のように年齢に関係なく起きる場合もあれば、脆弱性骨折のように骨粗鬆症などであらかじめ骨が弱くなっているために生じることもあります。この場合、立ち座りのくせ、歩き方のくせや前かがみの作業などで繰り返し負担がかかり骨に微小なひびが入りかかっていたものの症状はなかったのですが、ちょっとしたきっかけで実際に痛みを伴う骨折を生じたのだと考えられます。

3 見つけ方は?

 あっと驚く人物が犯人だった小説では、名探偵が推理をして犯人を特定します。名探偵はどんなに善良で無実に見える人も除外せずに調査を行って、論理的にあらゆる可能性を考え、この人以外に犯人はありえないと見極めます。「いつのまにか骨折」の診断で大事なのは、はっきりしたケガのあるなしに関わらず骨折の可能性を除外しないことです。そうすれば、骨折がないと思い込んで無視しがちな微妙な局所の熱やむくみを見逃さないし、よく見ないとわからないような微妙なレントゲンの変化に気づくことができます。たしかにそれでもわからない場合があり、外来で困ることもあります。最近では怪しい時にMRIで調べると普通のレントゲンでは見えないひびが見えるので、とても助かります。

4 どうしたら治るのか

 このように「いつのまにか骨折」は診断が遅れることも多いのですが、治療そのものは難しくなく、患者さんに説明して骨折の原因になった負担を減らしてもらい、睡眠や食事に気を配り、体の自己修復力がしっかりと働くようにして骨折が治るのを待ちます。骨粗鬆症のある人ではビタミンDなどの薬物療法を追加すると治りが早くなります。歩き方や動き方のクセを直したり、履物の買い替えやインソール(中敷)の追加で体にかかる負担を減らすこともあります。運動不足の人が急に運動し始めて骨折することもあるので、トレーニングのアドバイスもします。まずは早く診たててもらうことが大事ですので、わたしたち医者がしっかりとしないといけないわけです。

 決して恐ろしいものではない「いつのまにか骨折」ですが、理由がよくわからないのにどこかが痛くなりなかなかすっきりしないときは、こんなこともあるのだと覚えておいてください。

 

ねりまインクワイアラー 133 景気の善し悪し
バブルのころを超える好景気が続いているそうですが、皆さんの実感はどうでしょうか?景気をどうやって判断するかというと、日本銀行がアンケートをして決めているそうです。最近の調査では4割の人が景気が良いと答えたので全体として景気が上がっていると判断されたみたいです。医療や福祉の業種では景気が上向いている印象は無いので、?と思ってしまいます。実際、景気の良い業種と悪い業種がはっきり分かれているのが最近の傾向だということです。

松ぼっくり通信 2018年 3月号

見方を変えれば世界が変わる

 このあいだ、久しぶりに袖を通したジャケットの中から1万円札が出てきました。よく考えるとぜんぜん得をしていないのですが、気持ちが明るくなった分だけ得をしたなと思いました。同じように、ものの見方一つで元気になったり、がっかりしたりすることがあります。これをじょうずに利用すれば、毎日の暮らしにはりを与え、ほんとうに体を良くするきっかけにもなります。

1 上から見るか、下から見るか

 「治らない!」と繰り返し話す患者さんがいます。こちらの力不足だとしたら申し訳ないのですが、様子を細かく聞いてみると初診に比べずっと良くなっていて、(これならいいのでは?)と内心いぶかしむことがあります。さらに聞いてみると「若い頃はこんなことはなかった」「期待していたほど早く治らない」といった答えが返ってきます。医療を受け持つ側から見れば(それはあたりまえ)なのですが、説明が不足しているのかもしれません。それともう一つ、患者さんの物の見方があるようです。昔は…とか若い頃は…といったフレーズを使うと、一番良い時を基準にして物事を捉えることになりますから、今はダメという評価になるわけです。反対に、病気やけがのためにずっと調子が落ちてしまったのに、ここまで良くなってきたぞ、この調子で行こう!と考える患者さんもいます。今の症状がほぼ同じであっても、上から見るか、下から見るかで心に写る風景は違ってきます。最近の研究からは、気の持ちようは少なからず体の調子に影響を与えることがわかっています。見方を変えるだけでも、ひょっとすると体が変わるかもしれませんよ。

