目白ヨシノ治療院

目白ヨシノ治療院は新宿区下落、目白駅から徒歩3分、マニュアルメディシンを用いたマッサージ、手技治療,リハビリの専門治療院です。病院では特に問題のなかったつらい症状、日常生活で困る痛み、肩こりや腰痛、首の痛み、またはよく分からない目の奥の痛みや頭痛など機能障害に関する問題の治療を行っています。

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ブログ

松ぼっくり通信 2017年 9月号

見えないものを知ること

子供のころ、お化けや幽霊の話が大好きで、テレビに出てくる怪談映画や、雪男、宇宙人、消えた大陸の謎、狼男やドラキュラの話をドキドキしながら見ていました。今でもこういう話は好きですが、すべてほんとうだと思っているわけではありません。でも、子供だましだ!と片付けるつもりもありません。「目に見えるものは信じるが、見えないものは信じなくていい」とは言い切れないからです。

1 見えないがあるもの

誰の目にも見えないが、みんながあると知っているものってなんでしょう?ことばの中には無数の例があります。たとえば「社会」「文化」「歴史」といったことばがあらわすものはまったく目には見えません。また、点や線といった数学用語、重力や電磁波といった物理学の専門用語があらわすことも目で見ることはできません。数学や物理に興味がない人でも、冷蔵庫やエアコン、スマホを使っているはずです。こういった機械を私たちが使える理由は、目に見えないが実際には存在する概念や知識の基本があるからです。

「見えない」からないわけではないとなると、「みんながあると思えばある」のでしょうか?過去の歴史をひもとくと、当時の人たちが「ある」と思っていて、後で「ない」とわかったことがたくさんあります。昔の人は無知だったからと言うのは簡単ですが、100年後の未来にあたりまえなことは、今の人には全く信じがたいことかもしれません。こう考えてくると、「見えなくてもある」と証明するためには、なにか根本的に納得できる解決策が必要ということになります。

2 見えていてもないもの

子供のころに熱中した話の出どころを突き詰めていくとほとんどが誰かのほら話、伝説やねつ造であることを知り、ちょっとがっかり、ちょっと安心しました。しかし中には真剣な話もあり、シベリアの収容所から歩いてインドに脱出した人の体験談の中に雪男が出てきたときにはおどろきました。何か月もの間、苦難の中を切り抜けていく様子が克明に描かれていて、この人が軽々しく「雪男見たぜ!」と証言するとはとても思えません。しかし、誠実な人の証言は100パーセント正しいと言い切ることもまた危険なのです。

何年か前ですが、六甲山縦走のときです。きつい登りの最中に、木々の間から建物が見えました。さああと少しだ!と登ってみても建物はさっぱり見えず、さらに1時間上ぼり休憩所につきました。はっきり「見えた」建物は幻覚だったのです。山岳レースの練習中にも、青いテントがあると思ったらなかったとか、人がいると思って近づくと誰もいなかったり、といった経験をしました。疲労が重なり、脱水や低血糖のため脳の機能が落ち、幻覚を見たのだと思います。ほかにも薬物の影響や強く興奮する出来事が続くときに、ふつうの人でも幻覚を見ることがあります。最近の脳科学の研究から、人間はありのままを見ているのではなく、脳が解釈したものを「見ている」ことがわかってきました。幽霊やお化けの話には、こういった脳が内緒で行ういたずらが関係しているのかもしれません。

3 ないのにはたらくもの

一方、まったくないにもかかわらず、実際に大きな影響がおきることもあります。集団で体調を崩して救急病院に入院し、原因を調べてもさっぱりとわからないケースがあります。一種の集団ヒステリーのようなもので、食中毒や環境汚染などその場にいる人たちが不安を感じる理由があるとき、一人が体調を崩すなど何かのきっかけがあれば、不安がストレスとなり、実際に集団で症状をおこすことがあるのです。状況は異なりますが、オイルショック後のトイレットペーパー買い占め騒動や冷静に見れば根拠のない株式の大変動など、理由がなにもないのに世の中に大きく影響を与えたできごとが少なからずあるようです。見えないどころか本当に何もないのに現実の影響がおきるならば、見えないものの真偽の判別はさらに難しくなります。

4 医療のむずかしい理由

このように見えないものを知るということは、パッと思う以上に簡単ではありません。ところが疲労、吐き気、痛み、しびれのような医療で扱う症状のかなりの部分は「見えない」ものです。見えないものを扱うとき、医学を科学のなかまだとするなら、科学実験や機械の設計図のように理詰めで探求していくことが基本となりますが、患者さんに説明、納得してもらうプロセスが必要になります。しかし、見えないものをどのようにうけとるかは人によってちがうので、ときに理解してもらうことが大変です。長い間その人なりに生きてきたことで培われた考えが強固なために、ほかの考え方が受け入れられなくなっている場合もあります。

また人間の体は複雑なブラックボックスで、同じ薬や治療法が全員にうまくいくわけではありません。ときにはまったく根拠のない治療法が「効く」こともあり、一つ一つの体験談にたよらず医療のかじとりをするのはなかなか大変です。「見えない」ものの中から確かなものをみつけていくことがいかに難しいか。毎日これを実感しています。

 

ねりまインクワイアラー 128 2メートル75センチ

身長196センチ、体重94キロ、今季限りで引退を表明したジャマイカの陸上短距離選手、ウサイン・ボルトの歩幅です。側弯症の不利をはねのけ達成した100メートル9秒58の記録は不滅です。本人はサッカー選手に転身したいと話しているそうですが、今度はサッカー場で姿が見れるかもしれませんね。

松ぼっくり通信 2017年 8月号

腕の痛み・しびれ

朝起きたときにどちらかの腕がしびれていることがあります。横向きのかっこうで、しばらく寝返りをしないでいるとなるようです。こういうときは仰向けになり、体の力を抜いて様子を見ているとしびれが取れてきます。腕の痛み・しびれはよくある相談ですが、ときには脳や内臓の病気が原因のこともあるため、症状以上に心配されて来院する方が多いです。しびれ・痛みがあるときのかんたんな見分け方をお話ししましょう。

 

1 手を動かすことができるか

しびれがきつくても手をしっかり動かすことができるなら、ひとまず安心です。たいていはくびから手関節にかけての末梢神経の圧迫が原因でおきるしびれで、緊急の治療は必要ではありません。

