目白ヨシノ治療院

目白ヨシノ治療院は新宿区下落、目白駅から徒歩3分、マニュアルメディシンを用いたマッサージ、手技治療,リハビリの専門治療院です。病院では特に問題のなかったつらい症状、日常生活で困る痛み、肩こりや腰痛、首の痛み、またはよく分からない目の奥の痛みや頭痛など機能障害に関する問題の治療を行っています。

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ブログ

松ぼっくり通信 2018年 3月号

見方を変えれば世界が変わる

 このあいだ、久しぶりに袖を通したジャケットの中から1万円札が出てきました。よく考えるとぜんぜん得をしていないのですが、気持ちが明るくなった分だけ得をしたなと思いました。同じように、ものの見方一つで元気になったり、がっかりしたりすることがあります。これをじょうずに利用すれば、毎日の暮らしにはりを与え、ほんとうに体を良くするきっかけにもなります。

1 上から見るか、下から見るか

 「治らない!」と繰り返し話す患者さんがいます。こちらの力不足だとしたら申し訳ないのですが、様子を細かく聞いてみると初診に比べずっと良くなっていて、(これならいいのでは?)と内心いぶかしむことがあります。さらに聞いてみると「若い頃はこんなことはなかった」「期待していたほど早く治らない」といった答えが返ってきます。医療を受け持つ側から見れば(それはあたりまえ)なのですが、説明が不足しているのかもしれません。それともう一つ、患者さんの物の見方があるようです。昔は…とか若い頃は…といったフレーズを使うと、一番良い時を基準にして物事を捉えることになりますから、今はダメという評価になるわけです。反対に、病気やけがのためにずっと調子が落ちてしまったのに、ここまで良くなってきたぞ、この調子で行こう!と考える患者さんもいます。今の症状がほぼ同じであっても、上から見るか、下から見るかで心に写る風景は違ってきます。最近の研究からは、気の持ちようは少なからず体の調子に影響を与えることがわかっています。見方を変えるだけでも、ひょっとすると体が変わるかもしれませんよ。

2 損得を見直す

 わたしがいつも不思議に思うのは、世の中が健康ブームで、スポーツジムは人がいっぱいで、運動の効能がさかんに宣伝されているのに、実生活では楽をしようとする人がとても多いことです。少し歩けば信号があるのに、ショートカットをするために道路を横断する。骨を強くするためには重い物を持つことが大事なのに、ショッピングカートを常用する。運動不足を補うにはやや強めの運動が必要なのに、階段を使わずエスカレーターを使ってしまう。毎日のちょっとした買い物も車を使ってしまう。少しぐちっぽくなりましたが、考えてみてください。

遠回りをするのも、重い物を持つのも、階段を使うのも、運動不足を補いあなたの得になることです。普通に暮らせば運動不足になり、生活習慣病や骨粗しょう症につながるのが現在の生活です。まめに体を動かす機会を損と思わず得と考えてみてはどうでしょうか。

3 ジョーシキを疑う

 「年寄りくさく見えないように背筋をのばしている」人がたくさんクリニックを訪れます。無理に背中を反らしすぎて腰痛や神経痛になるためです。若くて健康な人が猫背で歩いていれば、たしかに背筋を伸ばす必要があるかもしれませんが、年齢が上がってきたら話は別です。健康で元気に暮らしていても、背骨の年齢的変化は必ず起きて、誰もが多少は背中が丸くなります。たとえにすると申し訳ないのですが、天皇皇后両陛下も随分と背中が丸くなりましたが、歩く姿は品があり、優雅です。年齢が高くなっても体をしっかり動かし、生活習慣に気を配っている人には風格があります。若さを失うことを恐れず、美しく老いる。ムズカシイけれど、そうなれたらと思います。周りの人に言われたとか、テレビで聞いたとかに惑わされず、自らの判断力を養いましょう。世の中のジョーシキは、もしかしたら非常識かもしれません。

4 完璧でないことを愛す

 年齢が上がってくると体の故障が増えてきます。健康診断のチェック項目に問題点が挙げられ、医者に行けば「年だから仕方がない」と言われ、さらに落ち込む人もいるでしょう。でもどんなに完璧に生きたとしても、いつまでも完璧なからだでいることはできません。まだまだ動くからだをだいじにして、毎日を大切に生きることです。年を重ねることのデメリットだけでなく、賢さ・判断力・計画性・思いやりのように経験から得られたメリットを生かしましょう。人と出会い、話をして、自分だからできることをみつけましょう。

 リハビリ室にお茶碗の写真が貼ってあります。室町時代の将軍足利義持公が愛した名品「馬蝗絆(ばこうはん)」です。割れた茶碗に継ぎを施しており、ふつうに見ればガラクタ茶碗です。見る人が見れば名品となり、後世にまで伝わるようになったのです。人間はおぎゃあと生まれたときがまっさらな状態で、病気やケガをしながら、それでも一生懸命生きていきます。小さな割れ・欠けがあったって、それがなんだ!と思って暮らして欲しいのです。故障があっても、誰かにガラクタだと思われたとしても、自分には名品と思って大切に扱う。あなたの体は、あなたにとって名品です。手に取り、毎日使い、心ゆくまで楽しむことです。

 

ねりまインクワイアラー 132 

5億年前の海には、今では想像もつかない奇妙な生き物が暮らしていました。このハルキゲニアは、海底を歩き回り泥の中の小生物をえさにしていたようです。ニュージーランドの森林に子孫らしき生き物が住んでいます。

松ぼっくり通信 2018年 2月号

疲れにくいからだになる

 この文章は、はじめ「疲れないからだになる」としたのですが、おかしいことに気が付きました。疲れ知らずになるのは無理な話で、だれでも疲れるときはあります。どんなに元気な人でも疲れます。肝心なのは、いざというときにがんばれるかどうかです。ビジネスマンなら仕事で、アスリートなら本番で、一般の人なら普通の生活を元気に行えていれば「疲れにくいからだ」です。疲れにくいからだになるにはどうしたらいいのでしょうか。

1 疲労のメカニズム

 「くたびれたな」と思うとき、疲労を感じているのは脳です。脳は一種のスーパーコンピューターで、体のあらゆるところから神経・血液を介して情報を集め、分析しています。最近の研究からわかってきたのは、疲労がたまったから疲れを感じるのではなく、このままいくと疲労がたまりそうだと予測すると、脳が「疲れた」というメッセージを伝えてくるのです。言い換えれば、心底疲れるよりかなり前から疲労を感じるということです。そうすることで、本格的なからだの故障をおこすことなく、万が一にも対処できるくらいの体力を残そうとする安全メカニズムが働くのです。