2 損得を見直す

 わたしがいつも不思議に思うのは、世の中が健康ブームで、スポーツジムは人がいっぱいで、運動の効能がさかんに宣伝されているのに、実生活では楽をしようとする人がとても多いことです。少し歩けば信号があるのに、ショートカットをするために道路を横断する。骨を強くするためには重い物を持つことが大事なのに、ショッピングカートを常用する。運動不足を補うにはやや強めの運動が必要なのに、階段を使わずエスカレーターを使ってしまう。毎日のちょっとした買い物も車を使ってしまう。少しぐちっぽくなりましたが、考えてみてください。

遠回りをするのも、重い物を持つのも、階段を使うのも、運動不足を補いあなたの得になることです。普通に暮らせば運動不足になり、生活習慣病や骨粗しょう症につながるのが現在の生活です。まめに体を動かす機会を損と思わず得と考えてみてはどうでしょうか。

3 ジョーシキを疑う

 「年寄りくさく見えないように背筋をのばしている」人がたくさんクリニックを訪れます。無理に背中を反らしすぎて腰痛や神経痛になるためです。若くて健康な人が猫背で歩いていれば、たしかに背筋を伸ばす必要があるかもしれませんが、年齢が上がってきたら話は別です。健康で元気に暮らしていても、背骨の年齢的変化は必ず起きて、誰もが多少は背中が丸くなります。たとえにすると申し訳ないのですが、天皇皇后両陛下も随分と背中が丸くなりましたが、歩く姿は品があり、優雅です。年齢が高くなっても体をしっかり動かし、生活習慣に気を配っている人には風格があります。若さを失うことを恐れず、美しく老いる。ムズカシイけれど、そうなれたらと思います。周りの人に言われたとか、テレビで聞いたとかに惑わされず、自らの判断力を養いましょう。世の中のジョーシキは、もしかしたら非常識かもしれません。

4 完璧でないことを愛す

 年齢が上がってくると体の故障が増えてきます。健康診断のチェック項目に問題点が挙げられ、医者に行けば「年だから仕方がない」と言われ、さらに落ち込む人もいるでしょう。でもどんなに完璧に生きたとしても、いつまでも完璧なからだでいることはできません。まだまだ動くからだをだいじにして、毎日を大切に生きることです。年を重ねることのデメリットだけでなく、賢さ・判断力・計画性・思いやりのように経験から得られたメリットを生かしましょう。人と出会い、話をして、自分だからできることをみつけましょう。

 リハビリ室にお茶碗の写真が貼ってあります。室町時代の将軍足利義持公が愛した名品「馬蝗絆(ばこうはん)」です。割れた茶碗に継ぎを施しており、ふつうに見ればガラクタ茶碗です。見る人が見れば名品となり、後世にまで伝わるようになったのです。人間はおぎゃあと生まれたときがまっさらな状態で、病気やケガをしながら、それでも一生懸命生きていきます。小さな割れ・欠けがあったって、それがなんだ!と思って暮らして欲しいのです。故障があっても、誰かにガラクタだと思われたとしても、自分には名品と思って大切に扱う。あなたの体は、あなたにとって名品です。手に取り、毎日使い、心ゆくまで楽しむことです。

 

ねりまインクワイアラー 132 

5億年前の海には、今では想像もつかない奇妙な生き物が暮らしていました。このハルキゲニアは、海底を歩き回り泥の中の小生物をえさにしていたようです。ニュージーランドの森林に子孫らしき生き物が住んでいます。

松ぼっくり通信 2018年 2月号

疲れにくいからだになる

 この文章は、はじめ「疲れないからだになる」としたのですが、おかしいことに気が付きました。疲れ知らずになるのは無理な話で、だれでも疲れるときはあります。どんなに元気な人でも疲れます。肝心なのは、いざというときにがんばれるかどうかです。ビジネスマンなら仕事で、アスリートなら本番で、一般の人なら普通の生活を元気に行えていれば「疲れにくいからだ」です。疲れにくいからだになるにはどうしたらいいのでしょうか。