反対に、しびれはまったく感じないが指をちゃんと動かせないときは要注意です。比較的よく目にするのは橈骨神経麻痺で、指を伸ばす筋肉に力が入らないため物をつかむことができなくなります。上腕の外側に神経が圧迫されやすい部位があり、寝ているあいだに圧迫が続くと麻痺が生じ、別名「睡眠まひ」と呼ばれています。酔って寝たときに多いのも特徴です。多くの場合数週間で回復します。

きわめてまれですが要注意なのは、脳こうそくの「純粋運動型」で、しびれはないのに手が動かせなくなります。この診断はプロでも迷うことがあり、MRIなどの検査が必要です。脳梗塞ではスピーディな治療で完全に治ることがありますから見分けが大切です。

2 むくみ・腫れ・熱の有無

しびれも痛みも目に見えるものではないため、むくみ、腫れや熱など客観的な証拠集めをします。むくみのあるところでは神経の働きが弱って感覚が鈍くなります。神経の通る場所に炎症や腫れがあれば、神経が圧迫されて痛みやしびれが起きます。

診察の時には、関節の動きを調べたり、左右を比較しながら慎重に触診していきますが、患者さんが自分ではっきりとわかる腫れやむくみがあったなら、痛み・しびれと関係があることが多いです。反対にどこを触ってもまったく異常を感じられない場合は、原因がほかにある可能性を考えたほうがいいでしょう。神経痛が代表例で、頸椎の故障のほか、帯状疱疹などのウイルス感染症でも神経痛が起きますから注意が必要です。

3 動くと症状が変わるか

大ざっぱに説明すると、動かしたら痛みが変化するものは骨、関節や筋肉の故障か、頸椎に原因のある神経痛のどちらかです。動かしても痛みが全く変わらないものは、ウイルス感染症、脳やせき髄の病気、心臓や肺などの内臓疾患などを考えます。

動かして痛み・しびれが変化することがわかったら、さらに細かくどこをどう動かすかを診ていきます。ここがポイントで、私たちがふつうに動いているときには、体のいろいろな部分を同時に動かしていることが多いのです。ほかの部分は動かさないように注意しながら、ある関節だけを動かして調べるのはなかなか難しく、プロの領分だと思います。ですから、みなさんは「じっとして痛い場合は要注意!」と覚えておくとよいでしょう。

ただし、痛み・しびれの自己分析は意外と難しいです。たとえば、患者さん「一日中痛いです!!」、わたし「ほんとうに24時間、何をしていてもずっと痛いのですか?」「はい!」、「ではこのかっこうではどうですか?」「いいえ、痛くありません!!」といったやりとりはめずらしくありません。痛みがおさまるのに時間がかかる場合、痛みの程度が強い場合は一度プロに相談したほうがいいかもしれません。

4 良くなるには

痛み・しびれはつらいものですが、症状そのもののつらさが5割、残り5割は「この先どうなるのか、いったいいつまで続くのだろう、何か悪い病気が隠れているのではないか?」という不安感からきているように思います。「何日で治りますか?」と聞かれると答えにくいものの、たいていの相談は「なんとかなる」と考えています。

治るスピードは人それぞれであり、故障の程度・症状が出るまでの時間(ときにはかなり長い場合がある)といった局所の問題のほかに、疲労・食事のバランス・睡眠の質・ストレスの影響などわかりにくいが全身に影響を与える要素や仕事内外での体の使い方のちがいでも変わってきて、十人十色といってよいでしょう。

今の症状を軽くするためのクスリ、早く良くなるためのストレッチや姿勢コントロールの練習など、必要に応じて治療を行っています。心配な病気の可能性があるときはさらに検査を追加したり、病院への紹介状を書くことがありますが、かなり稀なことであり、ほとんどはからだの回復力が働いて痛み・しびれが改善していくものです。

 

ねりまインクワイアラー 127 ダイエットの科学

ベジタリアン、糖質制限食、アトキンス・ダイエット、パレオ・ダイエットなど、減量・健康増進・パフォーマンス向上をねらったたくさんの食事法があります。困るのは、それぞれに熱心な信奉者がいる一方で、公正に考え方を比較した情報がみつけられない点です。今売れている本でとても参考になるのが、「ダイエットの科学」(白揚社)です。遺伝、環境、腸内細菌の研究をもとにデータを積み上げており、ほんとうに役立つ食事法をみつける手助けになります。一読をお勧めしたい本です。

松ぼっくり通信 2017年 7月号

治る時間

この仕事をしてたびたび驚くのは、「患者さんたちは、からだがあっ!という間に治ると思っている」ことです。もちろん早く治る故障がありますし、時間がかかる場合があることも理屈では知っているはずです。でも、いざ自分が困った状態になったときには、なかなか冷静な判断ができなくなるのかもしれません。少し整理してお話しします。

1 なぜ治るのか

扁桃炎、下腿骨骨折、尾骨骨折、中足骨骨折、そのほか打ち身すり傷は無数。小学生時代を思い返せばいろいろなけがや故障がありました。下腿骨骨折以外は当時の様子・治りぐあいでたぶんそうだろうと後で考えた診断です。下腿骨を除き「親に言うと病院に連れていかれるので、ほっといた」うちに治りました。おそらく現在の小学生も似たようなもので、「ほっとく」だけで治っていることがいっぱいあると思います。いわゆる自然治癒力がよく働いているわけですが、大人になっても同じこと、治る基本は治癒力であり、病院や医師に魔法の力が宿っているわけではありません。ほっといて治れば一番いい。治りをじゃましている理由があるなら、みつけて正す。そのお手伝いをするのが医療の仕事だと考えています。

大まかにいうと、皮膚は1・2週間。筋肉は1か月。骨・軟骨は1~3か月。神経(末梢)は故障の仕方で異なり、数十分から1・2年まで。例外はありますが、治癒にかかる時間です。治癒を遅らせる理由があればあるほど時間がかかりますから、できるだけ理由を取り除いてあげられるかが、医療の役割どころと言えます。

2 「治る」にも限界がある

完治という言葉があります。専門的な医療の現場で使うことはなく、患者さんや保険会社などから質問で聞く言葉です。「完全に治る」ということは、実際の医療ではまずありません。ニキビが治ってもあとは残ります。胃潰瘍が治っても瘢痕が残ります。骨折が治っても骨の形は必ず変化します。

イメージで言うと「割れた茶碗を修理に出したら、新品になってもどってくる」のが完治ということだと思います。凄腕の修理名人が取り組んでも、新品にもどすことはできません。とりあえず元の形に近づけたり、器として使えるようにはできますが、壊れる前とはちがってきます。