 カフェインなどの興奮剤や、覚せい剤などの危険薬物は脳に働きかけて安全メカニズムを一時的に解除しますから、瞬発的にいつも以上の力を発揮できるのです。しかし、いいことばかりではありません。脳は栄養や酸素をもらって生きている臓器の一つですから、食べ過ぎ飲み過ぎあるいはストレスで胃が荒れるように、脳も無理を続ければ不調になり、長引けば不調が固定されて、最悪壊れることもあります。

 全身の栄養不足や循環不良があると脳は敏感に感じ取り、通常より早いうちから警告サインとして疲労のメッセージを送り出します。ですから体調が万全でないときは、疲れが早く出ることになり、外来で聞く「疲れが抜けない」という相談の理由になっているのでしょう。

2 トレーニングと疲労

 トレーニングをすることで、より速く、長く、強く動けるようになるのは、一つには骨・関節・筋肉や心臓がじょうぶになるからです。以前よりもたくさん動いても組織のダメージが起きにくくなり、体の状態が安定していれば脳はOKのサインを出し、私たちは疲労を感じません。

 もう一つの効果は脳のファインチューニング(微調整)です。自動車をたとえに使うと、エンジンやギヤを大きく改造しないでも細かな調整を加えれば今より速く走ることができます。レースのときなら、速く走れるほど優勝できる可能性が高くなりますからこれは正解です。ただし、負担が増える分エンジンやボディの寿命が短くなるかもしれないし、ギヤや軸受けの摩耗が早まるかもしれません。あるスポーツのためにトレーニングをすることはこれと同じです。からだにかかる負担を減らすため、脳は疲労のサインを出し、これ以上パフォーマンスが上がらないようにします。ぎりぎりの限界で練習を続けると、脳が刺激に慣れ、以前よりも強い負担でやっと疲労のサインを出すようになります。そのため、前よりも速く、強く、長く動けるようになるのです。長い目で見ると、体にとって良いことなのかはわかりませんが、アスリートとして成果を出すために必要な選択です。

3 年齢と疲労

 老眼や白髪と同じく、肺・心臓・肝臓・腎臓、骨や筋肉も年をとります。細胞の新陳代謝が遅くなり、若いころに比べると回復が遅くなります。老廃物の蓄積や筋肉の腫脹を感じ取って脳はブレーキをかけますから、結果的に疲労も感じやすくなる。だから年をとると疲れやすくなりますが、ここでちょっと考えてみましょう。

 手入れの行き届いた車と、ガレージに置いたままほったらかしの車を想像してみてください。同じ年式の車でも、手入れの行き届いたほうは滑らかに走りよほどのことがない限り故障しませんが、ほったらかしのほうは動くかどうか怪しく、故障もしやすいはずです。故障のしやすさを事前に検知するのが疲労のメカニズムですから、手入れが十分なら疲労も感じにくくなります。年をとっても、からだの手入れを続けていくことが大切です。適度な運動、ストレッチや筋トレをする習慣、栄養・睡眠・ストレスに気を配り、病気があれば完ぺきではなくても上手に付き合っていく。これが疲れにくくなる秘訣です。

4 疲れるから、疲れにくくなる

 体調管理はそれなりにできているのに疲れやすいと感じる方はどのようにすればいいのでしょうか?実際に相談を聞いていると、けがや病気など体調を崩した後、前より疲れやすくなったと感じている人が多いようです。前なら楽にできていたことがつらくなった。これぐらいは当たり前と思っていたことができなくなりがっかりした。こう感じている方は、「ねじをもう一回巻き直す」ことをお勧めします。ちょっと疲れるくらいのことを時々行ってみましょう。慣れるに従い、もう少しきついことに取り組みます。疲れがたまったと思ったら少し休みます。あきらめずに続けましょう。半年~一年後にはずいぶん体力が戻り、疲れにくくなったと自覚できると思います。

 

ねりまインクワイアラー 131 日本は休みが多い

 年間の祝祭日が日本は17日、アメリカは10日、ゆったりと働いている印象があるフランス・スペインは9日しかありません。休日はたっぷりなのに、なぜ日本は忙しいイメージが強いのでしょうか?じつは有休が気軽にとれるかが大きいようです。フランスでは30日の有休で消化率は100%です。日本は20日で50%、仕事の電話がかかってくることもまれでありません。このちがいです。あとはむだな残業をいかに減らしていくかがカギになるでしょう。

松ぼっくり通信 2018年 1月号 

いかに力を抜くか

スポーツや芸能ばかりでなく、プロフェッショナルと言われる人たちの身ごなしは美しいものです。無駄のない動きができるには筋肉をつけたり、ストレッチをしたり、反復練習をしたりも大切ですが、いかに余計な力を使わずに体を動かせるかがポイントです。散歩でも上手に歩けば楽に速く歩けます。いろいろな手仕事でも、上手な人は力を抜くところを抜いています。力を抜くコツを考えてみます。

1 余計な力を発見する

水を入れたコップを片手で持ち上げて、目の高さまでゆっくりと動かしたとき、くびに力が入っていないかを感じます。わかりにくいときは片方の手でくびをさわりましょう。筋肉に力が入っていたら余計な筋力を使っています。つぎに鏡を見ながらコップを持ち上げていくときに、肩を上げずに腕を水平まで持ち上げることができれば上手にからだを動かせています。すぐに肩が上がる人は、うなじの筋肉を使っています。いろいろな動作で首やうなじの筋肉を余計に使ってしまい、肩が凝りやすい人だと言えるでしょう。

微妙な違いに見えても、余計な力が入っている人は動きが鈍く、疲れやすく、故障する可能性も高くなります。一方、楽に無駄なく動いていれば、疲れも少なく故障もしずらくなります。余計な力を抜くことを覚えることができたなら、スポーツ、習い事や仕事がもっと楽しくなってくるでしょう。

2 筋肉はあったほうが良い

それでは、どうして余計な力が入ってしまうのでしょうか。初めてのこと、慣れないことをするときはだれでも力が入ります。運動会の短距離走のスタートのように、興奮して力が入ることもあります。しかし外来で観察していて最も多いのは筋力不足のケースです。

先ほどのコップの話では、体幹(胸・腹・腰)と肩甲骨周りの筋肉がしっかりしていれば、くびの筋肉に力が入ることはありません。同じように、おしり周りや腹の筋力が不足しているために腰に力が入り、腰痛をおこす人がいます。手関節の腱鞘炎のほんとうの原因は体幹の筋力不足ですし、足首の捻挫を繰り返す人は股関節の筋力が不足している人が多いです。このように細かく診ていくと、骨、関節や筋肉の故障のかくれた原因が筋力不足であるケースはめずらしくありません。