1 疲労のメカニズム

 「くたびれたな」と思うとき、疲労を感じているのは脳です。脳は一種のスーパーコンピューターで、体のあらゆるところから神経・血液を介して情報を集め、分析しています。最近の研究からわかってきたのは、疲労がたまったから疲れを感じるのではなく、このままいくと疲労がたまりそうだと予測すると、脳が「疲れた」というメッセージを伝えてくるのです。言い換えれば、心底疲れるよりかなり前から疲労を感じるということです。そうすることで、本格的なからだの故障をおこすことなく、万が一にも対処できるくらいの体力を残そうとする安全メカニズムが働くのです。

 カフェインなどの興奮剤や、覚せい剤などの危険薬物は脳に働きかけて安全メカニズムを一時的に解除しますから、瞬発的にいつも以上の力を発揮できるのです。しかし、いいことばかりではありません。脳は栄養や酸素をもらって生きている臓器の一つですから、食べ過ぎ飲み過ぎあるいはストレスで胃が荒れるように、脳も無理を続ければ不調になり、長引けば不調が固定されて、最悪壊れることもあります。

 全身の栄養不足や循環不良があると脳は敏感に感じ取り、通常より早いうちから警告サインとして疲労のメッセージを送り出します。ですから体調が万全でないときは、疲れが早く出ることになり、外来で聞く「疲れが抜けない」という相談の理由になっているのでしょう。

2 トレーニングと疲労

 トレーニングをすることで、より速く、長く、強く動けるようになるのは、一つには骨・関節・筋肉や心臓がじょうぶになるからです。以前よりもたくさん動いても組織のダメージが起きにくくなり、体の状態が安定していれば脳はOKのサインを出し、私たちは疲労を感じません。

 もう一つの効果は脳のファインチューニング(微調整)です。自動車をたとえに使うと、エンジンやギヤを大きく改造しないでも細かな調整を加えれば今より速く走ることができます。レースのときなら、速く走れるほど優勝できる可能性が高くなりますからこれは正解です。ただし、負担が増える分エンジンやボディの寿命が短くなるかもしれないし、ギヤや軸受けの摩耗が早まるかもしれません。あるスポーツのためにトレーニングをすることはこれと同じです。からだにかかる負担を減らすため、脳は疲労のサインを出し、これ以上パフォーマンスが上がらないようにします。ぎりぎりの限界で練習を続けると、脳が刺激に慣れ、以前よりも強い負担でやっと疲労のサインを出すようになります。そのため、前よりも速く、強く、長く動けるようになるのです。長い目で見ると、体にとって良いことなのかはわかりませんが、アスリートとして成果を出すために必要な選択です。

3 年齢と疲労

 老眼や白髪と同じく、肺・心臓・肝臓・腎臓、骨や筋肉も年をとります。細胞の新陳代謝が遅くなり、若いころに比べると回復が遅くなります。老廃物の蓄積や筋肉の腫脹を感じ取って脳はブレーキをかけますから、結果的に疲労も感じやすくなる。だから年をとると疲れやすくなりますが、ここでちょっと考えてみましょう。

 手入れの行き届いた車と、ガレージに置いたままほったらかしの車を想像してみてください。同じ年式の車でも、手入れの行き届いたほうは滑らかに走りよほどのことがない限り故障しませんが、ほったらかしのほうは動くかどうか怪しく、故障もしやすいはずです。故障のしやすさを事前に検知するのが疲労のメカニズムですから、手入れが十分なら疲労も感じにくくなります。年をとっても、からだの手入れを続けていくことが大切です。適度な運動、ストレッチや筋トレをする習慣、栄養・睡眠・ストレスに気を配り、病気があれば完ぺきではなくても上手に付き合っていく。これが疲れにくくなる秘訣です。

4 疲れるから、疲れにくくなる

 体調管理はそれなりにできているのに疲れやすいと感じる方はどのようにすればいいのでしょうか?実際に相談を聞いていると、けがや病気など体調を崩した後、前より疲れやすくなったと感じている人が多いようです。前なら楽にできていたことがつらくなった。これぐらいは当たり前と思っていたことができなくなりがっかりした。こう感じている方は、「ねじをもう一回巻き直す」ことをお勧めします。ちょっと疲れるくらいのことを時々行ってみましょう。慣れるに従い、もう少しきついことに取り組みます。疲れがたまったと思ったら少し休みます。あきらめずに続けましょう。半年~一年後にはずいぶん体力が戻り、疲れにくくなったと自覚できると思います。

 