病気やけがの場合も同じで、「元気になる」「良くなる」ことはできますが、厳密にいえば故障する前に戻ることはありません。顕微鏡・細胞レベルまで見れば必ずなんらかの痕跡が残ります。いつも完全に治っていたら、老化も後遺症もないわけで、生きとし生けるものの宿命がそこにあります。みなさんはがっかりするかもしれませんが、何十年ものあいだ病気やけがをのりこえて、命を支えてくれる驚異の仕組みを、私はすばらしいと思っています。

3 治るじゃまをしない

だから、治るじゃまをしない。最大限治癒力を発揮させる。これが重要です。けがや病気で大事にする時期・タイミングがあります。徐々に負担を増やしながら体を丈夫にしていく時期があります。毎日の暮らしの中で体を傷める原因があれば減らし、できるなら根絶します。体力向上のためにできることに取り組めば、長い目で見て治癒力を上げることができます。

治るのにじゃまをしているものをどれだけ減らせるか。くすり、注射、手術やリハビリをする意味はそこにありますから、たくさんあればいい、いっぱいやればいいというものではありません。薬をたくさん飲んだりリハビリを毎日しても、それだけで早く治ることはなく、やり過ぎでじゃまをする場合もありえます。

4 治るために必要なこと

一番大事なのは、「患者さんが主体性を持つ」ということです。治りたいと言いながら、どこか人任せで、自分自身の体を管理する気持ちの少ない人が少なくありません。病院の中にいる時が治療なのではなく、自宅・世間で暮らしている時が肝心です。わたしの専門で言うなら、慢性的な腰痛や手足の故障のかなりの部分が、日ごろの体の使い方・動かし方が原因・きっかけになっていることが多いです。病院で対処法を教えますが、望ましい姿勢や動作を本人が日ごろから意識しているかどうかは、本人にしかわかりません。お手伝いはできますが、治すのは患者さん自身です。

期待のかけすぎも?です。先にお話ししたように、治るためには一定の時間が必要です。病院に行けばすぐに治るわけではないことも理解してください。

そして予防の意識を持ちましょう。一回良くなったのにどうして再発したのかと質問されることがありますが、からだはどんどん変化します。症状がない時にも上手に体を使い、必要な筋トレやストレッチをして予防に努めましょう。おしりに火がつく前に、火がつかないようにつとめる。これが大切です。

 

ねりまインクワイアラー 126 ワールドマスターズゲームズ2021

オリンピックの翌年に開かれる国際スポーツ大会で、1985年から開かれています。一般的なスポーツ種目のほか、綱引きやゲートボールなども種目に上がっています。30歳以上のスポーツ愛好家ならだれでも参加できます。新・東京オリンピックの翌年2021年に関西で開催されることが決まりました。5歳刻みの年齢区分で競い合います。国際大会でメダルがねらえるチャンスですよ!

松ぼっくり通信 2017年 6月号

関節痛のふしぎ

  腰痛についで多い相談が関節痛です。熱をもって腫れていて、動かすとずきっとする。わかりやすい感じがしますが、じつはなかなか謎の多い痛みなのです。

1 関節痛のなぞ

リウマチのようなはっきりした病気を除くと、「どうして痛くなったのか?」はっきりしないケースが多いのが関節痛です。だんだんと痛くなったり、ある日急に腫れてきたけれど、原因がはっきりしない。これは原因がないのではなく、わかりづらいのです。ひさしぶりに長い距離を歩いたり、普段はかない靴を履いたり、バスや電車に乗り遅れないように急いで歩いたり、いつもより長く座りつづけたり、直接の原因は思いがけないところに潜んでいます。しかしつきつめて原因を考えるなら、本当の理由は関節ではなく「骨」のことがまれではありません。

スポーツマンや若い人ではどうでしょうか?けがの場合を除くと、「筋肉」「じん帯」がほんとうの原因なのに、症状が関節痛であることがよくあります。よく考えれば関節は骨と骨のすきまであって、実際は骨・軟骨・じん帯・筋肉などが関節を作っています。したがって、関節痛の原因を細かく探すとまわりにある骨や筋肉に理由が見つかるのは当たり前だともいえます。

2 軟骨のすり減りが原因?

学生の頃に、軟骨には神経が通っていないから痛みの感覚がないと教わりました。ところがお医者さんになると、「これは軟骨がすり減っているからですよ」と話している自分がいました。たしかにレントゲンだけを見ていると関節痛のある人の軟骨はよくすり減っています。一方、かなり軟骨はすり減っているのに痛がらない患者さんも時々みかけます。これはいったいどうしてか。いろいろ調べたり考えたりしましたが、神経が通っているところに痛みの原因があると思えば筋が通ることに気が付きました。

3 見えない犯人~骨挫傷

レントゲンに写るのは骨です。骨が写るのはカルシウムという金属がレントゲンを通さないからで、皮膚や筋肉には金属成分が含まれないので写りません。ところが骨の中身すべてがレントゲンで見えているわけではなく、骨髄の中を流れる血液・リンパ液や造血細胞は金属を含まないので写りません。だから、骨の中で炎症がおこり血液やリンパ液がうっ滞してもレントゲンではわかりません。

ところがMRIという診断装置はちがいます。こまかい理屈は省きますが、MRIは体内の水分の分布を調べる機械です。水分の多いところと少ないところを画像化するので、内臓や筋肉だけでなく、骨の中のむくみや炎症が写ります。なかなか痛みの取れない膝関節痛の患者さんのMRIを調べていると、骨の中が腫れ、むくんでいる場合が多いことがわかりました。

骨の中が腫れることを「骨挫傷」と呼びます。目に見えない小さなひびが骨の中にある状態だと考えられています。運動不足や高齢化のために骨の強度が落ちてくると、ちょっと駆け足をしたりけつまずいたりするだけで骨にひびが入ることがあります。関節の痛みがすべて骨挫傷だとは言いませんが、原因がはっきりしない関節痛を診たら忘れてはならない故障のひとつです。

4 筋肉のはたらき

関節の故障は、自動車のサスペンションに例えるとわかりやすいです。関節の間にはさまっている軟骨はショックアブソーバー(クッション)、筋肉はバネ(スプリング)です。歩くときに足にかかる地面からの衝撃を受け止めるためにはショックアブソーバーとバネの働きが重要です。変形性関節症で軟骨がすり減るとショックアブソーバーが効かなくなります。さらに筋肉が弱って、バネも効かなくなったらどうなるでしょうか?