ボディビルダーみたいになる必要はないけれど、運動や仕事を故障知らずで続けることができるくらいの筋力は必要です。そして、本当の肉体労働が珍しくなった現在、多くの人が筋力不足になっています。

3 力を抜く感覚を磨く

今日は何となくはりを感じる、重だるい、こっているなど、何とも言えない不快感はどこから来るのでしょうか?体中くまなく張り巡らされた感覚神経の末端には、さまざまな感覚を感じる受容器があります。筋肉に力が入る感覚も神経が脳に伝えていて、どんなに小さな筋肉の動きも脳は感じ取れる能力があると言えます。はりコリの感覚もこうした神経の働きで感じているのです。

この神経の配線は生まれつきのものであり、一流選手でない私たちにも備わっていますが、実際に活用している人は少ないです。スマホやパソコンを誰でも買うことはできますが、十分に使い切っている人は少ないのと同じです。

そこでこの神経の働きをうまく使う練習法をお教えします。ゆるくしたいところに指先を当てて、体や手足の位置をいろいろと変えながら、一番筋肉の緊張がゆるくなるポジションをみつけます。はじめは大ざっぱに動かし、しだいに微調整しながら一番ゆるむところをみつけます。そのままじっとしていると筋肉がぴくぴくしたりしますがそのままにして、筋肉がゆるい時の感覚を味わいます。くりかえし練習をして、指を筋肉に当てなくてもゆるい感覚がわかるようになればしめたものです。どこかにはりを感じたなら、そこに気持ちを集中し、筋肉がゆるむ姿勢をみつけしばらくじっとしていましょう。これだけでも軽いはりコリは治ってしまうはずです。

4 全身を使う

フィギュアスケートの浅田真央ちゃんや羽生結弦選手の演技を見ると、スケートなどやったことがない人でもすごさがわかります。一流選手の動きはみんなすごい!マネは絶対できないけれど、全身を使って動く姿が美しく見えるのは、私たちが理想的な体の動きを本能的に知っているからだと思います。

小さな子供たちの動きが軽快に見えるのも同じです。とくに教わらなくても、小さいときにはみんな全身を使った動き方をしています。背が伸びるころ、小学校の高学年あたりからこういった軽快さが失われてくる子がいるのはとても残念なことです。やはり外遊びが少ないからなのでしょうか。

しばらく運動から遠ざかった方が運動を再開する場合、まずは歩くことから始めましょう。とくに肩やおしりを動かすことを意識して歩けば全身運動になります。どんなスポーツでも、基本的な動きを反復練習し、体全体を意識します。結果は後からついてくる。そう考えてじっくり取り組んでみてください。

ねりまインクワイアラー 132 人食いバクテリア

世間を騒がす人食いバクテリア。急激な悪化が起き、こじらすと命にかかわることも。原因の多くは溶連菌というどこにでもいる細菌で、しょう紅熱やリウマチ熱の原因として昔から知られています。なぜ「人食い」に変わるのかよくわかっていませんが、傷の痛みが強いときは要注意です。

松ぼっくり通信 2017年 12月

認知症に気をつけよう

長いこと患者さんを診ていると、何となく(この人、ちょっとあぶなっかしいな)と思うことがあり、それから数年たつと認知症がはっきりすることが多いと感じています。この(あぶなっかしいな)という感覚がどこから来るのかずっと気にしていましたが、ぴたっとくる意見がなかなか見つからなかったのです。ところが、星城大学の竹田徳則先生達が作成された「認知症簡単チェック」を見て、これだっ!と思ったので紹介します。竹田先生は現場で活躍されている作業療法士さんで、まだ本格的な認知症とは言えないけれど、将来的に認知症になりやすい人たちをかんたんに見分ける方法としてこのチェック表を作りました。では見てみましょう。


認知症チェックリスト はい いいえ
1 現在あなたは75歳以上ですか 3点
2 現在収入のある仕事してますか 1点
3 現在糖尿病と診断されてますか 1点
4 物忘れの自覚はありますか 1点
5 今の生活に満足してますか 1点
生きていても仕方ないという気持ちになることがありますか 1点
毎日の活動力や世間に対する関心が無くなってきたように思いますか 1点
生きているのがむなしいように感じますか 1点
退屈に思うことが良くありますか 1点
普段は気分がいいですか 1点
何か悪いことが起こりそうな気がしますか 1点
自分はしあわせな方だと思いますか 1点
どうしようもないと思うことが良くありますか 1点
外出するより家にいることの方が好きですか 1点
他人より物忘れが多いと思いますか 1点
こうして生きていることが素晴らしいと思いますか 1点
自分は活力が満ちていると思いますか 1点
こんな暮らしは希望がないと感じますか 1点
他人は自分より裕福だと思います 1点
6 あなたの心配事や愚痴を聞いてくれる人はいますか 1点
7 スポーツ的活動へ参加してますか 1点
8 バス・電車を利用して外出することが出来ますか 1点
9 食事の用意をすることができますか 1点
10 請求書の支払いをすることができますか 1点
11 年金書類を作成することができますか 1点
12 新聞を読んでいますか 1点
13 病人を見舞うことができますか 1点
合計

問5の小計は5点以上の場合は1点

 

全般的なチェック

1から4までは大まかな認知症の危険因子をチェックします。75歳以上、仕事の有無、糖尿病、物忘れです。たしかに仕事のある人に元気な人が多い印象があります。

気持ち・考え方

質問5の枠で囲んだ部分です。「仕方がない」「関心がない」「むなしい」「たいくつ」「どうしようもない」「希望がない」といったことばがある一方、「気分が良い」「幸せ」「すばらしい」「活力」など明るい印象のことばも並んでいます。ネガティブな気持ち・考え方が強い人ほど点数が高くなり、結果的に認知症になりやすいことが示されています。

社会的な活動

人は一人では生きられないので、あちこち出かけて他人と出会い、話をしたり用事を済ます必要があります。体をふだんから動かしていれば、脳もまた活発に働いています。また、同じことをしても、いやいや行うのか積極的に行うのかでちがってくるでしょう。自らが積極的に活動しているかどうかを質問6~13で確認しています。