ねりまインクワイアラー 131 日本は休みが多い

 年間の祝祭日が日本は17日、アメリカは10日、ゆったりと働いている印象があるフランス・スペインは9日しかありません。休日はたっぷりなのに、なぜ日本は忙しいイメージが強いのでしょうか?じつは有休が気軽にとれるかが大きいようです。フランスでは30日の有休で消化率は100%です。日本は20日で50%、仕事の電話がかかってくることもまれでありません。このちがいです。あとはむだな残業をいかに減らしていくかがカギになるでしょう。

松ぼっくり通信 2018年 1月号 

いかに力を抜くか

スポーツや芸能ばかりでなく、プロフェッショナルと言われる人たちの身ごなしは美しいものです。無駄のない動きができるには筋肉をつけたり、ストレッチをしたり、反復練習をしたりも大切ですが、いかに余計な力を使わずに体を動かせるかがポイントです。散歩でも上手に歩けば楽に速く歩けます。いろいろな手仕事でも、上手な人は力を抜くところを抜いています。力を抜くコツを考えてみます。

1 余計な力を発見する

水を入れたコップを片手で持ち上げて、目の高さまでゆっくりと動かしたとき、くびに力が入っていないかを感じます。わかりにくいときは片方の手でくびをさわりましょう。筋肉に力が入っていたら余計な筋力を使っています。つぎに鏡を見ながらコップを持ち上げていくときに、肩を上げずに腕を水平まで持ち上げることができれば上手にからだを動かせています。すぐに肩が上がる人は、うなじの筋肉を使っています。いろいろな動作で首やうなじの筋肉を余計に使ってしまい、肩が凝りやすい人だと言えるでしょう。

微妙な違いに見えても、余計な力が入っている人は動きが鈍く、疲れやすく、故障する可能性も高くなります。一方、楽に無駄なく動いていれば、疲れも少なく故障もしずらくなります。余計な力を抜くことを覚えることができたなら、スポーツ、習い事や仕事がもっと楽しくなってくるでしょう。

2 筋肉はあったほうが良い

それでは、どうして余計な力が入ってしまうのでしょうか。初めてのこと、慣れないことをするときはだれでも力が入ります。運動会の短距離走のスタートのように、興奮して力が入ることもあります。しかし外来で観察していて最も多いのは筋力不足のケースです。

先ほどのコップの話では、体幹(胸・腹・腰)と肩甲骨周りの筋肉がしっかりしていれば、くびの筋肉に力が入ることはありません。同じように、おしり周りや腹の筋力が不足しているために腰に力が入り、腰痛をおこす人がいます。手関節の腱鞘炎のほんとうの原因は体幹の筋力不足ですし、足首の捻挫を繰り返す人は股関節の筋力が不足している人が多いです。このように細かく診ていくと、骨、関節や筋肉の故障のかくれた原因が筋力不足であるケースはめずらしくありません。

ボディビルダーみたいになる必要はないけれど、運動や仕事を故障知らずで続けることができるくらいの筋力は必要です。そして、本当の肉体労働が珍しくなった現在、多くの人が筋力不足になっています。

3 力を抜く感覚を磨く

今日は何となくはりを感じる、重だるい、こっているなど、何とも言えない不快感はどこから来るのでしょうか?体中くまなく張り巡らされた感覚神経の末端には、さまざまな感覚を感じる受容器があります。筋肉に力が入る感覚も神経が脳に伝えていて、どんなに小さな筋肉の動きも脳は感じ取れる能力があると言えます。はりコリの感覚もこうした神経の働きで感じているのです。

この神経の配線は生まれつきのものであり、一流選手でない私たちにも備わっていますが、実際に活用している人は少ないです。スマホやパソコンを誰でも買うことはできますが、十分に使い切っている人は少ないのと同じです。

そこでこの神経の働きをうまく使う練習法をお教えします。ゆるくしたいところに指先を当てて、体や手足の位置をいろいろと変えながら、一番筋肉の緊張がゆるくなるポジションをみつけます。はじめは大ざっぱに動かし、しだいに微調整しながら一番ゆるむところをみつけます。そのままじっとしていると筋肉がぴくぴくしたりしますがそのままにして、筋肉がゆるい時の感覚を味わいます。くりかえし練習をして、指を筋肉に当てなくてもゆるい感覚がわかるようになればしめたものです。どこかにはりを感じたなら、そこに気持ちを集中し、筋肉がゆるむ姿勢をみつけしばらくじっとしていましょう。これだけでも軽いはりコリは治ってしまうはずです。