サスペンションが効かない車(木箱にタイヤを付けただけ)ででこぼこ道を走ることを想像してみましょう。がたがた揺れてお尻は痛くなり、木箱もだんだん壊れてきます。木箱(シャーシー)がすなわち骨です。ごつごつと衝撃が繰り返し伝わって、骨にひびが入ったのが骨挫傷です。ですから変形性関節症のある人は予防のために筋肉の力をつけることが大事です。痛みのある人も、痛みが落ち着いたら筋肉を丈夫にすることが必要なのです。

今現在痛みがある人は、自分の体がタイヤのついた木箱だと考えましょう。平べったいところを静かに歩いたり、そっと階段を上り下りすることができれば何とか歩き続けられるでしょう。筋力が十分でなく、どうやっても痛い場合は安静が必要です。時間がたち痛みが取れてきたら、もう一回気を入れなおし、歩く練習を始めてください。

ねりまインクワイアラー 125 ウォーキングへようこそ

歩くことにも技術があります。(赤ん坊じゃあるまいし…)と思う方は、1・2歳の子が歩く様子を見てください。小さな手足を動かして歩くさまは愛らしいですが、肩や股関節をしっかり動かしている良い歩き方です。大人になると運動不足、仕事や日常生活のくせから歩き方が下手になり、そのままがたがた・トボトボ歩くことが習慣になっている人がたくさんいます。こんなときプロのウォーキングコーチに教わるとまったくちがいます。やっと歩いている人も長距離ウォークに参加する人も、ぜひ一度経験してみてください。

 

松ぼっくり通信 2017年 5月号

やわらかい医学

お医者さんになるための勉強では大変たくさんのことを覚えさせられるので、これだけ覚えたら病気のことなら何でもわかる気がしました。ところが実際になってみると、わからないことだらけで毎日の仕事で考えこむことがいっぱいあります。年をとって「やわらかあたま」でいるのは難しいかもしれませんが、柔らかく考えないといけないことが医療にも世の中にもいっぱいあると考えています。

1 わかっている病気はどれくらいあるか

 病気の名前を数えたら2万種類を超えるそうです。これを全部覚えている医師はいないと思いますが、覚えていたらどんな人を診てもすぐに診断ができるのでしょうか?そうだと考える人がいるかもしれませんが、お医者さんは「とんでもない!」と答えるでしょう。病気の名前は時代とともにどんどん変化していて、数年で考え方がガラッと変わり、同じ病気でちがう診断名に代わることはまれではありません。かつて太っていることは健康の証でしたが、いまはメタボと呼ばれ病気の仲間入りをしています。むかし、長生きは喜ばしくみんなで祝うものであって、年をとったら病気のデパートみたいに思われることはありませんでした。

 また、心身の不調は誰にでもあるもので、何とかやりくりしながら自分なりの生き方を全うできればまあ良し!と考えるなら、今よりも病院にかかる人はずっと少なくなり、医療費もこれほど増えなかったかもしれません。コレステロールや血管年齢などまったく気にしないで暮らしている人が世界にたくさんいることを考えると、医療の進歩も手放しで喜べない気がします。

 命を救うことから、生活の質を高める医療へ。考え方はすばらしいけれど、医療だけでは生きることの「幸福感」は得られません。医学が進み病名が増えていることがほんとうにみんなの幸せにつながっているのか。難しいけれど気になる問題です。

2 診断が決まれば治療は簡単?!

 「赤」のなかに朱色や桜色ははいるでしょうか?「オレンジ色」は赤?それとも黄色?微妙な色合いであるほど色の判定は難しくなります。同じ赤でも、鉛筆の赤線は消しゴムで消えるかもしれませんが、赤マジックだったら消すことはできません。例えて言うと診断はこんな感じです。はっきりした診断のこともありますが、多くの場合は微妙な色合いで、濃淡も様々です。対処の仕方もちがってきます。同じ診断であっても、薬できっちり直す場合、様子を見るだけですむ場合があります。手術は不必要なことも、必要なこともあります。診たての微妙なちがいで、お医者さんの判断が分かれることもあるでしょう。やればやるほど難しくなるのが診療の現場であり、それを大変だと思うか、だからこそやりがいがあると考えるかで医者としての伸びしろが決まってくるのだと思います。

3 ロボットドクターができたら

 山本周五郎の「赤ひげ」のように、腕は確かで人情味にあふれ、酸いも甘いもかみ分けたロボットドクターができたら?24時間働きづくめで文句を言わず、本人(ロボット)は酒もたばこも〇〇もやらないが、人の弱さには思いを寄せることができるかんぺきなドクターです。こんなドクターだったら、顔が鉄人28号やマジンガーZだったとしてもきっと人気が出るでしょう。検査結果を見れば、瞬時のうちに診断を付け、年寄りや子供にわかりやすく説明する機能も付いています。チェスや将棋で人間を負かすコンピューターが出てきた現在ですが、人工知能の研究は爆発的に加速していますから、さほど遠くない未来にこんなロボットができるかもしれません。人間のドクターが、ロボットができない仕事だけに時間を振り向けて、ゆとりをもって仕事ができたらどんなにいいかと思います。でも人間と全く見分けがつかないアンドロイド・ロボットができたら、人間のお医者さんはいなくなるかもしれませんね。

4 柔らかく考える医療

 講演会や学会に出ると若いころに教わった診断や治療法ががらりと変わっていて驚くことがあります。さすがに自分の専門領域はなんとか追いついていますが、内科や眼科など学生以来勉強していない分野ではギャップは大きく、大学で研究をつづけ新しい診断・治療法を探り当てたお医者さんに敬服します。でも、開業医であることはよかったと思っています。今の時点でコンピューターやロボットの医療ができない理由は大きくわけて二つあります。

 ひとつはまだまだ検査だけではわからない小さな故障があるということ。問診や診察でしか見つけられない問題があり、触診や視診など五感を使った診たてが効果を発揮します。これは最前線の医師の独断場でしょう。

 もうひとつは患者さんの反応がそれそれちがうということ。理論的に正しい治療が必ずしも効くわけではないことを臨床医は知っています。また正しいことを指導されたら、患者さんがすぐに納得し実行するわけではないこと。相談の裏側に思いがけない心配や事情が隠れていること。患者さんの言葉は必ずしも正確ではなくて、言い足りなかったり、ときには嘘が混じることを知っています。はっきりした道筋が見えないところに道をみつけていく。そこがおもしろいところであり、新しい発見の糸口をつかむのもまた臨床医なのです。

 