使い方

各項目ではい・いいえに〇を付けていきます。点数のところに〇がついたら1点(質問1だけ3点)、合計して自分の得点を確認します。

9点以上の点数の場合、今後5年間で認知症になる確率は5割弱、5から8点では1割くらいになるとのことです。

認知症の有無・程度を見分ける方法にはいろいろなテストがありますが、気分に着目したチェック表は珍しいです。わたしは整形外科医なので、本格的に認知症を診てはいませんが、気分と認知症につながりがあると考えていました。気分の障害が原因なのか結果なのかははっきりとわかっていないけれど、生活習慣を変え、気持ちを明るくしていくことが損になる人はいないでしょう。

習慣を変えていくには、まず2週間がんばってみることです。2週間続けることができれば、その後が続く可能性が高いそうです。あちこち出かけて人と話す機会を作る。一念発起してなにか運動を始めてみる。用事がなくても物見遊山に行く。自分で買い物に出かけ、新しい料理にチャレンジしてみる。部屋を片付け、放っておいた書類を整理する。図書館に行ってふだんは読まないような雑誌や本を読む。パソコンやスマホを持っている人は、新しいアプリや操作法を使ってみる。生活を変えてみれば気分も変化していきます。小さなことでいいですから、何かを始めて2週間、まず続けてみましょう。

 

ねりまインクワイアラー 131 ごみから燃料へ

バック・トウ・ザ・フューチャーで博士が乗っている未来の車デロリアン。生ごみを原料にして走ります。生ごみではありませんが、布地から燃料を作る技術がすでに実用化されています。綿製品を酵素で分解し、発酵させてアルコールを作ります。今のところはボイラーの燃料として使われているようです。皆さんもご存知の通り、ポリエステルは回収されてペットボトルや布地に繰り返し使われています。生ごみからはメタンガスを回収し、さらに水素を取り出し燃料電池として利用することも始められています。都市ガスのエネファームはガス内の水素を使って燃料電池を充電し電気を生み出しています。ごみは宝の山に変わりつつあるようです

 

 

 

 

 

 

 

松ぼっくり通信 2017年 11月号

運動のすすめ

これを書いている今、マラソン大会の後なので、あちこちに痛みや張りが残っています。どこにどんな張りがあるにかで、走り方が良かったのかいまひとつなのかわかります。回復のスピードで、練習不足や体調はどうだったのか見当がつきます。運動が体に良いけれど苦手と感じている方もいるでしょう。苦手にしないためにどうすればいいのでしょうか。

1 「おだいじに」の過ち

医学の歴史は絶えずまちがいを正すことで進歩してきました。運動に対する考え方もその一例です。からだの調子が悪いとき、まずは安静にして回復を待つ。一見すると正しいようですが、急性期を過ぎれば、むしろからだを動かした方が調子が良くなることが多いのです。動くことによって血行が良くなり、消化器は活発に蠕動し、神経系のバランスが整います。筋肉を動かすと、筋肉そのものからさまざまなエンドカイン(ホルモンのなかま)が出て、脳や免疫系に刺激を与えます。

以前はさまざまな慢性病に対して安静がすすめられました。結核のような胸の病、心臓病、腎臓病など、運動をすると疲労を招き病気を進行させると言われる病気がたくさんありましたが、現在では適度の運動は病気の回復のために必要なことが分かってきました。長期にわたる地味な調査や厳密な実験結果が積み上げられて、ゆっくりと、しかし着実に運動の効能がわかってきたのです。

ではありますが、「おだいじに」の言葉のように、まだまだからだの不調時に安静というイメージは拭えていません。「アルプスの少女ハイジ」に出てくる車椅子の少女クララは典型的です。クララが初めて勇気を出して一歩を踏み出そうとするシーンは感動的ですが、現代のようにもっと早くから歩行訓練を開始していたら、車椅子はいらなかったのに・・・とも思います。

2 運動のめやす

からだが故障していても気にせず、ガンガン運動しろということではありません。たとえば心臓病や腎臓疾患の場合、ウォーキングが良いことが調査で明らかなものの、ランニングまで行くと少しキツすぎるとのことです。こういった研究では全般的な傾向を調べますから、一人一人の病気の度合い、もともとの体力差などは統計のすき間に隠れてしまい、「歩くといってもどれくらいのスピードで?」「若い人と年配の人のちがいは?」といった質問には答えてくれません。今のところは軽く汗ばみ、息が上がらない程度の運動ならオーケーと考えてください。

もう一つ、軽い故障があるときに、運動はつづけてもいいのでしょうか?答えは「運動を一定期間続けても、わずかずつ症状が改善するか現状維持なら続ける。徐々に症状が強くなるなら、中止して様子を見る」ことです。いつもベストの体調でいるのはムリです。花も嵐も踏み越えて、ちょっとタフな気持ちで運動を続けることも必要です。

 3 「そのもの」を楽しむ

もともとの体力がどのレベルであっても、続けていけば必ず体力が向上し、前にはムリだと思っていたことができるようになり、ここまできたか!と実感できるようになります。そうなるとうれしくて、さらに先に進みたいと思うはずです。一人で運動を続けるのも十分楽しいですが、同じ運動をするなかまと交流することがまた楽しみの方も多いと思います。

ゲームの勝敗や記録の向上も良い刺激になる一方、それにこだわりすぎるのは考えものです。勝負は時の運、体調や天候などで結果は変わってきます。また年齢を重ねれば、若いときと全く同じとはいかなくなります。それでも運動を楽しみにできます。一挙手一投足に最善を尽くし、勝ち負けを超えたところで技を極め、動きそのものを楽しむことができれば深い満足が得られるはずです。

4 初めの一歩

ゼロと1の間は、1と10の間よりも大きい。これは運動指導の際に、私がスタッフにアドバイスしている言葉です。長い間まったく運動をしていなかった人が、週に一回、10分運動するようになったら、これはすごいことです。さらにそれを長く続けていけば、動くこと自体が楽になり、しだいに運動量は増えていくことでしょう。初めの一歩を踏み出すには勇気が必要で、おおげさに表現するなら自分の生き方を変える始まりになります。その一歩エライ !! と自分を褒めてあげましょう。何年先になるかはわかりませんが、あなたはなりたい自分に近づく一歩を踏み出したのです。

ダイエットが目的で運動を始める人には耳寄りな話があります。運動をした後、数時間のあいだは新陳代謝が高まる(EPOC:エポックと言います)ことがわかっていて、こまめに体を動かすだけでカロリーを消費しやすい体質になっていきます。いきなりきつい、つらいことをしないで、こんなものでいいのかな?と思うくらい軽めの運動からまず続けてみてはいかがでしょうか。

 

ねりまインクワイアラー 130 歩行スピード

高齢者の歩く速度を比べてみると、10年前より明らかに速く歩いていることがわかっています。これは若い人でも同じで、昭和30年代にはみんなもっとゆっくり歩いていたようです。ゆっくり、長い時間歩くということは、生活も今に比べのんびりだったのかな。みなさんの思い出はどうですか?