4 全身を使う

フィギュアスケートの浅田真央ちゃんや羽生結弦選手の演技を見ると、スケートなどやったことがない人でもすごさがわかります。一流選手の動きはみんなすごい!マネは絶対できないけれど、全身を使って動く姿が美しく見えるのは、私たちが理想的な体の動きを本能的に知っているからだと思います。

小さな子供たちの動きが軽快に見えるのも同じです。とくに教わらなくても、小さいときにはみんな全身を使った動き方をしています。背が伸びるころ、小学校の高学年あたりからこういった軽快さが失われてくる子がいるのはとても残念なことです。やはり外遊びが少ないからなのでしょうか。

しばらく運動から遠ざかった方が運動を再開する場合、まずは歩くことから始めましょう。とくに肩やおしりを動かすことを意識して歩けば全身運動になります。どんなスポーツでも、基本的な動きを反復練習し、体全体を意識します。結果は後からついてくる。そう考えてじっくり取り組んでみてください。

ねりまインクワイアラー 132 人食いバクテリア

世間を騒がす人食いバクテリア。急激な悪化が起き、こじらすと命にかかわることも。原因の多くは溶連菌というどこにでもいる細菌で、しょう紅熱やリウマチ熱の原因として昔から知られています。なぜ「人食い」に変わるのかよくわかっていませんが、傷の痛みが強いときは要注意です。

松ぼっくり通信 2017年 12月

認知症に気をつけよう

長いこと患者さんを診ていると、何となく(この人、ちょっとあぶなっかしいな)と思うことがあり、それから数年たつと認知症がはっきりすることが多いと感じています。この(あぶなっかしいな)という感覚がどこから来るのかずっと気にしていましたが、ぴたっとくる意見がなかなか見つからなかったのです。ところが、星城大学の竹田徳則先生達が作成された「認知症簡単チェック」を見て、これだっ!と思ったので紹介します。竹田先生は現場で活躍されている作業療法士さんで、まだ本格的な認知症とは言えないけれど、将来的に認知症になりやすい人たちをかんたんに見分ける方法としてこのチェック表を作りました。では見てみましょう。


認知症チェックリスト はい いいえ
1 現在あなたは75歳以上ですか 3点
2 現在収入のある仕事してますか 1点
3 現在糖尿病と診断されてますか 1点
4 物忘れの自覚はありますか 1点
5 今の生活に満足してますか 1点
生きていても仕方ないという気持ちになることがありますか 1点
毎日の活動力や世間に対する関心が無くなってきたように思いますか 1点
生きているのがむなしいように感じますか 1点
退屈に思うことが良くありますか 1点
普段は気分がいいですか 1点
何か悪いことが起こりそうな気がしますか 1点
自分はしあわせな方だと思いますか 1点
どうしようもないと思うことが良くありますか 1点
外出するより家にいることの方が好きですか 1点
他人より物忘れが多いと思いますか 1点
こうして生きていることが素晴らしいと思いますか 1点
自分は活力が満ちていると思いますか 1点
こんな暮らしは希望がないと感じますか 1点
他人は自分より裕福だと思います 1点
6 あなたの心配事や愚痴を聞いてくれる人はいますか 1点
7 スポーツ的活動へ参加してますか 1点
8 バス・電車を利用して外出することが出来ますか 1点
9 食事の用意をすることができますか 1点
10 請求書の支払いをすることができますか 1点
11 年金書類を作成することができますか 1点
12 新聞を読んでいますか 1点
13 病人を見舞うことができますか 1点
合計

問5の小計は5点以上の場合は1点

 

全般的なチェック

1から4までは大まかな認知症の危険因子をチェックします。75歳以上、仕事の有無、糖尿病、物忘れです。たしかに仕事のある人に元気な人が多い印象があります。

気持ち・考え方

質問5の枠で囲んだ部分です。「仕方がない」「関心がない」「むなしい」「たいくつ」「どうしようもない」「希望がない」といったことばがある一方、「気分が良い」「幸せ」「すばらしい」「活力」など明るい印象のことばも並んでいます。ネガティブな気持ち・考え方が強い人ほど点数が高くなり、結果的に認知症になりやすいことが示されています。