ねりまインクワイアラー 125 カラオケバトル

 みなさんが一番苦手で、やりたくないことは何ですか?わたしはカラオケです。人前で歌うと考えるとぞっとします。なのに、テレビのカラオケバトルはよく視ます。歌うのが好き!というレベルをはるかに超えて、長時間のきびしいトレーニングを積んだ歌い手たちが、技巧の限りを尽くして競います。民謡、ミュージカルやオペラなど、出身の畑が変われば歌い方もまったくちがうのに、表現力がすごい!これは、のどと声帯のスポーツです。見た目はちがいますが、選手たちは一流のアスリートと言っていいのではないでしょうか。

松ぼっくり通信 2017年 4月号

トレーニングで元気になるこつ

  こども時代、巡回図書館(本を乗せたトラック)が月に一回やってくるのを楽しみにしていました。シャーロックホームズや少年探偵団シリーズを夢中になって読み、本を読みながら電柱にぶつかるほど本好きで、運動は苦手、図体はでかいがおとなしくて少しのろまな少年だったわたしですが、中年からは運動にはまっています。今回はトレーニングのお話です。

トレーニングの三原則

1 過負荷の原則 いつも同じことをしているとからだはどんどん慣れてしまいます。慣れてしまえばトレーニングの効果はなくなるので、今よりもちょっとだけきついことをする。これを積み上げていくと、思いもかけなかいくらい効果が上がるのです。


2 特異性の原則
 何を鍛えたいのか?目的をはっきりすることが大切です。持久力を上げたいのなら、長い時間運動を続けるトレーニングが必要です。瞬発力を上げたいのなら、短時間で素速く動く練習をします。体幹を鍛えたいのなら、見た目は地味でも腹筋・背筋に効く練習を続けます。目的をはっきりさせること。漠然と運動を続けるだけでは、すべてに中途半端で効果を実感できなくなります。 いつも同じことをしているとからだはどんどん慣れてしまいます。慣れてしまえばトレーニングの効果はなくなるので、今よりもちょっとだけきついことをする。これを積み上げていくと、思いもかけなかいくらい効果が上がるのです。

3 可逆性の原則 苦労して技術を磨き、体力を向上させても、そこからなにもしなければどんどん落ちてしまい、下手をすれば全く振り出しに戻ってしまう。患者さんに「むかし取った杵柄は存在しませんよ」と説明していることがらです。

むかしの普通はじゅうぶんきつい

 江戸時代の初期、石神井川は現在のように王子の先で隅田川に流れず、上野の不忍の池に向かって流れていました。文京区の小石川は、そこを流れていた石神井川の別名だったと言われています。当時も練馬は大根の産地で、取れた大根を大八車に山積みに載せて石神井川沿いを進み、浅草の漬物問屋まで1日がかりで運んでいたのだそうです。おおよそ片道20km、往復40kmを1日で往復し、おそらく若い衆が2・3人でやっていたのではないでしょうか。ハイキングが好きな人は、雁坂峠をご存知でしょうか。江戸時代、秩父で生産した蚕玉をいっぱい詰めた竹カゴを担ぎ、村の若い衆は標高2000mの峠を超えて山梨の塩山まで歩いて運び、貴重な現金収入を稼いでいました。崖沿いの道を一歩誤れば急峻な谷に転落しかねません。このようにむかしは、いちいちトレーニングなどと言わずとも「きつい」ことをするのは日常茶飯事でした。今のように楽に暮らせるのはすばらしいことですが、それだけでは体力が落ちてしまいます。

 ではどうすればいいのか。まずはいつもの生活の中で、ときどきちょっときついことをやってみる。この「ちょっときつい」がキーワードです。エレベーターではなく階段を上ってみる。いつもより速いペースで歩く。カートを使わず、かごで買い物をすれば、腕の筋トレになります。日常の中にトレーニングをちょっとだけ取り入れることがコツです。

狙いを定める

 体重を落として、コレステロールの数値を下げたいのか。ウエストを引き締めてカッコ良くなりたいのか。マラソン・登山・テニスができるようになりたいのか。転ばないからだになりたいのか。トレーニングで何を目指すのか?をまずはっきりさせましょう。やせるなら有酸素系の運動を増やし、筋肉を増やしたければ重めのウェイトを使って少ない回数で練習します。スポーツを上手にやりたいなら、スポーツに特化した体づくりをしなければなりません。筋肉は多ければ多いほどいいわけではないし、持久力向上のトレーニングをやればやるほどいいわけではありません。すべてにオッケーのトレーニングはありませんから、狙いを定めて行うことが大事です。

トレーニングは人生そのもの

 スポーツマンでなくてもトレーニングの考え方は応用できます。ピアノを上手に弾きたいのにギターの練習をする人はいないし、憧れの学校に入りたいなら苦手の科目を勉強するはずです。営業の成績を上げるために接客トークを磨いたり、コックさんが新しいメニューを開発したり、みんな目標をはっきり絞ることでやるべきことが見えてきます。上手くできるようになっても練習を怠れば技術は落ちてしまうし、さらに上手くなりたければもっと練習することも必要でしょう。でも、がんばりすぎてからだを壊したら元も子もなくなります。

トレーニングは自分のためにやるものであって、誰かと競争したり、比べあう必要はありません。また、年齢に関係なく誰もができます。あなたのトレーニングはあなただけのもので、目的や結果もほかの人と異なります。自分の出発点からの進み具合だけが重要です。こうして考えると、トレーニングは人生そのものと言っていいかもしれませんね。

ねりまインクワイアラー 124 音声自動翻訳機

 視覚障害のある人や語学の勉強のために文章を読み上げる装置はすでに利用されていて、使ってみるとけっこう便利です。またiPhoneのSiriのように日本語で質問すると日本語で答えてくれる機械もあります。人間と話せる機械があるなら、日本語の意味を汲んで英語を話す機械もできるのでは?と思って調べてみると、Googleなどの海外勢だけでなく日本でも相当研究されています。2020年の東京オリンピックまでに実用化・販売される見通しは高そうです。世界中の人が東京にやって来て、どんな言葉でしゃべっても翻訳機を使えば自由に会話ができる。そうなったらすごいと思いませんか!