松ぼっくり通信 2017年 10月号

ビミョーな変化をみきわめよう

白なら白。黒なら黒。すっきりとどちらかに決められたらとても楽です。子供のころ、両親とテレビを見ているときに「この人、いいもん?ワルもん?」と聞いて笑われました。善悪の判断がなかなか難しいように、世の中のことはおしなべて白とも黒ともつかないものです。今回は病気ともいいきれない微妙な体の変化について触れてみましょう。

1 気候病とは

気温、湿度、気圧の変化で体調が変わる人がいます。雨の前に古傷が痛くなったり、気圧が下がるころに頭痛が出たり、めまいや耳鳴りが起きる人がいます。あるいは気温が下がるころに元気がなくなったり不安が強くなる人がいます。たいていは天気が崩れる前後に調子がおかしくなりますが、なかには天気が回復するころに体調が乱れる人もいます。こういったことは世間的によく知られていましたが、愛知医大の佐藤純先生の研究で内耳(耳のおく)に気候の変化を感じる働きがあって、気候の変動が自律神経に影響を与えることがわかってきました。自律神経は脳、皮膚、内臓や関節などあらゆるところに関わっています。だから、気候がいろいろな体の不調に影響してもおかしくないわけです。

たいていは、もともとの症状が気候の変化に伴って強くなったり軽くなったりします。片頭痛、リウマチやぜんそくなどでよくみられ、症状で雨や低気圧の予想ができる人もいるくらいです。好不調の波を感じる人は、一度気候との関係を疑うといいかもしれません。スマホを使う人は「頭痛―る」という無料アプリが便利です。頭痛以外にも使えるアプリです。気圧の変化であなたの症状が強くなっていないかわかりやすく調べられますよ。

2 食べもの

アルコール筋痛症という病気があります。お酒を飲むと体のふしぶしがとても痛くなりますが、飲まなければまったく問題ありません。アルコール(エタノール)を飲める人は多いですが、思いがけない症状(副作用)が出て体に合わない人は確実に存在します。これは食べ物の中に含まれる膨大な数の成分それぞれに言えることで、個人の体質に合う・合わないがあることは不思議ではありません。たとえばカフェインの副作用の一つに下痢がありますが、私の場合はコーヒーを飲むと便秘になります。でもコーヒーを数杯飲んでも特に問題がない人もいっぱいいるでしょう。

お医者さんの仕事の基本は「誰にとっても役立つ治療法をみつける」ことですから、AさんならAさんだけに通用する食べ物への反応、薬の相性、予防法などは本にも載らず、お医者さんもよくわかっていません。将来的にはひとりひとりに合わせた食事法、薬の使用法がわかる時代が来る可能性がありますが、今のところは自分でトライアンドエラーをするしかありません。「あれを食べた後は調子が悪い」と思ったら、そのことを気に留めておきましょう。もっときちんとやりたい人は、食事の内容と体の調子を毎日メモに取り、時々見返してみることです。意外な発見があるかもしれませんよ。

3 年齢的な問題

年をとるのは悪いことばかりでないけれど、体の不調はどうしても増えてきます。中年期の患者さんが「こんなことは今までなかったのに…」「人生で初めてです」と話すのを聞き、そりゃそーだ!と密かに考えることがあります。

どんなことでもはじめては不安になるものです。学校生活、仕事や家庭生活・育児もみんな初めてで、どきどきワクワクしながら生きてきました。しかし、若いころは得ることが大きく失うものが少なかったのに、年をとるとその逆になってしまう。だから今まで当たり前と思っていたことがそうではないと自覚するととても不安に感じるのです。

実際、外来で扱う患者さんの相談の大半は、突き詰めてみれば症状そのもの以上に不安自体がつらい理由になっています。不安を軽くすることはできるのか、考えてみましょう。

4 微妙な変化とつきあう

まず、体の調子には波があり、気候のように自分でコントロールできないことからも大きな影響があるのを知ることです。毎日の体の変化のたびに気持ちがピリピリしていたら疲れてしまいます。いい日があれば、悪い日もあるさ!と思うだけで心が軽くなります。

また自分の体はほかの人と全くちがうことを知りましょう。ほかの人に良く効く薬があったり、速やかに治る人がいても、それを自分と比べる必要はありません。禍福はあざなえる縄のごとし(幸・不幸は複雑に組み合わされておりだれにも推し量ることはできない)、あせらず自分に向いた健康法・予防法をみつけましょう。

絶対的な体力では若い人に負けるとしても、チャレンジ精神を忘れないようにしましょう。いくつになっても新しい経験をし、知的・肉体的な冒険をすることです。自分の世界を広げている実感があれば大きな自信になります。それが不安感を軽くすることにつながるのです。

 

ねりまインクワイアラー 129 笑い

笑うことがからだにいいことは医学的に確かめられています。でも、何がおかしくて笑うのかは考えるほどナゾです。赤ちゃんはちょっとしたことで笑顔になり、見ている人たちも思わず微笑みます。海外のジョークやお笑い番組を見ると何がおかしいのか全然わからないことがありますし、若手のお笑い芸人さんの話が笑えないこともよくあります。笑わせる人も見る人も気持ちにゆとりがあれば、笑いが生まれやすい気がします。

松ぼっくり通信 2017年 9月号

見えないものを知ること

子供のころ、お化けや幽霊の話が大好きで、テレビに出てくる怪談映画や、雪男、宇宙人、消えた大陸の謎、狼男やドラキュラの話をドキドキしながら見ていました。今でもこういう話は好きですが、すべてほんとうだと思っているわけではありません。でも、子供だましだ!と片付けるつもりもありません。「目に見えるものは信じるが、見えないものは信じなくていい」とは言い切れないからです。

1 見えないがあるもの

誰の目にも見えないが、みんながあると知っているものってなんでしょう?ことばの中には無数の例があります。たとえば「社会」「文化」「歴史」といったことばがあらわすものはまったく目には見えません。また、点や線といった数学用語、重力や電磁波といった物理学の専門用語があらわすことも目で見ることはできません。数学や物理に興味がない人でも、冷蔵庫やエアコン、スマホを使っているはずです。こういった機械を私たちが使える理由は、目に見えないが実際には存在する概念や知識の基本があるからです。