社会的な活動

人は一人では生きられないので、あちこち出かけて他人と出会い、話をしたり用事を済ます必要があります。体をふだんから動かしていれば、脳もまた活発に働いています。また、同じことをしても、いやいや行うのか積極的に行うのかでちがってくるでしょう。自らが積極的に活動しているかどうかを質問6~13で確認しています。

使い方

各項目ではい・いいえに〇を付けていきます。点数のところに〇がついたら1点(質問1だけ3点)、合計して自分の得点を確認します。

9点以上の点数の場合、今後5年間で認知症になる確率は5割弱、5から8点では1割くらいになるとのことです。

認知症の有無・程度を見分ける方法にはいろいろなテストがありますが、気分に着目したチェック表は珍しいです。わたしは整形外科医なので、本格的に認知症を診てはいませんが、気分と認知症につながりがあると考えていました。気分の障害が原因なのか結果なのかははっきりとわかっていないけれど、生活習慣を変え、気持ちを明るくしていくことが損になる人はいないでしょう。

習慣を変えていくには、まず2週間がんばってみることです。2週間続けることができれば、その後が続く可能性が高いそうです。あちこち出かけて人と話す機会を作る。一念発起してなにか運動を始めてみる。用事がなくても物見遊山に行く。自分で買い物に出かけ、新しい料理にチャレンジしてみる。部屋を片付け、放っておいた書類を整理する。図書館に行ってふだんは読まないような雑誌や本を読む。パソコンやスマホを持っている人は、新しいアプリや操作法を使ってみる。生活を変えてみれば気分も変化していきます。小さなことでいいですから、何かを始めて2週間、まず続けてみましょう。

 

ねりまインクワイアラー 131 ごみから燃料へ

バック・トウ・ザ・フューチャーで博士が乗っている未来の車デロリアン。生ごみを原料にして走ります。生ごみではありませんが、布地から燃料を作る技術がすでに実用化されています。綿製品を酵素で分解し、発酵させてアルコールを作ります。今のところはボイラーの燃料として使われているようです。皆さんもご存知の通り、ポリエステルは回収されてペットボトルや布地に繰り返し使われています。生ごみからはメタンガスを回収し、さらに水素を取り出し燃料電池として利用することも始められています。都市ガスのエネファームはガス内の水素を使って燃料電池を充電し電気を生み出しています。ごみは宝の山に変わりつつあるようです

 

 

 

 

 

 

 

松ぼっくり通信 2017年 11月号

運動のすすめ

これを書いている今、マラソン大会の後なので、あちこちに痛みや張りが残っています。どこにどんな張りがあるにかで、走り方が良かったのかいまひとつなのかわかります。回復のスピードで、練習不足や体調はどうだったのか見当がつきます。運動が体に良いけれど苦手と感じている方もいるでしょう。苦手にしないためにどうすればいいのでしょうか。

1 「おだいじに」の過ち

医学の歴史は絶えずまちがいを正すことで進歩してきました。運動に対する考え方もその一例です。からだの調子が悪いとき、まずは安静にして回復を待つ。一見すると正しいようですが、急性期を過ぎれば、むしろからだを動かした方が調子が良くなることが多いのです。動くことによって血行が良くなり、消化器は活発に蠕動し、神経系のバランスが整います。筋肉を動かすと、筋肉そのものからさまざまなエンドカイン(ホルモンのなかま)が出て、脳や免疫系に刺激を与えます。

以前はさまざまな慢性病に対して安静がすすめられました。結核のような胸の病、心臓病、腎臓病など、運動をすると疲労を招き病気を進行させると言われる病気がたくさんありましたが、現在では適度の運動は病気の回復のために必要なことが分かってきました。長期にわたる地味な調査や厳密な実験結果が積み上げられて、ゆっくりと、しかし着実に運動の効能がわかってきたのです。

ではありますが、「おだいじに」の言葉のように、まだまだからだの不調時に安静というイメージは拭えていません。「アルプスの少女ハイジ」に出てくる車椅子の少女クララは典型的です。クララが初めて勇気を出して一歩を踏み出そうとするシーンは感動的ですが、現代のようにもっと早くから歩行訓練を開始していたら、車椅子はいらなかったのに・・・とも思います。