松ぼっくり通信 2017年 3月号

わかりにくい考えと向き合う

あたりまえだと思っていたことがちがうと言われた。自分の考えた理屈と全然あわないのでついていけない。聞いたこともないので判断に困る。予想もしない話を聞かされた時、こういう風に感じるのは人間の本性です。直感や経験をねじふせて理論や理性だけで判断することは、私たちの得意分野ではありません。

ではありますが、それではまずい!場合があることをお話しします。

1 「母親たちの救い主」ゼンメルワイスのはなし

  19世紀中ごろのオーストラリア・ウイーンの出来事です。産科医のゼンメルワイスは、同じ病棟で分娩を行った女性のうち産褥熱で亡くなる人の割合が、助産婦の介助に比べ、医師の介助のときに10倍も高くなることに気づきました。当時の医師は別室で素手のまま解剖を行い、特別に手を洗うことなくそのままお産の介助をするという習慣があり、ゼンメルワイスはこれが原因ではないかと考えました。そこで試しに医師がお産の前には必ず石炭酸で手を洗うようにしたところ、産褥熱による死亡率が劇的に下がったのです。産褥熱の原因を医師が手を洗わないからとした発表はセンセーションを引き起こしました。発表の内容は筋道の通ったものだったのですが、医師たちの反発は大きく、ゼンメルワイスは仕事を追われたばかりか肉体的な暴力がもとで命を失いました。

 まだ細菌の発見以前であり、何が産褥熱の原因になったのか完全に説明できなかった点もあげられますが、なによりも医師が患者を殺したことになるという主張がどうしても世間の感情に受け入れられなかったのです。

2 常識は経験則に過ぎない

 これほど劇的ではありませんが、最近では傷の消毒について考え方が大きく変わってきました。わたしが学校を出たころは、傷にはヒビテンやイソジンなどの消毒薬を塗るのが一般的で、医師でこれを疑う人はいませんでした。ところが、近ごろは傷そのものに消毒薬を直接塗ると健常な組織を傷めるので塗らないほうが良いという考えが主流になっています。また抗生物質の使い方も変わってきました。以前はとりあえず感染予防に抗生物質を処方するのがふつうでしたが、今では予防的投与はできるだけ少なくして耐性菌を作らないことが大事だと考えられています。医学の世界だけでなく、世の中のあらゆる分野で昔の常識と今の常識がちがっていることはめずらしくありません。わたしたちがあたりまえと思っていることのかなりの部分は、「みんながそう思っているから、わたしもそう思っている(気になっている)」のです。たいていの場合、それでうまくいき誰にも文句を言われないのですが、環境、気候、経済や科学の進歩など新しい変化により今までの常識が通用しなくなる時があります。それに最初に気づき、声をあげられる人こそほんとうに考えている人です。常識にとらわれず、事実から推論を組み立て、新しい考え方を生み出せること。私たちはできているでしょうか?

3 本能やカンばかりではまずい

 まだ飛行機が発明されて間もないころのことです。四枚羽の複葉機が一般的で、エンジンが非力なため操縦は難しく、墜落も珍しくありませんでした。墜落の一番の理由は離陸直後のエンジンストップで、パイロットはあわてて引き返そうとします。危険を感じたら基地に引き返そうとするのは自然な反応ですが、回旋することでさらに失速し、墜落する事故が後を絶ちませんでした。飛行機の物理学を理解していれば、エンジンが止まった時はそのまま真っ直ぐに滑空して前方の空き地のどこかに不時着するのが一番安全で、パイロットは本能に逆らってそのまま飛び続けなければなりません。人間の本能は役立つことも多いのですが、このように論理的に(つまり理屈っぽく)ふるまわないとマズイ!という場合があります。学校で習ったリクツは実生活に無縁だと思っている人はどこかで損をしている可能性が高いです。 

4 プロを活用する

 スマートフォンやネットを使っている人は多いですが、そのしくみがわかっている人はめったにいないでしょう。それでもふつうに使えているのはいざというときに専門家がいるからです。平安や鎌倉時代なら一人でカバーできる技術は広範囲にわたりますが、情報が爆発的にあふれた現代に本当の専門家になるためには、かなり狭い領域を深ほりしていくことが必要です。専門馬鹿は問題ですが、専門家を尊重することも学ばなければなりません。プロ(専門家)の意見はときにあなたの直感や常識に反することがあります。期待した答えではない可能性もあります。それは深い専門知識があってのことで、ちょっと聞いただけでなぜかはわからないかもしれません。自分の知識だけで専門家の良し悪しを判断するのは慎重にすべきです。わたしも自分の仕事以外はまったくの素人ですから、何かわからないことがあったらネットや本で調べるとしても、最後はきちんとしたプロに相談することが必要だと考えています。

 

ねりまインクワイアラー 123 重力波

 アインシュタインが予言した物理現象の中で最後まで確認できなかったのが重力波です。物と物が引き合う力=重力は物と物の間にある空間のゆがみによって生じます。このゆがみは一種の波のようなもので、空間を伝わっていきますが、今まで観測することができませんでした。近年重力波を検出できたという報告が続いており、ノーベル賞の取沙汰もされています。何の役に立つのかな?今のところ誰にもわかりませんが、無重力装置やタイムマシンの発明につながるかも!と期待しています。

松ぼっくり通信 2017年 2月号

筋肉痛とつきあう

 よくある話ですが、「筋肉痛が原因」と説明されて、「じゃあ、ほっといてもいいんですね?」と聞いてくる患者さんがいます。なかにはもっと深刻な病気があると思って受診したのに、筋肉痛と言われてがっかりする人もいるようです。いいえ、筋肉痛なら治療がいらないということではないし、軽くあしらっているのでもありません。また、なかなか取れない頑固な痛みが筋肉痛の場合もあります。誤解の多い「筋肉痛」の話です。

1 ほっといてもいい筋肉痛とは

運動不足なので久しぶりにハイキングに出かけたら、帰ってから二三日は体のあちこちが痛かった。こんな経験は誰でもあります。からだはふだん使っている状態に合わせて体を作ります。たくさん動いている人にはたくさん動いても大丈夫なように骨や筋を強化していきます。あまり体を動かさない人では、今の暮らしに耐えられるくらいの強さにしかならず、いつも以上の運動をすると筋肉や腱の組織にダメージが生じ、痛みを自覚します。一般的な筋肉痛とは、こういった2・3日で治る軽いダメージのことです。

 さらにきついダメージが残ると、1・2週間筋肉痛が消えないことがあります。これがDOMS(ドムス=遅発性筋痛)で、筋肉にかかる負担が強すぎて筋肉細胞がところどころダメになっている状態です。ダメになった筋肉細胞は壊死しますが、そばにある予備細胞が発達してもっと強い負担にも耐えられる筋肉細胞に変わります。これを続けていくといわゆるアスリート体形になり、ボディビルダーのように極限まで筋肉を増大させることも可能なのです。DOMSも基本的に体の修復システムの一部ですから、うまくいっている限りお医者さんが関わることはありませんが、ときに痛みが残ることがあります。