「見えない」からないわけではないとなると、「みんながあると思えばある」のでしょうか?過去の歴史をひもとくと、当時の人たちが「ある」と思っていて、後で「ない」とわかったことがたくさんあります。昔の人は無知だったからと言うのは簡単ですが、100年後の未来にあたりまえなことは、今の人には全く信じがたいことかもしれません。こう考えてくると、「見えなくてもある」と証明するためには、なにか根本的に納得できる解決策が必要ということになります。

2 見えていてもないもの

子供のころに熱中した話の出どころを突き詰めていくとほとんどが誰かのほら話、伝説やねつ造であることを知り、ちょっとがっかり、ちょっと安心しました。しかし中には真剣な話もあり、シベリアの収容所から歩いてインドに脱出した人の体験談の中に雪男が出てきたときにはおどろきました。何か月もの間、苦難の中を切り抜けていく様子が克明に描かれていて、この人が軽々しく「雪男見たぜ!」と証言するとはとても思えません。しかし、誠実な人の証言は100パーセント正しいと言い切ることもまた危険なのです。

何年か前ですが、六甲山縦走のときです。きつい登りの最中に、木々の間から建物が見えました。さああと少しだ!と登ってみても建物はさっぱり見えず、さらに1時間上ぼり休憩所につきました。はっきり「見えた」建物は幻覚だったのです。山岳レースの練習中にも、青いテントがあると思ったらなかったとか、人がいると思って近づくと誰もいなかったり、といった経験をしました。疲労が重なり、脱水や低血糖のため脳の機能が落ち、幻覚を見たのだと思います。ほかにも薬物の影響や強く興奮する出来事が続くときに、ふつうの人でも幻覚を見ることがあります。最近の脳科学の研究から、人間はありのままを見ているのではなく、脳が解釈したものを「見ている」ことがわかってきました。幽霊やお化けの話には、こういった脳が内緒で行ういたずらが関係しているのかもしれません。

3 ないのにはたらくもの

一方、まったくないにもかかわらず、実際に大きな影響がおきることもあります。集団で体調を崩して救急病院に入院し、原因を調べてもさっぱりとわからないケースがあります。一種の集団ヒステリーのようなもので、食中毒や環境汚染などその場にいる人たちが不安を感じる理由があるとき、一人が体調を崩すなど何かのきっかけがあれば、不安がストレスとなり、実際に集団で症状をおこすことがあるのです。状況は異なりますが、オイルショック後のトイレットペーパー買い占め騒動や冷静に見れば根拠のない株式の大変動など、理由がなにもないのに世の中に大きく影響を与えたできごとが少なからずあるようです。見えないどころか本当に何もないのに現実の影響がおきるならば、見えないものの真偽の判別はさらに難しくなります。

4 医療のむずかしい理由

このように見えないものを知るということは、パッと思う以上に簡単ではありません。ところが疲労、吐き気、痛み、しびれのような医療で扱う症状のかなりの部分は「見えない」ものです。見えないものを扱うとき、医学を科学のなかまだとするなら、科学実験や機械の設計図のように理詰めで探求していくことが基本となりますが、患者さんに説明、納得してもらうプロセスが必要になります。しかし、見えないものをどのようにうけとるかは人によってちがうので、ときに理解してもらうことが大変です。長い間その人なりに生きてきたことで培われた考えが強固なために、ほかの考え方が受け入れられなくなっている場合もあります。

また人間の体は複雑なブラックボックスで、同じ薬や治療法が全員にうまくいくわけではありません。ときにはまったく根拠のない治療法が「効く」こともあり、一つ一つの体験談にたよらず医療のかじとりをするのはなかなか大変です。「見えない」ものの中から確かなものをみつけていくことがいかに難しいか。毎日これを実感しています。

 

ねりまインクワイアラー 128 2メートル75センチ

身長196センチ、体重94キロ、今季限りで引退を表明したジャマイカの陸上短距離選手、ウサイン・ボルトの歩幅です。側弯症の不利をはねのけ達成した100メートル9秒58の記録は不滅です。本人はサッカー選手に転身したいと話しているそうですが、今度はサッカー場で姿が見れるかもしれませんね。

松ぼっくり通信 2017年 8月号

腕の痛み・しびれ

朝起きたときにどちらかの腕がしびれていることがあります。横向きのかっこうで、しばらく寝返りをしないでいるとなるようです。こういうときは仰向けになり、体の力を抜いて様子を見ているとしびれが取れてきます。腕の痛み・しびれはよくある相談ですが、ときには脳や内臓の病気が原因のこともあるため、症状以上に心配されて来院する方が多いです。しびれ・痛みがあるときのかんたんな見分け方をお話ししましょう。

 

1 手を動かすことができるか

しびれがきつくても手をしっかり動かすことができるなら、ひとまず安心です。たいていはくびから手関節にかけての末梢神経の圧迫が原因でおきるしびれで、緊急の治療は必要ではありません。

反対に、しびれはまったく感じないが指をちゃんと動かせないときは要注意です。比較的よく目にするのは橈骨神経麻痺で、指を伸ばす筋肉に力が入らないため物をつかむことができなくなります。上腕の外側に神経が圧迫されやすい部位があり、寝ているあいだに圧迫が続くと麻痺が生じ、別名「睡眠まひ」と呼ばれています。酔って寝たときに多いのも特徴です。多くの場合数週間で回復します。

きわめてまれですが要注意なのは、脳こうそくの「純粋運動型」で、しびれはないのに手が動かせなくなります。この診断はプロでも迷うことがあり、MRIなどの検査が必要です。脳梗塞ではスピーディな治療で完全に治ることがありますから見分けが大切です。

2 むくみ・腫れ・熱の有無

しびれも痛みも目に見えるものではないため、むくみ、腫れや熱など客観的な証拠集めをします。むくみのあるところでは神経の働きが弱って感覚が鈍くなります。神経の通る場所に炎症や腫れがあれば、神経が圧迫されて痛みやしびれが起きます。

診察の時には、関節の動きを調べたり、左右を比較しながら慎重に触診していきますが、患者さんが自分ではっきりとわかる腫れやむくみがあったなら、痛み・しびれと関係があることが多いです。反対にどこを触ってもまったく異常を感じられない場合は、原因がほかにある可能性を考えたほうがいいでしょう。神経痛が代表例で、頸椎の故障のほか、帯状疱疹などのウイルス感染症でも神経痛が起きますから注意が必要です。