2 運動のめやす

からだが故障していても気にせず、ガンガン運動しろということではありません。たとえば心臓病や腎臓疾患の場合、ウォーキングが良いことが調査で明らかなものの、ランニングまで行くと少しキツすぎるとのことです。こういった研究では全般的な傾向を調べますから、一人一人の病気の度合い、もともとの体力差などは統計のすき間に隠れてしまい、「歩くといってもどれくらいのスピードで?」「若い人と年配の人のちがいは?」といった質問には答えてくれません。今のところは軽く汗ばみ、息が上がらない程度の運動ならオーケーと考えてください。

もう一つ、軽い故障があるときに、運動はつづけてもいいのでしょうか?答えは「運動を一定期間続けても、わずかずつ症状が改善するか現状維持なら続ける。徐々に症状が強くなるなら、中止して様子を見る」ことです。いつもベストの体調でいるのはムリです。花も嵐も踏み越えて、ちょっとタフな気持ちで運動を続けることも必要です。

 3 「そのもの」を楽しむ

もともとの体力がどのレベルであっても、続けていけば必ず体力が向上し、前にはムリだと思っていたことができるようになり、ここまできたか!と実感できるようになります。そうなるとうれしくて、さらに先に進みたいと思うはずです。一人で運動を続けるのも十分楽しいですが、同じ運動をするなかまと交流することがまた楽しみの方も多いと思います。

ゲームの勝敗や記録の向上も良い刺激になる一方、それにこだわりすぎるのは考えものです。勝負は時の運、体調や天候などで結果は変わってきます。また年齢を重ねれば、若いときと全く同じとはいかなくなります。それでも運動を楽しみにできます。一挙手一投足に最善を尽くし、勝ち負けを超えたところで技を極め、動きそのものを楽しむことができれば深い満足が得られるはずです。

4 初めの一歩

ゼロと1の間は、1と10の間よりも大きい。これは運動指導の際に、私がスタッフにアドバイスしている言葉です。長い間まったく運動をしていなかった人が、週に一回、10分運動するようになったら、これはすごいことです。さらにそれを長く続けていけば、動くこと自体が楽になり、しだいに運動量は増えていくことでしょう。初めの一歩を踏み出すには勇気が必要で、おおげさに表現するなら自分の生き方を変える始まりになります。その一歩エライ !! と自分を褒めてあげましょう。何年先になるかはわかりませんが、あなたはなりたい自分に近づく一歩を踏み出したのです。

ダイエットが目的で運動を始める人には耳寄りな話があります。運動をした後、数時間のあいだは新陳代謝が高まる(EPOC:エポックと言います)ことがわかっていて、こまめに体を動かすだけでカロリーを消費しやすい体質になっていきます。いきなりきつい、つらいことをしないで、こんなものでいいのかな?と思うくらい軽めの運動からまず続けてみてはいかがでしょうか。

 

ねりまインクワイアラー 130 歩行スピード

高齢者の歩く速度を比べてみると、10年前より明らかに速く歩いていることがわかっています。これは若い人でも同じで、昭和30年代にはみんなもっとゆっくり歩いていたようです。ゆっくり、長い時間歩くということは、生活も今に比べのんびりだったのかな。みなさんの思い出はどうですか?

松ぼっくり通信 2017年 10月号

ビミョーな変化をみきわめよう

白なら白。黒なら黒。すっきりとどちらかに決められたらとても楽です。子供のころ、両親とテレビを見ているときに「この人、いいもん?ワルもん?」と聞いて笑われました。善悪の判断がなかなか難しいように、世の中のことはおしなべて白とも黒ともつかないものです。今回は病気ともいいきれない微妙な体の変化について触れてみましょう。

1 気候病とは

気温、湿度、気圧の変化で体調が変わる人がいます。雨の前に古傷が痛くなったり、気圧が下がるころに頭痛が出たり、めまいや耳鳴りが起きる人がいます。あるいは気温が下がるころに元気がなくなったり不安が強くなる人がいます。たいていは天気が崩れる前後に調子がおかしくなりますが、なかには天気が回復するころに体調が乱れる人もいます。こういったことは世間的によく知られていましたが、愛知医大の佐藤純先生の研究で内耳(耳のおく)に気候の変化を感じる働きがあって、気候の変動が自律神経に影響を与えることがわかってきました。自律神経は脳、皮膚、内臓や関節などあらゆるところに関わっています。だから、気候がいろいろな体の不調に影響してもおかしくないわけです。