2 筋肉痛が長引いたとき 

からだの修理が進まなかったり、修理するたびにじゃまが入ったりすると「いつまでも痛みが残る」状態になります。

栄養のアンバランス、睡眠不足や過剰なストレスなど治癒のメカニズムを阻害する理由はたくさんありますが、筋肉の場合、運動方法の過ちが治りを遅らせる大きな理由になります。オーバートレーニング(運動のやり過ぎ)、ミスユース(誤用、フォームの問題や誤ったトレーニング法)やディスユース(使わないと弱くなること)があると、故障した部位がなかなか回復せずいつまでも痛みが続きます。痛みの個所を調べると、筋肉内にひきつれやしこりが残り、引っぱられたり押されると痛むようになります。こういうときにストレッチやマッサージが効果を発揮します。

3 肩こりは筋肉痛?

 ただし、はり・こり・筋肉痛の診断は意外とむずかしいです。例えば肩こりの治療でマッサージを受けたがなかなか良くならないという相談は多いのですが、調べてみるとくびの骨(頸椎)やせなかの骨(胸椎)に故障が見つかることがあります。神経のつながりではり・こり・痛みを感じるが、筋肉そのものは硬くなっていません。くびや背中の治療で症状が取れてくると、患者さんも納得してくれるようです。同じように太ももやふくらはぎに痛みがあって、筋肉を押すと痛むという相談はたくさんありますが、腰のヘルニアや脊柱管狭窄症がほんとうの原因であることもめずらしくありません。ほんとうのこり・筋肉痛なのか、神経痛なのかで治療法はちがってきますから、「こったから、押すと痛むから筋肉のマッサージ!」と決めつけないことです。

4 筋肉痛とつきあう

 はじめにお話ししたように、体を日ごろ動かしていない人が久しぶりに運動することで筋肉痛になるのはあたりまえであって、むしろトレーニングになった!!と思っていいでしょう。若い人・運動を定期的にしている人ならDOMS(遅発性筋痛)のレベルまで追い込むのもありです。でも運動不足や高齢の人は?私の経験をお話ししましょう。生まれて初めてフルマラソンを走った後の1週間、筋肉痛のために階段が登れず、横断歩道を渡り切れず大変困りました。それなりに練習を積んでこうなるのですから、人によっては筋肉痛と疲労で寝たきりになることもあると思います。ちょっとしたはりや痛みを感じるくらいならオーケー、でもやり過ぎには気を付けながら体を動かしていきましょう。

ねりまインクワイアラー 122 マイナースポーツは究極の遊び

 今まで紹介したもの以外にも、世の中に知られていないスポーツはいっぱいあります。どこかの街角で、ごく親しい友達だけでする遊びでも、それなりのルールがあって楽しく参加できるならそれはスポーツです。どれだけ上達してもやっていない人にはそのすごさがわからないし、有名人にもお金持ちにもなりません。体力や反射神経の向上に役立つかもしれないけれど、それはおまけです。きつかったり難しくなくてもスポーツになりますし、ボッチャのように体力より頭脳勝負のものだってあります。ポケモンゴーも、将棋や囲碁も広い意味でスポーツです。

 楽しくて好きなことをみつけてチャレンジしているなら、あなたも(マイナー)スポーツマンというわけです。

松ぼっくり通信 2017年1月号

 「老い」に負けない5箇条

 年の初めにはみなさんに元気を与えられるお話をしたいと思っています。最近は自分でも年かな?と思うことがあるので、ちょっと切実な気持ちで書いてみました。

 

1 受け入れることはあきらめることではない

 20代以降は基本的に老化のプロセスが進行していますが、急に故障がでても自然治癒力がはたらいて「なんとかなる」ことがほとんどです。でも完璧にもどるのではないことも理解しましょう。故障がなくても、からだがなし得る最大のパフォーマンスは落ちていきます。例えば最大心拍数は毎年二拍ずつ下がっていきますし、100メートル走のスピードは年齢が上がるごとに落ちていきます。誰にもこういった老化の影響がでることはさけられません。

しかし、平均的な暮らしをしている人ならば相当な伸びしろが残されているのも事実です。ジョギングを続ければ体は軽くなり、息切れしそうな階段を駆け上れるようになります。ダンスを続けていけばはじめはぎこちなかった動きが滑らかになり、羽が生えたような軽やかな動きができるようになるでしょう。あせらずにストレッチやヨガを続けていたら、だれでもからだは柔らかくなります。バーベルをほとんど持ち上げられない人が地道に続ければ、必ず持ち上げられる日が来ます。何歳からでもその気さえあれば人には伸びしろがあります。あきらめずに続けていく。若い人と同じにはいかないけれど、今の自分ができることをする。老化を理解しながらも、あきらめないで続けていくことです。

2 発想は柔軟に

 野球やテニスをずっと続けてきたが、肩を痛めてサーブや投球がちゃんとできなくなってしまった。ランニングを長年やっていたが、走ると膝が痛むようになった。こういった相談は珍しくありません。こまかい診断は省きますが、一時的な休養、練習内容の調整、動作やフォームのくふう、ストレッチや筋力強化などの補強やクロストレーニング(ほかの運動を取り入れること)など、運動再開に向けてできることはたくさんあります。

 自分が望むようなレベルで練習や競技ができないから、そのスポーツと全くちがうことに挑戦するのも手です。ほかのスポーツに限らず、音楽や絵画などの芸術活動、園芸やボランティア活動に参加するのもありです。まったく料理や洗濯をしなかった人がそれに挑戦してみることも立派です。自分はこうである、こうしなくてはいけないという思い込みにとらわれている人は、いちどそこから離れてみることです。心が自由になると、結果的にからだも楽になり健康にも良い効果が生まれます。 

3 健康番組とあなたの健康は別物

 テレビや雑誌の健康番組は見るとおもしろく、「へーそうなんだ!」と引き込まれます。番組制作のプロはやっぱりすごいですね。でも中身をすぐに自分にあてはめることはやめましょう。あれはあくまでもショー番組です。おもしろい切り口をとらえることと、一人一人の健康に責任を持つことはまったく別の仕事です。同じくネットの内容も慎重に吟味してください。わかりやすい主張がいいとは限りません。宣伝や偏った意見のほうが目立つし数が多いものです。自分は影響を受けやすいと思う人は、テレビの健康番組やネットの記事を見ないほうがいいかもしれません。