3 動くと症状が変わるか

大ざっぱに説明すると、動かしたら痛みが変化するものは骨、関節や筋肉の故障か、頸椎に原因のある神経痛のどちらかです。動かしても痛みが全く変わらないものは、ウイルス感染症、脳やせき髄の病気、心臓や肺などの内臓疾患などを考えます。

動かして痛み・しびれが変化することがわかったら、さらに細かくどこをどう動かすかを診ていきます。ここがポイントで、私たちがふつうに動いているときには、体のいろいろな部分を同時に動かしていることが多いのです。ほかの部分は動かさないように注意しながら、ある関節だけを動かして調べるのはなかなか難しく、プロの領分だと思います。ですから、みなさんは「じっとして痛い場合は要注意!」と覚えておくとよいでしょう。

ただし、痛み・しびれの自己分析は意外と難しいです。たとえば、患者さん「一日中痛いです!!」、わたし「ほんとうに24時間、何をしていてもずっと痛いのですか?」「はい!」、「ではこのかっこうではどうですか?」「いいえ、痛くありません!!」といったやりとりはめずらしくありません。痛みがおさまるのに時間がかかる場合、痛みの程度が強い場合は一度プロに相談したほうがいいかもしれません。

4 良くなるには

痛み・しびれはつらいものですが、症状そのもののつらさが5割、残り5割は「この先どうなるのか、いったいいつまで続くのだろう、何か悪い病気が隠れているのではないか?」という不安感からきているように思います。「何日で治りますか?」と聞かれると答えにくいものの、たいていの相談は「なんとかなる」と考えています。

治るスピードは人それぞれであり、故障の程度・症状が出るまでの時間(ときにはかなり長い場合がある)といった局所の問題のほかに、疲労・食事のバランス・睡眠の質・ストレスの影響などわかりにくいが全身に影響を与える要素や仕事内外での体の使い方のちがいでも変わってきて、十人十色といってよいでしょう。

今の症状を軽くするためのクスリ、早く良くなるためのストレッチや姿勢コントロールの練習など、必要に応じて治療を行っています。心配な病気の可能性があるときはさらに検査を追加したり、病院への紹介状を書くことがありますが、かなり稀なことであり、ほとんどはからだの回復力が働いて痛み・しびれが改善していくものです。

 

ねりまインクワイアラー 127 ダイエットの科学

ベジタリアン、糖質制限食、アトキンス・ダイエット、パレオ・ダイエットなど、減量・健康増進・パフォーマンス向上をねらったたくさんの食事法があります。困るのは、それぞれに熱心な信奉者がいる一方で、公正に考え方を比較した情報がみつけられない点です。今売れている本でとても参考になるのが、「ダイエットの科学」(白揚社)です。遺伝、環境、腸内細菌の研究をもとにデータを積み上げており、ほんとうに役立つ食事法をみつける手助けになります。一読をお勧めしたい本です。

松ぼっくり通信 2017年 7月号

治る時間

この仕事をしてたびたび驚くのは、「患者さんたちは、からだがあっ!という間に治ると思っている」ことです。もちろん早く治る故障がありますし、時間がかかる場合があることも理屈では知っているはずです。でも、いざ自分が困った状態になったときには、なかなか冷静な判断ができなくなるのかもしれません。少し整理してお話しします。

1 なぜ治るのか

扁桃炎、下腿骨骨折、尾骨骨折、中足骨骨折、そのほか打ち身すり傷は無数。小学生時代を思い返せばいろいろなけがや故障がありました。下腿骨骨折以外は当時の様子・治りぐあいでたぶんそうだろうと後で考えた診断です。下腿骨を除き「親に言うと病院に連れていかれるので、ほっといた」うちに治りました。おそらく現在の小学生も似たようなもので、「ほっとく」だけで治っていることがいっぱいあると思います。いわゆる自然治癒力がよく働いているわけですが、大人になっても同じこと、治る基本は治癒力であり、病院や医師に魔法の力が宿っているわけではありません。ほっといて治れば一番いい。治りをじゃましている理由があるなら、みつけて正す。そのお手伝いをするのが医療の仕事だと考えています。

大まかにいうと、皮膚は1・2週間。筋肉は1か月。骨・軟骨は1~3か月。神経(末梢)は故障の仕方で異なり、数十分から1・2年まで。例外はありますが、治癒にかかる時間です。治癒を遅らせる理由があればあるほど時間がかかりますから、できるだけ理由を取り除いてあげられるかが、医療の役割どころと言えます。

2 「治る」にも限界がある

完治という言葉があります。専門的な医療の現場で使うことはなく、患者さんや保険会社などから質問で聞く言葉です。「完全に治る」ということは、実際の医療ではまずありません。ニキビが治ってもあとは残ります。胃潰瘍が治っても瘢痕が残ります。骨折が治っても骨の形は必ず変化します。

イメージで言うと「割れた茶碗を修理に出したら、新品になってもどってくる」のが完治ということだと思います。凄腕の修理名人が取り組んでも、新品にもどすことはできません。とりあえず元の形に近づけたり、器として使えるようにはできますが、壊れる前とはちがってきます。

病気やけがの場合も同じで、「元気になる」「良くなる」ことはできますが、厳密にいえば故障する前に戻ることはありません。顕微鏡・細胞レベルまで見れば必ずなんらかの痕跡が残ります。いつも完全に治っていたら、老化も後遺症もないわけで、生きとし生けるものの宿命がそこにあります。みなさんはがっかりするかもしれませんが、何十年ものあいだ病気やけがをのりこえて、命を支えてくれる驚異の仕組みを、私はすばらしいと思っています。

3 治るじゃまをしない

だから、治るじゃまをしない。最大限治癒力を発揮させる。これが重要です。けがや病気で大事にする時期・タイミングがあります。徐々に負担を増やしながら体を丈夫にしていく時期があります。毎日の暮らしの中で体を傷める原因があれば減らし、できるなら根絶します。体力向上のためにできることに取り組めば、長い目で見て治癒力を上げることができます。

治るのにじゃまをしているものをどれだけ減らせるか。くすり、注射、手術やリハビリをする意味はそこにありますから、たくさんあればいい、いっぱいやればいいというものではありません。薬をたくさん飲んだりリハビリを毎日しても、それだけで早く治ることはなく、やり過ぎでじゃまをする場合もありえます。