たいていは、もともとの症状が気候の変化に伴って強くなったり軽くなったりします。片頭痛、リウマチやぜんそくなどでよくみられ、症状で雨や低気圧の予想ができる人もいるくらいです。好不調の波を感じる人は、一度気候との関係を疑うといいかもしれません。スマホを使う人は「頭痛―る」という無料アプリが便利です。頭痛以外にも使えるアプリです。気圧の変化であなたの症状が強くなっていないかわかりやすく調べられますよ。

2 食べもの

アルコール筋痛症という病気があります。お酒を飲むと体のふしぶしがとても痛くなりますが、飲まなければまったく問題ありません。アルコール(エタノール)を飲める人は多いですが、思いがけない症状(副作用)が出て体に合わない人は確実に存在します。これは食べ物の中に含まれる膨大な数の成分それぞれに言えることで、個人の体質に合う・合わないがあることは不思議ではありません。たとえばカフェインの副作用の一つに下痢がありますが、私の場合はコーヒーを飲むと便秘になります。でもコーヒーを数杯飲んでも特に問題がない人もいっぱいいるでしょう。

お医者さんの仕事の基本は「誰にとっても役立つ治療法をみつける」ことですから、AさんならAさんだけに通用する食べ物への反応、薬の相性、予防法などは本にも載らず、お医者さんもよくわかっていません。将来的にはひとりひとりに合わせた食事法、薬の使用法がわかる時代が来る可能性がありますが、今のところは自分でトライアンドエラーをするしかありません。「あれを食べた後は調子が悪い」と思ったら、そのことを気に留めておきましょう。もっときちんとやりたい人は、食事の内容と体の調子を毎日メモに取り、時々見返してみることです。意外な発見があるかもしれませんよ。

3 年齢的な問題

年をとるのは悪いことばかりでないけれど、体の不調はどうしても増えてきます。中年期の患者さんが「こんなことは今までなかったのに…」「人生で初めてです」と話すのを聞き、そりゃそーだ!と密かに考えることがあります。

どんなことでもはじめては不安になるものです。学校生活、仕事や家庭生活・育児もみんな初めてで、どきどきワクワクしながら生きてきました。しかし、若いころは得ることが大きく失うものが少なかったのに、年をとるとその逆になってしまう。だから今まで当たり前と思っていたことがそうではないと自覚するととても不安に感じるのです。

実際、外来で扱う患者さんの相談の大半は、突き詰めてみれば症状そのもの以上に不安自体がつらい理由になっています。不安を軽くすることはできるのか、考えてみましょう。

4 微妙な変化とつきあう

まず、体の調子には波があり、気候のように自分でコントロールできないことからも大きな影響があるのを知ることです。毎日の体の変化のたびに気持ちがピリピリしていたら疲れてしまいます。いい日があれば、悪い日もあるさ!と思うだけで心が軽くなります。

また自分の体はほかの人と全くちがうことを知りましょう。ほかの人に良く効く薬があったり、速やかに治る人がいても、それを自分と比べる必要はありません。禍福はあざなえる縄のごとし(幸・不幸は複雑に組み合わされておりだれにも推し量ることはできない)、あせらず自分に向いた健康法・予防法をみつけましょう。

絶対的な体力では若い人に負けるとしても、チャレンジ精神を忘れないようにしましょう。いくつになっても新しい経験をし、知的・肉体的な冒険をすることです。自分の世界を広げている実感があれば大きな自信になります。それが不安感を軽くすることにつながるのです。

 

ねりまインクワイアラー 129 笑い

笑うことがからだにいいことは医学的に確かめられています。でも、何がおかしくて笑うのかは考えるほどナゾです。赤ちゃんはちょっとしたことで笑顔になり、見ている人たちも思わず微笑みます。海外のジョークやお笑い番組を見ると何がおかしいのか全然わからないことがありますし、若手のお笑い芸人さんの話が笑えないこともよくあります。笑わせる人も見る人も気持ちにゆとりがあれば、笑いが生まれやすい気がします。