4 怒らない

 五千年前のエジプトの碑文に「今の若いものは…」と書いてあったそうです。いつの時代も年寄りは怒りっぽいイメージがあるようです。でも、そんなに怒らなければいけないことってあるのでしょうか?じつは怒っているのは、自分がイライラしているからでは?苦手だったり、自分が理解できないことに直面したり、忙しくて手が回らなくなったりしたときに怒る習慣ができていませんか。怒る前に相手の立場になって考えていますか?私自身も反省するところ大です。感情的に怒ることは脳の回路がショートしたのと同じであり、あなたの脳(そして心)にもよくありません。怒らずに考えることは、脳の機能訓練・リハビリととらえましょう。

5 「幸せ」だけを追い求めない

 脳の中にはエンドルフィンという「幸せホルモン」があって、これがたくさん作られると人は幸せを感じます。体のほかの部分と同じように、活発に働くタイミングと休養するタイミングが交互に訪れることで脳のバランスが保たれています。言い換えれば、いい時と悪い時が交互に訪れるのが正常な状態です。風の中に花の香りを感じたり、いつもよりおいしく料理が出来上がったり、美しい景色に出会ったり、小さな幸せを見逃さないようにしましょう。五感を刺激するために外に出かけましょう。足が疲れるからこそ、行った価値があります。苦労したからこそ、やった価値が生まれます。受け身ではなく、自分から働きかける。人に言われるのではなく、自分で面白いものを見つけていく。「いやだ」「やったことがない」「いまさら」と言わないで、新しいことにチャレンジしていきましょう。

松ぼっくり通信 2016年12月号

神経障害性疼痛のはなし

 武田鉄矢さんのCMをご覧になった方は、シンケイショウガイセイトウツウって何だろうと思ったのではないでしょうか。診察中にはなかなかじゅうぶんに説明できていない気がします。あらためてお話しします。

1 痛みには種類がある

 たんこぶ、切り傷や骨折など。こういうわかりやすい痛みのことを、侵害受容性疼痛(しんがいじゅようせいとうつう)と呼びます。痛みを感じる神経の末端が刺激を受けて痛みを感じます。ところが神経障害性疼痛では、神経そのものに故障が起きて痛みがおきるので、神経が通っている部分(末端部)には何も問題がなく痛みを感じます。世間一般で神経痛と呼んでいるもの、帯状疱疹後の神経痛や特殊な痛み(片手症候群・CRPS・視床痛など)がこれに入ります。

 もうひとつ、忘れていけないのが心因性疼痛です。この場合も痛みを感じる部位には本当の故障は見つからず、心理的な原因のために痛みを感じます。気のせいではなく、この痛みはほんとうに痛いのです。痛みが起きるしくみははっきりわかっていませんが、脳の過敏性や筋・血管の攣縮が関係していると考えられています。

 これとは別に急性疼痛と慢性疼痛という分け方もあります。けがや病気のために痛むものは急性疼痛ですが、けがや病気が治ってから時間がたっても痛みが残る場合を慢性疼痛と呼んでいます。慢性疼痛ではいろいろな痛みが混じっているといわれていて、治療にいろいろ工夫が必要です。

2 神経は電気配線 

 神経障害性疼痛がわかりにくいのは、痛みの原因の場所と感じている場所が同じでないからです。

 頭の中でステレオセットを想像してみてください。ラジオやCDを操作する本体と左右のスピーカーは配線でつながっていますね。本体から配線をつたわって電気信号がスピーカーに流れ、音楽を楽しむことができます。どちらかのスピーカーが鳴らなくなったとしたら、①スピーカーが壊れた②つないでいる配線が途中でおかしくなった③本体が故障した④電源コードが抜けていた⑤停電などいろいろ原因を考えつくと思います。神経障害性疼痛はこのうちの②(一部③も入る)にあてはまります。スピーカーはまったく壊れていないが、配線に問題があって音が出ない場合です。むしろ接触が悪くて音が変になっている状態といったほうが近いかもしれません。

 肩が痛いのに首に原因があったり、膝が痛いのに腰に原因があったり、神経障害性疼痛はよくあります。とくに年齢が高くなり、背骨の変形が進んでくるとちょっとしたことから神経痛がおきてきます。本人にしてみると本当に肩や膝が痛むので、原因が別のところにあると言われてもすぐに呑み込めないのもわかります。痛みそのものは目に見えるものではないので、なおさらわかりづらいと思います。正直に申し上げると、お医者さんたちにとっても判断が難しいことがめずらしくありません。

3 神経障害性疼痛のみわけかた

 コマーシャルで言っているように「じんじん」「びりびり」「ちくちく」とした痛みが代表ですが、「ずきん」と刺し込むような痛みのこともあって、感じ方だけで区別するのは難しいです。背骨の変形やヘルニアが原因の場合、姿勢や体の動かし方で痛みが変化するので、患者さんにいろいろな格好をとってもらって痛みの度合いを聞いていきます。

 実際にはかなり細かい観察が必要になります。たとえばひざがしゃがんだり立ったりするときに痛むという人を診るとします。立った状態からしゃがむとき、腰椎も反る動きをするので、脊柱管狭窄症のある人では神経痛としてのひざ痛がでることがあります。もちろん膝関節の炎症がある人も屈伸で痛みますから、パッと目にはどちらも同じ症状です。そこでさらに腰や膝の細かい動きを観察してどちらがほんとうの原因かを考えます。

 あたりまえでもすごく大事なのがひざ(痛みを感じる部位)をきちんと診ることです。ひざに熱や腫れがあれば膝に問題があることがはっきりしますから、神経痛の可能性は低くなるというわけです。

4 良くするには

 すり傷を治すには、上にばんそうこうをあてて傷を保護し、皮膚がもとに戻るのを待ちます。神経痛を回復させるのも基本はすり傷と同じです。傷ついた神経が回復しやすいように、せぼねの動きや筋肉の使い方を練習します。神経に無理のない動き方を続けていれば、次第に神経は回復してきます。そのために、患者さんが積極的に治療にかかわることが必要です。注射や薬だけではなかなかすっきりしないことが多いので、人任せにせず、自分がやれることをやりましょう。かたい体は柔らかくし、弱った筋肉は強くする。病院で指導はできますが、やるのはあなたです。地味な努力をつづけることが結果に結びつくといえます。