4 治るために必要なこと

一番大事なのは、「患者さんが主体性を持つ」ということです。治りたいと言いながら、どこか人任せで、自分自身の体を管理する気持ちの少ない人が少なくありません。病院の中にいる時が治療なのではなく、自宅・世間で暮らしている時が肝心です。わたしの専門で言うなら、慢性的な腰痛や手足の故障のかなりの部分が、日ごろの体の使い方・動かし方が原因・きっかけになっていることが多いです。病院で対処法を教えますが、望ましい姿勢や動作を本人が日ごろから意識しているかどうかは、本人にしかわかりません。お手伝いはできますが、治すのは患者さん自身です。

期待のかけすぎも?です。先にお話ししたように、治るためには一定の時間が必要です。病院に行けばすぐに治るわけではないことも理解してください。

そして予防の意識を持ちましょう。一回良くなったのにどうして再発したのかと質問されることがありますが、からだはどんどん変化します。症状がない時にも上手に体を使い、必要な筋トレやストレッチをして予防に努めましょう。おしりに火がつく前に、火がつかないようにつとめる。これが大切です。

 

ねりまインクワイアラー 126 ワールドマスターズゲームズ2021

オリンピックの翌年に開かれる国際スポーツ大会で、1985年から開かれています。一般的なスポーツ種目のほか、綱引きやゲートボールなども種目に上がっています。30歳以上のスポーツ愛好家ならだれでも参加できます。新・東京オリンピックの翌年2021年に関西で開催されることが決まりました。5歳刻みの年齢区分で競い合います。国際大会でメダルがねらえるチャンスですよ!

松ぼっくり通信 2017年 6月号

関節痛のふしぎ

  腰痛についで多い相談が関節痛です。熱をもって腫れていて、動かすとずきっとする。わかりやすい感じがしますが、じつはなかなか謎の多い痛みなのです。

1 関節痛のなぞ

リウマチのようなはっきりした病気を除くと、「どうして痛くなったのか?」はっきりしないケースが多いのが関節痛です。だんだんと痛くなったり、ある日急に腫れてきたけれど、原因がはっきりしない。これは原因がないのではなく、わかりづらいのです。ひさしぶりに長い距離を歩いたり、普段はかない靴を履いたり、バスや電車に乗り遅れないように急いで歩いたり、いつもより長く座りつづけたり、直接の原因は思いがけないところに潜んでいます。しかしつきつめて原因を考えるなら、本当の理由は関節ではなく「骨」のことがまれではありません。

スポーツマンや若い人ではどうでしょうか?けがの場合を除くと、「筋肉」「じん帯」がほんとうの原因なのに、症状が関節痛であることがよくあります。よく考えれば関節は骨と骨のすきまであって、実際は骨・軟骨・じん帯・筋肉などが関節を作っています。したがって、関節痛の原因を細かく探すとまわりにある骨や筋肉に理由が見つかるのは当たり前だともいえます。

2 軟骨のすり減りが原因?

学生の頃に、軟骨には神経が通っていないから痛みの感覚がないと教わりました。ところがお医者さんになると、「これは軟骨がすり減っているからですよ」と話している自分がいました。たしかにレントゲンだけを見ていると関節痛のある人の軟骨はよくすり減っています。一方、かなり軟骨はすり減っているのに痛がらない患者さんも時々みかけます。これはいったいどうしてか。いろいろ調べたり考えたりしましたが、神経が通っているところに痛みの原因があると思えば筋が通ることに気が付きました。

3 見えない犯人~骨挫傷

レントゲンに写るのは骨です。骨が写るのはカルシウムという金属がレントゲンを通さないからで、皮膚や筋肉には金属成分が含まれないので写りません。ところが骨の中身すべてがレントゲンで見えているわけではなく、骨髄の中を流れる血液・リンパ液や造血細胞は金属を含まないので写りません。だから、骨の中で炎症がおこり血液やリンパ液がうっ滞してもレントゲンではわかりません。

ところがMRIという診断装置はちがいます。こまかい理屈は省きますが、MRIは体内の水分の分布を調べる機械です。水分の多いところと少ないところを画像化するので、内臓や筋肉だけでなく、骨の中のむくみや炎症が写ります。なかなか痛みの取れない膝関節痛の患者さんのMRIを調べていると、骨の中が腫れ、むくんでいる場合が多いことがわかりました。

骨の中が腫れることを「骨挫傷」と呼びます。目に見えない小さなひびが骨の中にある状態だと考えられています。運動不足や高齢化のために骨の強度が落ちてくると、ちょっと駆け足をしたりけつまずいたりするだけで骨にひびが入ることがあります。関節の痛みがすべて骨挫傷だとは言いませんが、原因がはっきりしない関節痛を診たら忘れてはならない故障のひとつです。

4 筋肉のはたらき

関節の故障は、自動車のサスペンションに例えるとわかりやすいです。関節の間にはさまっている軟骨はショックアブソーバー(クッション)、筋肉はバネ(スプリング)です。歩くときに足にかかる地面からの衝撃を受け止めるためにはショックアブソーバーとバネの働きが重要です。変形性関節症で軟骨がすり減るとショックアブソーバーが効かなくなります。さらに筋肉が弱って、バネも効かなくなったらどうなるでしょうか?

サスペンションが効かない車(木箱にタイヤを付けただけ)ででこぼこ道を走ることを想像してみましょう。がたがた揺れてお尻は痛くなり、木箱もだんだん壊れてきます。木箱(シャーシー)がすなわち骨です。ごつごつと衝撃が繰り返し伝わって、骨にひびが入ったのが骨挫傷です。ですから変形性関節症のある人は予防のために筋肉の力をつけることが大事です。痛みのある人も、痛みが落ち着いたら筋肉を丈夫にすることが必要なのです。

今現在痛みがある人は、自分の体がタイヤのついた木箱だと考えましょう。平べったいところを静かに歩いたり、そっと階段を上り下りすることができれば何とか歩き続けられるでしょう。筋力が十分でなく、どうやっても痛い場合は安静が必要です。時間がたち痛みが取れてきたら、もう一回気を入れなおし、歩く練習を始めてください。

ねりまインクワイアラー 125 ウォーキングへようこそ

歩くことにも技術があります。(赤ん坊じゃあるまいし…)と思う方は、1・2歳の子が歩く様子を見てください。小さな手足を動かして歩くさまは愛らしいですが、肩や股関節をしっかり動かしている良い歩き方です。大人になると運動不足、仕事や日常生活のくせから歩き方が下手になり、そのままがたがた・トボトボ歩くことが習慣になっている人がたくさんいます。こんなときプロのウォーキングコーチに教わるとまったくちがいます。やっと歩いている人も長距離ウォークに参加する人も、ぜひ一度経験してみてください。